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人形の夢  作者: 暁明音


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5 境内での出来事

 授与所の近くまで来ると、すでに男女が受付(うけつけ)の前で話をしているようだった。


「ははぁ~、なるほど!」と冬樹。「なんとなく分かったわ、春平君の目的が」

「むしろ、それ以外の用事でここへ来ることなんかありませんって」

「秋恵ちゃんは分かったかな?」

「い、いえ……」

二葉(ふたば)君」


 少し先を行っていた皐月(さつき)が、立て看板のところを指差して言った。


「ここちゃうかな?」

「えっ? 向こうちゃうん?」と、授与所を指差す春平。

「いや、ここで合ってるんちゃうか」


 いつの間にか看板の近くに歩み寄っていた冬樹が、皐月(さつき)と並んで看板を見つつ言った。


「じゃあ、ここに置いておけばええんですかね?」

「そのあと、受付(うけつけ)ちゃうんかなぁ?」

「どうしてッ!?」


 いきなり女性の怒号が聞こえたから、春平たちがいつせいに授与所の方へ目を向けた。


 先客として受付で話をしていたであろう中年の男女一組が、授与所にいる巫女(みこ)姿の女性へ突っ掛かっていた。


「少し過ぎただけでしょッ!?」

「申し訳ありませんが、受付の時間は終了いたしましたので……」

「郵送もダメで、こんなクソ田舎(いなか)まで来させた挙げ句に、こんな早い時間で締めきるとかどういうことッ!?」

「サチコ」


 男性が春平たちに気付いて、見やりながら呼び掛けていた。

 サチコは男性を(にら)んでから、春平たちを一瞥(いちべつ)する。


「何? あんた(たち)には関係ないでしょ……?!」

「ええ、もちろん。僕らはそちらの受付の方に用事あるんで」


 冬樹が至って平然と答えた。

 すると境内(けいだい)の方を見ていた男性が、


「あんまり騒ぐと面倒なことになる……」


 と言った。


 境内には何人かの人たちがいて、みんなが授与所を見ていた。


 しかし、サチコはお構い無しに「いい金になるんじゃなかったの!?」と、連れの男性に突っ掛かる。


「仕方ないだろう? 物品を受け取るには条件を満たさないといけない。それに、さっさとしないと間に合わなくなるぞ?」

「分かってるって言ってるでしょ!? あいつらと関わるのは、もうゴメンよッ!」


 サチコが、男を(にら)みつつ言った。それから授与所の女性を増悪の目で(にら)み付け、


「役立たずめ! 融通くらいきかせろッ!!」


 と、怒鳴りちらし、駐車場の方へ早歩きで向かっていった。だから、袋を持った男が慌ててサチコを追っていく。


 春平たちはしばらく呆然(ぼうぜん)としていたが、


「あ~、びっくりした…… なぁ、秋恵ちゃん」と、皐月(さつき)が胸をなで下ろして言った。

「すごい、ですね」


 少し声を震わせ、秋恵が言った。

 冬樹は授与所を見ながら、


「あそこの人も災難やったなぁ」


 と言うと、


「僕も災難ですわ、部長」


 と、春平が(ため)息まじりに言った。不思議に思ったのか、冬樹だけでは無く、秋恵や皐月(さつき)も彼を見やった。


「人形の受けつけ、夕方の四時までらしいです」


 春平が立て看板を指差して言った。


「あ~、なるほど……」と、うなずく冬樹。「それで騒いでたんか、あの人」

「仏滅とかもアカンのやね」


 立て看板と(にら)めっこしている皐月(さつき)が言った。


「しゃーない」春平が腰に手をやった。「明日の朝、またここへ持ってきます。九時から受けつけるって書いてありますし」

「でも、仏滅やったらアカンのとちゃうの?」

「ひとまず、ホテルの人に確認してみて、それから考えます」

「──明日は先勝(せんしょう)みたいです」


 秋恵が携帯端末を見ながら言って、表示してある画面を春平へ見せた。


「おお! ほんまやん!」と、春平の表情がパッと明るくなる。

「午前中に済ませたらええかもしれませんね」


 皐月(さつき)が笑みを浮かべてそう言うと、冬樹がうなずきながら、


「さすが秋恵ちゃん。ええ嫁さんになるわ」


 なんて言うから、秋恵は苦笑いで(こた)えるしかなさそうだった。


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