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人形の夢 ~幼馴染みから託された人形と、部活の後輩が入れ替わってるんだけど?~  作者: 暁明音


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45/69

45 仄暗い部屋の中で

 春平も夏美もいなくなったから、部屋が静まりかえっていた。

 机の上に載っていた秋恵が、そんな静かな部屋を見渡している。

 カーテンが外からの強烈な太陽光を遮っているせいで、部屋の薄暗さが余計に目立ち、影が濃くなっていた。


 暗くて静かなのが原因なのか、単に飽きたからなのか分からないが、秋恵は見渡すのを止めて、(かばん)の中にある神鏡人形を見下ろした。

 鏡は輝く様子も無く、巫女(みこ)人形も変わりなく(かばん)の中に収まっている。


 秋恵の口から()(いき)がこぼれた。

 そうして、自身の手を見やった。

 見やって、また息をこぼした。


「こんな形で先輩の家に来るなんて……」


 そう言って、玄関の方へ目をやった。玄関は部屋の中よりも暗かった。


「マユさんってどんな人なんやろ」


 そう(つぶや)いてから、(いく)(ぶん)()つ。

 彼女は玄関とは正反対の位置にある、大口の引き違い窓に視線をうつしていた。


「夏美さん、どう思ってるんやろ……」


 途端に、秋恵が首をブンブンと横に振った。


「信じやんと…… 今のあたしには何も出来やんし」


 そう言った秋恵が、窓に掛かっている薄手のカーテンを眺め始めた。

 薄手だからか、カーテンの色合いが少し明るく光っているように見える。


「夏は日長…… 気長に待たんと」


 彼女はカーテンの隙間から見える、窓ガラスの向こう側にある明るいブロック塀を見つめ始めた。

 しばらくして、明るい窓ガラスに映る、ぼんやりとした自分の姿に焦点があった。

 すると突然、ぼんやりした自分の姿が首をかしげる。

 当然、秋恵は驚いた。


『見つけた』


 突然、少女の声が聞こえた。聞こえたと言うよりも、響いてきた。

 秋恵は何が起こったのか分からず、とにかく周りを警戒する。

 ──誰もいるはずが無い。


『見つけた』


 また聞こえる。


「誰……?」

『ようやく見つけた』


 秋恵が窓ガラスをもう一度、見やる。

 うつっている彼女の姿が、どんどんと大きく、彼女自身に近付いてきているのが分かった。


『私を見て……』

「何…… なんなん、これ……!」

『一緒に居なきゃ…… あなたは私と一緒に居なきゃ…… 一緒に──』

『帰りなさい』


 また声がした。

 さっきの声の主よりは幾分(いくぶん)か落ちついた、大人の声音(こわね)であった。


『ここは、あなたのいるべき場所ではありません。早く帰りなさい』


 今度は明確に、声のする方向が分かった。だから、秋恵は声のした方へ目を向けた。

 そこには(かばん)がある。


「まさか……」


 秋恵がそうつぶやいた瞬間、フッと影が差しこんできた。秋恵はビックリして窓を見上げる。

 人影が、窓の前に立っている。カーテンの隙間から、中を(のぞ)き込んでいた。


 秋恵はビックリして息をのむ。

 人影がしゃがみ込み、窓ガラスに何かをし始めた。

 秋恵はすぐに机から飛びおり、よじ登るようにして(かばん)の中へと入った。


 (そば)にいる巫女(みこ)人形が気になるところだが、それ以上に今は、外が気になっていた。

 だから、(かばん)の口から少し顔を(のぞ)かせて、様子をうかがった。


 人影が窓ガラスを慎重に割って、(かわ)手袋を()めた手が、割れ目のあいだから出てきて、窓の鍵の方へ手を伸ばしていた。

 間も無く、鍵が下りてしまう。


 秋恵は顔を引っ込め、両手を握りしめながら身を固めた。

 カーテンを引く音がし、床がきしむ。

 秋恵は身動き一つしていない


 しばらく、足音が(かばん)の周りで鳴っていた。

 その足音が、徐々に秋恵に近付いてくる。

 彼女は慌てて、元々の人形の姿勢を取った。そのすぐあとに、誰かが(のぞ)き込むように秋恵を見た。


「これか……」


 中年の男だった。

 しかも、秋恵は見たことがあった。

 彼は淡島神社で会ったことのある男──タカシだ。

 タカシは秋恵と神鏡人形を(かばん)から拾いあげ、二つを交互に見やった。


「これで二束三文だったら、割に合わないぞ……」


 タカシはそう言って人形を元の(かばん)へ収めた。

 それからファスナーを引き、(かばん)を拾いあげ、そのまま玄関から出ていった。

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