41 交番で情報収集する部長
春平たちがカフェから出て行った頃、冬樹は加太駅の近くにある交番を目指して歩いていた。
彼が交番を目指すことになった原因は他でもない、紀州大学の教授から話を聞くのに失敗したからだ。
具体的には栄谷に連絡を入れたものの、肝心の教授が出張で、連絡が取れないと返答があったからだった。
日の照り方が強くなり、蝉の声と暑さが増しに増した午後、冬樹は汗をぬぐいながら、やっと目的地の交番へと入った。
そこには運良く、若い警官と初老の警官の二人がいた。
「すみません」と目礼する冬樹。
「どうされましたか?」と、初老の警官が椅子から立ちあがった。
「ちょっと人を捜してるんですけど…… 伊賀さんって言うんです。この辺りに住んでおられると聞いたのですが、知りませんか?」
「伊賀さん?」
「ええ、この人形の持ち主なんです」と、冬樹が携帯端末の画像を見せながら続けた。
「かなり珍しい人形なんです。この神鏡を持ってるところが他に無いんですよ」
「人形のことやったら」と、若い警官が言った。「近くに淡島神社って神社があんねんけど、そこの宮司さんに聞いてみたらどうや?」
「実はもう聞いてあるんです。持ち主がこの近辺におられるっていうこと以外、なんも分かってなくて……
せやから、この人形をどんな経緯で入手して、 たのか、ぜひお話を伺いたいんで持ち主を捜してるんです」
「君はその人形、伊賀さんって人からもらったんやろ?」
「いえ、別の人からもろたんです。その人から伊賀さんの住所訊くの忘れて……
いや、正確には昨日きいたんですけど、住所や電話番号の記録が残ってないとかなんとかで…… まぁ、分からんらしいんです。せやから、地元に詳しそうな駐在さんトコに来たんですけど……」
「う~ん……」
若い警官がしかめっ面でうなっていた。面倒くさそうというか、うっとうしいと思っていそうな感じが出ていた。
「拾得物ってことで届けるか、役所に行ってきいた方が早いと思うで」
「分かることと言えば」冬樹が構わず言った。「この人形を入手したご本人が、つい最近お亡くなりになったことと、生前、妖怪や幽霊などに関する、古い民俗資料を集めて研究してたってことくらいなんです。
そういう人って目立つと思うんですけど、噂とか聞いたこと無いですかね? その手の研究者みたいな人」
「ああ、分かった」と初老の警官。「確かに伊賀さんやね…… ちょっと来てもらえるかな?」
そう言って、警官が机のところまで移動する。
冬樹も移動する。
机には地図が備え付けのように広げてあった。
「ここが現在地なんやけど、ここから大きな道をこうやって行って…… この細い道を入ってすぐのところにある、大きい家が伊賀さんやと思わ。違ったらゴメンやで」
「おおきに、助かります!」
冬樹はお辞儀してから、出て行く間際にまたお礼を言って、立ち去った。
表情はどこか満足気である。
「よしよし、ドンピシャやな……」
独り言を口にしつつ、口角をあげている。
それからしばらく歩いて、少し遠くなった交番を見やるように振りかえった。
「昔、ご厄介にでもなったんやろなぁ……」
こう呟きながら、ハンカチを取りだして汗をふいた。




