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人形の夢 ~幼馴染みから託された人形と、部活の後輩が入れ替わってるんだけど?~  作者: 暁明音


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29 夕食にしよう

 秋恵の言う通り、夜七時になると夕食が運ばれてきた。

 春平は机に並んだ数々の料理を見渡しつつ、


「いやぁ…… えらい豪華ですね」と目を輝かせて言った。

「普通の宿泊やからね。料金分、しっかり食べや。割り勘なんやから」


「あ、そうやった……」と肩を落とす春平。「今月いけるかな……」

「ところで秋恵ちゃん」

「はい?」


 窓の(ふち)に腰掛けている、秋恵が首をかしげる。


「秋恵ちゃんはお(なか)へったとか、そういうの無いんか?」

「そうですね…… そういう感覚は無いです」

「やっぱり人形やからかな?」


 春平が秋恵の方を見て、言った。


「そうかもしれません……」

「大丈夫やって。元に戻ったら、一緒にご飯食べに行こら」


 秋恵がうなずいていた。どこか(ほほ)()んでいるようにも見える。


「なんか、ネチャネチャしてて変なの……」

「あっ! コラッ、夏美! それは鍋に入れて()うんや!」

「早くしてよ、こっちはお(なか)が大変なんだから」


「お前と言うヤツは……!」

「はいはい、座って座って」と、冬樹が胡座(あぐら)をかいた。

「ほら二人共、立ったままやと食べられへんで?」


 春平も夏美も、互いの膨れっ面を見合いながら、座布団の上に座った。


「ほな、いただきます」と冬樹が言うと、遅れて「いただきます」と春平が手を合わせた。


 夏美は見よう見まねで手を合わせ、特に何も言わずに(はし)をつかんだ。


「これ…… どうするの?」

「なんや(はし)も使えやんのか」

「片方を親指の根本で挟んでみてください」


 秋恵が小さな小さな右手の平を向け、これまた小さな親指を動かしながら言った。


「こう?」

「次は、もう一本を人差し指と中指と、親指とで挟みます」

「え? 挟むの?」

「こうや」


 春平が持っている箸を上下に動かした。


「あ、こうね」


 夏美が自分の(はし)の動きを見ながら言った。


「どうやら」と冬樹。「秋恵ちゃんの体が覚えてる動きはすぐに出来るみたいやね」

「これもらうね」

「アッ! 待てや夏美!」

「部長さんも早く食べたら?」


 口をもぐもぐと動かしながら夏美が言った。冬樹は苦笑って、


「夏美ちゃん、(しゃべ)るときは口の中のモンを飲みこんでから(しゃべ)るんやで?」と言って、刺身に(はし)を伸ばす。


 食べ物をゴクリと飲みこんで、「部長さんって」と夏美が言った。

「シュンちゃんとはどういう関係なの?」

「友ヶ島でも言うたかもしれへんけど…… 学校の先輩と後輩っちゅう関係やね」


「あっ、確かに聞いたかも。

 じゃあどうして、こんな場所にシュンちゃんと一緒に来たの? みんなで神社へ行ったってわけじゃないんでしょ?」


「う~ん…… 詳しく話すと長いさけ、はしょって言うけど…… 音楽の演奏をするためにここへ来てん」


「音楽と演奏、分かるか?」と、春平が割りこむ。

「知 っ て ま す!」と夏美。「シュンちゃんは黙ってて」


 春平をひと(にら)みしてから、夏美は冬樹へ顔の向きを戻した。


「部長さん、さっきの続き」

「はいはい」と苦笑う冬樹。

「演奏に来たのに、どうしてシュンちゃんは私をここへ持ってきたの?」


「成仏させるためや」と春平。

「だから黙ってて」

「部長が答えられるわけないやろ?」


「春平君の言う通りやなぁ」と、冬樹が困り顔で答えた。「夏美ちゃんをここへ連れてきたんは僕やのうて、春平君やからね」

「そうなんだ」と、春平を見やる夏美。彼は(ちゃ)(わん)蒸しを(ほお)()っている。

「シュンちゃんも音楽やってるの?」


「やってるさけ、ここにおんねん」

「どうして音楽なんか始めたの?」

「は?」

「だって子供の頃、音楽に全く興味なんて持ってなかったのに」

「そら、大きなって興味でたんや」


 そう言って、今度はお吸い物をすすっていた。


「部長さんも音楽やってるんでしょ?」


 夏美が話し相手を変える。


「一応はね」

「どうして始めたの?」

「元々、子供の頃からやっててん。せやから下手の横好きで、今でもやってるって感じやね」


「へぇ」と、春平が言った。「部長、子供の頃からやってたんですね」

「あれ? このあいだ春平君に話さんかったか?」

「いえ、聞いてませんけど……」


「あの」と、窓側から秋恵の声が飛んできた。「聞いたの、多分あたしやと思います」

「あれ? そうやっけ?」


 春平が渋い顔をしながら、眉間(みけん)を人差し指で突っついていた。

 しばらく食事と雑談が続き、話が一段落したところへ、


「ところで夏美」と春平が言った。


 彼はお(わん)を机に置いているところであった。


「食事前に話したヤツの続きやけど……」

「え? 食事前が何って?」

「お前、なんでマユちゃんに会いたいん?」

「あ、そういう……」と、面倒臭そうな顔で言った。「話がしたいだけって言ったじゃない」


「どんな話がしたいん?」

「なんで、そんなこと()くの?」

「代わりに話しといたるわ」

「自分で話す。そうでなきゃ意味ないでしょ?」と、たいの刺身を(はし)でつまむ。


「ほな、どんなこと言うつもりなん?」

「そのときになったら分かる」

「なんやねん、それ…… やましいこと無いんやったら話せるやろ」

「別に、話す内容を決めてるわけじゃないもん。話したいことがあるって言うよりも、とにかく会ってみたいって感じ」


「なんで会いたいん?」

「いいじゃない別に。人形が持ち主に会いたいって思うのは変なことなの?」

「状況が状況やし……」

「何?」

「いや、別になんも無い」


 春平がまた、お吸い物に手を付けた。


「あ~、分かった」と、ニヤける夏美。「シュンちゃん、マユちゃんのこと好きだもんね。私がなんの話するのか気になるのも仕方ないよね」


 春平は液体をふき出しそうになるのを、なんとか(こら)えた。


「な、な……! なんでそうなんねんッ!」

「だって、昔からずっと一緒だったし、マユちゃんにプレゼントとか、よくしてたじゃない」


「こ、子供の頃の話やろ!」と、春平が膝を立てる。

「春平君」と冬樹。「行儀わるい

で」

「せやけど部長ッ!」

「夏美ちゃんも」と横目になった。「あんまり春平君をからかったらアカンで?」


「だって、シュンちゃんから言ってきたんだもん」

「そうやとしても…… こんなところで言うべきことちゃうやろ?」

「でもシュンちゃん、本当にマユちゃんのこと好きなんだよ?」


「せやからな、夏美ちゃん…… あっ、コラコラ、落ちつきなぁ春平君。──せやから、そういうのがアカンのやって夏美ちゃん」

「シュンちゃん、こんなに怖い人だったんだ……」


 夏美はこう言ってから、右へ傾けていた体を真っすぐに戻した。春平はと言うと、立ち膝を解いてあぐらをかいている。()(けん)には(しわ)が寄っていて、不機嫌な態度を隠そうともしていなかった。


 むしろ彼は、この場面で不機嫌な気持ちを隠す方が間違っているとさえ考えていた。


 そんな春平の気持ちを知ってか知らずか、冬樹が(ため)息のあとに、こっそり秋恵の様子をうかがった。

 彼女は窓の外を見つめている。


「あ~ぁ……」


 乗るはずだった電車やバスが走って行くのを、諦観(ていかん)の表情で見送る人みたいに、冬樹がポツリと(つぶや)いた。

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