9 聖女との交流
みんなのおばあちゃん、カスミ様回?
よろしくお願いします。
「ところで、アーテルはこんやくのこと、なにかきいてるかしら?」
聖女のみが持つ黒髪のアーテルは、アーサーの嫁(仮)になるのは既定路線だろう。設定通りなら、魔力量は国内一なはず。アーサーは何をするにもアーテルに勝てなくて、コンプレックスを抱くのよね。
アーテルは別にアーサーにベタ惚れでも何でもなくて、一番能力の高い自分が人の上に立つのは当然と思っていて、かつ身分が高いだけで能力は自分に劣るアーサーを自分の所有物のように扱っていたのよ。
ゲームの時は腹が立って仕方なかったけど、今のアーテルはそんなことしないと思う。さっき、アーサーのこと睨みつけてたから、別の理由でいじめやしないか心配だけど。
「はい。わたくしとアーサー殿下の婚約は内定していると伺っております。今回は王妃様のご意向で、側近候補と他の三公との交流も持つようにと使者から伝えられました。」
アーサーは普通の二歳児だから、今婚約なんて言っても分からないだろう。だけど、アーサーが三歳になったときに婚約が成立するはずだから、公表までは一年もない。
アーテルはオリエンス公の一人娘だけど、稀有な黒髪を持つ聖女の末裔として王家入りをし、代わりに私がエドワードと結婚してオリエンスを継ぐことになる。そのこともあって、悪役令嬢の四人の中でも特に私とアーテルは仲が良い、という設定だ。
そもそもゲームの私は、実は妾腹腹のアーサーを嫌っていたし、王位も慣例を破って自分が継ぐか、アーテルに実質的な支配をさせて裏から牛耳るか、てなことを考えていたキャラだから、全っ然、今と違うんだけど!
「それは、アーテルもりょうしょうしているの?」
「はい。王命ですので、臣下のわたくしに断るという選択肢はございません。いずれは聖女が召喚されてアーサー殿下と結ばれると思っておりましたので、それまでのことと考えておりました。」
臣下。なるほど、納得した。そりゃそうだ、アーテルの言う通りだ。親戚でも三公の序列は王家より下。王命なら、断れない。まだなんもしてないウチの弟を睨むくらい嫌なら断れば?なんて、言わなくてよかった。
「ごめんなさい、ぐもんだったわね。でも、それならそれで、どうしてアーサーのことをにらんでいたの?まだストーリーもはじまっていないのに。」
「……睨んでましたか?」
「にらんでたわ。」
「申し訳ございません、そのようなつもりはなかったのですが……観察は、しておりました。どのような方なのか、知りたかったのです。わたくしは、この世界の知識を余り持っておりませんので。」
「まだにさいよ?さんこうにならないのでは?」
「人には持って生まれた性質がございます。振る舞いを見れば、ある程度は推測出来るかと。」
そうかなぁー?二歳児から分かることなんてほとんどないと思うんだけど。前世で子育て経験ないなら分かんないわ。
「それは、ぜんせのけいけんからのことば?」
あ、余り良くない質問の仕方だったかな。素直に聞いてしまった。沈黙が気まずいから、文句でもいいから何か言ってほしい!
「……そう、ですね。」
アーテル、また黙っちゃった。ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!デリカシーなさすぎだろ、私!
おろおろして、思わずつないだ手をギュッとしてしまった!……お、思い出し笑いかな?アーテルが微笑んでる。
「ヴィオラ様の手は温かいですね。こうして手をつないでいると、子どもが小さかった頃の体温がありありと思い出されます。」
「そ、そうね……。」
それから私は何も言えなくなった。気落ちして、トボトボとサロンまで向かう。アーサーの顔が見たいわぁ。ヨシヨシして撫でくり回したい!癒されたい!
「おかえりなさい、二人とも。よく歩いて戻って来たわね。疲れたのではない?大丈夫?」
お母様が気遣ってくれた。私の顔色を見て心配になったのかな?確かにヘトヘトだけど、精神的ダメージの方が大きいのよ。
「ヴァイオレット様、こちらにいらして、そのお顔をよく見せていただける?」
カスミ様に声をかけられた。アーテルと手をつないだまま、お側に寄った。アーテルは最初に座っていた椅子へと着席し、私はカスミ様の横に立つ。老齢の侍女が車椅子を動かして、私に向かい合うように移動させた。
「まあまあ、とっても可愛らしいこと!わたくしの孫はみんな美人ね!将来が楽しみね!貴女の菫色の髪、亡くなったお祖父様とおんなじ!旦那様は少しくせっ毛でそれもかわいらしかったけれど、貴女は真っ直ぐでとても綺麗。」
そうだったのか、知らなかった。英雄の再来と呼ばれていたから、てっきり金髪金眼だと思ってた。カスミ様は私の髪をしきりに撫でている。
「はじめてしりました。カスミさまにほめていただけてこうえいです。」
何て返事したらいいのか困っちゃうわ。カスミ様の立ち位置が分からないんだもん。
「いやだわ、そんな呼び方しないで!わたくしは貴女のお祖母様ですよ。」
「はい、おばあさま。わたくしのこともヴィオラとおよびください。さまも、おやめくださいな。アーテルにも、そのようにおねがいをしたのです。」
「うれしいわ!ヴィオラ、貴女はとっても賢い子ね!お祖母様のお膝に乗ってもらえるかしら?」
「よろしいのですか?おいすにすわられたままいらしたので、おかげんがよろしくないのではないかとおもったのですが。」
「うふふ、優しい子ね。大丈夫よ、王都へ来る途中に足を挫いてしまったの。アーテルとお散歩していたのだけど、石畳につまづいてしまってね。歳を取るのはいやね。色々と覚束なくなるわ!」
「まあ、カスミ様は充分お若くていらっしゃいますわ!」
メリディエス公が言った。確かに、この世界の同年代と比べると全然若く見える。日本人だからかな?欧米人っぽい私たちと比べたら、日本人は若く見られるよね。前世でもそうだったもん。
「うふふ、ありがとう。でも、気だけは若いつもりよ!まだまだ子育てがありますからね!」
カスミ様がアーテルの方を見たので、私もアーテルを下から覗き込む。一瞬、表情が歪んだ気がしたけど、元に戻ってる。さすがだ。
「ですから、ヴィオラがお膝に来ても問題ないのよ。さあ、いらっしゃい!」
お母様を見ると、小さく頷いた。それに合わせて、カスミ様の侍女が「失礼致します」と言うと私をひょいと抱き上げて、カスミ様の膝に下ろした。
「貴女もアーテルより大きいわね。スカーレットもオリヴィアもお膝に来てもらったのだけど、やっぱりアーテルより大きかったわ。アーテルは食も細いから小さいのかしら?」
内孫が可愛いのかしら?ていうか、アーテルもカスミ様のお膝に乗るの?ちょっと意外。
「ヴィオラは背が高くなりそうね。きっと、美しい淑女になることでしょう。」
そうなのよね。私はゲームの頃にはすくすく成長して、アーテルとは頭ひとつ分くらいの身長差になる。スラリとして、スタイルがいい。胸は大きくはないけど、小さくもない。とにかく、脚が長い。
将来モデル体型になるのは嬉しいけど、前世も割と高身長で、あんまり女扱いされなかった苦い記憶があるからなぁ。この世界だと男性も高身長が多いから、あんまり気にしなくても大丈夫なんだけど。
「わたくしはおかあさまのようなくにいちばんのしゅくじょになりたいのです。」
ウッ、そんなみんなでこっち見ないでよ!一応、子どもらしいことを言ってみただけなんだから!!アーテルも!呆れた顔して見ないで!!
「あらあら、高い目標を掲げているのね!貴女のお母様は素晴らしい女性です。そうなれるように、お祖母様も応援しますからね。」
「ありがとうぞんじます、おばあさま!」
私はカスミ様にギュッと抱きついた。カスミ様は優しく抱き返してくれた。大人たちは微笑ましい目で私たちを見ている。うう、居た堪れないが我慢だ我慢!
だから、アーテル!そんな目で見ないでってば!!
聖女のカスミ様はアラフィフです。
結婚が早い世界ですので、こちらの最近の傾向から考えるととても若いおばあちゃんのような気がしますね。
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