84 命名会議③
短めです。
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
執務室で待っていたドロシーに早く香澄様の部屋へ行きたいというと、夫のライナスが私を抱き上げて走り出した。うえええ、上下運動が!伯父様の体幹の強さを実感するわぁ。
「あら、ヴィオラ様。」
ノーマさん、やはりお美しい。じゃなくて!
「おばあさまとオリヴィアは!?」
「隣のお部屋で、命名書を認めておられます。」
「ふたりきり!?おじさまは!?」
「おふたりです。オースティン様は自室で待機を命じられております。」
軟禁されてるんかい!
「わたくしもへやへいれてくれる!?ライナスはここでまってて!」
「御意。」
「大奥様に確認して参ります。ヴィオラ様も少々お待ちくださいませ。」
ああん、もう、もどかしい!腕を組んで指をトントンと動かしていたら、ライナスの苦笑が頭の上から降って来た。思わず見上げて睨みつける。
「ああ、いえ、宰相閣下の癖と同じ事をされているので。失礼致しました。」
ウッソ、マジで?睨んでスミマセン。教えてくださってありがとう存じます。うわぁ、コレ、前世の父も癖だったんだよなぁ。嫌なイメージが増したわ。
「どうぞ、お入りください。ヴィオラ様だけなら構わないとのことです。」
「もとよりそのつもりよ。ごめんなさい、少し待っていてね。」
「お気になさらず。」
「しつれいいたします。」
「ああ、ヴィオラ。今、書き終わったところよ。そんなに急ぎだったの?」
二人は香澄様の寝室で文机に向かっていた。おお、装飾過多だけど、ちゃんと筆だ。硯も再現されている。墨汁の匂いが懐かしい。
背伸びして机上を見れば、迦楼羅までちゃんと書いてもらっていた。お父様の考えはオリヴィアにも見抜かれていたようだ。それか、参考に書いてもらったのかもしれない。
「のこりの2わもなまえがきまったので、おとうさまがどういうかんじかをはやくおしりになりたいそうです。」
「きまったの?」
「ええ、オスがいちごでメスはりんごよ。」
「随分とかわいらしいわね。」
「ほうこうせいがずいぶんちがうじゃない。」
「アーサーがじぶんでつけたの。」
「いちごとりんごね。りんごのごってどういう字だったかしら。」
オリヴィアが書いてみせたと思われるメモの余白に羽ペンを借りて漢字を書く。久しぶりだな、漢字書くの。
「ありがとう、すぐに書くわね。」
「おとうさまがまちわびすぎてソワソワしてしまって、まったくしごとにならないみたいなので、さきにかきおわったものをもっていってもいいですか?」
「いいわよ。乾いたかしら。」
「だいじょうぶそうです。」
「おばあさま、たっぴつですね。」
「母が書道教室をやっていたからね。」
「じがきれいなひと、うらやましいわ〜。」
「ヴィオラ、いそがなくていいの?」
「あっ、そうだった!こちら、おあずかりします!オリヴィアはのこりがかわいたらもってきてくれる?」
「わかった。」
半紙じゃなくて色紙みたいなやつだから破れないだろうけど、重ねたら墨が擦れるかも。気をつけなきゃ。
「おまたせ!さきのふたつをいただいてきたわ!もどりましょう!」
「はっ。失礼します!」
もう一度抱き上げてもらって、ライナスに急いでもらう。あ、あ、あ、あ、あ、上下運動で片手ずつに持ってる色紙落っことしそう!
「先の二枚、お待ちしました!」
「おお、もう命名書にしてくれたのか!さすが母上!」
そう言いながら、執務机の書類を腕でどかして色紙を置くスペースを作っている。重要書類ばかりのはずですが?大丈夫?
ライナスさんは私を抱きかかえたまま、お父様の前に立った。あ、私が渡せとな。
「こちらがおとうさまのひな、かりょうびんがのかんじでございます。」
迦陵頻伽
この四文字を食い入るように見つめて、ふるふるて震えている。画数多いから、お父様の厨二心に矢がぶっ刺さりまくっていることだろう。胸を抑えている。
「なんて、なんて、格好いいんだ……!」
お気に召したようでなにより。
「圧倒されるような文字なのに、慎ましさや淑やかさまで感じる。これが、女神の名……!」
迦陵頻伽ちゃんはお父様の頭が定位置になったのか、斜めになっても色紙を持ち上げて勢いよく起き上がっても微動だにせず、つむじの上に鎮座している。迦陵頻伽……強い!
「ちなみにこちらがカルラでございます。」
お父様に向かって両手で色紙を持って見せると、更に興奮が増した。
迦楼羅
「一文字目は迦陵頻伽と同じなのだな!これが、か、と読むのか。迦陵頻伽は最初と最後の文字が似ているから、こちらが、が、だな。」
「か、りょう、びん、が、だそうですわ。」
「なるほどな!しかし、迦楼羅は三語ながらも、とてもいいな!素晴らしい!特に最後の字がいい!たまらない!」
あー、羅ね。みんな好きね。
「これで満足されたでしょう。机の上をお片付け下さい。」
「ああ、分かっている!これを額装に回してくれ!常に私の目に入るところ、そうだ、扉の上に飾ってくれ!」
「それでは執務になりません。気が散るだけでしょう。」
「くっ!王だというのに、それすらも許されないというのか!」
王様はそんなアホな我儘言っちゃいけません。王様という職業を何だと思ってるんだ、お父様は。
「おまたせいたしました、のこりのめいめいしょをもってまいりました。」
「オリヴィア、おかえりなさい。」
ブライアンさんがオリヴィアから色紙を預かってお父様に手渡した。文字数と画数が少ないからか、少し残念そう。
「いちごは一文字と言っていたからこちらだな。となると、こちらがりんごだな。アーサー、見てごらん。おばあさまが書いてくださった、いちごとりんごのお名前だよ。」
アーサーはきょとんとして、もういい、と雛たちの元へ戻った。雛たちは会議室でお母様とアーテルとスカーレットが、それぞれの手に雛を載せてのおやつタイムだったらしい。迦陵頻伽は食べ終わってお父様の頭でお昼寝してるのかな?
「にゃん。」
「パル。」
パル、自力でここに来られるのか。ちゃんと騎士に扉を開けてもらって入って来たよ。国王の執務室なのにいいのか?
「あら、もうこんな時間。そろそろ戻りましょうか。アーサー、パルがお迎えに来てくれたわよ。またお庭で追いかけっこをする約束をしたのでしょう?」
「あー!そーだった!いちごちゃん、りんごちゃん、かる、またあとでね!」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、とアーサーは雛たちの頭にキスをして、モリーに抱っこしてもらい、お母様とパルと一緒に帰っていった。
なにあれ。ウチの弟、かわいすぎませんか。鼻血吹いて倒れてもいいですか。
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