82 命名会議①
一回で終わりませんでした。
よろしくお願いします。
香澄様はあそこまで歩くのが大変そうなので、明日からは同伴なしになった。
予定では、私は朝食後、アーサーとともに温室に行ってみんなと合流して広域祝福の練習。香澄様はそれを見届けたら、雛たちのご飯を採ったアーサーと先に帰る。私たちはおんじと行動し、みかんに祝福をかけ、転移棟に行って訓練は終了。
今まで朝の九時から正午ギリギリまでやっていたのが、開始は早まるけど往復含めても十時半には終わるんじゃない?
まあ、雛たちに祝福も食べさせなきゃいけないので、午後はみんなでお父様の執務室に行かなきゃなんだけど。それも訓練よ、だって。
大人の聖女訓練は隠す必要がなくなったから、堂々とやってます。明日からは余った時間使うか。
神殿からの正式な協力要請もらったから、勤務時間内で全然大丈夫!今までのことも不問になるって!
昨日一日の様子から、金色ちゃん(仮名)にも祝福をかけるんじゃなくて食べさせる方針になったらしい。他の子たちはパルたちと同じでおやつ感覚で食べてるんだけど、身体の弱い金色ちゃんもおやつのように食べさせて、なるべく治癒なしで自力で生きていけるようにしていきたいとのこと。人間の子どもと一緒だね。
というわけで、お父様の執務室に向かってまーす。
扉を開く前からぴいぴい聞こえてるよ。これ、仕事になるのかな?
「ぴい?」
正面に見えるお父様の頭には、雛が鎮座している。
扉を開けてくれた騎士が、一瞬扉を閉め直そうとしていた。見なかったことにしたかったよね、ごめん。
「ぴい!ぴい!ぴい!」
甲高いけれど、力強い声を上げた雛がダッシュで寄ってきた。金色ちゃんだ。一晩経っても忘れてなかった!よかった!足元でぴょんぴょんしてる!かわいい!
「ママ!ママ!って叫んでるみたいね。」
「マ、ママでちゅよ〜!さみしかったでちゅね〜!またせてごめんね〜!」
残念な子を見るような目で見るな!分かってるから!かわいさに負けてるだけだから!
金色ちゃんを抱き上げて立ち上がると、お父様はウンウンと頷き、部下の皆さんは微笑ましいものを見る生暖かい視線、横からは侮蔑の目線。うん!いたたまれない!
「アルテ、休憩してきていいぞ。」
「ひゃん!」
アルテはタッタッタと軽やかな足取りで部屋を出て行った。たまには外に出て気分転換しないとね。
「いや、本当に、アルテ様には助かっています。」
「アルテ様がいなければ、今日やらなければならない執務の半分も進みませんでした。」
「アルテ様は分別がおありだ。」
「アルテ様は女神だな。」
私に生暖かい視線を送っていたはずのお父様の部下四人衆が壊れている。
「モリー、何があったの?」
「それが……。」
朝、お父様が私との交換日記を書き終えた頃、アルテがトイレに行くのに部屋を出て行った。母親がいなくなったので、雛たちは騒ぎ出して収拾がつかなくなった。
その時はすぐにアーサーとお母様が来て、ご飯で気が逸れたから良かった。一時間くらい会議室の方でお母様が魔力を食べさせたり、アーサーと遊ばせてて、アルテが戻ってきたのでアーサーと交代。アルテは何故かパルを連れて来たらしい。
そして、まだ帰らないとごねるアーサーをパルが気を引いて連れ出して、しばし平穏が訪れた。
しかし、ここは国王の執務室。当たり前だが人の出入りが多い。好奇心旺盛な雛たちは外が気になりだして、隙あらば扉の隙間を縫って脱走しようとする。それをアルテがすぐに察知して、口で咥えて止めていた。
他にも、鳳凰鳥は高いところに登りたがる習性があるのか、ぴいぴい騒いで飛び跳ねるので仕方なくお父様が机の上に乗せたところ(乗せるなよ)そこで排泄をしようとしたらしく、すぐにアルテが飛んできて、雛たちのトイレ用木箱に移動させ、終わったらおしりを舐めて拭いてやり、甲斐甲斐しく世話を焼いていたとのこと。
一通り遊んだ後は孵化に使った通称アルテ箱に雛たちを運び、寝かしつけまでしたんだそうだ。どんだけ有能なの!?
これ、アルテ、神殿によってマジで神格化されるパターンじゃない?既に女神扱いされてるけど。様までついてるし。
「これは秋の収穫祭でアルテを神の使いとして紹介せねばならんな。」
お父様まで!大丈夫か、この国!
「赤ん坊のいる中で在宅ワークってキツイのよね。」
アーテルがぼそっとつぶやいた。経験がおありで。クリエイティブな職業だったから、さぞ大変でしたでしょう。
「ゔぃお!ごはんあげよ!」
「ああ、そうね。」
雛たちは我先にと寄ってきて、切った桃を食べようとしている。ちょんちょんとついばんではぴっぴと歓喜の声を上げている。アーサーの雛はアーサーの左右の手から、お父様の雛はお父様の右手から、私の金色ちゃんは私の右手から、あっという間に桃のかけらを食べ尽くした。
他の面々は残りの桃を切ってもらって食べている。私の分も残しといてよ!
「あー!たべちゃだめ!」
アーサーは先に食べ終わった雛が人のご飯を横取りしようとするのを止めている。うん、かわいいよ。
アルテが戻ってきたので、世話を任せて帰ろうとしたら、会議室に入れと言われた。なんの話?まあ、雛たちのことなんだろうけど。
「では、これから鳳凰鳥の命名会議を始める。」
お父様は両肘を机につき、手を組んで、顔を潜めて会議の開始を告げた。そのポーズは使い古されています。もうお腹いっぱいです。
着座してるのはお父様、書紀係のメルヴィン、お母様、アーサー、私、アーテル、スカーレット、オリヴィア。扉の前にエドワードが立っていて、侍女ズはお母様とアーサーについてきたモリー、オリエンスのナンシーが窓際に控えている。
モリーが私とアーサーの分の桃を出してくれたよ!食べながらでいいのなら、ありがたくいただく。
「ひなのおやがそれぞれになまえをつければよいのではないのですか?」
もぐもぐしながらは話さないよ!お行儀が悪いからね!
言うべきことは言ったから、桃食べよ!いただきます。
「それではいけない。霊鳥として相応わしい名前を授けねばならん。」
そういえばダスティンいないな。こういうときは宰相も呼ぶもんだと思ってたけど。お父様の独断専行?
「とうぜんでございます。なづけをおろそかにしてはなりませんわ、ぜったいに。」
「おお、そうか、オリヴィア!分かってくれるか!さすが私の姪だ!」
そのテンションについてけないんで戦線離脱しまーす。アーテルに至っては気配を消してるよ。スカーレットはオリヴィアの調子にまた呆れている。
「何より、兄上があっと驚き、悔しがるような名前をつけたいのだ!」
えっ、そこなの?
「わたくしもごきょうりょくいたします!」
「オリヴィアは異界の神獣に詳しかったな!意見を聞きたい。」
「そうですわね。あちらではせかいじゅうに、さまざまなれいちょうのでんせつがのこされております。すざく、ガルーダ、カルラ、これはガルーダのべつげんごで、きんしちょうのことです。それにかりょうびんが、フェニックス、ケツァルコアトル……」
「ケツァルコアトル!この世にない、いい響きだ!」
「あ、あの!せいべつをみてからきめるというはなしはどうなったのですか!」
「オッキデンスから呼び寄せている。もうすぐ転移陣で到着する。兄上が連れてくる前に候補だけは挙げておきたい。」
伯父様にドヤりたいわけね。おこちゃまめ!
「ケツァルコアトル、いいな。だが、ガルーダも捨てがたい。」
もう鳳凰関係ないよ。
「ケツァルコアトルはじんるいにひをさずけたかみといわれ、へいわをこのむとりといわれております。」
「ますますぴったりじゃないか!火の魔石の名の元になった鳳凰鳥だ、よし。ケツァルコアトルが第一候補だな。」
「到着なさいました。」
「通せ!」
「失礼致します。」
割烹着のようなものを服の上から着た女性が入ってきた。女の人の方が初生ひな鑑定士には向いてるんだよね、手が小さいから。
「おお、待ち侘びたぞ!よく来てくれた!早速、雛たちを見てもらいたい!」
「かしこまりました。」
平民だろうに落ち着いてるな。ていうか、不機嫌?無理矢理連れて来られたのかな?
部屋の中を好き勝手歩き回る雛をガシッと鷲掴みにし、おしりを調べている。
「オス、メス、メス、オス。」
ポイポイとメスだけを机の上のアルテ箱に放り込んでいく。いや、別に投げてるわけじゃないけどさ。伝説の鳥にも気後れしないところがすごい。
「私の雛はメスだったか!」
「以上でよろしいですか?」
「うむ。大儀である。謝礼を外の部下から受け取ってくれたまえ。」
「では、失礼致します。」
自分の仕事を終えるとさっさと帰って行ってしまった。お父様とアーサー以外はみんなポカンとしてる。
トテトテと机の上を金色ちゃんが歩いてきた。
「あなた、おとこのこだったわね。」
「ぴ!」
指の腹で頭を撫でてやったら、目を細めて気持ちよさそう。
「うむ。メスか。オスがよかったが、まあ、いいだろう。ケツァルコアトルにけって……」
「おとうさま。ケツァルコアトルはおがみですわ。」
「なんと……。」
お父様はガックリしょぼんと項垂れてしまった。
「しかも、わるいかみにだまされてしらずにつみをおかし、おさめるとちをついほうされてしまったかみのなまえなど、おうこくのれいちょうとしてふさわしくありません。」
「そうか。それはよろしくないな。先程挙げた中でメスはいないのか?」
「かりょうびんがでございます。」
「かりょうびんが……それは、漢字、で書くのだな?」
「はい。」
「漢字……あれはロマンがある。いい。いいな!だか、ちと呼びにくいな。」
「ちがうくにではカラヴィンガとよばれておりますわ。」
「なにごだったかしら?」
「サンスクリットよ。」
「真言とかの。」
「そうよ。」
「しんごん、とは?」
「こちらで言う詠唱のようなものでございます。」
「なるほどな。」
「アーテルなんてまさにかりょうびんがのうたごえよね。」
「話を急にふらないでよ。」
「かりょうびんがはどういう神だ?」
「てんじょうのらくえんにすみ、じょうはんしんはうつくしいにんげんのじょせいで、かはんしんがとりのすがたをしているそうです。そのこえはうつくしく、おばあさまのこきょうではうつくしいうたごえをかりょうびんがのうたごえというのです。」
「ふむ、そうか。美しい女神なのだな。カラヴィンガの方が呼び易いが、母上がおられるのだ。かりょうびんがの方が良いだろう。どういう漢字なのか、あとで母上に聞いてみるとするか。」
香澄様、書けるかなぁ?無理なら私かオリヴィアで先に入れ知恵しとかないと。字面だけ見ればさぞお父様の厨二心をくすぐることだろう。
「さて、残りの三羽だが、ヴィオは何か希望はあるか?」
「よびやすいほうがいいのですが……。」
「オリヴィア、何かヴィオが気にいるような異界の名前はないだろうか。」
なんでオリヴィアに聞くのさ。
「わたくしがおすのはガルーダかカルラですね!きんしちょうのべつめいですし、おがみですもの!」
「それは漢字で書けるのか?」
「カルラならば。」
「ヴィオ、どうだ?私もカルラが良いと思う。」
あー、決定権ないんすね。お父様なら外国の人が漢字の入れ墨入れちゃう気持ちが分かりそう。ソークールとか言って。
「自己主張は大事よ。」
「とはいえ、だいたいあんがなく……。」
「まあ、どんな名前つけても動物なんて結局略してあだ名で呼ぶんだから、そっちの方から考えてみれば?」
「ガルーダ、ガル、ガルちゃん、カルラ、カル、カルちゃん、うーん。」
「どうだ。」
「ガルーダのほうがいいやすいのですが、ちょっと、たけだけしさが……。」
「ガルーダは強いのか!?」
「へびをしょくすとも、りゅうをしょくすともいいますね。」
「龍を……食べる……?」
この世界、龍?ドラゴン?いるっけ?魔物で近いようなのあったっけ?
「聞いたことがある!七つの球を集めると、願いを叶えてくれる神だな!母上の故郷では世界中の少年の憧れだと!」
ちがう!ちがわないけど!そっちじゃない!
お読みいただきありがとうございました!
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