8 悪役王女と悪役令嬢の語らい
幼児がなんか一生懸命喋ってる回です。
「みなさま、風が強くなって参りました。お風邪を召されてはなりませんので、サロンにお戻りになってください。お疲れの方は僭越ながら私どもが抱き上げてお連れいたしますので、遠慮なくお申し出ください。」
マーガレットが私たちに声をかけた。行きだけでも結構な距離を歩いたし、帰りの途中で疲れてグズったりされても困るもんね。いや、この中の誰もそんなことでグズらないと思うけど、一般的な二歳児としてね。
「だそうよ。いかが?」
「わたくしは歩きます。」
アーテルはそう言うと思った!プライド高そうだもんね。
「わたくしはお願いしとうござます。」
「わたくしも、お願いいたします。」
残りの二人は抱っこ移動に抵抗がないようだ。まあ、普段は普通の子どもを装っているだろうから、あんまり気にしないのかも。私も開き直って抱っこを受け入れている。でも、アーテル一人に歩かせるわけにはいかないから、私は歩いて行こうかな。
「わたくしはあるきますから、おふたりはさきにおもどりになって。セプテントリオのかたがたともこうりゅうをしなければなりませんからね。」
「さようでございますわね!おことばにあまえて、さっそく!」
「では、おさきにしつれいいたします。あちらでおまちしておりますわ。」
スカーレットがメリディエス家から連れてきた侍女に積極的に抱っこをせがんだ。オリヴィアはすでにオッキデンス家の侍女に抱き上げられていた。オリエンス家の侍女はアーテルによろしいのですか、と小声で聞いているが、いいわ、と断られてしまっている。
二人とその侍女はモリーの先導で戻って行った。数年に一度迷宮の通路を変えるんだけど、王宮の侍女は道筋を把握しているみたい。お母様の侍女だからかしら?
「わたくしたちもまいりましょう。てをつないであるかない?あなたとすこしおはなししたいわ。」
二歳児二人が手をつないで歩くと、コケたときに共倒れになるんだけど(弟で経験済み)、侍女に聞かれたくない話もしやすいかなと思って提案してみた。
あっ、そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ!私だって恥ずかしいんだから!アーテルがちらりとオリエンス家の侍女を見ると、微笑んで頷かれている。王族からの申し出は断ってはいけません!ってとこかな。
「かしこまりました、ヴィオラ様。」
渋々了承してくれた。ごめんよ、アーテル。
マーガレットの案内で、その後ろを私たち、そのまた少し後ろをオリエンス家の侍女が付いてくる。ヒソヒソ声で話せば何とか聞こえられずに済むかなぁ。
「ねえ、アーテル。あなた、ぜんせのきおくがあったりしない?」
直球勝負に出てみた。アーテルは目を瞠り、私を見るが、すぐに前を向いて取り繕った。
「ございます。いつお分かりになりましたか?」
おー!やっぱり!じゃなかったら、二歳児がスラスラと難しい言葉で挨拶なんて出来ないよね!
「あのふたりがパーゴラでゲームのはなしをしていたでしょう?わたくしもおどろいたのだけど、あなたもおなじようにかのじょたちをみていたから、もしかしたらとおもって。あのふたりもてんせいしゃのようね。そのことをおたがいにしっているみたいだし。」
「そのようでございますね。」
「まあ、そのまえに、あなたのはなしかたがあまりにもおとなびているから、すこしぎもんをもったのよ。あのこたちもそうだけど、さんこうのむすめはみな、にさいにしてはあまりにもできすぎているわ。」
「左様でございますか。そのように思われるとは考えてもみませんでした。」
「そうなの?あなた、とくにいしつだったわよ。ちゅうもくをあつめてもへいぜんとしているし。」
「そんなことが気になられたのですか?ヴィオラ様も王女なのですから、見られることに慣れておいででしょう。」
「そんなことないわ。わたくしはまだこうしきのばにはでられないですもの。しきてんでかおをみせることがあっても、バルコニーからとおくにいるみんしゅうにてをふって、すぐにへやへもどされるわ。それいがいはほとんどへやのなかよ。おかあさまとじじょがいるくらいだもの。」
「そうなのですね。存じ上げませんでした。わたくしも、領都の屋敷からは滅多に出ません。カスミ様と、その侍女くらいしか会話も致しません。見られることに慣れているのは、……前世の影響かと。」
前世、という言葉を使うのを躊躇ったように思えた。まだ、自分が転生したことを受け入れられないのかもしれないな。
「わたくしたちは、これからやってくるせいじょがどのとのがたをえらぶかによって、みらいがきまるでしょう?いちど、よにんでしっかりとおはなしがしたいの。どうかしら?」
アーテルは立ち止まって不思議そうな顔をした。えっ、私、なんかおかしなこと言った?
「わたくしが断罪されて幽閉されるのではないのですか?」
「アニメやぶたいならアーサールートだからそうかもしれないけど、ゲームならほかにもせんたくしがあるじゃない?ここがゲームにならったせかいなら、そんなにひどいけつまつにはならないけれど、アニメでもおーぶいえーなら、ほかのこうりゃくたいしょうルートのはなしもあるし、だれがどうなるかはわからないわ。しらなかったの?」
「ええ、全く……。わたくし自身がゲームをしていたわけではなく、娘が遊んでおりましたので、余り詳しくは……。」
アーテルには娘さんがいたのかぁ〜!そりゃ、前世に心残りがあっても仕方ないのかも。私も、前世の家族や友達に会いたいって思うこと、未だにあるもんね。悲しいかな、恋人や夫はいなかったけど。
子どもを残して死んでしまったのなら、死んでも死にきれないよね、きっと。
いや、今はアーテルとして生きてるけど。同じ世界じゃないから、会いに行くことも出来ないし、心配だろうなぁ。正直、娘さんのことは聞くのも憚られる。今は追求しないでおこ。
「まあ、そうだったの。ならばなおさら、はなしあいをしてじょうほうをすりあわせなければね。ゲームでもアニメでも、わたくしたちはしんゆうでしたのよ。できれば、おなじようになかよくしてほしいわ。」
「……善処いたします。」
はぁ、侍女がいるとはいえ、もうちょい打ち解けてくれたっていいのに。アーテルの素顔が見られるのは先になりそうだ。
周りには今後、娘っこたちの中で内緒話がブームになっていると思われることになります。




