74 炯眼理論
とりさんの名前が決められません。
よろしくお願いします。
「交換日記、私も見ていい?」
「さんにんとも、いい?」
交換日記の相手はみんな頷いたので、どうぞ、とお父様にバインダーを差し出す。ページを進めるごとに苦い表情になっていく。途中で手が止まって、大きく嘆息した。
「ここ最近、復興以外でも忙しかったのはこのせいか。」
「ごめんなさい、おとうさま。ただでさえいそがしいのに、おしごとふやしてしまって……。」
「いや、いいんだ。ヴィオラの考えた事と思えば、仕事に張り合いも出るさ。」
「でも、おかおがつかれているわ。たおれてしまわないかしんぱいよ。」
「じゃあ、ヴィオラが祝福をかけてくれる?お父様が倒れないように。元気にお仕事出来るように。ね?」
「はい、おとうさま。」
お父様は、私を抱き上げて額と額を合わせた。私は残りの力を振り絞ってお父様に祝福をかける。人への祝福ってこんなのでいいのかな?お父様が元気でいられますように。
「もういいよ、ありがとう。」
額を離すと、お父様と目が合う。優しく微笑むお父様に、私も微笑み返す。
「あー!アーサーもだっこ!ちちうえー!」
アーサーがこちらへ駆けてくる。後ろをヨチヨチとついてくる雛たちも相俟って愛らしさが爆発している。
「アーサーもおいで!よっと。」
アーサーが届かないところへ行ってしまって不安になったのか、雛たちはピョンピョンと飛び跳ねながら必死に鳴いている。
「ちちうえ!とりさんもだっこ!」
「潰しそうで怖いな。」
「わたくしがおりますから、とりさんといっしょにだっこしてあげて?」
「悪いね。よいしょっ。おお、喜んでる。お前たちの父上だぞ。はは、可愛いなぁ。アーサー、ちゃんと面倒見るんだぞ?」
「うん!」
「そういえば、この子たち、何を食べるのかしら?」
「花すら滅多にならない樹木の果実を好むと伝えられていますが。」
「とりあえず、いろいろだしてためしてみましょ。せいじょのちからもまだまだたべるかもしれないし。」
「聖女の力を食べる?」
セプテントリオの皆さんの頭の上にハテナマークが並んでいる幻覚が見える。疲れてるなー。オッサンどもがガン首揃えて首を傾げないでよ、面白いから。
「先程も仰っておられましたが、鳳凰鳥は聖女の魔力を食すのですか?」
「ああ、あなたはそのときいなかったものね。うまれたとりがたべるかはわからないけど、ほうおうどりのふかじょうけんはしゅくふくよ。しゅくふくをあたえないとたまごはかえらないんだとおもう。まりょくをたべるのはアルテのほう。ずっとアルテがしゅくふくをかけてくれてたから、この2わはかえったのだわ。」
「猫が、祝福を?」
「なんでかわからないけど、このしろねこのアルテと、きょうだいねこのパルは、せいじょのまりょくがすきなの。よくなめてるわ。アルテはやたらとほしがるとおもっていたら、こんどはたまごをなめて、じぶんでしゅくふくをかけていたのよ。」
「なんということだ!」
「この猫はどうなっているんだ?」
「瘴気に侵された母猫の腹を裂いて取り上げたのだろう?」
「腹の中で浄化を受けた影響か?」
「前例がない。何もかも分からん。」
「ヴィオラ様はどう思われます?」
えっ、ちょっと、そんな期待した目で見ないでよ。ダスティンも何で話振るの?
「あー、えーっと、パルとアルテがなぜせいじょのまりょくをたべるのかはわからないけど、アルテがしゅくふくをつかったのは、ほんのうなのかなっておもいました。アルテはうまれるまえにははおやをなくしましたが、ははをしらずともいでんしにきざまれたぼせいほんのうで、たまごをまもろうとしたのだとおもいます。ほんのうはせいぶつにそなわる、げんしてきなきおくです。みわざはほんらい、とてもげんしてきなもので、ほかのいきものにとってはあたりまえのことなのかもしれません。わたくしたちにんげんは、ちえをつけたばかりにほんのうをわすれてしまっていて、りかいができなくなっているのではないかしら。」
「本能。」
「あっ、でも、ほんのうそのものも、りゆうがあってできたせいぶつのいでんしのきおくですから、そこをけんきゅうしていけば、ちかいことはできるかと、おもいます、が、あの、あれ?アーテル、わたくしまた……。」
「やらかしたわね。」
うわー!もうやだ!喋り出すと加減を忘れちゃうんだよ!
「遺伝は分かりますが、遺伝子とは?」
「その遺伝子に刻まれた記憶とはどういうものですか?我々にもあると?」
「殿下はその研究をなさるおつもりですか?」
「もしや、もう始めておられるのでは?」
わーっ!一気に質問しないでよ!ヒィー!!
私が身を縮こませて怯えていたら、レナードがスッと視線を遮ってくれた。ホッ。
「貴殿ら、幼な子にそう詰め寄るでない。」
た、助かった……。さすが香澄様の師匠は頼りになる。
「貴殿らも交換日記をすればよかろう。ヴィオラ様との交換日記はとても有意義であるぞ。お勧めする。」
はーい!キター!キタワァ!やったね、私!交換日記の相手が増えたよ!セプテントリオ、コンプリートだよ!
「それなら私もだ!いや、ヴィオの机を私の執務室に移動しよう!執務は執務棟ですべきだ!仮眠室で昼寝も出来るし、ヴィオの顔を見ながら仕事が出来る!なんて完璧な布陣なんだ!早速、人を呼んで机を、」
「やめてぇ!アーサーとのじかんがなくなる!」
ガーンという効果音と背景が見える。あまりのショックに頽れて、四つん這いの国王の出来上がりだ。アーサーが馬乗りになって、お父様の頭の上で鳳凰鳥の雛たちが遊んでいる。
フゥ、というお母様の呆れた嘆息が聞こえた。私も今のが今日イチ疲れたよ。
「そういえば、ドロシー。お前、騎士団の戦闘訓練に治癒で参加したそうだな。治癒は使えないのではなかったのか?」
「皆様方に御指導頂いて、使用出来るようになりました。」
おげっ、ダスティンに情報が漏れてる!ドロシーも結構御技を使えるようになったし、そろそろ明かしてもいい頃ではあったけどさ。
「それは真か!?」
えーっと、メラク侯爵?なんでドロシーのことが気になるの?
「真でございます、お義父さま。」
そっか、お舅さんか。そりゃ気にもなるってものか。
「貴女方は彼女に何を教えたのですか?」
「あたらしいまりょくりろんをかんがえたので、まずはそれをあつかえるようにくんれんしました。いま、きしだんでおこなわれているまりょくりょうぞうかくんれんはごぞんじですよね?きほんはそちらとおなじです。それと、ちゆにかんしては、いかいのいりょうちしきをまなび、みわざにおうようしました。わたくしたちはまいかい、ひとりひとりのちりょうきろくをとって、けがのしゅるいやていどによって、さいたんのアプローチほうほうをけんしょうしております。」
「資料は御座いますか?」
「あ、こちらに……。」
さっきまでみんながやっていた治療記録のまとめをオリヴィアが手渡した。あー、いつの間にか片付けてくれたんだ。床でやってたから書類散らばってたもんね。すまぬ。
「我々の知らぬことばかりですな。」
「ああ、そうだ。ドロシー、あなたのメモもおみせしてあげて。」
「まだ清書しておりませんが……。」
「ドロシーがそこまでするひつようないわ。ごきょうみがおありのようだから、せいしょはこちらにおねがいしてもいいのではないかしら。ね?」
「見せてくれ。」
ドロシーは大人の聖女特訓で学んだことを記した手帳を渡した。メラク侯爵はパラパラと中を流し読みして、静かに手帳を閉じる。
「しばらく貸してくれないか?」
「あ、ですが、訓練で分からなかったことを振り返るのに使いたいので、すぐには……。」
「なら、一晩貸してくれ。神殿の者に清書させる。」
「あと、わたくしのせいじょがっこうのきかくしょもおわたししてしまって。もうバレてしまったのだから、きょうりょくしていただいたほうがはなしがはやいわ。せいじょのかんりはしんでんでおこなってるのでしょう?」
「左様で御座います。聖女学校とは、どういうものをお考えなのですか?」
「すでにせいじんしているせいじょのまつえいをあつめて、みわざののうりょくこうじょうよ。とくに、ドロシーのようにせいじょのちをうけつぎながらも、みわざがつかえないものをたいしょうにしようかとおもってるの。くわしくはきかくしょをみて。ほんとうはダスティンをおどろかすつもりでつくったものだけど。」
「かしこまりました。お預かり致します。」
ダスティンに睨まれたけど知らないもんね。
「でしたら、こちらもおもちください。いま、ひでんかにごせつめいしたことなので、ドロシーのメモにはきさいがありません。」
スカーレットが細胞分裂について書いた紙を持ってきた。細胞とはなんぞやから始まって、図解入りでとっても分かりやすそうだ。私より字、綺麗じゃない?器用な人が羨ましい!
「あー、じゃあ、ついでに、おとなのせいじょとっくん、いまやっちゃう?ざがくだけで。さすがにこれいじょうまりょくつかうのはしんどいわ。」
「わたくしもアルテにかなり魔力を食べさせてしまったからその方が有難いわ。」
「王妃殿下も受けておられるのですか?」
「ええ、わたくしも治癒が苦手だから教えてもらっているのよ。」
「わたくしはヴィオラ様方の訓練に混ぜて頂いて、カスミ様から直接御指導もいただいております。」
「なんと、カスミ様が!?」
「あの方が、珍しいこともあるものだ。」
なんか、カスミ様って、王宮に思うところがある感じ?あんまり協力的な聖女じゃなかったのかな。
「よかったら、おじかんがあるかたはけんがくされていかれますか?」
みなさん頷かれたので、早めの大人の聖女特訓を開始する。
「とはいえ、きょうはなにをやろうかしら?」
「炯眼以外は割とやりつくした感があるわね。」
「けいがんねー。アーテル、つかえる?」
「使えないの。何をどう見ればいいのか分からなくて。」
「まりょく、まだよゆうはある?」
「みんなに比べれば、余裕はあるわよ。」
「さっすがぁ!なら、けいがんについてのけんしょうしようかな。みなさまにもきょうりょくしてもらって。」
「炯眼は、使い道があまりないのに難しいのよね。」
「おかあさまもむずかしいとおもわれますか?」
「さっぱり分からなくて、全く使えないの。」
「何か考えがおありなのですか?」
「ええと、けいがんって、ようするに、そのひとがうそをついているかどうかみぬくみわざよね?」
「そうね。」
「だから、うそはっけんきみたいなものかなっておもったの。」
「嘘発見器?」
「異界にある、生理反応を調べて嘘をついているかどうかを調べる機械よ。」
「あれ?のうはじゃなかったっけ?」
「心拍とか、汗じゃないの?」
「けっきょくのうはからのしんごうだよ。ポリグラフはまったんのへんかから、のうはのうごきをすいそくするんだから。」
「異界にはそんな物があるのですか。どのような仕組みで、脳波……ですか?それを調べるのですか?」
「まず、のうははのうからでるでんきしんごうで、あ、つまりのうからのめいれいです。てをにぎるぞってあたまでかんがえて、じっこうするぞっておもえば、てをにぎることができるでしょう?それいがいにも、かんがえてることって、めにはみえないかたちでからだにあらわれるの。こきゅうとか、しんぱくとか、あせとか?それをしらべてるのですって。」
「それが炯眼に応用出来ると?」
「うーん、まず、じんたいのせいじょうなじょうたいをわかってなければならないんだけど、たぶん、こちらのせかいなら、まりょくのびみょうなうごきのちがいがあるとおもうのよね。そのへんをみわけることができれば、けいがんもつかえるようにならないかなっておもっているの。」
「なるほど。それで、我々は何を協力すれば宜しいのでしょう。」
「いちばんだいじなのは、しつもんのつくりかたなのよ。おもわずドキッとギクッとしてしまうような、どうようをうながすしつもんをしなければいみがないのよね。」
「カスミさまはどのようにつかわれているのですか?」
「聖女の魔力をシャワーのように浴びせて反応を見る、と言っていたわ。魔力交換で反応を調べる聖女もいたって言ってたけれど。でも、その反応がよく分からないのよ。」
「うそをついたり、どうようしたときにへんかするばしょがわからないとダメってことだよね。」
「ヴィオラの理屈だと、そういうことになるわね。」
「まあ、いろいろやってみてさぐっていこう。まずはしつもんをどうするか……。」
「それは、我々同士の質問でも構わないのですか?」
「だいじょうぶよ。とりあえず、シャワーほうしきはむずかしそうだから、まりょくこうかんほうしきでやってみましょうか。」
お読みいただきありがとうございました!
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