73 乙女の秘密
お久しぶりのお父様です。
「鳳凰鳥が産まれたとは本当か!?」
お父様がやって来た。お久しぶりだな。かなりお疲れな顔してる。私のせいで増えてる仕事もあるので、本当に申し訳ない。
「ええ!今のところ二羽よ。今、アルテがまた魔力を注いでるわ。」
「アルテ……ああ、あの猫か。」
「あのう……。」
「どうしたの?スカーレット。」
「しょだいせいじょさまがたまごからかえしたというのなら、わたくしたちでまりょくをそそげばはやくかえるのでは?」
「そういえばそうね。」
「普通に聖女の力でいいのかしら。」
「せいじょのちからのじてんでふつうじゃないでしょ。」
「そうじゃなくて、治癒や祝福みたいに、細胞に働きかけなきゃいけないのかってことよ。」
「ためしてみよっか。」
私はアルテの前にしゃがんで声をかけた。ここまで頑張ってくれたのはアルテだもん。成果の横取りじゃなくて、アルテのお手伝いがしたい。
「アルテー。わたしもたまごにまりょくをあげたいの。いい?」
「ひゃん。」
卵に聖女の力を注ぐ。うーん、吸収はしてくれるけど、変化してるようには思えないな。
次は祝福をかけてみよう。ちょっとグロいけど、卵の中を光で透けさせた状態を思い出す。そして、既に産まれた雛の姿を目に焼き付けて、そっと目を閉じて卵に手をかざす。
兄弟みたいに、元気に産まれておいで。先に産まれたあなたの兄弟はもう私の弟と楽しそうに遊んでるよ。こっちにおいで。一緒に遊ぼう。
語りかけるように全体に聖女の力を注ぐ。おお、細胞分裂が進んでる感じがする!アルテすごいなぁ。猫なのに聖女の御技が使えるんだ。
御技って、すごく本能的なものなのかもな。人間は頭でっかちになっちゃって、上手く扱えないだけなのかもしれない。
「どう?」
「やっぱりしゅくふくだった。いま、さいぼうぶんれつがすすんでる。……っぷはぁ!これ、しんけいつかうなぁ!」
「交代するわ。」
「よろしく〜。」
アーテルは私より持ったけど、やっぱり集中が続かなくなってギブアップした。
「こんどはわたくしが。」
「スカーレット、お願い。」
スカーレットも必死に力を注ぐけれど、すぐに限界が来る。
「っはぁ!はぁ、これキツイ!」
「かわるわ!」
「オリヴィアごめん!」
私たちは代わる代わる聖女の力を注いだけれど、なかなか卵は孵らない。大人たちは、私たちの集中が途切れないように息を殺して見守っていた。
「っはぁッ!はッ!ひぇ〜、きっつい!」
「大丈夫?今、結構魔力使ったでしょ。」
「ねえ、コレもう、きょう、おわりにしない?じんこうふかなら、おなじひにかえらないのもあたりまえだし!はぁ〜、つかれたぁぁぁーーーッッッ!!!」
デーンと大の字になりたいとこだけど、人目があるのでさすがに出来ない。でも、猫を被ってる余裕がないほどの疲労感だよ!訓練よりキツい!
「そうよね。アルテが温めてくれてる状態なら大丈夫だと思うし。」
「いかがですか、へいか。」
あっ、そうか。お父様いたんだった。お父様は目を瞠って私たちを見つめている。そういや、お父様の前で御技使うの初めてだったな。
「あ、ああ、そうだな。皆、ご苦労だった。既に二羽も孵っているんだ。焦らなくてよい。」
「失礼致します!」
「ダスティン。」
ありゃ、ダスティンまで来たよ。当たり前か、宰相だもん。あ、続けて他のセプテントリオの皆さんもやって来た。緊急招集するくらいの事態なんだな、鳳凰鳥って。
「鳳凰鳥は!?」
「そこに。」
「おお、アーサー殿下についておられる!」
「鳳凰鳥がアーサー殿下をお選びになったというのか!?」
お選びになったって何?王権神授説みたいなやつ?
「あ、いえ、それはとりのしゅうせいで、うまれてはじめてみたものをおやとおもうのです。そちらの2わはたまごからかえってすぐにアーサーをみたので、おやとかんちがいしてついてまわっているのです。」
「さ、左様で御座いますか……。」
いや、鳥の習性くらい知っててよ。そういうことは教えないのか、この国。
「しかし、本当に鳳凰鳥が存在していたとは。」
「これは吉兆です!すぐにでも国民に周知しなければ!」
「いや、まだ卵が二つ孵っていない。この卵は死んでないんだな?」
「アルテがせわをしているかぎりはだいじょうぶかと。」
「ならば、残りが孵るまで公表は待とう。鳥に娘が言うような習性があるのならば、一羽は私のことを親と思い込ませる。」
「それが宜しいかと。陛下の御威光も高まりましょう。」
「すまないが、残りの二羽が孵化するまではこちらに集中してくれ。」
「みわざのくんれんはどうなるのですか!?」
「鳳凰鳥の誕生は国家の一大事だ。申し訳ないが、訓練は一時中止して欲しい。」
「そんな!わたくしたちにはじかんがございませんのに!」
スカーレット、よくお父様に食いつくなぁ。すご。子どもだから不敬にはならないと思うけどさ。
「すまない。呑み込んでくれ。」
「いえ、その必要はございません。」
「おかあさま!?」
「シンシア!何を言い出すんだ!」
「鳳凰鳥は、わたくしが孵します。」
「全員でかかった方が早いだろう!」
「いえ。陛下の鳥は、王妃であるわたくしが孵すべきです。わたくしの力で孵した鳥が陛下を選ぶことに意義があるのです。」
「それはいい!それが叶えばより一層、王家への尊敬が集まることでしょう!」
「おかあさま、おひとりでだいじょうぶですか?」
「大丈夫よ。その代わり、細胞分裂?について詳しく教えてくれないかしら。その方がきっと孵るのも早いと思うの。」
「それはかまいませんが……。」
「心配しないで!ちゃんとアルテにも手伝ってもらうから。ああ、教えてもらう、かしら?」
「なら、わたくしたちはアルテが食べられるだけ聖女の力を食べてもらいましょう。その方が王妃殿下の負担が少なくて済むわ。」
「そうね。えーっと、スカーレット。おかあさまへのしどうをおねがいしていい?」
「もちろん。つくえをおかりしても?」
「どうぞ。すきにつかってちょうだい。」
「おうひでんか、ずにかいてせつめいしますので、あちらでおこないましょう。」
「ええ、よろしくね。」
「シンシア!」
「わたくしは、わたくしが出来ることをするだけよ、ジョージ。殻に変化が出たら声をかけるわ。そうしたら来てちょうだい。」
「……分かった。無理はするな。」
「ありがとう。」
「とりさん!とりさん!あっ、アーサーのつみき!のっちゃダメ!」
「アーサー殿下。とりさんとお友だちになったのですか?」
あれはアリオト侯爵だ。アーサーの視線に合わせて、優しく話しかけてくれた。
「ううん!アーサーね、ちちうえだよ!」
「お父様?」
「アルテがははうえ!」
「なるほど。かわいらしいお父様とお母様だ。とりさんのお父様。赤ちゃんとりさんに触っても宜しいですか?」
「いいよ!はい!」
アーサーは積み木に乗ってしまった鳳凰鳥を両手で掬うようにして、アリオト侯爵に渡した。
「有難う御座います。かわいらしい赤ちゃんですね。」
「アーサーのあかちゃんだもん!」
「確かに。鶏冠の金が殿下の髪とそっくりだ。」
「ほんとだー!」
ああ、かわいい。ほっこりする。
私、魔力試験まで勘違いしてたんだけど、今の侯爵ってみんなのおじいさん世代なんだよね。それなりに老けてるとはいえ皆様若々しいけど。
「ぴい!ぴい!」
「ああ、赤ちゃんはお父様の元に帰りたいのですね。お返ししますね、アーサー殿下。大切にお育てなさってくださいね。」
「あい!あっ、はい!」
おおー、知らぬ間に成長している!はぁ〜、アーサーの成長を側で見守っていくつもりだったのに、ほとんど書類や資料とにらめっこだよ。つら!
「ヴィオラ様。」
「あー、ダスティン?ついでだからコレ、わたしとくわね。おおくらきょうも、こっちもっていってくれる?」
「チャールズで結構ですよ、殿下。」
「そう?それならそちらもおすきなようによんでね。レナードもこうかんにっきもっていって!」
「お前たち。交換日記とは、何だ?」
え、交換日記は交換日記という名の連絡帳というか進捗報告書みたいなやつですけど……お父様、知らなかったの?また私やらかした?ダスティンとチャールズが溜息ついて頭を横に振っている。あれ?これ、お父様に内緒だったっけ?
「交換日記とは、こちらが質問を書くと殿下が答えを書いてくださる秘密の道具です。」
えっ、ちょっと、レナードってこんな冗談言う人なの?まあ、ウインクとかしちゃうカワイイ系くまさんだけどさ。
青ダヌキがお腹のポケットから出す道具みたいに言わないでよ。
「何故そんなものがある。ダスティン、この机はヴィオの勉強机ではなかったのか?」
こんな立派な勉強机があるか!引き出しから青ダヌキじゃなくて黄金に輝くタヌキが出て来そうだよ!
「こちらはヴィオラ様の執務机で御座います。」
「何故ヴィオに執務机が必要なのだ。」
「執務を行って頂いているからで御座います。」
「二歳の子どもに執務?馬鹿げたことを言うな。」
「ですが、殿下は慣例を破る条件として王族の義務を果たすと仰いました。仕事を与えるのは道理かと。」
「そんな訳があるか!まだ二歳だぞ!?それにお前、何故今まで黙っていた!」
「陛下がお怒りになると思いまして。」
「ああ、そうだな。今、正に怒っている。怒りで我を忘れそうだよ。」
「それはいけません。時間を差し上げますから、レナードと訓練をして発散されたらいかがでしょう。」
「誤魔化すな!いい加減にしろ!」
「あ、あの!おとうさま!おいかりにならないでください!わたくしがみずからくびをつっこんだのです!ダスティンをおこらないで!」
お父様はしゃがんで目線を合わせてくれたけど、ダスティンを睨みつける目が完全に据わっている。ガチギレだぁ〜!!
「ヴィオ、こんな奴、庇わなくていい。私はヴィオにそこまで求めていないよ。ただ、聖女の末裔としての義務を果たしてくれるだけで良かったんだ。ヴィオはダスティンにつけこまれたんだよ。」
「それでもかまわないとおもったからひきうけたのです。わたくしには、ダスティンにおんをうっておきたいりゆうがあるのです。」
「どうしてダスティン?お父様ではダメ?」
グゥッ!イケメンの上目遣い頭コテンはやめろ!アーサーに似てる分、殺傷能力が高過ぎる!
「じじょうがあるのです!おとめのヒミツをねほりはほりきこうとするのはマナーいはんですわよ!」
「ヴィオ、隠し事はナシだ。親子だろ?」
「あ〜、もうッ!これいじょうついきゅうしたらきらいになりますよッ!?」
「私はヴィオが好きだよ。」
うぐぅ!私は胸を抑えて顔を逸らした。あちらからアーテルの白い目線。すいませんねえ、耐性がないんでねえ!助けて〜と視線で訴えると、ハァ、と肩を落とされた。
「陛下、もうおやめください。」
「何だい、アーテル。親子の会話に水を挟まないでくれないか。それとも、事情を教えてくれるの?」
「わたくしもヴィオラも事情は話せません。これはわたくしたち四人に関係する事です。親子だからとて、ヴィオラはわたくしたちとの約束を違える事が出来ないのです。」
「そ、そうですわ!わたくしたちよにんと、おばあさまとのヒミツなのです!!」
「もくてきのためにひつようなことでも、わたくしたちがやくにたてないことを、ヴィオラはひとりでがんばってくれているのです!」
「へいかへのはいしんこういはございません!ただ、わたくしたちにはしられたくないヒミツがあるのです!」
「たとえごめいれいであっても、へいかにヒミツははなせません!ぜったいですわ!!」
スカーレットとオリヴィアにまで否を出されて、お父様は苦笑する。
「絆、だな。三人とも、ヴィオの良き友になってくれてありがとう。だが、これは異常な事だ。人に聞かれたくないのなら下がらせよう。教えてくれ。」
「むっ、むりです!できません!」
「ヴィオ、どうしても?」
「どうしてもです!」
「へいか!あんまりしつこいと、オースティンおじさまとおんなじですわよ!!」
スカーレットの渾身の一撃!効果はバツグンだ!!
お父様は身体をビクリと揺らして暫く固まっていたけれど、おもむろに立ち上がった。
「それはまずい。オースティン兄上と一緒はごめんだ。」
お父様もそういう認識なんですね。伯父様どんだけ!!
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