54 悪役令嬢の交換日記
毎回タイトルに悩みます。
「あ、そうだ。ちすいこうじのことなんだけど。」
「他にご存知のことが?」
「ああ、そういうわけじゃなくて、ボオーテスがわのげんりゅうはヒュドラルギュルムにあるときいたのよ。ダムのけんせつはむずかしいかしらとおもったの。」
「そうですな。同盟国なので、費用の一部負担を申し出れば耳を貸してもらえると思います。」
「でも、そのまえにこくないでやれることはやっておかないとね。しょうきぼのはんらんはよくあることなの?」
「ええ、毎年。ただ、その被害地域には畑も人家も建ててはならないことになっております。」
「だいきぼはんらんのきぼはまいかいおなじかしら?」
「そうですね。今年は特に広かったようですが、多少の差はあっても大体は。」
うーん。小規模氾濫は毎年、かぁ。その辺りが使用不可ってことは、遊水池と同じ役目をしてるのか。そこら辺の土地は利用出来そうだ。
「ちずってあるかしら?しゅうへんのことがわかれば、たいさくはたてられるかも。」
「地図ですね。少々お待ちください。」
ダスティンは書棚の下に収められていた丸めた紙を広げた。古臭い紙で質も悪い。等高線もなく、なんとなくの大雑把な地図だ。
「おおまかすぎるわね。」
「そうでしょうか。」
「これじゃどこがなんなのかぜんぜんわからないじゃない。さんかくそくりょうくらいはしてほしいわ。」
「精密過ぎると、敵国へ情報が流れた時が危ないですから。」
「そういうもの?」
「そういうものです。」
どこかで聞いたような話だけど、ないもんは仕方ない。川はちゃんと描かれている。ボオーテス川はこれか。ふむふむ。支流があるのね。それがぶつかる地点がアークトゥルス領内。
「ここのあたりはへいたんなとちなのかしら。」
「そうですね。小麦畑があるくらいですので。」
そりゃそうだ。愚問だった。小麦の被害がひどいって聞いてたのに。うーん、地図っていうか絵だからよく分かんないけど、かなり蛇行してる。こりゃ、相当な暴れ川じゃない?
南東の方は大きな川がないのかぁ。農業やるのには頼りないんじゃない?なら、ボオーテス川の水をこっちまで灌漑用水として引っ張って、こっちの小さな川を広げて、と。東京の荒川も隅田川の洪水対策で整備された人工の川だもんね。元々は荒川放水路って呼ばれてたんだよ。まあ、ちょっとやり方違うけど。
あとは下流の方にも用水路を作って、夏季に水が不足しそうなところまで水を引っ張る。
それで、本流も川の流れを真っ直ぐに変える工事をして、支流との合流地点で、ほぼ直角に支流と合流させれば、ここら辺に遊水池を設ければいいから、と。
ありゃ。前世の祖父が好きだった戦国武将の真似になっちゃうけど、異世界だからいいよね?
あー、腐れてた女子校の時の友達が一時期戦国武将にハマって、越後の龍と甲斐の虎でBのLがうんぬんかんぬん言ってたなぁ。元気にしてるかしら。会いたいよ。
それはともかく、甲斐の虎を真似したとしても、結構な大工事だよなぁ。うーん。予算、予算。
「あ、ぎえんきんってどうしたの?」
「徐々に集まっておりますよ。貴族からの寄付はある程度まとめて送られて来ています。平民からも商店のレジ横に箱を置いて、集めてもらっています。回収は騎士に巡回時に行っております。」
「ああ、アレ。よんでくれたのね。」
「勿論ですよ。」
ちょっと前に、やっぱりお絵描き用の画用紙に街中での義援金の集め方とか企業(というか貴族だけど)からの寄付の窓口とか色々書いてダスティンに渡したんだけど、読んでもらってたみたい。
ダスティンにお手紙を書いたから渡しておいてね、とデイジーに預けたんだけど、手元に渡るか不安だった。ちゃんと目を通してくれたんだね。
アンとかだと不審に思われるから、デイジーに頼まざるを得ないんだよ。ていうか、クレヨン書きにくいから自分用のペンとレターセットが欲しい。
「こむぎのゆにゅうはだいじょうぶそう?」
「各領からの備蓄の放出と、セレンからの輸入で目処がつきそうです。」
「セレンってどのへんにあるくになの?」
「オッキデンス領の更に西側ですね。瘴気の大規模発生が確認されたそうなので、小麦を安くする代わりに当面の瘴気除けのための聖石と聖女の派遣を頼まれております。」
「まさか……それもわたくしたちにやれなんていわないわよね?」
「おや、瘴気の浄化は聖女の末裔の義務では?」
「うぐぅ!せいじょがいこうにたよりきりだと、いつかいたいめみるわよ。」
「聖女外交ですか。言い得て妙ですな。南部での豊穣祈念ののち、転移陣で西部に渡っていただき、貴女とアーテル様で浄化を行っていただきます。」
「ふたりでいいの?」
「何かあった時に冷静に対処出来る方々にのみお願いしようかと。」
ふーん。前世の年齢からの判断ってこと?こちとら身体は二歳児なんですけど!?
「はあ……たいりょくもつかしら。」
「転移陣を利用しますので、強行軍にはならないかと。」
「おばあさまはどうこうされるの?」
「オッキデンス領で待機して頂く予定です。」
「セレンはどんなくにかしら?おいしいものとかある?」
「あちらは内陸ですが湖沼地帯が観光地として有名でして、小国ながら避暑地として栄えております。湖に映る月が美しいと、我が国からも新婚旅行で訪れる者が多いですな。ガラス製品が特産品として人気で、セレニアングラスは品質が高く、土産物に人気です。あとは、北の海から鮭が川を遡ってくるので、よく獲れます。訪れれば必ず皆一度は口にすると思いますよ。」
海のない北海道みたいね。サーモンかぁ、鮭そのものよりいくらが食べたい。お酒は……まだ当分飲めないからなぁ。ぐすん。
「観光に行かれるのではないのですよ。」
「ちょっとしたたのしみがあってもよいのではない?」
「楽しむ時間があれば良いのですが。」
「なにかあるの?」
「どの国にも、聖女の滞在期間を無理に引き伸ばそうとする者がおりますからね。接待の嵐でしょうな。」
「なるほど。ならば、なっとくのじんせんだわ。」
私とアーテルなら、下心満載の大人を躱す事が出来ると思ったわけね。社会人経験もなく、直情型のスカーレットと、案外乗せられやすいオリヴィアには難しいかもしれない。
「2さいのこどもにせったいね〜。ごくろうなことだわ。」
「一度、事前にあちらの大使と面会して頂きます。オッキデンスとの国境付近で落ち合い、セレン国内では共に行動することになるでしょうから。」
「ふうん。めんかいしてけんせいすればいいわけね?」
「そこまでは求めておりません。何もせずとも、貴女は貴女のままで充分ですよ。」
「とんでもないくどきもんくね!のせられないわよ?」
「承知の上です。申し訳ないとは思っております。ただ、恐らく、カスミ様を除けば、アーテル様が一番の浄化の使い手ですから。並の聖女の末裔では、大規模な瘴気には太刀打ち出来ないかと。」
「なんだ。わたくしはオマケなわけ。」
「そうなる事を祈っておりますよ。くれぐれも、セレンでは迂闊な発言はお控えください。」
「わかっているわ。」
信用出来ないって顔された。納得いかん。
「貴女はご自分の価値をお分かりになっておられない。聖女の末裔でなくても、貴女の頭脳はどこでも欲しがるでしょうから。」
「わたくしなんて、ひとよりちょっときおくりょくがよくて、ひとよりちょっとりかいりょくがあるだけの、ただのようじよ。」
「ならば、セレンではそのように振る舞って下さい。隙は見せぬように。」
「ハイハイ、かしこまりました!」
本当に大丈夫かよ、って顔してるけど、絶対大丈夫だから!アーサーがいる限り、私はこの国に意地でも帰ってくるからね!!
「そろそろもどらなきゃ。このちずもらえる?」
「新しいものを用意して後程届けさせます。」
「あ、あと、わたくしようのペンとレターセットよういして!あと、かくためのつくえといす!クレヨンだともうかきにくいったらないわ!」
「レターセットでよろしいのですか?書斎をご用意しようかと考えておりましたが。」
「こどもべやでじゅうぶんよ。レターセットはダメなの?」
「手紙の形式よりバインダーがありますので、それでお渡し頂けた方が有難いのですが。お会いする時間が取れなくても、手紙をバインダーに挟みこんでやりとりすれば、話の前後が分かりやすいのではないかと。」
「このとしで。おじさんと。こうかんにっきをしろと。」
「おじさん、とは私の事で?」
「しつげんでした。ききながしてくださいな。」
うおっと。思わず口に出ちゃったよ。両手で口を押さえて、これ以上やらかさないようにする。はあ、と溜息をつかれた。大変失礼致しました。
「心配なのはそういうところです。書斎はいずれご用意しましょう。頼まれた物はすぐに用意させます。」
「あ、じょうぎもよろしくね。」
はー、疲れた!今日の仕事はこれでおしまい!
北棟への帰り道、デイジーは私を抱っこしながら仕切りに感心していた。
「ヴィオラ様は本当にすごいですね。色んな事をご存知で、発想力もありますし、尊敬します。」
「まだだっこしてもらわないときゅうていのなかもまんぞくにいどうできないこどもよ。おおげさだわ。」
「でも、宰相様もヴィオラ様の事を頼りになさってます。」
「めいわくなはなしだけどね。いままでこうひょうされなかったいかいのちしきだから、くいついてきてるだけだわ。」
「ヴィオラ様はわたくしたちがカスミ様のお部屋に入れない時にあのような話を伺っているのですか?」
「まあ、そんなかんじよ。」
本当は自分の知識なんだけど。うーん、デイジーには前世の話しちゃう?口は固いのは分かってるし、こっちもその方が都合がいい。でも、専属になってもらえなかったら教えても意味ないしなぁ。
「ねえ、デイジー。せんぞくのはなし、もしきょかがおりたらうけてもらえるかしら?」
「本当に宜しいのですか?わたくしはまだ侍女としては未熟で、先輩方に怒られたばかりです。」
「わたくしがデイジーがいいのよ。アーサーがモリーをどくせんしているように、わたくしがデイジーをどくせんしたいの。ダメ?」
「ふふ、とても光栄です。お話を正式に頂けたら、ヴィオラ様の専属侍女にしてくださいませ。」
「たのしみだわ。わたくしも、あなたのよいあるじになれるようにがんばるわね。」
「ヴィオラ様はヴィオラ様のままで充分ですよ?」
デイジーはダスティンと違って心から言ってくれてるのが分かるわぁ。素直で、正直で、口が固い。良い侍女の条件は揃ってる。ウッカリさんなところがあるけど、それはそれで可愛らしい。
うん。やっぱりデイジーが欲しい!託児所が上手くいって、私の専属になってくれますように!!
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