52 わんころ伯父様
オリヴィアのパパ登場。
「おとうさま!?」
お父様によく似た人がオリヴィアの元へ一目散に駆け寄り、サッと抱き上げる。
この人が伯父様かぁ。見た目といい、言動といい、お父様にそっくり。
アーテルはいつも通り呆れ顔をしている。親戚とはいえ、初対面の人に失礼じゃない?
「ねえ、早くない?あの荷物、どうしたのかしら。」
「そんなもの、人海戦術で直ぐにどかしたよ!」
「きかれてるよ。」
珍しくアーテルの失言だ。ここぞとばかりにツッコミを入れた。
「やあ、二人とも!初めまして!僕はオリヴィアの父でみんなの伯父さんのオースティンだよ!オージー伯父さんと呼んでくれたまえ!」
アーテルと二人、勢いに圧倒されて、無言でゆっくりと頷いた。
テンション高ぁ〜。香澄様を横目で見ると、こめかみの痙攣どころの話じゃなかった。般若だ!般若がおるよ!
「やや!母上!お久しぶりでございますね!お変わりないようで何よりです!」
「貴方も相変わらずね。」
全くいい意味に聞こえない。そろそろ雷落ちるんじゃない?香澄様の息子ってみんなこんな感じなのかな?
「ははは!この通りですよ!元気です!スカーレットも、ちょっと見ない間に大きくなったなぁ。」
「すこしまえにおあいしたではありませんか。かわってないですよ。」
「そうだっけ?いやあ、驚いたよ!みんな、母上の魔力訓練を受けたんだって?この短期間で合格するなんて、すごいじゃないか!」
「あ、ありがとうぞんじます。」
「ヴァイオレットは父上の髪の色を受け継いだんだな!懐かしい色だ。アーテルは顔立ちが姉上にそっくりだね!性格まで似ないように気を付けなければならないよ!」
オリエンス公に対してそんな認識なのか。まあ、姉がいる弟なんてそんなものなのかもしれない。私は違うけどね!
スコーン!とオージー伯父様(言いにくいな)の額に扇が命中した。香澄様がご愛用の扇だ。ついに物理……!!
「母上!何をなさるのです!?」
「貴方はいつまで経っても落ち着きのない!それにヴィオラは王女ですよ!許可を貰うまでは殿下とお呼びなさい!」
「姪っ子ですよ!?」
「あ、だいじょうぶです。おすきにおよびくださいませ。」
「ほらぁ!!母上は堅苦しいんですよ!」
香澄様はアーテルが拾った扇を受け取って、ギリギリとへし曲げている。火に油を注ぐところはお父様よりも酷いかもしれない。
「わっ、わっ、分かりました!分かりましたから、母上!」
「貴方、何故ここに来たの?そんなに暇なら南部に行って復興のお手伝いでもした方が良いのではなくて?」
「オッキデンスからも支援部隊を送りました!僕が行かなくても……。」
「だまらっしゃい!貴方は本っ当に昔から、」
「あの!とりあえず、いどうしませんか!?すぐにてんいじんへまりょくをいれますから、おまちくださいませ!それまではおふたりともおさえて!ステイ!ステイですよ!」
アーテルの、犬じゃないんだから、というツッコミは無視することにした。いや、施設管理室のみなさんがドン引きしてるからね!?親子喧嘩はやめて!!
私たちは円周に等間隔に並び、転移陣に魔力を補充を始めた。アイザックさんが止めてくれるから、それまで一気に流し込んでいいらしい。
「もう結構ですよ。」
「これでどれくらい入っているのですか?」
「9900ですね。」
「転移者は100の魔力を足せばいいのですか?」
「そういう事になります。」
へぇー、そうなんだ。補充した魔力では床自体は光っても、光の柱は立たなかった。起動すると光の柱が立つみたい。
「皆様、ご協力有難う御座います。明日からも宜しくお願いします。」
「おまかせください。」
あー、なんか疲れた。魔力たくさん使ったからかな?いや、精神的な疲労だな、これは。
これから香澄様の部屋へ移動して、昼食がてら明日からの予定の説明を受ける。オージー伯父様も一緒に来ることになった。
「ところで、オースティン。貴方、明日からどうするの?子どもたちは午前中と午後も二時までは訓練なのよ。」
「えっ、あすからはごごもくんれんをおこなうのですか?」
「そうよ。一ヶ月しかないのだもの。」
「か、かしこまりました。」
うわーん!香澄様の鬼ぃ!アーサー!アーサーが足りない!アーサーと過ごす時間が減り過ぎて、癒しが足りないぃぃ!
私はカスミ様が王都にいる間はずっと訓練出来るんだから、別に巻いてやらなくても良くない?あ、ダメですか。そうですか。
「しかし、母上。あの訓練を二歳の子にやるとは、いくらなんでも無謀だったのではありませんか?」
「あら、そんなことないわよ。御技を使おうと言うのだもの。出来て当然よ。」
「あすからはどのようなことをおしえてくださるのですか?」
「まずは豊穣祈念、祝福を学びましょう。治癒はヴィオラとスカーレットが魔力球に合格してからね。」
「しゅくふくとは、だいちやしょくぶつだけにおこなうのですか?」
「そんな事ないわ。人にも行えるのよ。まあ、自然治癒力や免疫力を上げるくらいかしら。結局、御技で治せるものだからあまりやらないわね。」
祝福は身体や植物の持つ力の向上ってことなのか。土壌改良まで含まれてるけど。
「種は用意しておくから、魔力を注いで花を育てましょう。一ヶ月以内に咲けば合格よ。」
土壌改良して、種を発芽させて成長を促すんだって。水やりも自分でしましょうね、と言われた。私、前世じゃサボテンもまともに育てられない女だったのに、大丈夫なんだろうか。
香澄様はやろうと思えば種から大樹にすることも可能らしい。聖女がいれば食糧難とかなさそう。って、聖女に頼りきりはダメだよね。
「まりょくくんれんでおこなったことはもうやらないのですか?」
「魔力球の続きと、魔力の吸収はやるわ。それと、明日からはわたくしと魔力循環を行います。」
「あの、おもったのですが、ふつうのまりょくとみわざでつかうまりょくはおなじものですか?」
スカーレットもそう思ったのか。私もそう思ってた。聖女の御技は治癒しか見てないけど、患部をスキャニングするときの魔力は普通の魔力なのに、治癒に使う魔力は異質に感じたんだよね。魔力が細かいからかなって思ったんだけど、やっぱり違うものなのかな?
「そうね。魔力を意志の力で変質させる、と言うのが近いかしら。感覚でしかないのだけど。」
「なぜとのがたにはつかえないのでしょう。」
「理由は分からないのよ。使えたら良いのにね。」
ふふ、と香澄様は笑った。聖女の末裔の誰でもが使えたなら、それこそ聖女外交なんてせずとも血を広げて行けばいいのに。
「あの、わたくし、みたことがないのですが、しょうきとはどのようなものなのですか?」
「瘴気はね、元は魔力なんだ。魔力が変質して瘴気になる。そこまでは分かっているけれど、何故瘴気になるのか、発生条件が分かっていないんだ。一度瘴気に変わってしまうと、聖女の浄化でしか元の魔力に戻らないんだよ。」
ゲームでも、自然発生的に起こる現象だった。黒いモヤで、人や動物に取り憑いたりもする。魔力が瘴気に変質すると言うのなら、取り憑くって言うのはなんか違う気もするけど。
「へんしつというてんでは、しょうきもせいじょのまりょくもかわりないのですね。」
「そうね。」
「しょうきも、ぶっしつにかんしょうするちからがあるということですね。」
「瘴気に触れると、そこから瘴気に侵されますからね。」
「そんなにしょうきへのへんしつはたはつするものなのですか?」
「そう滅多なことではないんだよ。でなければ、初代の聖女が現れる前に世界が滅びてるよ。」
「では、なぜせいじょがひつようなのですか?」
「滅多なことではなくても、この世界はジワジワと瘴気に覆われて行っているんだ。人が住めるのは、今ある国の土地くらいのものだよ。」
世界地図を見たことがないから知らないけど、私が知ってるだけで十の国がある。長い歴史の中で、瘴気によって失われた国もたくさんあるんだろう。
「今は母上もいるから世界は安定しているよ。聖石に聖女の魔力を込めれば、瘴気を浄化できる。それを周辺国に配って結界を作っているんだ。大規模な瘴気が発生した時は、現地へ行って浄化を行うことになる。君たちもいずれ、そういう仕事をするだろうね。」
伝染病みたいなもの?生き物の身体だけじゃなく、植物や大地、空気中にも発生するのなら、放射線とか?それだと原子核に作用しなくちゃならない。瘴気が元々魔力なら、魔力原子に何かが起きて、不安定になったとか?瘴気は魔力の同位体ってこと?浄化は原子核に干渉する?
え、でも、それなら治癒の方が簡単じゃない?人体の構造が分からないのが問題なのかなぁ。骨が何で出来てるかとか、臓器の役割とか、筋肉がどうついてるかとか、血液の成分とか?
「また何か考え事?」
「あ、うん。」
「またトリップしてるわね。」
「トリップ?あ、りょこう!わたくしたち、いっかげつごはなんぶにいくのですよね?」
「ダスティンが言うにはその予定ね。」
「なんぶはどのようなところなのですか?」
「南東部は海に面していて、南から南西部は同盟国のヒュドラルギュルムと小国のビスマス、あと少し、ティターンに接しているね。中部ではお茶が有名なんだよ。そろそろ新茶の季節だから、楽しみだな。」
「こんかいのひさいちはどのあたりなのでしょうか?」
「国内では中流域のアークトゥルス領の被害が甚大だそうだ。川の水源はヒュドラルギュルムだから、あちらもなかなか大変らしいね。」
ヒュドラルギュルムから流れる川なら、ダムを作るのはヒュドラルギュルムの山になる。他国だとダム計画は難しいかも。
「ボオーテス川はよく氾濫するから、なんとかしたいんだけどね。ダム、だっけ?聞いたよ。ヴァイオレットが提案してくれたんだって?」
「ですが、じょうりゅうにつくらねばなりませんので、たこくですとむずかしいかもしれません。」
「そこは交渉次第だね。こちらでも工費の負担はしなければならないだろうが、あちらでも水害対策はしたいだろう。話に食いついてくる可能性はあるよ。」
「そうだとよいのですが。」
むーん。後でダスティンにも相談してみよう。ダスティンと面会出来るのは夕方と言われたから、話すこと整理しとかなくちゃ。
「さ、昼食も済んだし、我が弟の顔でも見てくるかな。」
「今、政務が滞っているの。遊びに誘うなんてことしないでね。」
「さすがに心得ております。」
仲良いんだなぁ。兄弟の話なんて聞いたことなかったから全然知らなかった。私も大人になっても、アーサーと仲のいい姉弟でいたいなぁ。
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