48 魔力操作試験①
運命の?試験が始まりました。
「はぁぁぁぁ、つかれた!」
ボスン、と枕にダイブする。デイジーが苦笑して、わたくし以外の前ではおやめくださいね、と言った。そうします。いつも目溢ししてくれてありがとね。
「この数日、本当によく頑張られましたね。」
「ええ、とってもがんばったわ。こんなにがんばったのひさびさだわ!」
「久々、ですか?」
「あ、ああ、ほら、えほんをよんでもらって、もじをおぼえたでしょ?あのときも、とってもがんばったのよ!」
おおっといかんいかん。つい前世のことを考えてしまった。誤魔化せたかな?
「ヴィオラ様は何をされても、覚えが早くていらっしゃるから羨ましいです。わたくしなんて侍女としてもまだまだですのに。」
「あら、わたくしはいまのデイジーでまんぞくしていてよ?」
「過分なお言葉、痛み入ります。」
何故か騎士の真似事をして、笑わせてくれた。年相応の柔軟さがある。デイジーはとっても愛嬌のある、かわいい侍女なのだ。
「でも、専属侍女が決まったら、こうして自由にしていただくことも出来なくなりますね。」
「そうねぇ。」
ベッドに大の字で寝て、天蓋を見上げた。専属侍女は効率がいいけれど、今以上に堅苦しくなることは想像出来る。
「あーあ、デイジーのことをひきぬけたらいいのに!」
まあ、と目を丸くしたけど、嬉しそうだ。
「シンシア様の侍女が足りなくなってしまいますから、難しいと思いますよ。わたくしも、ヴィオラ様とご一緒したいのは山々ですが。」
「それなのよね〜。」
あーあ、とか、語尾を伸ばしたりとか、デイジー以外の侍女には咎められてしまうけれど、デイジーは、外ではしっかりやってるから自分といる時くらいは、と言ってくれる。
お母様付き侍女問題……やっぱり託児所開いちゃう?王都内に住んでる元侍女はたくさんいる。政略結婚に見せかけた職場結婚は多いからね。
家同士の不都合がなければ、領地持ちの家督を継ぐ者以外、王宮内で相手を見つけたりするというし。セプテントリオくらいになるとそうはいかないんだけど。逆に言えば、家督を継がないから子どもを預ける先がなくて、職を辞さねばならなくなるってことだ。ドロシーとアンの違いはそこだもの。
アンの結婚や出産に合わせて長期計画で行くつもりだったけど、早めて何とか出来ないかな?ダスティンに相談する?
5歳から基礎教育が始まるなら、託児所内でそれを行うのを餌に人員の再登用を進める。宿直勤務は難しくても、正規雇用の侍女が休みは取りやすくなるよね。とりあえず、お母様の侍女だけでも人数が増やせればいいんだから、小規模で始めて、徐々に制度を整えていけばいいんじゃない?
「また難しいことをお考えですか?」
「ん?うーん、さいきょういくのひつようのない、ゆうのうなじんざいをあつめるにはどうしたらいいかなって。おもいついたことがあるから、あした、しけんがおわったらダスティンにそうだんしてみるわ。」
「ふふ、ヴィオラ様は思いついたら直ぐに実行なさって、そういうときはとても生き生きとしていらっしゃいます。行動力がおありになってすごいですわ。」
「そう?ちょとつもうしんなだけかも。」
「それもヴィオラ様のいいところですよ。さ、もうお眠りになってくださいませ。」
「ありがとう、デイジー。だいすきよ。おやすみ。」
「わたくしもです、ヴィオラ様。おやすみなさいませ。良い夢を。」
布団をかぶれば、ふんわりと良い香りがする。いい匂い。森林浴をしているような、深い眠りを誘う香りだ。よく眠れるよう、洗濯場の人がリネンにアロマの香りをつけてくれたのだろう。疲れた身体がほぐされていくようだ。顔も知らない下女だけど、その人の優しさに感謝の祈りを捧げてから眠りに落ちた。
あっという間に朝になった。夢も見なかったよ。
今日のテストに同席するのは、お父様とお母様、オリヴィアのお母様であるオッキデンス公、ダスティン、執務室にいたお父様の部下の人たち、と顔の分かる人以外にも、何人か来るらしい。南部の災害の対応があるのに、そんなに人が集まってていいのだろうか。
移動はお母様と一緒に。アーサーはもちろんお留守番。ごめんねぇ。モリーと遊んでて!
試験は南棟にある、大きな会議室でやることになったらしい。急な変更だそうだ。そんなところで火を起こして大丈夫かな?念の為、桶に水を用意してもらうようにお願いしたけどさ。
私たちが会議室に着くと、もう既にみんな揃っていた。お待たせして申し訳ない。コの字型に長机が配置され、知らないおじさん?おじいさん?が五人。
あれ?レナードもいるよ?でも、騎士団長の格好じゃない。私服、というには色々付いてるけど、お休みなのに来てくれたのかな。
近衛兵は近衛兵でいるんだけどね。昨日会ったギルバートさんもいるよ!近衛兵がぐるりと部屋を取り囲んでて、なんだか大事になってるなぁ。面倒事の予感しかない。
「集まったな。ではこれより、魔力試験を行う。まず本日の試験官を紹介しよう。見知った顔もいるだろうけどね。」
見学者じゃなくて試験官かい!お父様とオッキデンス公がウンと言えばそれでいいんじゃないの!?
話がちがーう!!とガルガルしながらお父様を睨みつけていると、かち合った視線をサッと逸らされた。気まずくなるくらいなら事前に説明してよ!
お父様はしれっと進行して、試験官の紹介を始めた。名前を呼ばれるとひとりひとり礼をしてくれる。
「ドゥーベ侯爵ダスティン・ルーフス。宰相。」
「メラク侯爵アーネスト・フラーウム。神殿長。」
「フェクダ侯爵チャールズ・アウランティウム。大蔵卿。」
「メグレズ侯爵ジュード・カエルラ。外務卿。」
「アリオト侯爵エヴァン・ウィリディス。神祇官。」
「ミザール侯爵グレゴリー・ロセウス。兵部卿。」
「アルカイド侯爵レナード・アルゲントゥム。騎士団長。」
おお!セプテントリオの長が揃い踏みかぁ!私たちの祖父世代の人たちだね。
ん?神殿長と神祇官、兵部卿と騎士団長って何の違いがあるの?メラク侯爵家は聖女に関する事柄を取り仕切ってるって聞いたから、役割分担があるんだろうけど。
兵部卿と騎士団長は防衛大臣と統合幕僚長みたいなものかなぁ。戦争の時は各地の領軍と連携取るだろうし、取り纏めたり、責任取ったりする人は必要だもんね。
「そして、私とオッキデンス公ポーラが試験官だ。では、まず魔力測定から始める。名を呼ばれた者から前へ。」
メルヴィンさんが私たちの前に魔力測定器を運んできた。
「オリヴィア、前へ。」
まずはオリヴィアの測定。昨日は最後に魔力を測らなかったんだよね。香澄様は、明日のお楽しみよ!とか言ってたけど。
「6300です。」
おお、という声がセプテントリオのみなさまから聞こえる。事前の測定結果は周知されてるだろうから、短期間で100上げたことへの驚嘆の声だろう。
ひとりでもカスミ様の提示した〝魔力を五日後までに100上げる〟を達成したことに安堵したよ。そもそも、この試験の合格基準を聞いてないんですけど!?
「次、スカーレット、前へ。」
スカーレットの番だ。この訓練のきっかけはスカーレットの申し出だった。どうかどうか、魔力量が増えてますように!目標を達成してますように!家庭教師のアルバイトしてた時の生徒の合格発表くらい緊張する〜!!
「……6000です。」
メルヴィンは息を呑んだあと、絞り出すように数値を公表した。
すごい!すごい!200も上がってるよ!自主訓練まで香澄様にお願いして、頑張った甲斐があったね!お母様が領地に帰られて不安もあっただろうに、一生懸命取り組んだもんね!
スカーレットが嬉しそうに振り向いた。目尻には涙が浮かんでいる。うんうん、偉かったよ!よくやったね!私も目頭が熱くなる。思わず拍手しちゃったら、メチャメチャ注目を浴びた。あぐぅ、空気読めなくてスミマセン……。
「んっ、んん!では、最後、ヴァイオレット。前へ。」
滅多にお父様にヴァイオレットと呼ばれないので緊張する。測定器の前へ来ると、メルヴィンさんが優しく微笑んでくれた。
「リラックスしてくださいね。」
「はい……。」
そっと魔法陣に手を添える。目をつぶって、いち、に、さん、し、ご。怖くて目が開けられない。一昨日は少し上がっていたのを見たから、変化なしってことはないはずなんだけど。メルヴィンさんの声がしないのが不安を煽られる。
「5700です。」
ようやくメルヴィンさんの声がした。5700?聞き間違いかな?5300とか5400とかじゃなくて?
「なんということだ!」
「この数日で400も魔力量を上げたということか?」
「どうすればそんなことが可能になるのだ!?」
目を開くと、数値は確かに5700を示していた。うえ!?マジか!!自分でもビックリだよ!!
魔力の粒子が整った自覚はあるよ。それで、魔力の隙間が出来たとか?器が増えるんじゃなくて、より細かく魔力を操作する方法を獲得していって、魔力の分子が細かく分かれて、隙間が出来るから増えるんじゃない?私とスカーレットの伸び幅が大きいのはそのせいじゃないかな?
産まれた時点の魔力量に関しては遺伝的要素が強いのだろうけど、身体的な成長が止まると魔力量が増えにくくなるのは、その年代になれば自分が扱いやすい魔力分子が出来てて、隙間がなくなるからじゃない?
遺伝で決まるのは魔力量じゃなくて、魔力飽和量かもしれないな。魔力量の上限という意味では同じだけど、身体的な変化が見られない五日程度で魔力だけが増えるってちょっとおかしいもん。増えた魔力がどっから来たのかは分かんないけど。
魔力を元素のひとつと考えると、魔力原子は単原子分子だ。実際に魔力吸収で空気中の単原子分子を体感した。単原子分子の状態でも安定してるのに、人の意思で結合することも分離することも出来る。なんつートンデモ元素だよ。体内で切り離した分子は、保有者が結合を促さなければその状態を保つことは訓練を通してよく分かった。よく分かったけど、意味は分からない。でも、そういうものと思うしかない。
だけど、この仮説が正しければ、成人でも魔力の分子結合が多い人ほど魔力量が上がるんじゃない?大人は魔力量を測る機会がないみたいだし、騎士団での実地訓練が進んだら、魔力量を測り直してもらった方がいいかも。それで検証してみよう。
「殿下。あの、殿下。お戻りいただいても?」
「あ、しつれいいたしました。」
うぐぅ、みんなの視線が痛い。身内は残念な子を見るような目で私を見ている。前世っから考え事し出すと集中して外界シャットアウトしちゃうんだよなぁ。気をつけないと。
評価、ブクマ、感想、お待ちしています!
励みになりますので、よろしくお願いします。




