43 秘密の話はあのねのね②
秘密会議続行中。
「殿下は、陛下と妃殿下を、親としては見られませんか?」
「んー、かぞくとしてのじょうはある、かな?いっしょにくらしてるわけだし。もしわたくしのなかみのことをしって、きょひされたら、ぜったいかなしいとおもう。でも、どうしても、おやっていうとぜんせのりょうしんなの。アーサーも、かわいいし、あいしてるけど、おとうとっていうよりは……じぶんのこ?いや、こどもうんだことないから、しんせきのこ?みたいな?」
「左様で御座いますか……。」
ダスティンは悩ましげに額に手をやって俯いた。ああ、お父様のことを思ってるんだな。確かに、あんなに愛してくれてるのに、その愛情を素直に受けてあげられない心苦しさはあるんだよね。
「もしかして、おとうさま、きのうのアレでわたくしのことうたがってる?」
「いえ、そんなことは。ですが、妃殿下が……。」
「おかあさまが?」
「ここ数日のヴィオラ殿下の訓練に向き合うご様子が、まるで学び方を知っている大人のようだ、と。以前にも、殿下には親として相応しいか観察されているような気がする、じっと見つめられると試されている心地になる、と仰っていたことが御座いまして。」
私が観察してたのはアーサーに嫌がらせをしてた侍女だけだよ!
「ええっ!そんなふうにおもわれてたの!?きもちわるいっておもってるのかなぁ!?」
「そうではありません!ただ、アーサー殿下が、」
「わたくし、アーサーとはふたごじゃないこと、しってるわよ。」
思わず被せて言ってしまった。ていうか、ここにいる人全員(侍女は知らんけど)知ってるから、言ってもいいよね?
あれ、ダスティンの顔から表情が抜け落ちた。怖い怖い怖い怖い!!そんな顔で二歳を睨んだら、泣かれちゃうゾ☆
「いつ、何処で、どのようにお知りなったのですか?誰かから聞いたのですか。」
「いつどこでどのようにって、うまれたしゅんかんにいなかったもの。アーサーはせいごいっかげつくらいしてやってきたんだから、ふたごなわけないじゃない。」
「産まれた瞬間からご記憶があると。」
「そうよ。おとうさまがどこのだれにうませたこどもかとかはしらないけどね。」
そう言うとダスティンは胸を撫で下ろした。そこは極秘事項なわけね。
「べつにいいふらしたりしないからあんしんして。」
「お願い致します。」
「わたくしたちがいぼきょうだいだとしってるものは?」
「執務室にいた者と、妃殿下、王宮侍女長、当時の妃殿下の侍女、そして陛下の母であるカスミ様です。三公の皆さまにはお知らせしておりません。同じ時期にご出産でいらしたので。」
「なるほどね。アーサーのほんとうのははおやのことをどこまでのひとがしってるの?」
「私と、妃殿下と、王宮侍女長と、私の息子です。」
「じゃあ、おばあさまも、しつむしつにいたほかのひとたちもしらないの?」
ダスティンはゆっくりと頷いた。香澄様は頭を抱えている。これは本気でトップシークレットだった。
「妃殿下が仰っていました。ヴァイオレット殿下がアーサー殿下を本当に大切にするので、ご自分の侍女たちのアーサー殿下への対応がよくなって感謝している、と。」
「おぼえてるわよ。アーサーはとくによくなくこだったし、じじょがいやいやおせわしてるのだもの。アーサーにいやなことをするとわたくしがなく、おこる、というふうにすれば、じじょたちもアーサーへのせっしかたをかえざるをえないでしょ。」
「赤子の時に、既にそこまでお考えだったのですね……。」
「だって、いきなりははおやからひきはがされて、さみしくてないてるのに、おとながよってたかっていじめるなんてかわいそうじゃない。」
お母様の侍女が増えない原因の一つ。それは、アーサーへの嫌がらせだ。当時の侍女の中には異母子のアーサーをよく思わず、おむつを換えない、泣いても放置、笑いかけず話しかけもしない者が二人いた。
お母様の信奉者って言えばいいのかな?秘密は守ってくれてたけど、お母様第一主義で、血筋に限定して言えば、アーサーは王子ではなく公子だ。お母様の配偶者だから王になれたお父様は、王家の血は引いていても公爵家出身。私的には王家も三公もあっちこっち行ったり来たりで混じり合って、変わんないって思ってるんだけどさ。そういう法律だからお父様が王になれたわけだし。向いてるかは別にしても。
今思えば、あの二人は潔癖だったのかな。お父様の不貞が許せず、アーサーは彼女たちにとっては忌むべき存在だったんだろう。子どもに罪はないのにね。まあ、結局、二人は事が露見して、マーガレット激おこ。バレた翌日には配置替えになったのか、もういなかった。
その後、ルーシーと入れ替わりにモリー、お母様の学生時代の友人であるドロシーが産休明けで戻ってきて、今年に入ってデイジーが補充されて来た。
なので、デイジーはアーサーのことを普通に私と双子だと思っている。もう誰も、その話に触れないからね。
「殿下、これまで、アーサー殿下のためにお心を砕いて頂き、有難う御座います。」
「ダスティンにおれいをいわれることなの?それ。」
「婚外子など捨て置けば良いところを、王家に引き入れたのは陛下と私です。妃殿下にも、複雑な思いを飲み込んで、ヴァイオレット殿下と分け隔てなくお育て頂いて感謝しております。」
「そう。」
王家の血をほっとくわけにもいかないよね。本当は、捨て置く=処分なんじゃないの?アーサーが殺されなくてよかった!
「いま、アーサーのははおやは?」
「産褥熱で、もう。極秘の出産だったので、治療も叶わず。皆様もどうか、このことは心の裡にお止め頂きますようお願い申し上げます。」
みんなが静かに頷いた。
ストーリー通りなら、いずれ己の出自をアーサーも知ることになるだろう。避けられなくても、自分が必要とされる、愛される存在なんだってこと、自信を持って欲しい。それまでに、絆を深めていかなければ。
「とりあえず、これでお話はおしまいでいいかしら?」
香澄様の言葉にダスティンは同意した。
あ、そうだ。自己保身のためにここだけはお願いしとかなくちゃ。
「あの、こんご、いかいのちしきがひつようなときは、やはりせいじょのしゅきのじょうほうだということにしてもらえるかしら?おばあさまもよろしいですか?」
「そうね。当分こちらにいる予定だから、手記も取り寄せるわ。久しく開いていないから、もしかしたら本当に有用な情報があるかもしれないしね。」
「魔力原子、のこともでしょうか?」
「あんた、その話もしたの?」
「あ、うん、ごめん。」
「あの話は別に秘匿でも何でもないのよ。それを書いた聖女も、当時周りに説明したらしいのだけど、余り理解してもらえなかったのですって。」
「そうだったのですか。ヴァイオレット殿下の説明は非常に分かりやすかったのですが……。」
「さすがヴィオラね!」
「とりあえず、あの魔力認知の方法は騎士団で導入することになりました。騎士団本部でご教授頂ければと思います。」
「いや、あの、わたくし、ばけがくはにがてぶんやで……。」
「頑張って。」
ポン、とアーテルに肩を叩かれた。私が教えるの!?
「うう、ぜんしょします……。」
「オリヴィア様にも、先日の実演について解説を頂きたいとの申し出が御座います。」
「わたくしでおやくにたてることなら、よろこんで。」
「では、お二人は明日、午後に騎士団にお越しくださいますよう。どちらもまずは上層部から、試験的に行って参りますので。」
「かしこまりました。」
「おばあさま、こちらにのこられるのですか?」
「そうよ。いつまでかは決めていないけれど、王都に残るつもりなの。」
「それならば、わたくしものこります!」
スカーレットがとんでもないことを言い出した!
「ど、どうして?」
「わたくし、どうしても、みわざをはやくしゅうとくしたいのです。きょう、アーテルさまにてほどきしていただいて、まりょくそうさのコツもつかめました。おばあさまがこちらにいらっしゃるあいだだけでも、けいこをつけていただきたいのです!」
「年単位になるわよ。」
えっ、そうなの!?
「試験に合格したら、領地に帰ってから貴女たちのお母様から教えてもらおうと思っていたのだけど……。」
「おばあさまがいいのです!おばあさまはいかいのおとめ。いちばんみわざをわかっていっしゃいます!」
「ですが、貴女はいずれメリディエス公になるお方だ。領地に愛着のない主など、民に受け入れてもらえなくなりますぞ。」
「それは……。」
スカーレットは俯いてふるふると震えている。三公はどの領でも、領都は王都から馬車で三日はかかると聞いた。
「な、なにか!なにかこうかんじょうけんないですか!」
「どうしたの、あんた急に。」
「なにか、こうかんじょうけんがあれば、スカーレットのたいざいをひきのばせるかなーって。ていうか!ダスティンもおとうさまも、わたくしたちにせいせきへのまりょくきょうきゅうをてつだわせるつもりなんでしょ!?こっちになんのみかえりもないっておかしくない!?」
「王家と三公の義務で御座いますれば。」
「いやいやいや、だまされませんぞ!どうかんがえても、にさいにぎむははっせいしません!ふつうはせいじんしてから、せめてものごころついてからじゃないの!?」
「殿下方は生まれた瞬間から物心がついてらっしゃいますよね。」
「ハン!ひらきなおったわね。それがりゆうになるとでも?」
「ねえ、スカーレット。わたくしが教えるのは吝かではないのだけど、まず、貴女のご家族に了承を取ってからでないと。貴女がどう思おうと、貴女は子どもで、何をするにも保護者の許可が必要なのよ。それだけは、飲み込んでちょうだいな。」
「は、はい、おばあさま。さきばしって、もうしわけありません……。」
スカーレットはちょいちょい暴走するなぁ。聖女の御技に、というか、ジョエルに?かける情熱が凄いよ。
「まずは魔力訓練に合格しましょうね。話はそれからです。水鏡でお母様に連絡を取ってあげますから、自分で説得なさい。」
スカーレットは申し訳なさそうに小さく諾と頷いて、潤んだ瞳に闘志を宿した。親がいいと言うまで食い下がるつもりなのかもね。
そこでアーテルが意外なことを言った。
「オリヴィアはどうする?領地でオリヴィアのお母様と訓練する?スカーレットが残るってなったら、私もいるし、香澄の指導になると思うんだけど。」
「もしかのうなら、わたくしものこりたいです。おばあさまにちょくせつごしどういただけるなら、それがいちばんだとおもいますから。」
「だ、そうよ。みわざのつかいてが、よていよりはやくふえるんだから、おつりがくるくらいよね?ちゃんとみかたしてね、ダスティン!」
「仕方ありませんな。」
二人のご両親には申し訳ないけど、ぶっちゃけそっちの方が都合がいいのよ。聖女の御技は聖女に教わった方がいいに決まってる。
本日はこれにてお開き。心なしか肩を落として去っていくダスティンの背中を見て、私と、何故か香澄様の溜飲が下がったのだった。
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