39 魔力訓練⑦
魔力訓練三日目が終わります。
空気中から魔力を吸収する訓練は意外にもアッサリ終わった。あんまり期待はしてなかったのかもね。出来ればお父様の度肝を抜ける!みたいな。
カスミズブートキャンプは、どう考えても、普通の魔力訓練でやる範囲を越している。昨日の執務室での反応を見れば分かる。騎士の訓練なんて、普通に魔力を扱えるのがまず大前提でしょ?
というわけで、騎士の訓練、魔力球作成をし続けていまーす。さっきの魔力吸収で原子の細かさは認識したから、自分の体内でそれをやるっつーのがね、難しいわけ。
まずはくっついてる分子を切り離す作業。作業って言ったって、イメージ、つまり私の意思次第なんだけど、全身出来るかって言ったらそんなわけがない。まずは手のひらに集まる魔力から分子の切り離し作業を行っていくことにした。
ふんふん、まずまずじゃない?あとは、細かくした状態で、真球のたまごの外殻を作る。カメのたまごみたいにね。ウン、いい感じじゃない?
魔力操作しやすい右手での外殻維持、左手で中を埋める魔力。役割分担でやってみた。今までで一番いい感じ!
顔を上げてアーテルを見ると、呆れた顔をしている。香澄様はというと、またか、みたいな感じで、ふう、と溜息ひとつ。またかはこっちの台詞でいっ。いかんいかん、江戸っ子が出てしまった。下町出身じゃないけど。
「なんというか、ヴィオラは意外性があるわね。」
どっかの忍者かよッ!
「器用ではあると思います。」
そう?前世では壊滅的なぶきっちょだったけど?器用さの全てを母の腹に置いて産まれてきたと言われてましたけど?妹はその分、手先も生き方も器用でしたけど?
「さゆうでやくわりをかえてみたのですけど、いけませんか?」
「まあ、同じことを両手で出来るようになるための訓練だからねぇ。なら、今度は役割を反対にしてやってみなさい。それが出来たら今は合格でいいわ。」
うぐぅ、難しいことを言う。仕方なく、粛々と行う。
無理ー!ハイ、無理ー!まず、真球を作れなーい!魔力の壁がまだら〜!フッフゥー!アーテルさんから溜息が入りましたー!ありがとうございまぁーす!!
「今日は左手で形を作ることだけを考えて。右手は休んでいいから。」
「あい。」
つい、子ども返事になってしまった。
「よろしい。休憩なさい。」
オリヴィアは合格。やったね!本当の器用とはこういう人のことを言うんだよ!今日は私より大きい球をすんごい速いスピードで作り上げて、それをジワジワと大きくしろという鬼のような指示を達成してしまった。すごいね!!
「スカーレット、まだ球の維持が甘いわよ。ひと回り小さくしていいから、形を整えることを考えなさい。」
スカーレットはまた苦戦している。魔力交換をした限りでは、魔力のサラサラ感は増していた。イメージの問題なのかな?知識や経験が物を言うところだけど、私は年の功(自分で言ってて悲しい)、オリヴィアはゲーマーという、イメージするための素がある。スカーレットは知識や経験を引き出せてないのかもしれないな。
スカーレットだって同じ世界から来たのだから、イメージの素がないわけではないはず。焦りで視野が狭まっているのが一番の問題と見た。
時間が来たので、今日の訓練は終了。午後は王宮見学に出向くから、今日の昼食はここでみんなと摂ることになった。準備と片付けを待ってる間に魔力量を測る。
魔力は昨日も終わりに測ったけど、数値はみんな微動だにしなかったんだよね。あれ?今日はみんな少し上がった……?魔力使った後なのに?
「これは魔力残量を見るものじゃないからね。」
アーテルはエスパーか。
「じゃあ、なにをはかってるの?」
「宰相の説明を覚えてないの?五秒間吸い上げた魔力から全体を予測してるのよ。密度でも測ってるのではないかしら?大昔の技術だから、仕組みが分かってないらしいわよ。王宮と三公の家にしかない物だし。」
「へえ、きちょうなものなのね。」
「壊さないようにしなさいよ。」
「なんでわたくしにだけいうのかしら?」
「一番やらかしそうじゃない。」
うぐぅ、粗忽者で悪うございましたね!妹にもクラッシャーと呼ばれていたよ!
「まりょくがサラサラにちがづいたってことかしら?」
「そうかもしれないわね。魔力交換、してみる?」
「おねがい。」
魔力交換し始めたら、アーテルが微笑んだ。
「なんだ。かなり良くなってるじゃない。」
「ほんとうに?」
「今日の最初の魔力交換より抵抗感がないわ。魔力吸収の訓練が功を奏したのかもしれない。」
ふむふむ。空気中から細かい魔力を取り込むことで、やっとこさ原子を認識して、自分の魔力も整った感じはする。まあ、まだ原子には程遠いとも感じもしてるけど。
「アーテルさま、わたくしともまりょくこうかんをおねがいいたします。」
スカーレットが真剣な眼差しをアーテルに向けた。へこたれないところは彼女の長所だね。若者が頑張ってる姿は目頭が熱くなるなぁ!同い年だけど!
「いいわよ。」
緊張した面持ちで、アーテルの両手に手を重ねた。
「もっとリラックスして。目を閉じて、深呼吸。そう。もう一度。もっと深く吸って、吐いて。もう一度吸ったら、目をつぶったまま、息を吐くと同時に魔力を流してごらんなさい。」
スカーレットの魔力が動く。アーテルも目を閉じて、魔力を感じている。
「さっきの魔力吸収を思い出して。小さく深呼吸。そう。二回繰り返して。最後にまた大きく息を吸って、息を止めて。魔力吸収で一番小さく感じた魔力の粒子に自分の魔力の大きさを揃えたら、息と共に一気に出す!そうよ!」
あー、もう、コレ、アーテルが先生でいいんでないの?教えんの上手いよ。
「まだ全身が整ってるわけじゃないわ。また深呼吸。今度は自分のタイミングで流しなさい。そう!上手よ!わたくしの魔力が分かる?貴女より細かいわよね?混ざり合う前にしっかりとわたくしの魔力を認識して。また深呼吸。これから三回、息を吸うタイミングで魔力を多く流し込むから、よく考えなさい。そう。一度息を止めて、循環も止めていいから粒子を平すのよ。吐いて!そう。出来てるわ。続けて。」
すごい。最初からコレをやって欲しかった。理論と実践、アーテルの教え方はどっちも上手い。
「いいと思うわ。どう?自分で違いが分かる?」
「はい、わかります。すごい。これならまりょくきゅうもちゃんとつくれそうだわ。アーテルさま、ありがとうぞんじます!」
「どういたしまして。」
スカーレット、良かったね。いい笑顔してる。自信を持つことは大事だよ。諦めたらそこで試合終了だもんね。
アーテルに、私にもやって!と言ったら、何故か怒られた。ブーブー!何でダメなんだよー!!
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