38 魔力訓練⑥
魔力訓練三日目です。
小会議室を出ると、お父様は既にいなかった。というか、いたのは私についてきた侍女のアンだけ。
私とダスティンが部屋に篭ってる間にメリディエス公が到着したので、先に大会議室に移動したそうだ。
メリディエス公、すぐに領地へ帰ることになりそうだけど、スカーレットの訓練どうなるんだろ?
「では、私はこれで失礼致します。」
「おとうさまにがんばってとつたえてね。」
やる気を出してもらうために、いい娘を装ってみた。かしこまりました、と言葉を残して、ダスティンは去って行った。
「アン、またせてごめんなさい。おへやへもどりましょう。おそくなってしまったわ。」
「お疲れでしょうから、抱き上げさせていただきますね。失礼致します。」
アンに抱っこをしてもらって、部屋に戻る。あ、一応謝っとかなきゃな。
「さきほどはごめんなさいね。アンにはアンのかんがえがあるでしょうに、むせきにんにくびをつっこんでしまって。」
「いえ、あれは余計なことを言い出したデズモンドが悪いのです。元々シンシア様にも、余り待たせてはならないと言われておりましたから。今は期限が決まって、むしろスッキリしております。」
シンシア様とはお母様の名だ。侍女のみんなも普段はお母様を名前で呼ぶ。他家の人がいる前では、王妃殿下とか妃殿下って言ってるけど。
「そう?なんだかこころぐるしいわ。せんぞくじじょだって、はじめはおかあさまつきのみなにしごとをおしえてもらわないといけないでしょう?けっきょくしごとをふやしてるわ。」
「お気に病むことはございません。恐らくデイジーのような新人は選ばれないでしょうし、やるべきことは同じですから。」
「まじめなアンらしいわ。あらためて、アン、おめでとう。はなよめすがたのアンがみたいから、けっこんしきにはよんでね。」
「お越しになるおつもりなのですか?」
「ダメかしら?おかあさまもおなじことおっしゃるとおもうのだけど。」
「わたくしたちの家格が足りません。王族の方がご臨席なさるのは、三公とセプテントリオの本家までです。」
「そんなぁ。」
「お気持ちだけで充分ですよ。」
「おとうさまにたのんでみるわ。」
「陛下はお許しになっても、宰相のダスティン様がお許しになりません。」
お父様とダスティンの上下関係が逆転しておる。でも、ダスティンが私を頼ってきたら、交渉材料としてアンの結婚式への出席を出してやればいい。
「だいじょうぶ。わたくしにはでんかのほうとうがあるから。」
「楽しみにしております。」
これは期待してないな?フッフーンだ。絶対にアンのウエディングドレスをみてやるんだからね!
その後は、デズモンドとの馴れ初めを聞いたり(恥ずかしがってあんまり教えてくれなかったけど)、侍女の雇用体制を聞いたり、色々と教えてもらった。
アンは結婚後も働きたいそうだけど、子どもが出来たらドロシーみたいに働き続けられないと言う。デズモンドは伯爵家子息で、今はまだ実家に住まわせてもらってるらしいけど、後継ぎではないので、そういう官僚は領地なしで爵位のみが与えられるらしい。
つまり、宮中伯ってことでいいのかな。王宮では下男下女以外の平民の雇用はされていない。魔力がものを言うこの世界だと難しいのかもしれない。
まあ、要するに、共働きとなると、家のことを任せる下女や侍女を雇ったり、ベビーシッターを雇ったりなんだりを考えると、育児に専念した方がいいんじゃね?ってことになるらしい。
でも、デズモンドさん、それなりに高い地位にいるんだろうから、そんなに所得低くないと思うんだけど。でも、一般的な下っ端官僚はそんな感じらしい。みんな結婚早いからね。日本で例えるなら、高校出たら婚約者と即結婚!なんてのが、よく聞く話。
ドロシーのところはライナスさんが後継ぎ実家住みだから、恵まれてるみたい。セプテントリオのひとつだから、結婚式にも当時まだ王太子だったお父様と王女だったお母様が出席したんだって。貴族内にも家格格差があるんだなぁ。
まあ、そんなわけで、王宮内に託児所を作る!も、ダスティンとの交渉に使おうと思いまっす!
信用出来る侍女をなかなか雇えないと言うのなら、辞めてしまった人を再雇用すればいいじゃなーい!アンは、泣く泣く王宮を下がっていく者も多いって言ったもん!そうすれば、お母様の侍女不足も解消されるかもしれない。王女時代の侍女はほとんど残っていないって言ってたもんね。
まあ、そんな侍女不足の中で私の専属侍女とか言ってんだから、我儘過ぎたかな〜とは思ったんだけどさ。欲しかったんだよ、侍女!みんながお母様と私とアーサーを行ったり来たりさせるのが嫌なんだよ!だって、メッチャ無駄な動きじゃん!
ていうか、侍女もお母様や私につく侍女は女官なんだよね。王族に付く侍女は高級侍女として、他の部署に配属されている侍女とは一線を画している。一応、侍女の花形なんだけど。
モリーはルーシーつながりで他部署から配属されてきて、これも異例のことだったんだけど、デイジーみたいな新人がいきなり王妃付きに配属されたのは更に異例だった。一年目の新人研修の後に、まっさらな新人を一から(従順な侍女に)育てたいって素直だけど口が固いデイジーをマーガレットが!侍女長と相談して引っ張って来たらしい。
ウンウン唸ってたら、アンの苦笑が漏れたのが聞こえた。いつの間にか部屋へ戻っていたらしい。すぐに湯浴みをして、夕食になった。
その後はひたすら魔石に魔力を込めまくり、寝る前に魔力球の練習!ちょっとはマシになったかな!もうヘトヘト過ぎて自分でも良くわかんないや!おやすみ!!
翌日。身体がダル重〜。ねむ〜。起こしに来たデイジーに言ったら、昨日一昨日と昼寝してないからでは?と言われた。寝ると魔力も回復するらしい。2歳の体力でカスミズブートキャンプは昼寝しないとマズイことが分かった。魔力が体力を補助するらしいけど、訓練で魔力使いまくってるからなぁ。量が多いとは言っても無尽蔵じゃないしね!
いつも二時半から三時半まで昼寝してるからなぁ。みんなは大丈夫かな?
さーて、本日も訓練のお時間です。はー、ムッチャだる。顔には出さないよ!と思ったら、香澄様に指摘された。魔力は成長期に使えば使うほど増えるらしい。身体は今のままでは魔力が足りないッ!と勘違いして、器を広げようとする、らしい。
らしいばかりだけど、原理が分かってないから、みんなそういうもんだと思って使っている様子。そこで思考停止すんなや!
とりあえず、まずは魔力交換。さすがに楽になってきた。魔力循環のお陰かな。お互いにサラサラ具合もよくなっているのを認識出来た。でも、アーテルには遥か及ばず。
「魔力球は最後にしましょう。三人とも、魔力が急激に減って倦怠感があるでしょう?空気中から魔力を取り込むことで、改善しますからね。まずはアーテル。お手本をお願いね。」
「はい、お祖母様。」
アーテルが香澄様の前に出てきて、説明を始めた。手順の説明は全てアーテルにやってもらいたい。香澄様はぶっつけ本番過ぎる。
「みんな、自分の魔力が空気中に消えていくのは認識出来てるわね?空気中に還った魔力は、お祖母様が言った、原子の状態に戻るの。あるのは分かっていても、塊として認識出来ないから、出来る人は殆どいないわ。」
「そうなのですか!?」
スカーレットは衝撃を受けたらしい。ウン、まだ自分の魔力も完全なサラサラじゃないのに、空気中の魔力原子をどうやって集めろって言うんだって思うよね。
「これは、魔力原子を認識するための訓練だと思って。わたくしもまだ上手く出来るわけではないの。まずは周囲の魔力原子を自分の魔力と吸着させて取り込むわ。最終的には全身から取り込めるようにっていうのが、お祖母様の目標だけど、期限内には無理ね。とりあえず、魔力を認識しやすい片手から吸収する訓練をしましょ。それだって、出来る人なんて歴史上で一握りなんだから。」
ハードル高過ぎやしませんかね?伝説でも作るおつもりなんですかね?
歴史上で一握り、という言葉がオリヴィアの琴線に触れたらしく、笑いながらふるふると震えている。武者震いってヤツかな。前向きでよろしい。
「やってみるから、見ていてね。」
アーテルはスッと右手を前に出し、手のひらを上にした。手のひらを包むように出したアーテルの魔力が、放出量は変わらないのに増えていく。
「分かるかしら?」
「はい。」
「てのひらにじぶんのまりょくをこていして、きゅうちゃくさせているのですね。」
「そう。異界の乙女は、全身を魔力の膜で包んで魔力を吸収するそうよ。」
「それって、いかいのおとめだからできることではないの?」
「理論的には可能……らしいわ。実際、手のひらからなら出来る人もいたわけだし。固定観念の問題じゃないかしら。」
ふうん。原子と分子の話も知らないくらいだしな。
って、あっ!昨日の!ダスティン、香澄様に告げ口してるかな!?まだなんにも言われてないけど、後で呼び出されるかな!?先生にも呼び出されたことないのに!!
「身体に戻すわよ。」
吸着された魔力はそのままアーテルの中に入っていった。
えーっ、出来るかなぁ。そもそも前世でも繊細さなど皆無だったのに。
「まずは手のひらで魔力を固定してね。昨日の魔力球よりも簡単よ。勝手にくっついてくる原子もあれば、反発して逃げていく原子もある。魔力原子には磁力があると考えて。空気中でも魔力はくっついたり離れたりしてるの。体内の魔力は、わたくしたちのイメージに引き摺られて形を成しているのよ。磁力は定期的に切り替わるから、タイミングを逃さず、自分の魔力に引き寄せられた魔力は絶対に捉える。磁力の切り替わりはとても早いから、とにかく一粒でも多く吸着すること。これは魔力原子を認識する訓練にもなるわ。分からないことがあれば、質問して。では、始めましょう。」
最初に、手のひらに魔力固定。ウン、空中で魔力固定するより全然簡単。二人も出来てる。魔力原子の認識かぁ。サラサラ魔力よりサラサラなんだよね?空気中でもくっついたり離れたりしてるなら、分子の状態で漂っているのもあるわけだ。まずはそこから攻めていこう。
あっ、引き寄せられてきた!あうっ、もう離れてった!速いなぁ!離れる時の速さはそうだ、騎士団でオリヴィアがやったように、自分から捕まえに行くのはどう?
おっ、来たな来たな〜?えいっ!ピョン!と魔力の一部を棘に変えて、やったぁ!魔力、ゲットだぜ!!
ピョンピョンピョンピョン、私は棘を出し続ける。百発百中とはいかないけど、結構いい感じじゃない?分子じゃない、原子も、少し捕まえられた気がする!どうよ、コレ、どうよ!?
バッと顔を上げたらアーテルがこっちを見てた。何で顔を顰めてんのよ。香澄様は、目が合ったら顔を背けた。口元を隠して笑ってる。何で笑うのさー!!
「ヴィオラの魔力操作は独特ね。量はもう少し集めた方がいいけれど、まあ、合格にしましょう。」
「ほんとうですか!?」
うひょー!やったー!!叫んで跳ね回りたいけど、王女様はそんなことしませーん!
「貴女、顔はお母様似だけど、性格はお父様似なのかもしれないわね。」
いやいや、ワタクシ中身は既に出来上がった大人ですから。顔がお母様似なのは嬉しいんだけど。性格お父様似なんて絶対イ・ヤ!
でも、お父様、自分でも言ってたけど、魔力操作は得意なんだよね。今から思えば、あの超高速高い高いも相当な高等技術がないと出来ないのでは?と気付いたワケで。
オリヴィアが騎士団でやったみたいな、魔力で自分と相手を繋げて、赤子とはいえ人ひとりを動かすって相当じゃない!?王様より騎士の方が向いてるんじゃないかなぁ。
……まあ、王国最強だったお祖父様と、召喚聖女の香澄様の息子だからなぁ。私たちが今やってる訓練だってやらされてたワケだし。その点に関しては尊敬してる。
「ジョージも、魔力の使い方が独特なのよね。発想力があるというか、自由というか。あの子にはわたくしも驚かされることが多かったわ。」
今でも自由ですよ、お祖母様。ニコッと笑って、その話題は流す!
「それでは、ヴィオラは魔力球の訓練に移りなさい。魔力原子を感じられたのなら、上達は早いはずよ。」
「はい、おばあさま。」
私が魔力球作成に勤しんでいると、オリヴィアも続いて合格をもらった。スカーレットは……なかなか合格がもらえない。メリディエスの離宮は昨日からバタバタだったろうし、お母様のメリディエス公は支援物資と騎士団の災害救助隊と共に領地へ戻られた。
本人からは、焦りを感じる。魔力は私より多いけど、なかなか上手くいかなくて、必死になっている。必死になるのはいいけれど、リラックスすることも魔力を扱うことに関しては大事だ。魔力量とイメージ。この二つがバランス良く揃わないと、魔力操作は上手くいかない。それが、訓練を通して分かった。焦ると、魔力量ばかり先行して、イメージ通りに動かすことが出来ないんだよ。大きな鍋から小さなコップに水を注ぐのって難しいでしょ?それと同じ。
私たちはただでさえ魔力量が多いから、魔力を細かくしていかないとコップから溢れてしまう。それじゃダメなんだ。
見かねたアーテルが、スカーレットに声をかけた。アーテルは面倒見がいい。お子さんがいただけある。私には塩対応だけど、中身の年齢が親子ほど離れた二人には優しいのよ。私にも優しくして欲しいわ。
しばらくして、要訓練との条件付きだけど、スカーレットも合格をもらった。瞳には悔しさが滲んでる。
励ましの言葉をかけたとしても、自分で乗り越えなきゃいけない壁だ。スカーレット、がんばれ。
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