36 執務室でのお茶会②
カスミズブートキャンプの責任の所在は。
よろしくお願いします。
「ヴィオ、今日の訓練はどうだった?」
「むずかしかったです。まりょくきゅうをつくったのですが、まりょくじゅんかんをさせながらほうしゅつりょうをかんがえて、かたてをいじをするのがたいへんでした。」
「魔力球の訓練をなさっているのですか!?」
ブライアンさんが大声を出したのでビックリしてしまった。驚きポイントが分からない。魔力訓練やってることは知ってるはずなのに。
「そうですよ。みなさまはどうやってらっしゃるの?さんこうまでにおうかがいしたいわ。」
お父様の部下たちは顔を見合わせた。何か変なこと言った?メルヴィンさんが少し迷ってから口を開いた。
「魔力球の作成は騎士団の訓練です。我々文官は通常行いません。」
「そうなのですか!?」
「母上の訓練は騎士団仕込みだからな。あれは本当に恐ろしい。」
お父様は私を包み込んでウンウンと頷いている。あ、お父様もやられたのね。被害者の会でも作ろうかな。
「カスミ様が召喚されてこちらにいらした時、魔力の手解きをしたのが騎士団長のレナード・アルゲントゥムでした。その影響でしょう。」
宰相さん、今度はこめかみを揉み解している。そういや昨日、香澄様が騎士団長のこと師匠って言ってたわ。まさか騎士の訓練をやらされていたなんて。マジでブートキャンプじゃん。
「ですが、両の手を同じように使えるというのは良いことです。聖女の御技を使うなら尚更のこと。方向性は間違ってはおりません。おりませんが……。」
宰相さんは私を見てから軽く嘆息した。2歳に教えることじゃないよね。呆れてるんだよね。
「魔力コントロールというので、一般の手順で行うと思っておりました。」
「私もです。」
メルヴィンさんとライナスさんが頷き合う。
「ヴァイオレット殿下は魔力球をお出しになることは出来るということですか?」
ブライアンさんが食い気味で質問してきた。急に圧が強くなったな!
「いちおう、かたちはつくれます。」
「なんと素晴らしい!ああ、羨ましい!私はどんなに頑張っても魔力が手のひらから霧散してしまうというのに!」
「そうなの?かたちはすぐにできたけれど。」
「ヴィオ、今、出来る?」
「はい。おとうさま、アドバイスくださいね。」
「うん、もちろん。」
私は魔力球を作った。可視化はしてないけど、みんな見ることは出来るらしい。そこは普通の訓練なのかも。
「出来てるじゃないか。」
「おばあさまがおっしゃるには、こていがあまいそうです。」
「これで……ですか?」
デズモンドさんが唸っている。アーテルの魔力球は周りに魔力漏れのモヤみたいなのがないのよ。ちゃんとつるんとしてるの。
「たしかにくうきちゅうにまりょくがながれていっているのはかんじるので、こうりつがわるいとおもっています。まりょくをげんしレベルでこまかくせいぎょできなくて……。」
「げんし……?」
ブライアンさんの頭の上にたくさんハテナが浮いてる幻覚が見える。
「げんしです。ごぞんじないの?」
「初めて耳にした言葉です。」
あ、マズった?聖女の手記にあったって言ってたから、翻訳されて共通の知識になってると思い込んでた。古文書とかってそういうものじゃない?
「おばあさまが、れきだいのいかいのおとめのしゅきにかいてあったとおっしゃっていたの。このよのすべてはげんしというちいさなつぶからこうせいされていて、げんしとげんしがむすびあい、ぶんしになります。たいていのひとはげんしがたくさんつながりあったおおきなぶんしのじょうたいでまりょくをにんしきしているの。せいじょのみわざをつかうにはげんしくらい、ちいさくこまかく、まりょくをせいぎょできなければならないんですって。」
私は握り拳をくっつけて説明した。何となく分かってもらえたらしい。
「異界の知識だったんだな。」
「そうなのです。おとうさまはごぞんじでした?」
「いや、母上からはとにかく細かく、小さくしろ、と。兄たちには魔力を砂のようにしろとは言われたな。」
「それができるとまりょくがサラサラになるのです。おとうさまのまりょくもサラサラにかんじました。おかあさまやアーテルも。あとはオリヴィアもわたくしよりはサラサラしていました。」
「自分ではよく分からないな。魔力操作は得意な方だが……。」
「これは、皆と共有した方が良いのではありませんか?」
「いや、少し慎重に行こう。やるならまずは騎士団からだ。効果が出るまでは待機案件だ。」
宰相さんが考え込みながら部下さんの意見を止めた。止める理由はなんだろう?魔力の消費効率が上がって国力が上がるのはいいことだと思うけど。
「そうだな。ティターンとの国境もキナ臭い。あちらにこの情報が渡れば面倒事になる可能性もある。」
お父様が真面目な顔をして宰相さんに同意した。
うーん、戦争が身近な国の考え方だね。スパイを警戒してるのか。中身が日本人の私には理解しづらい。日本人はお人好しで、請われればホイホイ技術提供しちゃってた頃もあったもんね。そう考えると、この件は知的財産になるのかな?
「ヴァイオレット殿下、良い情報をありがとう御座います。聖女の手記は歴代の聖女にのみ伝えられるもので、中身は謎のままでしたから。学者が翻訳しようとして匙を投げ、歴代の聖女にはプライバシーに関わる事しか書かれていないと言われていたので、驚きました。」
「わたくし、いってしまってよかったのかしら……。」
よくなかったのではないかしら。最近の私、迂闊なことばっかりしてるのではないかしら。またアーテルに白い目で見られるのではないかしら。
「内容を公開するかどうかはその時の聖女の意向で決められています。こちらから今一度、カスミ様にご意思を確認致します。」
「もうしわけないけれど、おねがいね。」
「しかし、二歳の子どもに魔力球とは……カスミ様は何処を目指しておられるのでしょうか。」
メルヴィンさんは遠い目をしておられる。ウン、ホント、何処目指してんだろうね。
「他には何をしたの?」
「じゅんませきへのまりょくていちゃくです。それもごうかくをいただけなかったのだけど、あすはやらないみたいで。どうするのかしら。アン、なにかきいてる?」
帰り際、ノーマさんが私たちの侍女に何か伝えていたんだけど、さすがに知らないかな。
「後程、空の純魔石をお部屋に届けてくださるそうなので、そちらで練習するようにと仰せつかっております。四日目の朝に確認なさるそうです。」
げっ!自主練メニューが増えた!その場で言ってよぉ!心構えが違うんだから!
「ああ、先程総務部から連絡があったのはそのことだったのですね。」
デズモンドさんが苦笑いした。
「なにかあったの?」
「オリエンス家の侍女から、二日連続で空の純石を出来るだけたくさん確保するようにと申請があったそうなのですが、用途不明のまま申請されたので問い合わせがあったのです。カスミ様のご要望ということで本日の分はご用意しましたが、余りにも量が多いので、不審に思ったようです。総務部にはこちらから伝えておきます。」
「そうだったの。では、てはいをよろしくね。」
「よろしくしてほしいような顔してないよ。」
お父様が私の顔を覗き込んで言った。仕方ないじゃん!予定と違うんだもん!
「おばあさまは、おとうさまのどぎもをぬいてやるといきごんでおられるのです。」
「じゃあ、訓練はやめてお父様と遊ぶかい?」
「くんれんはつづけます。わたくしにはやるべきことがございますからね。」
断罪を回避しなきゃだからね!
使える武器があるのなら、使いこなせるようにならなきゃ意味ないもんね!
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