34 魔力訓練⑤
訓練二日目終了。
私たちは椅子に座ったまま、テーブルの上が片づけられた。
小さな黒い布の上に、ポン、と直径3cmくらいの球に磨かれた魔石が置かれる。水晶のような、透明な石だ。色がないから純魔石なのかも。
「始めなさい。」
魔石への魔力定着。魔力を注入して、石の中に押し留める。私の魔力はまだ分子として結合した状態なので、こぼれ落ちていくように感じた。これを隙間なく詰めれば合格なのかな?魔力操作と、魔力をより細かくするための訓練なのが分かった。やっぱり香澄様は言葉が足りない。
とりあえず魔力を少しずつ込めつつ、石の輪郭で押し留めるイメージで定着作業を行う。入らないところまで来たので、私は手を挙げた。
「出来ました。」
「不合格。容量一杯になってない。効率が悪いのよ。もっと魔力を分離させて、隙間なく詰め込みなさい。定着自体は出来ているわ。次の魔石を用意するから、最初からやり直しなさい。」
「は、はい。もうしわけございません。」
「いちいち謝らない!これは訓練です。謝罪が欲しいわけではありません。とにかく数をこなして、魔力操作をより繊細に出来るようにおなりなさい。魔石はたくさん用意してありますからね。」
香澄様の視線の先を追うと、おおう、じゃがいもでも入っていたであろう木箱に大量の純石が!みんなで分けたとしても、何個あるんだか分からない。数えるのも怖い。これくらいやらないとダメなの!?
「貴女方は王族と、それに連なる三公になる者なのです。膨大な魔力で、大抵のことは力任せに解決しようと思えば出来ます。けれども、聖女の御技はそうは行きません。繊細な魔力操作こそが肝なのです。違うことを同時にやらねばならないこともあります。それにはまず少ない魔力を、隅々まで支配して、己の意のまま操れなければお話になりません。本当は丸々一日訓練に充てたいところですが貴女方はまだ二歳。体力と身体への負担を考慮して、午前中のみなのです。短い時間で習得するには要点をしぼって、ひたすらの反復と、出来うる限りに数をこなすしかありません。頑張りなさい。」
ひえええ、カスミズブートキャンプ、やば!ていうか、アーテルの話ぶりだと、要点をしぼったんじゃなく、無理矢理ひとまとめにしただけじゃないの!?鬼だー!鬼教官だー!司法修習生の時の教官ですらこんな人いなかったよ!ぎゃー!
半泣き状態で新しく用意された石を握った。布がどうやら漏れを軽減してくれているらしい。さっき言ってた魔力を遮断する布みたい。だから、作業は布の上でやる。イメージしにくいよう、うう……。
「不合格。」
「不合格。」
「不合格。」
「先程のと変わりないわよ。全然ダメ。次!」
「もっと細かく、丁寧に!次!」
「マシになったけれど、まだまだ魔力は入るはずよ。次!」
「ダメ、次!」
「不合格!もっとよくイメージしなさい。次!」
今日はここまで、というコールまで、ずっと不合格の嵐だった。これから不合格と次という単語に恐怖を感じそう。言われるたんびに、ヒィッ!ってなったもんね。
明日もこれをやるんだって。合格するまで続けるらしい。ずっと座ってたから疲れた。腕をぐるぐる回したら本日同伴のアンに呆れた顔をされた。ウッ、ゴメン。
休憩を挟んで、今度は絨毯の上のクッションに座るように言われた。一応、アーテルのプレイスペースらしいけど、使われた形跡がない。用意されたおもちゃは真新しい物ばかりだった。
「では、お次は魔力球を作ります。昨日、アーテルが作ったのは覚えてるかしら?アーテル。また見せてあげて。」
「はい、お祖母様。」
アーテルは素直に香澄様に従った。また色をつけるのかと思ったら、今度は本当に魔力のみ。でも、もう私たちも認識出来ている。
「オリヴィアは騎士団で糸状にした魔力を維持出来たのよね?すぐに出来ると思うわ。球体の方が簡単だもの。二人は分かりにくいのなら色をつけたイメージでもいいわ。」
「いろのもとはどこからきているのですか?」
「そういえばそうね。何なのかしら。考えたことなかったわ。」
オリヴィアが質問したが、香澄様も分からないらしい。オリヴィアは既に魔力のみで操るイメージが出来ているから、余計に理解し難いのかもしれない。
「可視化をイメージすると、反射が起きるのかもしれません。」
「ということよ。分かる?」
「たぶん……。イメージしづらいので、きのうのようにやってみます。」
「スカーレットは?」
「まりょくはにんしきできるので、アーテルさまのおてほんのようにやってみます。」
「それでいいわ。体内で魔力循環を行いながら、両手から魔力を放出しなさい。利き手が使えなくなっても困らないようにね。戦場では利き手しか使えないのは命取りです。騎士のように、両方の手で同じことが出来る様にならなくては。」
求められるレベルが高い。2歳児にやらせることじゃない。香澄様は私たちがただの2歳児じゃないことをご存知だから仕方ないけど。白目剥いて倒れそう。
ていうか、香澄様も戦場に出られたことあるのかな。最後の戦争っていつだったんだろう。
「リラックスして、座ったままでも良いし、立っていても構わないわ。さあ、始めなさい。」
私とオリヴィアは座ったまま。スカーレットは立ち上がる。それぞれ魔力を出し始めた。うーん、利き手からの放出量が多いな。調整が難しい。
チラッと盗み見たところ、二人とも同じような状態だった。アーテルは椅子に座って本を読んでいる。チクショウ!気楽でいいな!既に通ってきた道なんだろうけどさ!
「三人とも左手がお留守ですよ。利き手からの放出量を抑えてもいいから、左手から出す量を増やしなさい。両手で出す量の違いがないようにね。」
ふむふむ。意識して魔力量を抑える。コントロールし辛いので、魔力が身体を巡るスピードも落としてみた。うまく行きそう。小さいけれど、魔力球が出来ているのが分かる。形は割と整ってるけど、魔力が空気中に逃げるスピードが早い。何が悪いんだろ?
「できました。」
オリヴィアがいの一番に声を上げた。おお、上手い。イメージが出来てるんだな。
「よろしい。循環速度を上げて、それを五分維持しなさい。オリヴィアの侍女は時間を見てあげて。」
「かしこまりました。」
「スカーレット、まだ右の魔力が多いわよ。もう少し減らしなさい。」
「はい、おばあさま。」
スカーレットは焦っているみたい。彼女は魔力の分子が私たちの中で一番大きい。繊細なコントロールが難しいようだ。
「ヴィオラは固定がいまひとつね。先程魔石にしたように、外側に殻があるようなイメージをなさい。外殻の密度を高めれば安定するわ。」
「はい。やってみます。」
真球のたまごをイメージして、外側の魔力を多めに隙間なく。固くなれ、固くなれ!そして中に魔力を充填していく。ヨシヨシ、いい感じ!
少ししたら、香澄様に声をかけられた。
「ヴィオラはそれでいいわ。貴女も循環速度を上げて、放出量も上げなさい。オリヴィアくらいの放出量ならコントロール出来るはずよ。」
「かしこまりました。」
循環速度を上げて放出量も上げると、外殻の維持が難しい。速度を上げすぎると難しいから、放出量からコントロールしていく。
うーん、安定に意識が行きすぎて、スピードを意識出来ない。魔力循環の練度が低いからかなぁ。あれか?野菜人が常に金髪でいないといけないみたいな修行しないとダメなのか!?野菜人だって結構時間かけてましたけど!?こんなの二日三日じゃ出来ないよぉ〜!!
三十分くらいねばって、それでも無理だった。立ってみたり、クッションにまた座ってみたり、クッションどかしてしゃがんでみたり、勇気を出して寝っ転がってみたけど、やっぱり難しかった。
出来る気がしない!!!
「お疲れさま。今日のノルマを達成出来なかった二人は自主練習をするようにね。明日は次の段階に進みます。空気中の魔力を取り込む訓練よ。魔力交換と魔力球の訓練も続けますからね。四日目は魔力交換の時間以外は全て具現化に注ぎ込みます。特にヴィオラとスカーレットは今から常に!魔力循環を行いながら生活すること。アーテルとオリヴィアに追いつけないわよ。侍女たちは彼女たちを観察なさい。循環が緩むことがあれば注意してあげて。二人とも、分かったわね?」
うわーん!笑顔が怖いよー!こっちの笑顔が引き攣るよー!
「がんばります!」
スカーレットが元気よく返事をしたので、仕方なしに私も返事をした。ヤケクソだぁ!
「わたくしもがんばります!」
「よろしい。明日も楽しみね。」
いいえ、全く!やりたくありませぇん!明日なんて来なければいいのに!!
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