32 魔力訓練③
魔力訓練二日目。
朝、目が覚めたら、お父様が添い寝していて私は絶叫した。慌てて起き上がって、枕でバスンバスンとお父様の顔を殴りまくった。
「キャーッ!イヤーッ!ヘンタイ!」
「えっ、うわっ、何?ヴィオ!?」
「ヘンタイ!しゃべんな!どっかいけーッ!出てってーッ!」
「わっ、ヴィオ!?どうしたの!?お父様だよ!?」
お父様は普通にベッドに入って、腕枕で半分私を抱きしめながら寝ていた。すみれ時代の夢を見たからか、見知らぬイケメン外国人がベッドに潜り込んでるって思って、襲われる!?襲われた!?と半狂乱になってしまった。
イケメンの添い寝は喪女にはキツイってば!だって、お父様、24歳だよ?すみれ的にも年下過ぎるけど、自分の親相手にドキドキが半端ない。はだけたシャツの胸元もセクシー過ぎる。顔だけはいいから、そこだけ切り取れば映画のワンシーンのようだ。
「ヴィオラ様!どうされました!?」
アンが慌て気味に部屋へ入ってきた。ちょうど起こしに来たところだったみたい。
「あ、アン……」
「ヴィオラ様?」
「ヴィオ?」
「おとうさま……そっか……」
アンの顔を見て、ようやく現実を認識した。私はもうすみれじゃなくてヴァイオレットだ。
「ヴィオ、大丈夫?怖い夢でも見た?」
お父様は起き上がり、立ち上がっていた私を膝の上に載せて背中をトントンしてくれた。すみれの父とは違う、優しいお父様。
「……はい、いやなゆめをみました。」
「そう。気付かなくてごめんね。起こしてあげれば良かったね。」
「いえ、だいじょうぶです……まくらでたたいてごめんなさい。」
「びっくりしたけど、痛かったわけじゃないから。落ち着いた?」
小さく頷くと、良かったね、と言ってお父様はギュッと私を抱きしめてつむじにキスをした。
身支度を整えて気持ちを切り替える。朝食は、ウチの家族と香澄様、アーテルも一緒だった。敷地内とはいえ、車椅子移動の香澄様が離宮と行ったり来たりするのは大変だから、パレスに泊まることになったそうだ。このまま領地に帰らないかもしれない、とアーテルは言っていたけれど、どうなるんだろう。
午前9時。魔力訓練の時間だ。アーサーと別れるのは心苦しいけど、部屋を移動するよ。あ、ホールの見学は明日になったこともあの二人に伝えないとな。侍女を通して連絡行ったかな?
部屋へ到着すると、スカーレットとオリヴィアはもう着いていた。
「おはようございます。きょうもよろしくおねがいいたします。」
「おはようございます。おばあさま、みなさま、きのうはごめいわくをおかけしました。」
「おはよう、ふたりとも。今日は急ピッチで進めるから、気合を入れて取り組むようにね。」
おお、こわ!今日もスパルタの予感。
「まずは魔力交換から始めます。ヴィオラとスカーレット、アーテルとオリヴィアから始めましょう。わたくしが良しと言うまで続けてね。」
「「「はい!」」」
三人の声は揃ったが、アーテルは澄まし顔で黙っていた。んもう!協調性がないなぁ!
「スカーレット、よろしくね。」
「がんばりましょう!」
手を合わせ、集中して、お互いに魔力を流し込む。スカーレットの魔力はちょっとあったかくて、デイジーよりとろみは少ないがトロッとしている。
「ヴィオラさまのまりょくはサラサラしてますね。」
「スカーレットのまりょくはトロトロしてるわ。なんだかおいしそう。」
「どういうイメージなんでしょう?じぶんではわかりません。」
「水よりまとまりがあるかんじ?かたくりこでかためたあんかけみたいな。」
「そ、そうですか……。」
例えが悪かったかな。微妙な顔をされた。
「まとまりがあるようにおもうのは、そのほうがからだのなかをめぐらせるときにかたちをにんしきしやすかったからかもしれません。」
「ああ、なんかわかるきがする。」
「きのうおかあさまとまりょくこうかんをしたら、ヴィオラさまよりもサラサラしていて、すぐにじぶんのまりょくとまざりました。」
「あら、わたしもおとうさまとやったのだけど、そうかんじたわ。」
お父様の性格の影響じゃなかった?なんなんだろう。
「ふふ、楽しそうね。」
香澄様が車椅子を押されて近寄ってきた。私語、怒られるかなぁ!?
「おしゃべりをする余裕が出てきたのはいいことよ。当たり前のように魔力を循環出来るようにならなければ、治癒のような繊細な操作は出来ないわ。」
あっ、良かった。怒られなかった。そういえば、昨日の説明で呼吸をするようにって言ってたもんね。
「まりょくのせいしつのちがいはなんですか?ヴィオラさまのまりょくはサラサラしていて、はははさらにサラサラしていました。すぐにわたくしのまりょくとまざってしまうのです。」
「ああ、それはね、なんといったらいいかしら。魔力分子の問題ね。」
「まりょくぶんし?」
「わたくしが勝手に呼んでいるのだけどね。というか、数代前の聖女の手記にあったのだけど、魔力をどういう風に認識しているかで、魔力の性質が変わるのは分かる?なのに、目に見えないでしょう?こちらの世界にしかない原子なのではないかと推測した人がいたの。」
「ですが、それをみずからのいしだけでじざいにうごかせるりゆうがわかりません。」
スカーレットが疑問を呈した。
「そうね。ただ、そう考えた方が魔力の消費効率が上がるのは確かなの。原子と原子が結合して、分子になるじゃない?でも、原子の状態の方が安定しないから操作はしにくいけれど消費効率が高くなるのよ。」
あー、だから、お父様やスカーレットのお母様はサラサラなのか。なるべく細かくして使う量を調整出来れば、消費量は減るに決まってる。何かする時に原子の数で10必要だとして、魔力原子を1で使える人はピッタリ10で済むけど、魔力原子が3で結合した分子の状態でしか使えない人は原子3の分子を4出して結局12消費する。
魔力を水で例えるのも、水素原子は割と何とでもくっつく性質があるから悪くないのかも。
「では、なるべく〝サラサラ〟になるようにイメージして、やってみなさい。アーテルはああ見えて大雑把だから、まだ上手くいかないのよね。スカーレット、治癒を覚えたいのなら必須ですよ。患部により細かく干渉出来ますからね。」
「はい!がんばります!」
アーテルは大雑把で魔力分子が大きいから治癒が下手なのか。納得した。
「交代のお時間になりました。」
ノーマさんが告げた。
「次はヴィオラとオリヴィア、アーテルとスカーレットにします。始めなさい。」
「よろしくね。」
「よろしくおねがいします。」
オリヴィア、今日はどうかなって心配してたけど、思ったより落ち着いていた。
オリヴィアの魔力は私よりはとろみがあるけど、スカーレットよりはサラサラしている。もしかしたら、私が四人の中で一番サラサラに近いかもしれない。
「……きのうはありがとうございました。」
「わたくし、なにもしてないわよ?」
だって、アーテルと香澄様に丸投げしたからね。お説教はロセウス師団長とオッキデンス公がしてくれたし。
「いちはやくたいしょのしじをしてくださったとうかがいました。」
「いちおう、あそこでみぶんがいちばんたかいのはわたくしだったのだから、あたりまえのことよ。」
「わたくしのせいで、ひとくされていたアーテルさまのみわざをつかわせてしまいました。」
ゔっ!それな!ちょっと気にしてたんだよ!大人たちには何も言われなかったからスルーしちゃったけど、マズったなって思ったんだよね!
「わたくしはおとうさまからもおかあさまからもおばあさまからもなにもいわれなかったわ。だから、だいじょうぶよ。」
「きのうのまりょくそくていのけっかをかんがみて、ほうしんてんかんすることになったようです。こんかいのしけんにごうかくしなくても、まりょくくんれんはつづけてよいことになったそうです。」
「そうなの?」
「ええ、ごぞんじなかったのですか?」
「なにもきいてないわ。」
「わたくしたちのまりょくをのばして、せいじょしょうかんにつかうせいせきへのまりょくきょうきゅうをてつだわせることにしたそうですよ。ただ、しけんにふごうかくならせいじょのみわざはおしえていただけないそうですが。」
ええー、大人って勝手だなぁ。私たちは道具かよ!エネルギー資源かよ!って、お父様はそんなこと考えるような人ではない。宰相さんは……わかんないけど、無理強いするような人ではない、と、思う。まあ、王様として、国としての判断なんだろう。その辺は呑み込んでやるとする。後で無理難題吹っかけて元は取るからね!そこんとこよろしく!
「きのう、かえってからだいじょうぶだった?」
触れていいのか迷ったけど、一応聞いてみた。
「はい。みずかがみでちちといっしょにははにおこられましたけれど……。ちちも、まりょくくんれんをうけてもいないわたくしがまほうをつかうとはおもっていなかったのです。ちちにも、もうしわけないことをしました。じゅんすいにわたくしのことをしんぱいしてくれただけだしたのに。」
「オリヴィア、もしかして、いぜんからまりょくくんれんをしていたの?」
「……はい。あにがやっていたのをみようみまねで。」
「へーえ!それであんなことできちゃうなんて、オリヴィアはてんさいね!」
「え、いや、え、おこらないのですか?」
「どうして?」
「スカーレットにはきのうおこられました。かんがえがあますぎる、と。アーテルさまにはさきほどちゅういをうけましたので……。」
「わたくしはおこってはないけれど、しんぱいはしていたわ。おちこんでないかなって。でも、ロセウスきしだんちょう、じゃない、しだんちょうのことばもあなたにひびいていたのはわかったし、もちなおすだろうなっておもったの。ほかはべつにとくになにも。」
オリヴィアは目をぱちぱちさせて意外そうな顔をした。
「そうなのですか。」
「スカーレットはあなたとのつきあいもながいし、アーテルはなかみが、まあ、アレじゃない?おかあさんきぶんなのよ。いつもえらそうにしてるし、ほごしゃのつもりなのよ、きっと。」
「ふふ、そうかもしれませんね。」
オリヴィアが笑った!良かった良かった。笑顔になった。笑う門には福来るってね!
「ねえ、もっとくだけたはなしかたをしてよ。せっかくおともだちになったのに、よそよそしいはなしかたをされるとかべをかんじてしまうわ。さまづけもよしてよ。アーテルなんてすでによびすてだし、つめたくあしらってくるのよ。ね?おねがい!」
「かしこまりました。こんごそうします。」
「まだけいご!」
「う、うん、わかったわ。これでいいですか、しら?」
オリヴィアがおかしな言葉遣いになってしまったので、思わず笑ってしまった。オリヴィアは物覚えがいいのかセンスがあるのか、交代の時間の頃には魔力の粘度が下がってサラサラ感が増していた。
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