28 騎士団見学③
これで騎士団見学終わりです。
お母様が神妙な面持ちで尋ねられた。
「オリヴィアが攻撃魔法を使ったというのは本当なの?」
「はい。おまもりのつちのませきをつかって、こいしをとばしたのです。」
「オリヴィアの様子はどう?ポーラも後で来るけれど、大丈夫かしら?」
「あおざめていました。わたくしたちはきしだんちょうにかかえられてさきにきてしまったので、こえをかけていないのです。じじょがそばにいるのでだいじょうぶだとはおもうのですが……」
いや、大丈夫だとは思わない。彼女はまだ二歳で、中身はもっと上とはいえ、享年に二歳足してもまだ日本なら未成年だ。あ、世代的にギリ未成年じゃない世代?いいの!お酒飲めないなら未成年なの!
ゲーム脳ってやつなのかな?攻撃しても治るから大丈夫とか、大したことないとか、そんな風に考えていたのかもしれない。魔力だって、全力じゃなかった。全力なら、腕は弾け飛んで、石が当たった部分は粉々になっていたと思う。それを分かった上で、魔力量を調節していた。だけど、実際に人を傷付けるということを分かっていなかった。人を攻撃するのに、これくらいなら大丈夫なんてこと、絶対にない。
「そうね。とにかく合流しましょう。詳しい話は後で聞くわ。」
「はい。」
治療室に着いて、椅子を用意してくれたので座って待っていると、荷台に載せられた師団長さんとオリヴィアたちがやって来た。師団長さんよりオリヴィアの顔色の方が悪い。
「オリヴィア!」
スカーレットが駆け寄って背中をさする。優しい子だな。
「だいじょうぶ?かおいろがわるいわ。」
「わた、わたくし、カスミさま、おばあさま、ロセウスしだんちょうを、ちりょうしてさしあげてください。わたくしのせいで、おけがをなさってしまいました。」
「分かっていますよ。さあ、ベッドへ寝かせてちょうだい。お祖母様がしっかりと治しますからね。安心なさい。貴方も、孫がごめんなさいね。すぐに元通りに治しますから。」
「いえ、聖女カスミさんに治療していただけるなど、ありがたい限りです。騎士は怪我がつきものですから、これしきのこと、どうということはありませんよ。オリヴィア様も、そのように気落ちなさらないで下さい。私が貴女を侮ってしまった結果なのですから。」
「いえ、わたくしがいけなかったのです!まりょくりょうのちがいのいみをわかっていなかったのです!ただ、まほうをつかえることがうれしくて、まいあがってしまって……」
「皆が一度は経験することですよ。大概、何かしらを壊して怒られるものです。」
「でも!しだんちょうはものではありません!こわしていいものではありません!きずつけていいわけがなかったのに!しだんちょうが、ひじにまりょくをあつめているのはわかっていました!ちょっと、おどろかせてやろうとか、そんなばかげたことを、わたくしはかんがえてしまったのです!わたくしがわるいのです!」
あー、調子乗っちゃったかぁ。華々しく魔法デビューしたかったんだね。そんで、魔力量の調整を間違えた、と。まあ、自分の数値は聞いたけど、具体的にこれくらいの数値でどれくらいの威力っていうの、分かんないもんね。
ぶっちゃけ、自分より魔力が多い人たちの魔力量がよく分からない。魔力の動きは分かるけど。騎士の人たちは私より魔力量がないからか、なんとなくだけど自分と比較して、相対的にこれくらいかな?って感覚はある。騎士団長さんは私と同じくらいっぽい。セプテントリオだから?あ、でも、師団長さんもか。
師団長さんは私より低いけど、あそこにいた中では一番多かった。意識してなかったのもあるけど、今まで魔力を感知出来なかったのって、周りの人が自分より魔力が多いせいもあるのかも。日常生活は純魔石頼りで侍女たちも魔力使わないし。
師団長さんは無事な左腕を伸ばして、オリヴィアを少し引き寄せて頭を撫でた。下位のセプテントリオの家の者が三公の娘のオリヴィアに対して無許可で頭を撫でるなんて、本当は失礼に当たる行為だけど、後で怒られてもいいからオリヴィアを落ち着かせるため、自分が怪我を気にしていないという意思表示のためにやってるんだろうな。大人だなぁ。
「そうですね。貴女が、今、その事に気付けて良かった。相手が私で良かった。アーテル様が、カスミ様がいて下さる状況で良かった。我々騎士は、人の命を奪うことがあります。若い騎士は魔物の時は怯まずに戦えても、対人戦で怖気付く者、動かなくなった敵に動揺して戦えなくなる者は必ずいます。だが、稀に気付かない者もいる。そうなればもうその者は騎士ではなく殺戮者です。貴女は強い魔力をお持ちだ。いずれ、オッキデンス公になるお方だ。戦場に出ることもあるでしょう。今日のことを忘れずにおいでなさい。そうすれば、自軍の兵も、敵軍の兵も、無駄死にさせることはないでしょう。将となる者は、奪った命の数が勲章になるのではありません。残せた命の数こそが、誇るべきものなのです。そもそも戦が起きない方が良いのは当たり前ですがね。」
はは、と笑うと怪我に響いたのか、ツウっ、と顔を歪ませた。気力で何でもない風を装う精神力もすごいけど、この人の考え方、好きだ。
実は、私たちの世代でも戦争が起きる。ゲームであったのだから、確実だ。クライマックスだもの。しょっちゅう戦争を仕掛けてくる隣国ティターンが、アウルムの同盟国を唆して、過去最大規模の戦争が起きる。世界大戦と言ってもいいかもしれない。それを集結に導くのがヒロインとメインヒーローだ。
聖女外交の限界が来ているのかもしれない。戦争をするのは軍隊だけど、戦争を起こすのは為政者で、被害は何の罪もない一般国民だ。
一番いいのは、戦争を起こさないこと。ティターンはいつも聖戦と銘打って聖女奪うことを目標にしているから戦争回避自体は難しいかもしれないけれど、少なくともアウルムに友好的な同盟国が寝返ったりしないようにするのは国の仕事だ。その後のことはゲームでは触れられなかったけど、戦後、元同盟国と遺恨が残るのは確かだ。こちらが占領するにしても、必ずしもその国民に受け入れられるとは限らない。内紛は、きっと起こる。そうしたら、何の力もない人々がますます被害を受ける。
そんなことは許されない。すぐにでも手を打たなければならない。
「はい。はい。きもにめいじます。わすれません、ぜったいに。」
オリヴィアは涙を流して、師団長さんの手を両手で握った。
「けがをさせて、ごめんなさい。わたくし、きしも、くにも、てきも、すべてのひとを、まもれるように、つよくなります。」
師団長さんは満足げに笑って、そんなオリヴィアを応援すると言ってくれた。カッコイイなぁ。余裕のある大人だ。私より若いのに。
「さあさあ、治療を始めますよ。貴方、また痛んできたのでしょう?さっさと終わらせてしまいましょう。」
カスミ様がパン!とひとつ手を鳴らして、場の仕切り直しをした。
ベッドへ移された師団長さんの右腕に触れる。不自然な向きで、だらりと力なく伸ばされている。カスミ様はサッとスキャニングを終えると、魔力を流し込でいく。
魔力、なんだろうけど、なんか違う。もっと、研ぎ澄まされた力だ。魔力を水というのなら、御技の魔力は濾過された浄水だ。混じり気のない、純粋な魔力。最初のスキャニングの時は普通の魔力だったのに。
右手で御技を使いながら、左手で師団長さんの腕を動かし、調整している。
「はい、お終い。動かしてごらんなさい。」
「全く痛みがありません。元通りに動きます。」
「それは重畳。基礎訓練くらいならいいけれど、一ヶ月くらいは衝撃を与えないように気を付けて。しっかりつけば、前より丈夫になりますからね。」
「かしこまりました。お手間をお掛けしました。有難う御座います。」
「おばあさま、ありがとうぞんじます。なおってよかった。ロセウスしだんちょう、ほんとうに、もうしわけありませんでした。」
「頭をお上げください!この通り、腕はもう大丈夫ですから!」
「オリヴィア。今日は確かに貴女が悪かったわ。人を傷付ける恐ろしさを学んだわね?けれど、わたくしたちは人を癒せる力がある。一刻も早く御技の訓練が出来るよう、明日からはより一層訓練に励みなさい。」
「はい、おばあさま。わたくし、がんばります。」
そこに帰結するとは、カスミ様はやはり。いや、やめておこう。確かに、戦争が起きるまでに聖女の御技を覚えて技を磨くことは大事なことだ。
ゲームでは、大戦の前に小規模の戦闘が幾度かあった描写があった。そこまでに間に合わせる。グロが無理なんて言ってらんない。私たちの有用性も示せて、対外的にも聖女の末裔の価値を上げることが出来る。
大戦は起こさせない。既に違う流れが出来ている。強制力になんか負けてやらないからね!
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