22 魔力訓練②
魔力訓練一日目終了です。
「できたぁっ!」
スカーレットの喜ぶ声が聞こえる。うわー、あと私だけ?
「大丈夫です。ヴィオラ様も出来ていますよ。もう少し戻す量を増やせますか?」
ほ、本当?確かにチョロチョロと出てる感触はある。でも、それがデイジーに流し込めてるのかがよく分からない。くすぐったさは大分なくなったけど。
「ちゃんとデイジーにまりょくがもどっているかしら?じぶんからでてるのはわかるけれど、それがよくわからないの。」
「はい、戻ってますよ。魔力感知に慣れれば、それも分かるようになります。今はただ入ってきた魔力を出すことだけをお考えください。出てきた魔力はこちらで吸収しますから。」
「わかったわ。もうすこしつきあってね。」
「私は大丈夫ですから、お気遣いなく。あと少しです、がんばりましょう。リラックスしてくださいね。身がこわばっていると上手くいきませんから。」
デイジーは笑いかけてくれた。応援してくれてると思うと気合いが入る。あ、気合いは入れても力は抜かなきゃね。
大きく深呼吸をして、肩を動かし力を抜く。手に少し力を込めてデイジーの手に密着させる。ピアノを弾く時みたいに、手に軽く体重をかけた。入ってくる魔力を意識して、全身に巡らせる。ここまでは大丈夫。それを右手から放出する。さっきアーテルが見せてくれたみたいに、デイジーの手に向かって押し出して行く。
あっ、なんか分かったかも!デイジーの手に魔力が戻っていく感じを認識出来た!デイジーを見ると、笑って頷いてくれた。
「できました!わたくしもできましたわ!」
香澄様は私の声を聞いて、拍手をしてくれた。目が合うとふたつ頷いて、満足そうな笑みを浮かべた。
「おめでとう、よくやったわね。一時間足らずでここまで辿り着くなんて、三人とも素晴らしいわ。」
いやぁ、なかなか難しかったよ!アーテルのアドバイスがなきゃ、今日中は無理だったかも。前世でも身体使うこと苦手だったから(運動音痴とも言う)(ちなみに芸術のセンスも皆無)、絶対足引っ張ると思ってたんだよね!
「では、今後の流れを話します。こちらにおいでなさい。」
二歳児が一時間近く立ちっぱなしだったから、さすがに疲れたわー。ちょっと頭痛いし、足元がふらつく。サッと椅子を用意してくれたオリエンス家の侍女、優秀。代わりに、デイジーたちは自分たちが座っていた椅子を片付けている。
「やはり知識があると違うわね。普通は魔力交換が出来るようになるのに一ヶ月はかかるのよ。」
「なんでいつも魔力感知から始めるべきところを循環と放出まで同時進行でやらせるのよ。魔力が高いから出来たことなのよ。本来なら、まず自分の魔力を認識するところから始めるものなんだから。みんなよくやったわよ。本当にがんばったわね。」
ええー!そうなの!?やっぱり香澄様はスパルタ……最早、鬼教官なのでは?後ろに仁王像の幻が見えるよ!
「だって、今回は時間がないじゃない。」
「私の時もそうだったでしょ。」
はあ、とアーテルは嘆息した。
香澄様は視線を少し上げて私たちの侍女が戻ってきたことを確認する。
「これからのことを説明するから、侍女のみんなは覚えておいてちょうだい。今日の訓練はこれで終わりにします。明日から午前9時にここに集まって、11時までは魔力訓練を行います。その後、30分は振り返りと魔力測定ね。普段から体内の魔力を常に循環させなさい。それも、器を広げるのに役に立つわ。身体的な成長が止まれば、魔力の器もそこで成長を止めます。個人差があるから、二十歳を過ぎても伸びる者もいれば、十五歳くらいで止まってしまう者もいるわ。女の子は早めに成長が止まる子が多いから10代前半が勝負よ。しっかりやりなさい。」
「ハイッ!」
「はい。」
「はい。」
私だけ威勢よく答えてしまった。恥ずかしっ!
「明日は魔力の放出をメインに行います。まずは魔力交換を三十分。十分毎に相手を変えます。休憩を挟んで、魔力放出の訓練を本格的に始めます。純魔石を用意するから、それに魔力を込める訓練ね。基礎的な訓練であり、これが出来れば王族にとって大事な役目を果たせるようになります。聖石への魔力充填は王族の義務です。貴女方がそれを出来るようになれば、他の王族の負担が減らせるわ。」
「おはなしのとちゅうにすみません。せいせきとはなんですか?」
オリヴィアが挙手をして質問する。確かに聖石なんて単語、ゲームでもアニメでも聞いたことない。全く知らないワードだ。
「聖石とは、聖女降臨の地である聖地にある、聖女を召喚するための魔力を貯める魔石のことです。いずれ次代の聖女を召喚するために、魔力を貯めてゆくのです。普通の魔石は使わなければ魔力が抜けてゆくものですが、聖石は注入した魔力を使用するまで永遠に貯めておくことが出来ます。聖地にあるアストルム大聖堂の聖女召喚のための魔法陣は、聖石の上に描かれています。いずれ行くことになるだろうから、その時に分かるわ。」
摩耗しない蓄電池みたいなものか。すごいな。夢の資源じゃん。
ゲームは召喚されてからの話だし、前日譚なんてないから、どうやって召喚したかなんて知らなかった。
「聖女降臨の地アストラ高地は聖石を世界で唯一産出する鉱山です。産出量は他の魔石と比べて僅かばかり。王族が守るべきもののひとつです。よく覚えておきなさい。」
香澄様の顔から笑顔が消えた。王族としての顔にも見えるし、怒っているようにも見える。香澄様って、自分の意思に関係なく召喚されたことはどう思ってるんだろ。そんなことさすがに聞けないけどさ。
「魔石への魔力充填が出来たら、次は魔力を魔力のまま維持します。先程、アーテルがやってみせたわね。手のひらから放出した魔力をその場に止めるのよ。最初は可視化出来るように色をつけてもいいわ。最終目標は色なしでの維持。これは魔力感知の訓練も兼ねます。わたくしたちは魔力感知で認識できますから、良しとするまで続けるわよ。最終的には空気中から魔力の吸収と無詠唱での具現化まで行きたいわね。ヴィオラが水を出したでしょう?あんな風に出来るといいわ。ジョージの度肝を抜いてやれるわよ。」
あれ?なんか目標変わってない?お父様の度肝を抜かせたいんじゃなくて、聖女の御技の訓練をする許可が欲しいだけなんだけど?
「魔力の循環の他に、イメージトレーニングも行ってね。魔石や媒体なしで具現化出来るものは限られているわ。水が一番簡単ね。貴女たちはむしろ詠唱はしない方がいいかもしれない。既にイメージはあるでしょう?」
まあ、前世の頃に理科で学んだことだもんね。化学が苦手でも、さすがに小学校や中学校くらいの話なら理解出来る。前世の知識で出来るってことは、前世と共通するものの元素とかは性質が同じなのかもな。
さっきの水も、アーテルが言うような空気中の水分じゃなくて体内の水分だった可能性もある。自分の手から出てきたし。ティーカップ一杯分くらいだったから、湿度も高くないこの場所で、空気中からそれだけの量を拙い魔力で一気に集められるとは思えない。
だとしたら、お話が終わったら水分補給しなきゃ!脱水症状になっちゃう。二歳児だといきなりティーカップ一杯分の水分が出て行くのは絶対危ないでしょ!頭痛と疲労感は訓練によるものじゃなくて体内の水分が失われたせいかもしれない。
あ、もしや、化学が得意なら、魔法で無双状態なのでは?戦いたいわけじゃないから別に出来なくてもいいんだけどさ。
「明日からはわたくしもビシバシ行きますからね!みんな、気合いで乗り切るのよ!」
うわぁー!香澄様がメッチャやる気になってる!見た目とは裏腹に脳き……ゲフンゲフン!
あんまり失礼なこと考えてたら、炯眼で伝わっちゃうかも!聖女、怖い!!
本来の魔力訓練の流れ
①体内の魔力感知
②体内の魔力循環
③他者の魔力感知
④他者と魔力交換
⑤物質への魔力定着(魔石に魔力注入)
⑥魔石を介して属性の具現化(水・火・風・土・光)
⑦詠唱による発動効果の限定(量や状態を指定するex.水→液体or固体、コップ一杯〜バケツ一杯程度※気体は難易度が高い上に一般的に使い道が無いので行わず)
魔力球作成(魔力放出して空中に固定)、空気中の魔力吸収、無詠唱発動は高等魔術なので、普通は子どもにそこまで教えない。魔石ナシ、魔法陣(詠唱の代替として同じく発動効果を限定する)ナシの無詠唱発動はこの世界の人間で出来る者はまずいない。召喚聖女くらい。原理が分かれば出来るが、そっち方面の学問が発達していないので難しい。
てな感じで、香澄はめちゃクソスパルタでっす!
この世界において魔法の発動は具体性のあるイメージが大事なので、成分が明確でないもの、そもそも魔力を通さないものは普通に人力で加工しています。
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