21 魔力訓練①
魔力訓練が始まりました。
ノーマさんが外で待ってる侍女を呼んできた。デイジーとメリディエンスの侍女とオッキデンスの侍女はそれぞれ私たちの側につく。
「お待たせしたわね。さて、これからこの子たちの魔力訓練を始めるわ。まずは体内に留まっている魔力を外に出すところから始めます。侍女のみんなにも協力してもらうわ。貴女たちは侍女と両手を繋ぎなさい。侍女のみんなは少しずつ魔力を流していってあげて。子どもの頃に自分たちがしてもらったようにね。魔力の器の限界まで注げば、逃げ道を探して身体の中を魔力が巡ります。それを手のひらから押し出すの。利き手はみんな右手ね?それならば、左手から魔力を流し込んでもらって、右手から戻してあげましょう。繋いだ手のひらに道を、そうね、侍女の手と自分の手が管で繋がっているようなイメージで、水を流すように動かしてみなさい。ノーマ、ナンシー、侍女たちに椅子を用意してあげて。侍女は身長差でやりづらいから座ってもらうけれど、貴女たちは立っていなさいね。その方が、魔力が身体の中でどう動くのか感じやすいから。」
準備が整ったら、手のひらを上に向け、差し出されたデイジーの手に、私の手を重ねて、ぎゅっと握ってもらう。
「始めなさい。」
香澄様の合図でデイジーが魔力を流し始める。手のひらがこそばゆくはあるけど、流れ込んでくる感じはしない。二人の方を見ると、やっぱり苦戦していた。
「ヴィオラ!人のことは気にせず、集中しなさい。流れ出た魔力は空気中に還るけれど、侍女の魔力は減ってしまうのよ。上手く感知出来ないのなら、手のひらにまず穴を開けるイメージをして。そこから魔力が押しあがってくるはずよ。魔力を扱うにはイメージが大切です。想像力と精神力と言ったはずよ。精神を集中して、想像力を働かせてごらんなさい。侍女のみんなは慣れてきたら、流し込む量を増やしてちょうだいね。」
よそ見したら怒られちゃった。香澄様、意外とスパルタ!?
私は目を閉じて想像した。左手にブラックホールみたいな黒い穴を開けて、魔力の通り道を作る。
そうしたら、ジワジワと、粘性のある液体が流れ込んでくるかのような感覚があって、目を見開いた。
「感じられましたか?」
流れ出した魔力に気付いたのか、デイジーに問われた。
「ええ。でも、なんだかむずがゆいわ。」
「分かります。私もそうでした。今、どの辺りまで私の魔力が来ている感覚がしますか?」
「てくびのあたり、かしら。でも、うでよりうえと、ゆびさきにはまだかんじられないわ。たまっていってるだけみたい。」
「それなら、次は管をイメージしてみてください。先程カスミ様がおっしゃられたことですよ。全身に巡らせて、最後に右手から出すようにしてくださいね。」
「わかったわ。やってみる。」
魔力を流す管、か。血管がいいかな?全身に巡らせて、毛細血管から身体中に酸素を供給していくイメージで、肉や骨の隅々まで魔力で満たす。
実際には既に自分の満たされてるんだろうけど、そこに魔力が宿っていることを確認していく。限界まで満たし切って、もう入らないってところまで来たら、右手に穴を開けて、蛇口から水を出すように、デイジーの手のひらに流し出す。
ウン、これで行こう。何となく分かった気がする。
「動きましたね。慌てず、ゆっくりで大丈夫ですよ。」
「わかってるわ。すこしだけながしこむりょうをふやしてくれる?トコロテンほうしきでやってみるわ。」
「トコロテン?」
「あ、なんでもないの。きにしないで。すこしでいいから、ながれにいきおいをつけたいの。」
「かしこまりました。」
おー、ヤバいヤバい。さっきまで前世トークしてたから油断したよ。追及出来る状況じゃなくてよかった。
「ぜんしんをめぐったわ。みぎてからだすわね。」
「こちらは準備出来ておりますので、いつでもどうぞ。」
私は蛇口を想像する。うーん、あんまり上手くいかないな。そうだ、お風呂のお湯を排水するイメージとかどうかな?グルグルと渦を巻いて、吸い込まれていくみたいな。
「キャッ!」
デイジーが悲鳴を上げた。あれ?水が出たぞ!?というか、お湯?デイジーのお仕着せの膝を濡らしてしまった。
「まあ、貴女もなのね。」
香澄様が頬に手を当てて呆れたように言った。
「アーテルも、想像力が優って、魔力そのものではなく具現化した水が出てきたのよ。わたくしが説明で水と言ったせいね。うっかりしていたわ。」
「ヴィオラ様、すごいですね。具現化は魔力訓練の最終段階で行うことですよ。」
「けれど、今回は失敗だわ。魔力そのものを流し込めなければなりません。特に聖女の御技は形のないものをイメージしなければならないのだから。」
うわぁ、しょんぼりだよ。魔力そのものっていうのがよく分からないんだけど、そもそも魔力ってどういうものなの?
「できたわ!」
いいなぁ。ゲーマーなオリヴィアは魔力そのものの理解もありそうだ。
「オリヴィアはそのまま魔力を回し続けなさい。スピードを上げてね。オリヴィアの侍女は流し込む量を増やしなさい。これは魔力交換というの。魔力量の拡張は成長期にしか出来ないの。器を広げるのに最も簡単で有効な手段なのよ。これから、毎日一番初めにこれをアーテルも入れてみんなでやりますからね。今日中に出来るようにならなければダメよ。」
「はいっ!」
「がんばります!」
「毎日最後に魔力量を測ります。貴女たちは王族。元々の量が侍女とは違います。今日の魔力交換で魔力は増えないけれど、明日からアーテルを相手にすれば短期間でも飛躍的に上がるでしょう。この子は今、この国一番の魔力量を持っているのだからね。」
えー!アーテルってもうそんななの!?メインの悪役令嬢だけあって、巨大な壁だなぁ。
「ねえ、もしかして、魔力を見たことない?」
アーテルが横に来ていたのに気付かなかった。侍女の前でもすっかりタメ口だけど、取り繕うのはやめたのかな。そっちの方がありがたいっていうか、私が頼んだんだけど。
「ない。まほうじたいもおとうさまにまほうでたかいたかいしてもらったくらい。」
「騎士団を見に行ったりするんでしょ?」
「まほうをつかうくんれんはみせてもらえないのよ。アーサーにつきあって、ばじゅつくんれんじょうしかいかないしね。」
「なるほどね。貴女、ごめんなさい。一度魔力交換止めてもらえる?わたくしが今から魔力を見せるわ。」
「かしこまりました、アーテル様。」
デイジーと手を離した。思わず手のひらを見たけど、穴は開いてない。そりゃそうだ。イメージだもんね。
「ヴィオラ、見て。」
アーテルがその小さな手を両手で水を掬うような形にした。
アーテルの手のひらから出る霧のような帯がくるくると少し浮いたところに集まって、ゆっくりと白い光が球体になっていく。魔力の球体は、恒星のように周っている。その形を留めるために、アーテルは魔力を注ぎ続けているみたい。
「これが魔力。今は可視化出来るように白く色をつけているけど、本当は無色透明よ。よく水に例えるのはそのせいね。高い高いの時に何も見えなかったでしょう?陛下は貴女を魔力で包んで上下に動かしたのでしょうね。」
私はコクコクと頷いた。なるほど、見えないから認識してないだけで、魔力に包まれていたわけだ。風の魔法とかだと思ってたわ。
「具現化も、魔力を注ぎ込む物にその成分がなければ作り出せないの。水が出たのは空気中の水分を集めて具現化したせいよ。普通の人はその原理を知らないから、すぐに具現化出来ないし、大体属性を持つ魔石を通して魔力を物質に具現化するの。照明だって、光源石という魔石を使っているのよ。魔力を貯めるだけの純魔石を動力源にして、触れていれば光がつくし、離せば光が消える。分かる?」
アーテルは魔力の球を消した。靄のように消えていく。これは空気中に還ったってことかな?文字通り、霧散したって感じ。
「わかる。だから、まいにちじじょたちがしょうめいにいしをいれたりだしたりしていたのね。ぜつえんたいがあればべんりなのに。」
「そうよ。考え方が理屈っぽいわね。そういうのは魔道具師に相談してみなさいよ。とにかく、魔力だけを魔力の状態で留めておくのは集中力がいるわ。これは第三段階目でやることだけど、お祖母様は明日中に第二段階と第三段階を終わらせるつもりよ。こんなところでつまづいちゃダメ。手を繋いだ相手の魔力と融和するイメージでやってみて。水に水を混ぜたって、ただの水でしょ。それと同じよ。ただ、水流が出来るだけ。その流れをコントロールするのが魔力制御よ。」
「なんかわかったきがする!ありがとう、アーテル!」
「やってみせ言って聞かせてさせてみて……だったかしら?それがお祖母様には足りないのよ。言うだけだから。じゃ、がんばってね。」
「ほめてやらねばひとはそだたじ、よ!できたらちゃんとほめてよね!」
「ハイハイ。」
呆れたように笑ってアーテルは次にスカーレットの方へ向かって行った。私にしたみたいにアドバイスするのだろう。口は悪いし、塩対応だけど、なんだかんだ優しいトコちゃんなのであった。
「さあ、デイジー!もういちどさいしょからはじめましょう!デイジー?」
デイジーが目を丸くして、私とアーテルを往復して見ている。侍女としてしちゃダメなヤツだよ。マーガレットに見つかったら怒られるよ、それ。
「アーテル様と随分と親しくおなりなのですね。三公の御令嬢とはいえ、あの様な物言いをお許しになるなんて。」
「わたくしたちはしんゆうになったの。たいとうなかんけいをわたくしがのぞんだのよ!ふけいだとかいわないでね!」
「か、かしこまりました……。」
大きな声で言ったから、アーテルがこっちを睨んでる。睨まれたり白い目で見られるの、ちょっと癖になってきたかも。アーテルはすぐムキになるから、案外からかいがいがあるのかもしれない。いたずら心が芽生えそう。
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