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19 聖女様は元ドルヲタ

また寝落ちして日付け変わっちゃった!

タイトルネタバレ回です。

 三公のお二人は、陛下がそう仰るのなら、と一応許可してくれた。話し合うことが増えた、とお父様はぼやいていた。


 私たちは早速訓練を始めようということで、別室に移動することにした。カスミ様がお泊まりになられてる部屋でするんだって。その前に少しお話しましょう、だって。


「おかあさま、ごごはアーサーときしだんへおうまをみにいきたいのですが、よろしいですか?」


「ええ、いいわよ。こちらで先触れを出しておくわ。」


 オリヴィアに服をつい、と引っ張られた。なんかあったっけ?


「どうしたの?」


「きしだんにわたくしもおともしてよろしいですか?くんれんじょうも()()()のひとつですもの。それと、きのうおっしゃっていたホールのけんがくもさせていただきたいのです。」


 そういやそんな話してたな。忘れてたわ。


「おかあさま。きしだんにみなさまもいきたいそうです。あと、ぶとうかいにつかうホールをけんがくしたいのですが、かのうですか?」


「あら、女の子が騎士団に興味があるの?いいわよ。くれぐれも騎士の邪魔にならないようにね。ホールも今の時期は何もないからよろしくてよ。女の子は煌びやかなものが好きだものねぇ。今日すぐにとは出来ないけれど、明日以降に見に行けるようにしておくわ。」


「ありがとうぞんじます!」


「まあ、申し訳ございません、うちの娘のわがままで。」


「これくらい構わないわよ。ポーラだって子どもの頃、ドレスを着て夜会に出てみたい!ってよく言っていたじゃない。」


「そういえばそうだったわね!貴女のお母様のクローゼットに入り込んで一緒に遊んだこともあったわ!」


「もう!イヴったら!娘たちの前でやめてちょうだい!」


 オリヴィアのお母様はポーラさんというらしい。スカーレットのお母様はイヴさんか。

 私の身分からはこの二人も呼び捨てにしないとダメなのよね。年上、って言っても前世の私より若いけど、そういう人たちを呼び捨てにしたり、敬語を使わずに話したりしなきゃいけないのが心苦しかったりする。

 普段はお互い畏まってるようだけど、やっぱりお母様と三公の方々って仲良いんだな。詳しく歳は知らないけど、親戚で同年代だもんね。


 とりあえず、私たちは退室する。また抱っこ移動だ。ベビーカーがあればまだ心が痛まないのにな〜。エレベーターがないから無理か。この世界の人はみんな健脚でいらっしゃる。健康にはいいよね。


 カスミ様のお部屋に着いたので下ろしてもらった。


「侍女のみんなは席を外してくれないかしら。ちょっとこの子たちとじっくり話がしたいの。侍女の仕事はカミラがいるから大丈夫よ。」


「カスミ様!それはさすがに出来かねます!」


 わたしを抱っこしてくれた新米侍女のデイジーは食い下がったが、カスミ様の圧に負けて、他の侍女と共に魔力コントロールの訓練が始まるまで扉前待機になった。付いてきたのがデイジーで良かった。他の侍女なら言い包めるの大変だもん。


「さてと。ご同郷のみなさん、異世界へようこそ。歓迎するわ。」


 カスミ様がニッコリ笑って、唐突に切り出した。


「香澄!いきなり過ぎるわよ!」


 アーテルが怒鳴った。カスミって、聖女様を呼び捨てかい。


「わたくし、いえ、私の侍女たちはアーテルの事情を知っているわ。ここにいる者だけですけどね。彼女はカミラ。我が家の侍女長よ。」


「元でございます、大奥様。」


 元侍女長なら結構なお年ではない?薄いグレーの髪にブルーグレーの眼をしているから分かりづらい。


「ですって。そしてこちらがノーマ。アーテルを抱っこしていたのがナンシー。彼女はアーテルの専属よ。」


「よろしくお願い致します。」

「よろしくお願い致します。」


 ナンシーさんは若い侍女。学校出たばかりくらい。ウチにもデイジーっていう19歳の侍女がいるけど、同じくらいかも。黄緑の髪に藤色の眼。

 ノーマさんは、とっっっっってもお美しい!往年のハリウッド女優みたいな侍女のお仕着せの上からでも分かるボンッキュッボン!クリーム色の髪に南の海のような青の眼。お色気ムンムンのR18っぽい上に年齢不詳。おいくつなのかと美の秘訣を聞いてみたい。


「改めて自己紹介をさせてね。私は北原香澄。北は方角の北、原は原っぱの原、こうの香りにさんずいに登るの澄むよ。」


 指で空に漢字を書いてみせてくれた。漢字、久しく目にしてない。私たちは黙って香澄様の話の続きを聞いた。


「この世界にやって来たのは15歳の時。聖女はみんな15歳なのは知っていた?そう、やっぱり知ってるのね。アーテルも知っていたわ。」


 私たちは頷いた。そりゃ、召喚された最初に説明されるからね、ゲームで。舞台しか知らないアーテルでも、その場面はあったから知ってたんだろう。


「召喚されたのはもう38年も前になるのね。この世界の人たちには歓迎されて、とても優しくしてもらったけど、あの頃は日本が恋しくてずっと泣いていたわ。私はね、山梨県の出身なの。中学を卒業して、春休みに、好きだったアイドルグループのコンサートを観にひとりで東京へ行ったのよ。その帰りに召喚されてしまったの。アーテルが言うには、当時はニュースにもなったらしいわ。」


「そうだったのですね。アーテル、よくおぼえてたね。」


「コメント求められたからね。マスコミに。」


「えっ?」


「それがね、その時のコンサートがアーテル、いえ違うわね。丹羽瞳子(にわとうこ)の卒業公演だったのよ。私、トコちゃんのファンだったの。」


 なんとなんと!ここにもトコちゃんファンが!意外や意外!香澄様はドルヲタだったのね!


「初めてのコンサートが大好きなトコちゃんの卒業公演なんて、寂しかったわ。どうしても最後に生でアイドルのトコを観たくて、何とか日帰りする算段をつけて親を説得して、ようやく行くことが出来たの。とても感動した。観に来て良かったって思った。ソロで何曲か歌ったのだけど、特に素敵だったのはアコースティックギターでの弾き語りね。聞いたことのある洋楽だけど、歌詞なんか全然分からなかったのに、すごくすごく心に響いて、私泣いちゃって。きっとこれからもこの人はこうやってみんなを感動させてくれるんだって思ったわ。なのに、私はその姿を見ることなく、この世界に連れて来られた。もっとたくさん、トコの活躍を見たかったのに。」


「香澄、話が脱線してる。あと、トコはやめてって何度も言ってる。」


「あら、ごめんなさい。貴女のことになると夢中になっちゃって、つい。」


 香澄様がテヘペロされた。可愛いおばあちゃんがテヘペロすると普通に可愛いな。

 そっかー。香澄様はトコちゃんのこと大好きだったんだな。私はニワカです。ごめんなさい。


「そうそう、貴女達、これは知っていて?歴代の聖女は出身がバラバラなのに、みんな東京にいる時に召喚されているの。それも山手線の内側ね。東京の何かしらが、多分、こちらで言う魔法陣のような状態になっているのだと思うわ。歴代の聖女の手記があるのだけど、新しく召喚された聖女に渡されて引き継いでいくのよ。最初の頃のものは失われたのか、元々ないのか分からないけれど、ここ数代ならば保存状態の良いものがあるわ。日本語で書いてあるから、こちらの人には読めないの。みんな、心の裡を晒して書いていたわ。それ以外にも、御技に関することがたくさん書かれてるのよ。オリエンスの自宅に置いてきてるから今は手許にないのだけど、いつか貴女たちにも読ませてあげるわ。」


「おはなしのとちゅうにもうしわけありません。かすみさまはこのせかいがどういうせかいなのか、アーテルさまからきいておられるのですか?」


 オリヴィアがおずおずと手を挙げて質問した。


「……聞いたわ。ここは、ゲームの世界なんですってね。アーテルは将来幽閉されると言っているわ。本当なの?」


「アーテルさまときまったわけではありません。ただしくは、ここにいるわたくしたちのだれかが、ですわ。じだいのせいじょが、さくじつのおちゃかいにきていたセプテントリオとアーサーでんかのなかから、えらんだあいてとむすばれたばあい、そのこんやくしゃであるれいじょうがゆうへいされるのです。アーテルさまはゲームはおやりにならなかったそうですから、このことをごぞんじなかったようですよ。」


 スカーレットがはきはきと答えた。

 私たちの誰かが、いつか断罪を受けて幽閉される。考えたら憂鬱になってきた。


「そうなのね!なんてこと!誰もが不幸にならない道筋はないの?」


「ゲームじょうではございません。」


 オリヴィアは首を横に振った。


 確かに、お友だちエンドはあっても、悪役令嬢は結局断罪されていた。その場合はやっぱりアーテルなんだけど。

 あ、一応、逆ハーレムエンドはないよ!バッドエンドもなし!全年齢だから!


「何とかならないのかしら?」


「なんとかしたいとはおもっております。ね?」


「はい。」


「そうですね。」


「別に私が幽閉されればいいんでしょ?」


「いや、よくないでしょ。」


「そうですわ。そもそも、アーサーさまがヒロインにえらばれるとはかぎりませんし。」


「そうよ、アーテル。そんなこと言わないで、どうにか運命に抗う手段を考えましょう。」


 運命に抗う。しかも、分岐する運命。難しいな。ヒロインが召喚されたら、行動をよく見ておかなきゃいけない。逐一、報告し合って、情報は共有していかなきゃ。

 それまでにやれることはあるかな?スカーレットみたいに婚約者との絆を深めるとか?……個人的にはないな。強制力あったら意味ないし。アーサーとはすでに絆があるとは思うけど!


「カスミさまのおっしゃるとおりです!アーテルさま、はじめからそんなすてばちになってはいけません!わたくしたちでてをくんで、ヒロインにたいこういたしましょう!しゅじんこうとはいえ、ポッとでのせいじょになぞ、まけたくありませんわ!」


 スカーレットは握り拳を作って決意を新たにした。やる気満々だ。


「ゲームかいしまであと13ねんもあるわ。わたくしたちがくににとってひつようふかけつなそんざいになることはじゅうようだとおもうの。みんなはこのせかいでやりたいこととかある?」


「わたくしはジョエルさまとけっこんしたいです!それがだいいちもくひょうで、だいにもくひょうはあちらでまなんだいりょうのふきゅうです。がくせいでしたからたいしたことはできませんが、えいせいかんねんをかえることはできるとおもいます!」


 なるほど。スカーレットは看護師目指してたんだもんね。歴代聖女のお陰でそこそこ清潔だけど、医療はまだまだ未発達の分野だ。日本の現代医療には遠く及ばない。


「わたくしは、ゆうへいをさけれればとくには。ただ……そうですね。たべものはちょっとかんがえたいです。このせかいのしょくじ、すこしにがてなんです。ぜんせのははがけんこうしこうだったので、あっさりしたものがすきなのですが、なんというか、こう、こちらのりょうりはたべつづけたらびょうきになりそうで。」


 オリヴィアはプクプク感がまだあるべき二歳児にしては細いけど、食が合わないせいなのかな。野菜も出るけど、基本が肉だもん。しかも量が多い。中高年は男女共に結構メタボリックな人、王宮でも見かけるよ。健康にも良くないよね。


「……私はここでやりたいことなんてないわ。」


「アーテル……。」


 香澄様が悲しそうな顔をされた。そうだ、トコちゃんにはアレがあるじゃない!


「おんがくは?もうやらないの?」


「歌はたまに香澄にせがまれて歌ってるわ。浄化も歌に魔力を載せるとやりやすいの。楽器は……まだこの身体じゃ何も出来ないし。一応、香澄がピアノを用意してくれてるけど。」


「いせかいのおんがくでせかいをせっけんすればいいじゃない!わたしもトコちゃんのうた、またききたいしさぁ!」


「簡単に言うわね。まあ、考えとくわ。」


 ヨシヨシ。トコちゃんは歌ってるのが一番いいよ。歌は人間が生み出した文化の極みだからね!


「そういう自分は何がしたいのよ。」


「あー、わたし?わたしもとくにやりたいことまだないんだぁ。」


「何よ、それ。人には聞いといて。」


「とりあえず、アーサーをりっぱなおうさまにする!これはしじょうめいだい!けっこんは、ぜんせでもえんがなかったし、まだかんがえられないなー。」


「ヴィオラさまはぜんせでおしごとはなにをされてたのですか?こうむいんといっても、いろいろありますよね?」


「んー?はんじだよ!」


「はんじ?」


「さいばんかん!やーっとしたづみおわって、ひとりだちしたばっかりだったから、それはちょっとぜんせでのこころのこりかな〜。もうちょっとしゅっせしたかった!」


「「「ええーーーっ!!」」」


 ええーって、ちょっと!三人ともひどくない?そんなに驚くこと!?

すみれの職業が分かりました。

自分でもこれで正しかったのか分かりません(笑)



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