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189 初代聖女の置き手紙②

お楽しみいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

 差し当たってタンタルに初代聖女の手紙が残っていないかダスティンが連絡してくれた。南大陸の情報を集めたいらしい。他の国はちょっと様子見。


 それらしき物はあるとのことで、持って来てくれたんだけど、その使者が以前会ったロムルス殿下とそのお父様。


 年が近いということで、ロムルス殿下にはアーサーと交流をしてもらうことになったのだけど、何故かアウルスがいる。


「殿下はロムルス様と仰るのですな。」


「そうだ。ロマヌス大帝国の大賢者と同じ名前だ。」


「よくお勉強されていらっしゃる。だが、ロムルスという名はロマヌス大帝国の建国の父の名ではないですかな?」


「ぼくたちタンタル王族の祖先は最後まで南大陸に残った大賢者の子孫だから、建国の父、大ロムルスではなく大賢者の名前として扱うんだ。」


「そーかそーか。そうでしたか。大ロムルスではなく大賢者の名をお継ぎになっている。」


「そうだ。そなたこそよく知っているな。」


「ワシはティターン出身ですからな。大帝国のことは詳しいですぞ?」


 周りの大人たちは驚愕の表情だが、何故かロムルス殿下の顔は花が咲いたように輝いた。


「ほんとうか!?ティターンに大賢者の伝説は残っている!?」


「残っておりますよ。あとで教えて差し上げましょう。今はアーサー様と遊んでいらっしゃい。」


「うん!」


 ロムルス殿下はアーサーの手を引いて、子ども部屋のおもちゃを物色し始めた。二人とも可愛いなぁ。

 私は内緒話の魔法陣を起動させてアウルスに話しかけた。アウルスとお祖母様にも同じのを至急作ってもらったのさ!いちいち侍女を追い出すのも大変だからね!


「かわゆいのう。」


「ねえ、安請け合いしていいの?」


「お?大丈夫、大丈夫。大賢者のことはワシはよーく知っている。」


「前世の知り合い?」


「うんにゃ、ワシ。」


「はあ!?」


「そんな大きな声出したらさすがに聞こえるぞ?」


「アウルス、そんなにすごい人だったの?」


「どこからどう見てもすごい人じゃろうが〜。」


「ホントその話し方やめてよ。なら、タンタルの王族はアウルスの前世の子孫ってこと?」


「そうだよ。ワシの一世一代の大恋愛の末に生まれたかわゆい子どもたちの子孫ってことだな。誰の子か分からんが。」


 なるほど。ここに同席を願ったのは孫の顔が見たかったのか。いや、孫より遠いけど。


「あの子は特に昔のワシに似とるの。将来イケメン確定だな。」


 いや、イケメンは確定だろうけどさ。アウルスに似てると言われるとなんかモヤモヤする。前世の顔なんか知らないけど。


「こちらが初代聖女の手紙と思われるものです。」


 大人は場所を移して初代聖女の手紙解読だ。


 参加者はお父様、ダスティン、誰かが呼んだのかどっかから聞きつけて来たのかオズワルド大伯父、お祖母様、アレク、タンタル王太子、私、他補佐官。


 セレンより保存状態が悪いのは海を越えて来たからだろうか。手袋をしたお祖母様が紐を解く。お、案外読めそうだ。


「あら。懐かしいわね、こういうの。」


 ですよね!私の年代でも、ちょっとマセてる子は小学生の頃こういう字の書き方してたもん!


「ヴィオラ、本当にこれ、音読したの?」


「しましたわ。やけくそで。」


「公表を憚られるような内容なのでしょうか。」


 ロムルス殿下の父、プリムス王太子殿下が仰られた。


「いえ、誰かに読まれることを想定しているから、内容は問題ないのだけど……。」


「ほぼ惚気ですわね、これも。」


「初代様は始祖様を愛しておられたのですなぁ。愛とはいいものです。」


 アウルスの戯言は置いといて。


「ヴィオラ、読んでちょうだい。」


「かしこまりました……。」


 恥をかくのは私か。確かにこれをお祖母様に読み上げていただくのはちょっと……。


「では、参ります。お祖母様、分からないところがあったら教えてくださいませ。」


「もちろんよ。」


 すぐに漢字に脳内変換出来ない時があるからね!


「えー。DEAR未来の聖女へ。初めましての方も二度目ましての方も何回目ましての方もこんにちは!はじまりの聖女……お名前が消えております……です!最近はじまりの聖女って呼ばれてるらしーよ、あたし!なんかすごくない!?おにーちゃんが知ったら絶対爆笑だよ!アイツまぢオタクだし!アニメとかゲームとかばっかやってっし。しかもアイドルの追っかけとかしてるし。キモくね?あっ、でも、あたしもマンガは好きだよ!あと、おにーちゃんが追っかけてる……シュガソル……シュガソルも好き…………。一番好きなのは……。」


 お祖母様を見ると懐かしげな、それでいて寂しげな顔をした。そして、私に続きを促す。


「好きなのは?」


「トコちゃん……。」


「初代様はシュガソルもトコちゃんも知ってるのか?」


「わたくしと同じ時代から来た方だったのね……。」


「続きは何と?」


「あ、はい。え、数行に渡ってトコちゃんの話ですが読み上げますか?」


「折角だから聞きたいな。」


「そうですね。初代様のお言葉ですから。」


「では続けます。みんなトコちゃん知ってる!?チョーかわいくない!?あたし、高校入ったら日サロ行って茶髪にしよーと思ってたケド、トコちゃんマジかわいくて日サロ行かずに髪黒いままにしてるんだ!今、真似して腰まで伸ばしてる!おにーちゃんにはトコがけがれるからやめろって言われた。失礼じゃない!?おにーちゃんはあたしがあっちからいなくなったときは高三だったんだケド、トコちゃんと同じガッコーに行きたいんだって!トコちゃんはおじょーさまだから女子校に行ってるらしーんだケド、そこのガッコの大学は共学だからそこ目指してるの。偏差値足りてないのに。オタクまぢキモい。ストーカーじゃん。」


 トコちゃんの髪が腰まであるということは卒業前の話だ。お兄さんはトコちゃん……アーテルと同い年だったのかな。


「ダーリン、恐らく始祖様のことだと思われます、ダーリンはおにーちゃんと違ってイケメンだし、オタクじゃないし、あんま怒んないし、怒っててもカッコいいし、ダーリンまぢサイコー!てコトで、みんな南大陸までおつかれチャン!南大陸は海の向こうにあるってゆーから船で行くと思ったら、ダーリン海の上走ってるしまぢウケる(笑)ここまぢヤバくない?瘴気ヤバすぎなんデスケド(爆笑)」


 これ……お兄さんのことオタクってバカにしてるけど充分影響受けてない?(爆笑)とか。最初はネットスラングだったよね?


「南の世界の果て、もう行った?これからかな?北の方、行った人いるー?これから行く人はあっちと同じでめっちゃ寒いから気をつけてね!まー、聖女は風邪引かないから大丈夫だけど!寒いもんは寒いから!あとはねー、都とかまぢ廃墟。なんか出そう(笑)まぢチビる(爆)でもココがまだ大丈夫だったら、召喚されてももっと住みやすかったと思う!地下鉄あってビビった!おにーちゃんの好きなゲームのダンジョンみたいになってるケド(笑)建物はロンドンとかパリとかローマみたい!行ったことないけど!」


 初代様、ひとまとめにしすぎじゃない?その三都市、雰囲気かなり違うと思うけど。

 地下鉄があったのか。地上に作らなかったのは景観を損ねないためかな?遺構に気付かなかっただけ?そして実はお兄さん大好きだな?


「地下鉄とはなんだ?」


 アウルスの質問にお祖母様が答えた。


「地下を走る大きな馬車のような物ね。馬ではなく電気で動くけれど。」


「ふむ、左様ですか。ならば、それは大賢者の作りしものですな。」


 自分で作ったんかい。えー、それなら王都にも作って欲しい。


「ヴィオ、続きを。」


「はい、お父様。機械もたくさんあるけど、全部魔力で動いてたんだって!けっこー栄えてたみたいだけど瘴気には勝てなかったみたい。ヒントはたくさんあったのに、ここにいた人たちは気付かなかったんだってダーリンは言ってる。よく分かんない。イミフ。」


「ヒントはあった……?」


 そうアウルスはつぶやいた。ヒント?どんなヒント?どういう意味だろ?私も分かんないや。


「都はあたしが召喚されたトコみたいに瘴気が来ないんだって。この辺だけ緑があって、動物がいて、逆にホラーなんですケド。聖石とかゆーの?それがあっても、この世界の人たちじゃどーにもならなさそーだからあたしが呼ばれたみたい。でも、こっちの人たち、あたしの話もダーリンの話もゼンゼン分かんないみたいだし、根本の理屈が違うから分かんないのかもってダーリンは言ってるよ。あたしも理屈は分かんない。サーセン!」


 根本の理屈って科学的な観点ってこと?

 都は千年前の時点では無事だったのか。今はどうなってるんだろう。数百年前に築かれたあの堤防の聖石は機能していた。希望はあるかもしれない。


 あ、続き。……ここ読んでいいのかな?お祖母様に確認したくて顔を見ると、小さく頷いた。

 私は大きく深呼吸して、少しだけ声を張って読み上げた。


「あたしの持ってる遺伝子を世界に広めれば、この世界が助かるかもなんだって。えー、じゃあ、あたし、ココで一生過ごすの?って思ったケド、ダーリンの子どもは欲しい!絶対かわいいもん!いちおー、召喚陣はそのままになってるから、使い方に気付けばまた聖女は召喚出来るだろうってさ。いや、でもソレ、ぶっちゃけ迷惑だから。召喚とか聖女とかまぢカンベン。あたしはダーリンという最愛の人を見つけられたからがんばれるけど、他の子もそうなるとは限んないっしょ?だから、あんまり召喚はしてほしくないなぁ……って言ったら、ダーリンが、じゃあ、あたしがたくさん子ども産まなきゃな、だって!キャー!ダーリンのエッチ!でも、うれしい!あたし愛されすぎじゃない!?」


 大人たちの顔色を伺う。みんな難しい顔をしてる。

 浄化能力を持つ遺伝子を広めるために呼ばれたのに、アウルムが独占して来たんだ。それを遠回しに初代聖女から批判されているようなものだ。


「あたしたち聖女は神様のカゴ?加護があるから、おかしなことはされないはずだって言ってるけど、子どもには加護がつかないんだって。子どもは守ってあげなきゃ!あたしいよいよ帰れないじゃん!でも、ダーリンは置いてけないから、多分、あたし、ずっとココにいると思う。まぢ愛しちゃってるから!ダーリンのこと!パパと、ママと、友だちと、いちおーオマケでおにーちゃんにも会いたいけど、ダーリンと離れるってまぢムリだから!死ぬ!あっちにメールくらい出せたらな〜って言ったら、ダーリンがメールって何だって言うから、すぐに届く手紙だよって言ったら、手紙は出せないケド、あたしが元気な姿を夢で見せることは出来るんだって!意味わかんないんですケド!(爆笑)だったら、カンタンにこっちとあっち行き来できるよーにすればいーじゃん!って言ったら、それは世界の、オコトワリ?理に反することだから、やっちゃいけないんだって。召喚だってホーリツイハン、法律違反ギリギリのことらしいよ!あんまりやりすぎるとバチ当たるから!みんな言っといて!」


 大災害時代は天災だって言うのは真実だったのか。神様は存在してるってこと?背筋がヒヤリとする。


「みんなもきっと、家族には元気な姿が伝わってると思うよ!あ、分かんない。ダーリンののーりょく、能力かもしんないケド。」


 始祖様、チート過ぎじゃない?神の化身、神が人の身を借りて顕現した姿というのも(あなが)ち嘘じゃないのかもしれない。

 だって、いくらなんでも知りすぎてる。


「帰りたくなったら帰ればいーよ!あたしのコト利用しよーとするヤツはみんなダーリンがせーばい(笑)成敗してくれてるケド、守ってくれるつよーい味方がいなかったらさっさと逃げて!だって、ココ、危ないし不便だしテレビないしつまんないっしょ?魔法は面白いケドさぁ!それだけじゃん!まぢ原始(笑)ダーリンがいなきゃやってらんないよ。」


 顔を上げられなくなった。みんなの顔を見るのが怖い。お祖母様がそっと私の膝に手を置いた。私もその上に手を重ねた。

 そうだった。私の味方はここにいる。勇気が湧いてくる。お祖母様は、絶対に私を裏切らない。私が全てを読み上げると決断したことを責めはしないだろう。


 判決文を読み上げるような気持ちで、締めくくりとなる部分を読み始めた。


「だってさー、こういうの、なんて言うんだっけ?タリキホンガン?他力本願?あたし、イタイケな女子高生だよ?そんなヤツに何しろっていうの?みたいな。あたし頭悪いしさー。ダーリンの言う理屈もちっとも分かんないケド。それにさー、こっち来て、イケメンが寄ってくるから人生初のモテ期が来たと思ったケド、話せば話すほど聖女としてのあたししか見てないんだなーって思った。日本の話とか、聖女の力の話は聞きたがるけど、あたしの話は聞いてくれないもんね。みんなはそこんトコ大丈夫?無理すんな!怒っていいからね!でも、ダーリンみたいにあたしのつまんない話でもうれしそーに聞いてくれる人もいるんだよ。ダーリン、頭いいからあたしの話なんかつまんないと思うのに、あたしのことはなんでも知りたいんだって!愛されてる!あたしもダーリンのこと知りたいのに、あんまり自分の話はしてくんないんだぁ。ちょっとサミシイ。ダーリンは天涯孤独だから、あたしがいなくなったらまた一人になっちゃう。やっぱ置いてけないや。決めた!あたし、名前、はここに宣言します!ダーリンを、この世界で、一生かけて幸せにします!ダーリン愛してる!ずっとずっと一緒だよ!って今晩言う!(笑)あ〜めくるめく夜になっちゃうカモ!大人の階段登っちゃうカモ!?聖女のみんな!みんなは自分で自分の道を決めてね!あたしはココにいるコトにしたケド、みんなは別の道選んだっていいんだからね!幸せは人それぞれだからさ!神様に祈っとこ!みーんな、幸せになれますよーに♡じゃあ、またどっかの手紙でお会いしましょー。ばいばーい!」


 私は、ふう、と大きく息を吐いた。久しぶりの感覚。悪役令嬢を断罪するような高揚感じゃない。罪を犯した人が、自分のやったことに真摯に向き合ってもらえるように、静かな気持ちでそんな願いを込めた。

 私はしたことがないけど、主文後回しのような、そんな気分。


 私は周りを見渡した。それぞれの反応。だが、誰も口を開けずにいる。


 裁判なら、この後に主文を言い渡す。でも、私はそこで終わらせた。今の私には、ここで何かを言う権利はないから。その権利があるのは、お祖母様だけだから。

お読みいただきありがとうございました!

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