179 聖女学校⑥
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
今日は四回目の広域祝福講座です。議会から質問が来たので時間を取られて私だけ現地集合となった。鳳凰鳥でビュンとひとっ飛び。ホールトに着くとみんな私を待っていた。ここからは馬車で移動。迦楼羅は王宮に戻ってもらった。
「おはようございます、ヴィオラ様!今日はとっても楽しみにして来ました!はぁ〜、これが紫電石ですか!わたくしたちにも早く回ってこないかしら!」
私の周りをぐるぐると周りながら髪飾りを観察しているのはマリオン先生だ。左手の薬指にはジェフリー色の青嵐石が輝いている。大きな石をドンと一つじゃなくて、深緑のメレ石をたくさん嵌め込んだ可愛らしくも落ち着いた雰囲気の指輪。
あ!!私デザインですけどね!?デカイ石は仕事の邪魔だろうからなるべくフラットなデザインだよ!!
マリオン先生にプロポーズしたいからデザイン考えてくださいって言われてさぁ。少しは自分で考えろ!と言ったらキョトンとして、なので殿下にお願いすると決めたのですが?と返され、呆気に取られてツッコミが遅れたことにより沈黙は是と取られてしまった。
アニメのジョエルがこんな感じなんだよなぁ。好きじゃない人からするとちょっとイラッとする感じ。スカーレットは広い心で許せるのだろうか。
というわけで、今日はメグレズ侯爵家の分家の皆さまでございます。カエルラ一門ですな。聖女の末裔は六人おりますです、ハイ。
はあ〜、まだぐるぐる回ってる。顔もどんどん近づいて来る。
「いい加減にしなさい!」
「ぐえ!」
マリオン先生の首根っこを掴んだのは先生のお母様。外務卿を務めるメグレズ侯爵ジュード・カエルラの妻で、神殿長メラク侯爵アーネスト・フラーウムの妹、ベアトリクス。生粋のセプテントリオだ。そう、なのでマリオン先生も生粋の侯爵令嬢。大丈夫か、本当に。
ちなみにマリオン先生の一番上のお兄さんが攻略対象で私の婚約者になる予定だったエドワードの父親。
二番目のお兄さんが分家筆頭インディクム伯爵家に婿養子に行って、お父様の補佐官であるデズモンドの姉と結婚して跡継ぎになった。
魔力量の問題から、お姉さんが婿取って継いだんだって。まあ、そのお姉さんも今いらっしゃるわけだが。跡継ぎの決め手は魔力量プラス聖女の血だな、きっと。
で、末娘のマリオン先生。末っ子とはいえ長女なんて政略結婚させられそうなものなのに、性格とご趣味から敬遠されまくって、結局年下のジェフリーと婚約した、と。
「お母様!けれど、紫電石ですのよ!新しい魔石!本当にヴィオラ様は引きがよくていらっしゃる!それに聖金までセレンから贈られるだなんて!ヴィオラ様は全くアウルムに舞い降りた救国の女神ですわ!」
メグレズ侯爵夫人はガッ!とマリオン先生の頭を掴んでぐいっと下げさせ、自分も頭を下げた。
「殿下、本当に申し訳ございません。わたくしの教育が行き届いておらず、このような仕上がりに……。いつもご迷惑をおかけしてお詫びのしようもございません。不快な思いをさせてはおりませんでしょうか?」
「気になさらないで、侯爵夫人。不快になんて思ってないわ。確かに最初は驚きはしたけれど、もう慣れっこよ。」
「ヴィオラ様は海よりも深く空よりも高い懐をお持ちのお方だから大丈夫なのよ!いつもそう言っているでしょ!」
おい、マリオン先生。それは自分で言っていいことではない。
「それに甘えて好き放題しているのがいけないのだといつになったら分かるの、あなたは!」
ド正論。親子喧嘩はそろそろ終わりにしてほしい。
「殿下。この二人はいつまでも終わりませんので、先に進みましょう。」
「そうね。」
今話しかけて来たのがデズモンドのお姉さん、フィリス。御技もなかなか上手く、診療所への勤務も決まっていて、頼りになるしっかり者だ。
移動しながら喧嘩し続ける親子はほっといて、フィリスと共に馬車に乗り込む。アーテルたちもそれぞれの馬車に乗った。交流を深める意味もある。
「もうすぐデズモンドとアンの結婚式ね。楽しみだわ。」
「殿下にまでご臨席賜るなど畏れ多いことでございます。それに王宮神殿をお貸しいただけるだけではなく、出席者に祝福までしたいただけるとは。」
「アンにはとても世話になったし、デズモンドを焚きつけたのもわたくしですもの。精一杯のお祝いをしてあげたいの。それに祝福くらいどうってことなくてよ。」
「あの二人は果報者でございます。」
「五月は一番晴れの日が多いし、式の日はカエルラの名に相応しい晴天となればいいわね。」
「そうですわね。」
アンの花嫁衣装、楽しみだな〜。
「キャー!すごーい!これが聖金と紫電石の力なのですね!聖金で分子を原子に変え、紫電石で魔力の安定同位体を大元の元素に変えるのですね!そして紫電石の中ならば原子核の陽子の数にまで干渉出来るなんて!賢者の石といっても過言ではありませんわ!」
賢者の石は赤いんじゃなかった?
それにしてもマリオン先生、うるさい。今日のはしゃぎっぷりは特にひどい。興奮状態だ。親子喧嘩は継続中。ベアトリクスに滅茶苦茶怒られてる。
でも、めげない。解説は合ってるけどさ。
サポートはアーテルに任せ、私はまた残りの土地に祝福をかけながら、広域治癒、エリアヒールのことについて考える。聖女の手記で読んだアレ。四人で話し合った結果、細胞分裂の促進なんじゃないかということ。植物への祝福と同じだね。
どういう風にしてるんだろ。骨折とか変なつき方しないかな?謎すぎる。とりあえず止血とか?鎮痛効果もあるし。それでまた前線に送り出すって、考えると結構恐ろしいことに思えて来た。戦争はいやだなぁ。
次のホールトからはベアトリクスとマリオンを引き離して、馬車には私とベアトリクス、フィリスとあともう一人で乗車。アズレア子爵家のレジーナというお嬢さんだ。
「そういえば、エドワードは元気?アーサーとは遊んでくれているようだけど、わたくしは会う機会がなくて。」
「気にかけてくださりありがとう存じます。元気にしておりますわ。」
ベアトリクスの孫だからね。特に思い入れはないんだけど、うーん、キミコイキャラとしての思い入れはあるかな?恋愛対象にはならんけど。話題といえばそれくらいしかないから。
「四月からは託児所にも通いますし、礼儀を仕込んでいるところでございます。末っ子だからか些か我儘なところがありまして、揉め事など起こさぬよう、セプテントリオの者として相応しい振る舞いを出来るようにしなければなりませんので。間違ってもマリオンのようになってはならないと母親にもきつくいいつけております。」
あのお母さんかぁ。ちょっとおどおどしてる感じで、あんまり侯爵家の若夫人って感じはしなかったな。嫁姑関係は大丈夫なんだろうか。
「エドワードのお母様は聖女の末裔ではないのね。」
「家門に連なる男爵家の出身で、血は薄うございますので。末端の末裔のための講座の召喚状は来ておりますけれど。」
「そうなの。男爵家から本家たる侯爵家へ嫁ぐってめずらしいのではなくて?」
「あの子は子どもの頃から魔力量が多く、それ故にこちらに嫁入りしたのでございます。未だに自覚がないようで本当に困りますわ。」
うん。嫁姑関係はよろしくないようだ。
「お会いした時はどことなく周りに遠慮しているように見えたのだけど、男爵家出身だからだったのかしらね。本人もどうしたらいいのかわからないのだわ。余りお嫁さんを責め立ててはダメよ。母親が笑っていないと、子どもは健やかに育ちませんからね。礼儀は二の次でいいのよ。子どもの頃の精神的な健康というのは人生に多大な影響を及ぼすもの。確かにマリオン先生はセプテントリオの御令嬢としては宜しくないのかもしれないけれど、やりたいことをやって人生を謳歌しているマリオン先生のことをわたくしは好ましいと思っているわ。」
だから、ね?と笑って言うと、ベアトリクスは眉尻を下げた。
「マリオンのことをそのように言ってくださる方は初めてでございます。わたくしも末の子で、しかも唯一の娘で甘やかした自覚がございますので、エドワードには厳しくと考えておりましたが、そうですわね。子どもはもっと自由でも良いのかもしれません。」
「そうよ。わたくしもとても自由にさせてもらっているわ。」
「公務におつきで、政務もされていらっしゃるのにでございますか?」
レジーナが不思議そうに問いかけて来た。まあね。陰でワーカホリック姫と言われてる程度に仕事は好きさ。
「そうよ。本来なら五歳からが慣例の魔力訓練も御技訓練もやらせてもらって、女は三公以外関わるべからずの国政にも携わることを許していただいている。わたくし以上に自由で我儘な子どもは世界中どこを探してもいないわ。」
三人は目を見張って、顔を見合わせ、それから笑い出した。
「確かにその通りですわね。」
「殿下は我儘な王女様だったのですね。」
「我儘のスケールが違いますわ。」
「そうでしょう?だから、普通の子どもの我儘なんて大したことないのよ。他者との関わりで学べることを今から急いで躾ける必要はないわ。自然と、自分の立ち位置を理解して、そのように振る舞えるようになるはずよ。エドワードはきっと賢い子だから。」
ベアトリクスは微笑んで頷いて見せた。
まあ、マリオン先生は自由すぎるとは思ってるけどね!自由には責任がつきものだから!研究の成果、ちゃんと出してよ!
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