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178 聖女学校⑤

お楽しみいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

 春の議会の合間に、私たち聖女の力を持つ者はやらなければならないことがある。それは祝福だ。


 地方領主は皆、領地の祝福を終わらせて来ている。地方の御技の使い手が各地を回って祝福をかけるのだ。

 もちろん三人もそれを終わらせて来た。

 王領もしくは北部と呼ばれる王都近郊の直轄地は割と寒いので、三月下旬に祝福を行う。そして、三月末日に王都にて祈念祭を行い、収穫祭のように人々にも祝福を与える。


 ちなみにそこそこ広い。いや、結構広い。アウルム王国はフランスくらいの広さがあるので、王都は小さくても王領は広い。こちらもセプテントリオが分家を置いて管理している。本家侯爵家は基本的に王都の商業特区を管理。

 でも、王領なのである。セプテントリオの領地ではない。だから、分家の役割は代官みたいなものかな。分家を継ぐものは文官科に籍を置きつつ、領主科の数科目を取らなければならない。


 まあ、そういうわけで、聖女学校です。四月から地方の御技の使い手と共にガッツリ治癒を学ぶので、冬の間に補講を行った広域祝福の実践講座です。


 講師役はもちろん、悪役令嬢の四人が務めます。スカーレットは治癒講座受け持ってもらうことになってるから無理しなくていいよって言ったら、ひとりだけ置いてくの?って笑いながら言われてしまった。


 王都ターミナルから転移して、各地のホールトへ。王都の聖女の末裔はみんなセプテントリオの一門のどこかの人間なので、七グループに分けて、それぞれが所属する侯爵家の管理する土地を祝福する。一泊二日の祝福の旅。私たちはそれを七回やるわけなんですが。


 今日はドゥーベ領(便宜上、こう呼ぶ)ルーフス一族の管理する土地。ドゥーベ侯爵夫人のコーデリア先生、そしてステファニーも参加。ステファニーは護衛も兼ねてるけどね。ドロシーはメラク侯爵家の若奥様だから、第二回に参加予定。今更講義受けなくても出来るけど、義務なので。


 ステファニーはシナバリナム子爵家という分家の娘。母親もコクネシア伯爵家という筆頭分家の出身で、どちらも文官家系なのに騎士をやってる変わり者なのだ。

 ドロシーの母親はコクネシア伯爵家の跡取り娘で、ダスティンの弟が婿に入り伯爵位を継ぎ、侯爵としてのダスティンの補佐のようなことをしているそうだ。


「改めてご挨拶させていただきます。ドロシーの母のバーバラでございます。どうぞお見知り置きを。」


「ステファニーの母のアンナでございます。いつも娘がお世話になっております。不肖の娘がヴァイオレット殿下の専属護衛になるなど思ってもおりませんでたので、ご迷惑をおかけしていないか、何かやらかさないか、毎日心配で心配で、もう夜も」


「アンナ。それくらいにしておきなさい。殿下がお困りよ。」


「申し訳ございません、わたくしとしたことが!」


「構わなくてよ。ステファニーはよくやってくれているわ。護衛任務でも御技が必要であれば協力してくれるし、迦楼羅もよく懐いているし、魔力量も多くて、実力もレナードに仕込まれたからかなり腕を上げてるし、何より裏表のない人柄が気に入ってるの。とても信頼しているのよ。だから、心配なさらないで。」


「ありがたいお言葉、もったいのうございます。」


 というわけで、今回の生徒はこの四人です。ドゥーベ侯爵家には聖女の末裔が五人。バーバラとアンナの母親もまだお元気なんだけど、さすがにお歳なので祝福は不参加。


 少ないでしょう?少ないよね!ミザール侯爵家なんて二人しかいないんだよ!?


 末端の末裔を集めればもう少し増えるんだけど、まだそこまで辿り着いてない。年内にはその人たち対象の聖女学校が開かれる。

 そうすると、王都で二十八人しかいない御技の使い手が四十二人に増える。まだ聖女教育を受けてない子どももいるから、現時点で産まれてる聖女の末裔の人数は五十六人。

 まだ増えるだろうけど、その内の何人が診療所に勤めてくれるか分からないから、やっぱり普通の医療も発達させていきたいんだよね。


 北部の人口は六十万人。そのうちの半数近くが王都に住んでいる。中世くらいの人口かな。そんな人数、絶対賄えないでしょ。国全体で三千万人いかないくらいだし。


 一応、聖女には国の召集に応じる義務があるんだよ。祝福かけるのもそう。浄化もそう。でも、治癒はまともに使える人がいないから、戦時以外で召集自体がまずない。

 だけどさ、診療所は常駐してもらわないといけないから。基本的に、医師が診療、御技が必要な場合は聖女による治癒、薬で治る場合は処方箋出してもらって薬剤師に薬を出してもらう、みたいな感じ。

 生活習慣病とかはさ、対処療法してもまたどうせ悪くなるでしょ?だから、健康指導とかもやってかないとね。貴族や裕福な商家には特に多いらしいから。あと酒飲み。


 スカーレットとアウルスの話し合いでは、御技で出来ないことは何だ?って話になったらしく、最初に出たのが輸血。これはティターンにもない技術。

 事故と、特に戦時下においてはね。輸血大事よ。手術は御技で出来てもさ、失った血は戻せないわけ。

 血液型自体は御技で判別出来るけど、普通の人でも分かる見分け方をアウルスの弟子たちに研究してもらってる。保存方法もね。


 あとは予防接種の話も出た。スカーレットは御技で菌やウイルスを同定出来るかもって言ってるの。麹を見つけた時みたいにね。


 注射器と点滴の開発は研究室に丸投げしちゃった。まだ見ぬ研究者たちよ、すまぬ。


 この情報はティターンへのエサにもなってる。別にティターン国民に不幸になって欲しいわけじゃないし。

 アウルスは接触して来たティターン本国の人たちにいつも私たちへの賞賛を語って終わるから、最近ではもう直接弟子たちが説明してるみたい。

 あの師匠だと苦労が多くない?と聞いたら、それでも万能の天才と言われたアウルスは尊敬する師匠なんだって。わざわざ国を出てまでついてくるくらいだもんね。万能の天才かぁ。レオナルド・ダ・ヴィンチみたい。


 アウルスたちともかなり仲良くなったけど、さすがに紫電石のことは教えてない。でも、アウルスには魔石であることを見抜かれた。魔力入れてないのになんで!?

 石の性質に関しては分からないみたいで、聞かれても電気が起きるとだけ答えといた。間違いではない。ビリビリが楽しいのか、何回か試させられたわ。摩耗するからやめてくれ。

 出所は教えてないし、弟子にもティターンにも教えるなと口止めはしたよ。口止め料はいずれ、と言われた。こわぁ。


 とか考えてたら、農地に到着。所有者家族も待っている。七人か。夫婦、若夫婦に子どもが三人。


 今までは全ての王領の祝福をお母様含む数人で行っていたらしい。他に広域祝福の出来る人材が王都にいなかったからね。コーデリア先生も、自分の受け持ちのところはやってたらしいけど、今まで遠くに聖女の魔力を飛ばせなかったから、余り力になれなくて申し訳なかったと言っていた。


 所有者の方々はずっと頭を下げたまま。こういうのやめて欲しいなぁ。


「頭をお上げくださいな。」


「殿下、それは……。」


「慣例がなんだというの。わたくしはアウルムの民の顔が見たいのよ。さ、顔を上げて。あなた方にも祝福をかけて差し上げましょう。」


 私はキラキラエフェクトをつけて祝福をかける。平民くらいの魔力だと聖女の魔力は認識出来ないそうだから。


「これで当分は風邪くらいならかからないと思うわ。元気に働いて、おいしいお野菜を作ってね。他にどこかお悪いところはないかしら?」


 農家の皆さんは再び頭を下げた。口を開くのを許されてないからね。そういうの好きじゃない。コーデリア先生を見ると、仕方ないですねという顔をした。


「直答を許します。」


「遠慮なくおっしゃって。」


 大人たちは顔を見合わせて困惑している。サクサク進めたいけど、サクサク進まない。遠慮しなくていいんだけどなぁ。

 すると、一番大きな小学校高学年くらいの女の子がおずおずと口を開いた。


「あ、あの。」


「コニー、やめなさい!」


「いいのよ、どうしたの?」


「おじいちゃんとおばあちゃんが、腰と膝が痛いと言っています。肩も。あと、大人はみんな手のひらが硬くなっています。治せますか?」


「治せるけれど、手のひらはそのままの方が良いのではないかしら。」


「なぜですか?」


「うーん、畑を耕すのに鍬や鋤を使うでしょう?手のひらまで治してしまうと、また柔らかい手で農具を持たなければならないわ。そうしたら、手が血豆だらけになって、仕事に支障が出るのではないかしら。」


「でも、綺麗じゃないです。」


「そう?わたくしは働き者の素敵な手だと思うわよ。」


 私は三歩進んでおばあさんの手を取った。仰け反られてしまった。すみません。王女の私はそれも笑顔でスルー。スルースキル大事。でないと、大惨事になるから。ステファニーが切り捨てちゃうからね。


「ほら、とても温かい、優しい手だわ。真面目に働いて来たことが分かる、人柄を表す手よ。これのどこが美しくないと言うの?むしろ、あなたは祖父母や両親のこの手を誇るべきだわ。」


 まだ納得がいかないという顔をしているので私は話を続けることにした。


「それに、農業に従事している者だけではないわ。王宮でも、騎士なら剣だこ、文官ならペンだこがあるのが普通よ。そんな人、たくさんいるわ。でも、わたくしはそれを綺麗じゃないとは思わない。もちろん、貴婦人の白魚のような手も美しいと思うけれど、自分に課せられた使命のために使い込まれた手は何よりも尊いとも思うのよ。分かるかしら?」


「……わかりました。無理を言ってすみません。」


 しっかりしてる子だな。長女!って感じ。まあ、まだいまいちピンと来てないっぽいけど。


「コニーはいい子ね。優しくてしっかり者。いつか本当の意味で理解してくれるとうれしいわ。」


 そんな話をしている間にスカーレットがコニーの家族の治癒を済ませてくれていた。役割分担が出来てる。チームって感じ!


「待たせたわね。それでは祝福をかけましょう。」


 農地には既に肥料が漉き込んである。私たちは直ぐに作付け出来るように発酵を促すだけだ。


「広域に魔力を飛ばすのはとにかくイメージよ。大きなシャワーのように、雨のように、時には風に乗せて舞うように、範囲を覆って埋め尽くしていくの。今日は使用許可が下りたから聖杖が使えるので、聖金を通した魔力を自分のものに出来るように、並行して意識をしていってね。」


 聖杖の持ち出し許可が下りたのは一本なので、一人ずつ交代でやっていく。

 いわゆる聖杖は浄化用で聖石がついてるものだけど、これは神殿に配分されたアルテミスのツノで作った訓練用のものだ。飾りと実用を兼ねて、純石と紫電石が嵌め込まれている。

 紫電石で〝真の魔力原子〟を体験してもらうためにつけているのさ。純石は電池だと思ってください。浄化も具現化も電撃も出来るから、訓練用と言ってもそこそこ実用性がある。持ち運びしやすいし。次にまた聖金が配分されたらもう一本作るらしい。


 大きさはアーネストと相談の上、従来の物より小型にしてもらった。女児向けアニメの変身ヒロインが持ってそうなサイズ。いいね!胸熱!とオリヴィアが言っていた。そちらも手広くカバーしていらっしゃる。


 あとはねー、治癒用にペンタイプの物も作ってもらった。聖金メッキも提案したんだけど、メッキが剥げたらもったいないと言われた。ケチくさいけど仕方ない。持ち手の辺りは摩耗しやすいしね。


 まずはコーデリア先生。ぶわんと杖の先の魔石から魔力が漏れ出した。聖金に紫電石だから確実に最小の魔力原子だ。初体験のコーデリア先生は一度目を丸くして、すぐに険しい顔になった。小さくて軽い分、コントロール大変だからね。


 私たち四人の目標は、自らの魔力原子を全てこの真の魔力原子にすることだ。

 そうしたら、魔力量も一万なんて余裕じゃない?始祖超えしちゃうんじゃない?歴代最強じゃない?伝説残しちゃうんじゃない?というのはオリヴィアの言。


 既に歴史に名を残すレベルのことしてるけど。


 植物の世話が趣味というコーデリア先生はさすがよくお分かりになってらっしゃる。的確な命令を乗せて魔力を飛ばした。うん、もう少し広がるイメージが欲しいかな。効率が悪いので。

 まあ、残りは我々がちゃちゃっとかけちゃうんだけどさ。アーテルが魔力の飛ばし方をレクチャーしている間に済ませちゃうぞ。


 そんな感じで交代交代に一人ずつ、講師四人が付きっきりで指導。

 三人の御婦人方には魔力が減ったことによる疲労感じゃなくて、ずっと魔力を探るのと操作をするのに集中していたせいの精神的疲労が大きいと言われた。

 あ、ステファニーはケロッとしています。訓練慣れしているのもあるし、魔力が1000も増えるほど体内魔力が細かいからね。


「はじめて貴女のことをすごいと思ったわ。」


 母のアンナにそう言われて、ステファニーはとても嬉しそうな顔をしたのが印象的な夜だった。

お読みいただきありがとうございました!

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