175 さよならはまた会う日までの約束
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
「元気でね。帰り、気をつけて。」
「ああ。また春に会おう。」
アレクのお見送りに前庭に出ている。
しばしの別れ。また春には留学して来る。その頃にはまた三人にも会える。
アルテミスの背にアレクとヘクトル、ヘラクレスの背に荷物を載せて、空へと飛び立って行った。
荷物の中にはお試し用の紫電石がいくつか入っている。貴重なので余り研究が進んでいないが、石を使った治癒を行うことも可能だった。
いずれ出来る医療大学校にセレンの者も通わせたいという話も出ている。医療知識があれば、少ない資源もうまく運用出来るだろう。
二十八日には御用納め。みんなの飲んでるトコが見たい!という欲望で、仕事は三時に切り上げ酒盛りだ!
アリスターはワイン一本空けた時点でベロベロ、トマスはそこそこ飲んでたけど急に寝ます!と言ってソファで寝出した。ジェフリーは強いね。日本酒グイグイ飲んでる。
そこにお父様が乱入してきて、アリスターに絡まれてた。なんでお見合いがうまくいかないんですかねぇ〜陛下はモテていいな〜だって。好きな子がいるんですよ〜と相談までする始末。政略結婚してる人に言うことじゃなくない?
お父様も何故か真面目に聞いてる。酔っ払いは適当にあしらえばいいのに。突然ガバリと起きたトマスも婚約者の話をし出した。ジェフリーは新年の夜会でマリオン先生にプロポーズするらしい。そんなこと自分から話し出すだなんて、ジェフリーもしたたか酔っているようだ。
男の人の恋バナってあんまり聞いたことなくて意外だった。
ふと、前世で、ちょっといいなって思ってた人の、大学の頃からずっと好きな人がいるって話を思い出した。でも、好きな人は自分のこと親友と思ってくれてて、そんなことは絶対に言い出せないって。
その人はヤメ判、判事から弁護士になった人なんだけど、お世話になってた先輩の司法修習生の同期で、よく行く飲み屋が同じでたまたま会って紹介されてさ。
先輩は家族がいるから早く帰るんだけど、たまに残って一緒に飲んだりしてた。
どうしても忘れられないから、自分はきっと一生独身だろうって言ってた。私も結婚出来る気しないから、独身貴族仲間ですね!って言ったら、俺は相当拗らせてるけど、君は諦めるにはまだ早いよって言われちゃった。あの頃はまだアラサーだったしな。
その後、私が異動になって疎遠になっちゃったんだけど、今どうしてるかな。その人の好きな人はシングルマザーになったらしいから、その人と幸せになってたらいいな。一途な想いが報われてたらいいな。
十八時になったから解散して、一月五日まで閉庁日。ホッと一息。
自室に戻ってアーテルからの手紙を開く。新規事業を任され、家庭教師もつけられてヒイヒイ言ってるらしい。
ダイアナ伯母様は本当に教育熱心で、己の持ち得るあらゆる知識をアーテルに叩き込もうとしている。
教育虐待って訴えれば勝てる?だって。どうだろう。三公の娘なら当然だって取り合ってもらえなさそう。
スカーレットとオリヴィアの手紙でも教育が始まったと書いてあった。こちらは本人たちの希望で。スカーレットは教養系、オリヴィアは魔法実技と体術の訓練を始めたそうだ。
スカーレットはたまに暴走するけど、元のキャラがツンデレとは思えないほどふんわりしてるし、教養科目を極めたらきっとステキなレディになるだろう。
劇場で左に座ってた子がまどかちゃんなんだけど、自作のぬいぐるみっぽいのカバンにつけてたから、刺繍とかも得意なんだろうな。
オリヴィアはユースタスとやっている体術の訓練で自分が勝ちまくるモンだから喧嘩したと書いてある。何を目指してるの?
ボッコボコのギッタギタにして訓練になりゃしないだってさ。それは仕方ない。そして大人気がない。
みんなそれぞれ頑張ってる。私も頑張らなきゃ。
あっという間に大晦日。空気の澄んだこの世界でも、冬の空は星が余計に綺麗に見える。
夜は王都の貴族が集まって新年の夜会。大人しか参加しないけどね。要するに年越しパーティー。朝までドンチャン騒ぎだけど、元日は夜明けの頃からアストルム大神殿で新年祝賀の儀が行われるのでお父様とお母様は日付が変わって挨拶したら下がる。
私とアーサー、それにお祖母様も、日中に行われる一般参賀には出席するので、大晦日だけど普通に寝た。
元旦。夜会があったのに疲れを微塵も見せないお父様とお母様は偉い。昨日も見たけど、私の考えたパリュールで美しく飾られたお母様はより一層輝いている。余は満足である。
ビルはお母様のパリュールに使ったような色素の薄い石で、貴族だけじゃなくて平民向けのちょっといいジュエリーを作って、ガンガンに売り出すって。
というか、色の薄い石は若い子向けでしか売ってこなかったから、大人向けに何かいい案ないですかね〜と言われたのでまた前世のアクセサリーのデザインを何点か描いてさ。
これで王妃様のパリュールと同じ王女様デザインで売り出せます!だって。髪飾り代としてデザインを描いたようなものだ。コンセプトは大人かわいいとシンプルイズビューティフルの二パターン。
三が日の間、王都はお祭りみたいになる。後日報告を受けた時には、私の知名度が秋の収穫祭で上がったから私の名前を入れるとすごい売れたって。ホワイト商会はウハウハらしい。
一月末の激寒の時に、アウルムから見てティターンを跨いだ国、ラドンから瘴気の発生の報告を受けた。また四人で集まる。浄化=悪役令嬢の公務になりつつあるよ。
ね?春の前に会えたでしょ?結局、こうなるんだよ。
ラドンとティターンの国境付近。瘴気はティターンの森にも少し及んでいた。まあ、森だから国境自体が曖昧なんだけど。
アウルムの者が国境を越えるわけにはいかないので、ラドン側から広域浄化。根こそぎ取らないとまた広がるからね。
ティターンの瘴気を浄化しても、あちらから特にリアクションはなかった。でも、誰かが苦しんだり悲しんだりするよりはいい。私たちのしたことは間違っていない。
その後も、春の議会のための準備で日々を忙しく過ごし、三月。雪解けと共に春の議会が開かれる。王宮丘陵も再び若草色に染まっている。社交界シーズンの始まりだ。
さーて。気合いを入れて新年度に臨みますかね!
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