171 裏庭バトル
ヴィオラの平凡な一日の一幕。
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
秋の議会が終わり、王宮は静けさを取り戻していた。
アーテルたちは昨日、転移陣でそれぞれ領地へと帰って行った。我々のおやつは余剰おやつだから!転移陣なんぞ余裕で貯められるから!
お揃いの髪飾りを身につけて、そんな私たちを見る保護者の皆さまの目は温かい。約一名、蛇みたいな視線の人もいるけど。
アーテルの笑顔はぎこちなかったけど、決意は変わってないと言うので気持ちよく送り出せたと思う。
というわけで、現在、お祖母様とお母様とアーサーとでお茶をしています。
「鰹節、オリエンスで作ることになったわ。」
「そうなのですか?」
「ウチもカツオが取れるからねぇ。領主導で作るからアーテルに事業のトップを任せるみたいよ。」
「アーテル、大丈夫かしら。」
「お姉様がついているから大丈夫よ。あの方ほど良い教師はいないでしょうから。」
うーん、本当にアーテルを教育したかっただけなのかなぁ。アーテルには慣れないことだろうけど、頑張って欲しい。
「アーテル、いつあえるの?」
「春になったら会えるわよ。」
「はるっていつ?」
「暖かくなって、お庭にお花が咲いたらね。」
「ふうん。」
「議会も終わったし、ヴィオラは少しゆっくり出来るのかしら?」
「逆です。議会が終わったからこそ、次の議会に向けて矢継ぎ早に仕事が舞い込んで来ているのです。補佐官がかなり育ってきましたので、ある程度は任せておりますけれど。」
「貴女も大変ねぇ。」
「お父様やダスティンに比べれば大したことではございません。」
「ヴィオ、おそとであそぼ。」
「よろしいですか?」
「ええ、騎士と侍女は連れて行くのよ。」
てなわけで、フローラとステファニー、他数名を伴って外へ。木枯らし吹いて寒いですけどね!王都は北大陸中央部よりちょっと北寄りだからさ!王宮丘陵は吹きっさらしだから風が来る来る!
まあ、アーサーが楽しそうだからいいんだけど。日課になってるパルと追いかけっこ。お父様も暇な時には一緒に遊んでるらしいんだけど、アーサーは運動神経がいいって言ってた。無意識で身体強化をしているらしい。ウチの子、天才じゃない!?
秋の議会の魔法訓練で、子どもの魔法訓練開始年齢の引き下げを提案した人がいて、私たちが出来たんだから他の子も出来るだろうって算段らしいんだけど、理解力と自制心を考えると難しいかなって思う。
おやつ使えるようになったら魔法使いたくなるでしょ?事故があったら大変じゃない?
とか考えながら、二人と一匹でサッカーしてます。パス練習だけど。私の蹴る球はあっちこっちに行くので、パルに向かって蹴ります。アーサーだと追い切れないからね。
余りに下手くそなのでステファニーに突っ込まれた。
「ヴィオラ様は基礎訓練なさった方がよろしいのでは?」
「そう思う。」
ステファニーの指導を受けながら球蹴りの練習に励んでいると、お父様がやって来た。
「あーっ!ちちうえー!」
「お父様!」
「ボール遊びしてるの?ヴィオが外遊びなんてめずらしいね。」
「体力のなさと運動神経のなさを痛感しているところでございます。」
「あはは!デスクワークばかりだからだよ!体を動かす時間を取った方がいいな。」
それでどうにかなる問題ならいいんですけどね。
お父様は駆け寄ってきたアーサーを抱き上げて放り投げて遊びだした。
ちなみに高速高い高いの正体は魔法球でした。魔法球に包まれて投げられていたというのが正解です。恐ろしい遊びだった。
ひとしきり遊んだところでアーサーも疲れたらしく、石ころ拾いを始めた。ここ、草っ原だからあんまり落ちてないんだけど、そのレアな感じがいいみたい。
「パル!ちょっと付き合ってくれ!」
お父様がパルと遊び始める。風の魔石のネイルカバーは標準装備。迫力のある訓練だ。パルの風刃を指輪から発する風刃で相殺。猫パンチを避けまくり、蹴りを繰り出すもパルもしっかりと避ける。
それを見ているステファニーはうずうずしている。強い人と戦うのが好きって言ってたもんな。さすがに職務中だし国王に稽古つけてくださいって言い出せないんだろう。
仕方ない。声かけてやるか。
「お父様!お父様ぁー!」
お父様はヒュンと目の前に降りてきた。ホント身体能力どうなってんだろうね。バトル漫画の主人公みたいだわ。
「お願いがあるのですけど、ステファニーに稽古をつけてくださいませんか?」
「えっ!」
「彼女のこと?いいよ。」
「よろしいのですか?」
「んー、護衛は三人か。よし、一人ずつ来なさい。一人はアーサーについて、もう一人はヴィオについて。待ち時間は一人五分だ。パルと組んで二対一。武器はなし。体術は可。身体強化はあり。魔法は風魔法のみ。背中に土をつけたら負け。それでいいかな?」
「えっ!」
「私たちもですか!?」
「せっかくだから、付き合ってくれ。訓練場まで行く時間がないんだ。」
他の騎士は恐れ慄いてる。ボコボコにされる未来が見えているのだろう。
まずはステファニーからだ。
「ヴィオが開始の合図してくれる?」
「お任せくださいませ。準備はよろしいですか?行きますよ?……始め!」
ドン!と土を蹴る音が二つ。高く飛び上がったのはステファニーとパル。
「風よ、渦を成し舞い上がれ!旋風!」
お父様を中心に竜巻が起こる。雲がないからつむじ風か。地面から発生してる時点でおかしいけど。
むわりと暖かい風が頬を叩く。飛び散る枯れ草の葉でお父様の姿はよく見えない。
パルは渦の中心の真上から風刃を放った。
再び、ドンという音がした。竜巻の中からだ。パルの風刃はいつの間にか相殺されて、同時に竜巻も消える。気圧の調整をすれば論理的には消えるけど、お父様は感覚的にやってるっぽい。
ステファニーも風を消されることは想定内だったのかお父様がいた場所にすでに移動して拳を叩き込もうとしていたけれど、そこにはお父様は居なかった。
パルはお父様を捉えていたらしい。中空に立っている。飛んでくる風刃を避けて、猫パンチの構えだ。
軽々と受け止めて反対の拳をパルの腹に叩きつけた。
って!えっ!うそっ!パル大丈夫!?あー、よかった。拳は寸止めで風で吹き飛ばしたらしい。上手いこと地面に着地した。
ステファニーは地上から、お父様がパルへの攻撃に移ったタイミングで風刃を乱れ打ちにする。一発がとても重そうに見えるのに、あんなに素早く連発出来るの?あ、ステファニーも魔法バカのひとりだった。そしてレナードの弟子だった。
防御壁は展開されていてお父様にかすりもしなければ壁もびくともしない。
「そろそろいいかな。」
お父様の声が風に乗って聞こえた気がした。
目にも止まらぬ速さでステファニーの後ろに移動したと思ったら足を払って蹴り倒し、背を土につける。何の抵抗も出来ないなんて!本人も目をぱちくりさせている。
パルはおしまいなのが分かったのか、てこてこと私のところにやってきて魔力をくれとスリスリしてきた。
「うーん、君は攻撃するまでもないな。まだまだだね。」
「申し訳ございません。精進いたします。」
「あれ?他の二人は?」
「アーサーが部屋へ戻ると言うので一緒に帰らせましたわ。」
「ヴィオを守ってって言ったのに!」
「わたくしはこの髪飾りがある限り大丈夫です。防御壁もずっと出してましたから。」
「どう?お父様、カッコよかった?」
そこなの?うーん。
「防戦一方でつまらなかったですわ。次はもっとお父様が活躍しているところを見てみたいです。」
「なら、春の騎士団の御前試合を観に来ればいいよ。最後は私と優勝者の一騎討ちだから。」
そんなのあったんだ!
「オリヴィアが喜びそうですわ。」
「そうだね。社交シーズンの最初に行われるから、一緒に観られるんじゃないかな。」
「そうなのですね。楽しみにしております。」
「お父様のこと、応援してね?」
「もちろんですわ!」
そういうとお父様は私を抱き上げて執務室まで連れて行ってくれた。
ひとつ楽しみが出来たな。よーし!春に向けて頑張るぞ!!
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