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162 悪役王女の買い物

お楽しみいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

 議会が開かれている間、私は暇だが補佐官は忙しい。何故なら会議場での質疑応答は補佐官の三人が行なうからである。事前に異界の、というか日本の法律と経済に関しては知識を叩き込んであるので、私がいなくても大抵の事は答えられる。


 てっきり私も参加すると思ってたんだけどねー。お父様の過保護が発動したんだろうと思ってたら、ダスティンもだった。フェリクス伯父様のダスティン過保護説は本当なんだろうか。私が元老院のおじいさんたちと直接対決しないようにしてるっぽい。


 こちらとしては、必要ならやりますけどね。面倒事は回避するに越したことはないので。異論なく、久しぶりの休暇を楽しんでおります。


 てなわけで、王宮の応接室でビルと面会だよ!宝飾品を作ります!王女っぽ〜い!

 アーテルたちは聖女学校の講義が終わってから来るので、先にお母様のデザインを決めています。お母様の分は新年の夜会までに間に合わせるのにデザイン決めちゃわないといけないからね!本気かよ!?


「いかがです、この石!あの後、川の漂砂交渉から採掘致しましたところ、このような大きな石も出てきました!魔石は強い石ですので、どのようなカットでも耐えられます。特にこの辺りは大きさといい純度といい、王族の方がお召しになるのにはピッタリかと。」


 そんなデカイ石つけたら肩凝らない?という疑問は置いといて。


「けれど、わたくしはヴィオラが手ずから採った石を使いたいわ。せっかくの娘からのプレゼントですもの。」


 夜会につけていただくならサプライズプレゼントは宜しくないだろうと思い、お母様にも同席してもらっている。トマスのはもう発注済みらしい。


 新年の夜会は王宮主催の正式なものなので、正装をしなければならない。お召しになるドレスはとっくに出来上がっていて、ジュエリーは手持ちで済ませる予定だったらしい。

 王妃なんだから毎回新しく作るもんだと思っていたら、王家で代々受け継ぐジュエリーがあるから、それを使う方が普通なんだって。伝統ある王家だもんな。

 でも、今回は私が自ら採ってきた石ということで、それならば喜んで使いたいと仰ってくださった。


「しかし、王妃殿下にお召し頂くには小石だけでは格が足りません。」


「でも……。」


「お母様、わたくしの石はどこかに取り入れてもらえればよろしいのです。お母様が貧相なジュエリーのせいで夜会で口さがなく言われてしまう方がわたくしは悲しいですわ。」


 そんなこと言うやついないと思うけどさぁ。


「そうだわ!土台に聖金を使うのはどうかしら!」


「ええっ!聖金をで御座いますか!?」


「ちょっとした伝手で手に入ったのよ。それなら箔がつくじゃない?どうかしら?」


「けれど、聖金を使うなら陛下に許可を取らなければ。」


「あれはわたくしへの贈り物です!誰が何と言おうとわたくしが使い道を決めて良いはずですわ!昨日だってお父様とダスティンが勝手に話を進めて、わたくし怒っておりますの。せっかく誕生日のお祝いにと頂いたものなのに、どうして国に取り上げられなければならないのですか!納得いきませんわ!」


「ヴィオラ……。そうよね。貴女の怒りは尤もだわ。でも、わたくしのために使ってしまっても良いの?」


「あれだけ大きいんですもの。大した量にはなりませんわ。パリュールを全て聖金で誂えてもまだほんの一部です。」


 パリュール。つまり貴族のジュエリーフルセットだ。

 ティアラ、ネックレス、イヤリング、櫛や簪の髪飾り、ブレスレット、指輪、あとブローチもいいな。大綬(サッシュ)につけれるもんね。ベルト留めるやつも下げもの系も。

 私は私が用意したもので美しいお母様を美しく飾り立てたいのである。


「というわけで、ビル。聖金はこちらで用意するから必要な量が分かったらすぐに教えてね。」


「は、はあ。かしこまりました。」


「それで!この大きな石はネックレスか指輪かブローチに!ティアラは揺れ感を大事にして、小さな石を繋いで作って!こんな感じにね!」


 日本人の某コレクションや映画と海外ドラマを参考にアレコレとデザインを描き出す。絵はヘタクソだけどね!


「お母様の髪は可憐なストロベリーブロンドだから、濃い赤ではなくこちらの髪色に似たピンクの鳳凰石と、メリハリをつけるのに反対色のミントグリーンの青嵐石を入れて、石は輝きが出るようなブリリアントカットに……ん?」


 お母様もビルも侍女たちも、口をあんぐり開けてデザイン画ではなく私を凝視していた。


「貴女……こんな才能もあったのね……。」


「す、素晴らしいです。このデザイン、カット、石の配置と構成、こんな知識もおありなのですね。感服致しました。」


 すみません、前世の名工の丸パクリです。あーッ!またやっちまったッ!


「嬉しいわ。でも、この色合いなんて可愛らしすぎないかしら。わたくしももう良い年だし。」


「何をおっしゃるのですか、お母様!お母様はまだお若くていらっしゃいます!可愛らしいものを身に付けて何が悪いのですか!」


 (すみれ)のひと回り近く下なのに、お母様ってば何言ってんの!?似合うに決まってんじゃん!


「左様で御座います!姫殿下の仰る通りです!魔石は色の濃い物の方が価値があるとされておりますが、お似合いになるものをお召しになる方が宜しいかと存じます。王妃殿下が色の淡い石をお召しになれば、流行になるやもしれませんよ!」


 そうだった。お母様は国で一番尊い女性(異界の乙女を除く)。見向きもされなかった色素の薄い石をお母様がお召しになることで、新しい流行が生まれるかもしれない。

 って、ビルってば、便乗するつもりだな?仕掛けるのか?儲けるのか?私にアイデア料くらいくれてもいいんじゃない?


「そうかしら……。」


 お母様は頬に手を添えて悩んでしまった。何かあとひと押し!


 と思ってたら、ドアが開かれた。あれ?アーサーとお父様!?


「お父様、議会は!?」


「いやぁ、大事な法案の審議だというのに、要望が多すぎて全員で魔力訓練になってしまったよ!時間が出来たから顔を見に来たんだ。あれ、君、エルマーの弟じゃないか。ええと、ビルの方だよな!貴族籍を離れて商家に婿入りしたんじゃなかったか?」


 ビルは呆気に取られて座ったままポカンとしている。礼を失していることは今はつっこまずにいよう。突然の国王の来訪である。そこを責めたら可哀想だ。


「お父様、ビルをご存知なの?」


「友人の弟だよ。久しぶりだなぁ。昔よく家に遊びに行ったんだ。元気だったかい?」


 ビルはようやく我に返って椅子から立ち上がり、床に膝をついた。


「ご無沙汰しております。畏くも御尊顔を拝する機会をお与えいただき有り難き幸せで御座います。陛下のご威光の下、恙無く商売をさせて頂いております。」


「いやだな、そんなにかしこまらないでくれよ。昔馴染みじゃないか。ホラ、座って座って!」


 ビルに着座を促して無理矢理座らせると、お父様はアーサーを抱っこしたままドカリとビルの隣に座った。即座に距離を取ったビルは偉い。腕を肩に回そうとしたからな。


「夜会用のジュエリーを作るんだっけ。これかい?」


 お父様はピラリと私の描いたデザイン画を手に取る。


「ビル、絵が下手になった?」


「それはわたくしが描いたものです、お父様!」


「えっ!あっ!そうだったの?ごめん!いや、ビルは昔から絵が上手くて、学院の時もよく似顔絵を描いたりしてたから!よく練習にと言って、私もモデルを頼まれてやってたんだ!」


 へえ、そうなんだ。特技があるっていいなぁ。運動も芸術もセンスがある人うらやま……って、ビル、プルプル震えてるけど……大丈夫?


「もっ、もっ、申し訳ございませんでしたぁッ!」


 Oh!ジャパニーズ土下座!


「え!何!?どうしたの!?」


「あれはッ、練習のためではなく!その、御令嬢方に頼まれて、その!」


「貴方、小遣い稼ぎにお父様を売ったわね?」


「ゔっ!さ、左様で御座います……。」


「そうだったのか!?」


「は、はい、いけないことと知りながら……高位令嬢からも依頼があって、断り切れずそのまま……。」


「あらまあ。」


「へえ、全然知らなかった。」


 お母様、感想は〝あらまあ〟だけですか。


 お父様、黙ってれば麗しの貴公子って感じだし、その割には気さくだし、ナチュラルボーン女たらしだし、人気があったんだろうなぁ。


「こ、これは、私の不徳の致すところでして、実家と婚家には関係のない事で御座います!何卒、何卒、御容赦を!!」


 床に額をこすりつけ、ビルは平身低頭謝罪をしている。

 学生の頃ならお母様との婚約も決まってただろうし、そうでなくても公爵令息だからなぁ。不敬だよね。


「いいよ!」


 あっさり!


「ほ、本当で御座いますか!?」


「友人の弟を罰するなんて事、私には出来ないよ。それより、シンシアのジュエリーの話をしようじゃないか。うん、いいね、コレ。ヴィオはお母様に似合うものをよく分かっているな。どうしても王族の身につけるものはハッキリした色合いのものが多いけれど、淡い色も素敵だと思うよ。」


「ええ!そうなのです!それで、台座は聖金を使おうと思うのです!色に格が足りないなら、土台に聖金を使う事で格を上げてバランスを取ろうかと!」


「ええっ!聖金を!?うーん……。でもなぁ。それじゃあ、国宝級のものになってしまうよ。」


「それの何が悪いのです?アウルムの王妃たるお母様が身に付けられるものです。国宝級でなくてどうします。」


「式典用ならともかく夜会用だからなぁ。本当に聖金でなくてはダメ?」


「ダメです!そもそもあれはわたくしが頂いた物ですからね!使い道はわたくしが決めます!」


「でも、聖金だよ?ダスティンが何て言うか。」


「ダスティンは関係ございません!お父様は国王なのですから、ダスティンの顔色など伺わなくてもよろしいのよ!ジュエリーに使う分など微々たるものではありませんか!お父様はお母様に美しく装っていただきたくないの!?」


「ええー、シンシアは飾り立てなくてもそのままで綺麗じゃないか。」


 出た。ナチュラルボーン女たらし。思わず白目になってしまう。お母様はというと、うふふと笑うばかり。余裕すなぁ。


「アーサーもお母様が綺麗なジュエリーをつけてる方がいいわよね!?」


「ジュエリー?」


「こういう石のついた金属の飾りのことよ!」


「だっこのときいたいよ。」


「うぐっ!」


 あはははは!とお父様は大笑い。ビルはまだ立ち直れていないのか顔面蒼白のままだ。味方が!味方がいない!


「夜会の装いで抱っこはしないから大丈夫だよ、アーサー。そうだな。私にも揃いの指輪を作ってもらおうか。元々、王族の護身用に加工する案はあるんだ。普段使いも出来るようにして欲しい。」


「は、はっ!かしこまりました!」


「それもヴィオがデザインしてくれる?」


「わたくし、殿方のジュエリーは分かりませんわ。」


「いいんだよ、どんなものでも。ヴィオが考えたことが大事なんだから。」


ええー、責任が重い。王様がつけるやつってどんなん?昔の絵画でゴテゴテしたのつけてるの見たけど、今はそんな装いじゃないしなぁ。台座は直線的な感じで華美過ぎず、多少の重量感は出して質素すぎず、石はスクエアで……。あ。石に何か彫ってもらうとか?宝石のカメオなんて貴族のジュエリーっぽくない?


「そうだな。それと、ヴィオとアーサーの分も揃いで作ろうか。大きくなってからも身に付けられるようにリングをペンダントトップにしようかな。」


「わたくし、アーテルたちとお揃いのものを作る予定ですけれど。」


「お守りはいくつあってもいいんだよ。そっちはそっちで作ればいいさ。聖金を使ってね。」


「よろしいのですか!?」


「もちろんだよ。ただ、ちょっとは国に分けて欲しいけどね。」


「わたくしは幼年学校の訓練用に確保出来れば文句はございません。」


 全国のだけど!


 ひとつの学校にひとクラスの人数分くらいあればいいし、サイズもそんなに大きくなくていい。

 鉛筆くらいの棒でいいと思うんだ。魔力感知が出来て魔力原子理論を理解すれば、いずれはあの感覚が分かるだろうし。

 まあ、それだけ作ったらあのツノだけじゃ足りないんだけどさ。今年度の王都の幼年学校用くらいは確保したい。


「あと、猫の首輪……ああ、猫と言ってもかなり大きいんだけどね。それと鳳凰鳥の足につけるアンクレットも作ってもらおうかな。それとも鞍に装飾を施すか?悩みどころだな。」


はい?猫の分はともかく、鳳凰鳥のまで作るの?邪魔くさくない?あ!さては!


「お父様、雛たちにも何か芸を仕込むおつもりですか。」


「いや、長距離飛行に備えて魔力供給を出来るようにと思ったのさ。」


意外とまともな理由だった。長距離飛行の時はちょいちょい魔力あげたりしてるからな。一応、普通の魔力でも食べなくはない。多分、お母さんのツノのように身体の中で分子結合を切り離してるんだと思う。

でも、効率が悪いからかめんどくさいのか、聖女の魔力の方が好きなんだよ。


「あの子たちは普通の魔力ではなく聖女の魔力を好みます。聖石でなくてはならないのでは?」


「そうだね。聖石はこちらで用意しよう。ビル、意見が欲しいから後で鳳凰鳥と猫たちに会ってくれ。」


「は、はあ。」


「これらも全て聖金を使用してくれ。聖獣が持つ物だからな。」


「かしこまりました。」


「もちろん、これらは国に繁栄をもたらすものたちが使う物だから、工賃はそちら持ちでいいよね!」


「えっ!?」

「ええっ!?」


「なんでヴィオまで驚くの?」


「え、だって、献上品にするということですわよね?」


「そりゃそうでしょ。だって、聖獣だよ?」


「パルとアルテがいつ聖獣になったのです。」


「アルテなんて御技を使う獣なんだから、(まさ)しく聖獣じゃないか。」


 そう……なのか?お父様のキョトンとした顔のせいで私がおかしいのかと錯覚しそうになる。


 魔物化して浄化した生き物になったせいで体内の魔力が聖女の魔力に変換されたというのが学者の見解なんだけど……。

 でも、パルは御技使えないし……使えない?もしかして、使ってないだけ?あれ?でも、御技を使えるのは女だけって……うん?

 女?え。じゃあ、アルテミスお母さんも御技を使えるんじゃ……?

 そしたら、セレンは当分聖女いらず……?


 いや、今はやめとこう。考えるとドツボにハマりそうだ。それに万が一この推測が正しかったら大騒ぎになる。一度セレンへ行って、お母さんに会わないことには確かめようもない。


「せ、聖獣様への、け、献上品、で、御座いますか。」


「んー。なあ、ビル。()の絵はいくらで売れた?」


「え、あ、ええと、0号サイズで、一枚、に、二万ペクーニアです……。」


 写真の2Lサイズより少し大きいくらいで一枚二万円とお考えください。結構な暴利だとお思いになりませんか。


「それで、どれくらい売り上げたのかな?」


「あ、も、もう、き、記憶が……。」


「僕はいくらになった?」


「いっ、一千万ペクーニアです!陛下!」


 学生が描いた学生の似顔絵で一千万……0号サイズで五百枚?いや、あれか。もっと大きいサイズの物もあったってことだな。高位貴族の御令嬢なら百万円くらいポンと出しちゃうのかもしれない。

 トマスと同い年なら今二十一歳でしょ?お父様の三つ下。三年あるかないかの期間にお父様の絵だけで一千万円稼いだのか。


「学生が持つには随分な大金じゃないかな?」


「あ、へ、陛下が御卒業になるまでの話ですので、ご、合計でですが……。」


「それにしたって額が大き過ぎるだろ?今回の工賃くらいは賄えるんじゃないかなぁ。」


「お、仰る通りで御座います、陛下……。よ、喜んで作らせて頂きます……。」


 お父様、実は怒ってるのかな?ずっとニコニコはしてるけど。案外読めないんだよね、こういう時のお父様の表情って。


「あ、あの、王妃殿下のパリュールの方は……。」


「それはわたくしが支払うから。安心して。」


 私の即答にビルはホッと息を吐いた。


「そっちも献上品扱いにしてもらえばいいのに。」


「そちらはわたくしからお母様への贈り物ですから。それにわたくしは職人の方に敬意を持っております。技術は宝です。それを無碍に扱うことはわたくしの信条に反します。」


「そっか。それはそうだね。ヴィオの言う通りだ。なら、半分は私が支払おう。妻の身に付ける物なのに夫が何もしないのは情けないからね。」


「ふふ、ありがとう存じます、陛下。」


 今までの話を全て笑顔で受け流したお母様、お強い!あと、お父様の武勇伝は心臓に悪い!

お読みいただきありがとうございました!

評価、ブクマ、感想、お待ちしています!

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