16 悪役令嬢はおねだりをする
目が覚めると、目の前にアーテルがいた。
トコちゃんの夢を見たからか、不思議な気分。死ぬ間際にも覚えていなかったことを思い出すって変な感じ。
ぼんやりと前世の若い頃を思い出していたら、侍女たちが入ってきた。起こされて、身支度を整え、アーサーと共に五人で朝食を摂る。
その後、少しだけ子供部屋で遊ぶことになった。少ししたら、みんなの迎えが来ることになっている。アーサーは今日もおうまさん遊びに夢中だ。いつもなら付き合うところを今日は四人でまた話し合い。一応、お人形遊びをしている体で円座に座った。侍女が控えているので、余り変なことは言えないんだけど。
「アーテルさま、わたくし、せいじょのみわざをおぼえとうございます。ごきょうじゅねがえませんか?」
スカーレットが言い出した。ジョエルのためかな?私は声をひそめて聞いてみた。
「こうしきでは5さいになってからはじめたといってなかった?」
「そうなのですが、アーテルさまはすでにみわざをおつかいになられます。わたくしにもやってやれないことはないかとおもいまして。」
「それはジョエルのため?」
「それいがいにりゆうがございまして?」
質問したら逆にキョトンとされて当然のように答えられた。会って二日目なのにスカーレットはさすがとしか言いようのない安定感。
「わたくしでは教えられることは限られております。お祖母様に教えを請うた方がよろしいかと思いますわ。」
「おしえてくださるでしょうか?」
「分からないけれど……聞いてみましょう。」
「おしえていただけるなら、わたくしもごいっしょさせていただきたいです。」
おや、オリヴィアもか。
「スカーレットはなんとなくわかるのだけど、オリヴィアはどうして?」
「たんじゅんにファンタジーのせかいをたのしみたいのですわ。まだまほうをおそわっておりませんし、はやくじぶんでちからをつかってみたいのです。」
なるほどー。ゲームっ子みたいだから、純粋に興味があるのか。そう言われると私もやってみたくなるな。
「なら、わたくしも。みなさま、こちらにはいつまでいらっしゃるの?」
「いっしゅうかんほどときいております。おとといとうちゃくしましたので、きょうをふくめてあといつかしかございません。」
「わたくしもですわ。」
スカーレットとオリヴィアは五日後に領地へ帰るそうだ。あんまり時間がないなぁ。五日で何が出来るかな?
「アーテルもかしら?」
「わたくしは、お祖母様と陛下の話し合い次第では王都に留まる可能性もございます。」
アーテルは首を横に振ってそう言った。アーサーの婚約者に内定したから残るのかな?2歳から王妃教育はさすがにしないよねぇ?
タイミングよく部屋に先触れが来て、お母様とカスミ様が来ると伝えられた。
「みなさまでいっしょにたのんでみましょう。もしかしたら、おねがいをきいてくださるかも。」
三人が頷くと同時に子供部屋の扉が開く。お母様とカスミ様だ。
「おはようございます、おかあさま。おばあさま。」
四人で並び直して、私の音頭でみんなで一礼する。
「おはよう、子どもたち。よく眠れたかしら?」
「はい、王妃殿下。お気遣いいただきありがとう存じます。」
「ひでんか。おとまりのきょかをいただき、ありがとうぞんじます。」
「ありがとうぞんじます。」
三人はもう一度礼をした。うーん。やっぱり2歳とは思えん。中身が2歳じゃないのは分かってるけど。
「あっ、ははうえー!」
ようやくアーサーが気付いて、お母様の元へ駆けてきた。アーサーはお母様も大好きなんだよね。というか、割とマザコン?
ゲームでは、本当に優しくしてくれたのはアーサーの周りでお母様だけで、それなのに実はお母様の実子ではないってことが途中で分かって苦悶するっていうエピソードがある。ま、それをバラすのが先に事実を知った姉である私なんだけど。私はそんなことしないけどね!
お母様はアーサーに引っ張られて行った。お母様は一緒にいられる時間はこうして私たちと遊んでくれる。育児を乳母や侍女に丸投げしない、素敵なお母様なのだ。
「おはよう、小さなレディたち。今日もお顔を見られて嬉しいわ!」
カスミ様も挨拶してくれた。
アーテルが私を見たので、私は頷いた。アーテルは一歩前へと踏み出し、カスミ様を真っ直ぐに見つめる。
「お祖母様。みなさまが聖女の御技を教えて欲しいそうです。こちらにいる間だけでもお願いできませんか?」
「まあ!」
え!いきなり本題に入っちゃうの!?ド直球過ぎない?
カスミ様は口元に手を当て、驚いた顔をした。そして、やっぱりというか、案の定困っている。
「昨日のアーテルを見て、やってみたくなったのかしら?」
「そうなのです!おばあさま!わたくしたちにもぜひみわざをおしえてくださいませ!おねがいいたします!」
スカーレットが深々と頭を下げた。必死な願いなのが分かる。推しのために頑張りたい。その気持ちはよく分かるよ、ウン。
「でもねえ、御技を使うには魔力の使い方を覚えなければならないのと、精神力と想像力が必要なのよ。貴女たちはしっかりしているとはいえ、幼すぎるわ。こんな言い方するのは贔屓のようで気が引けるけれど、アーテル、貴女は特別なのよ。普通の2歳の子では……」
「みなさまはわたくしと同じです。昨夜の話し合いでそれを確認いたしました。今のわたくしと同程度の訓練であれば差し支えないかと。」
ん?なんかその言い方だと、カスミ様がアーテルが転生者って知ってるみたいじゃない。カスミ様の後ろの侍女も目を丸くしてる。え?もしかして、オリエンス家の人はみんな知ってるの?
ていうか、アーテル。家族と話すのにちょっと事務的過ぎない?トコちゃんは色々なことが過ぎてるな〜!もうちょい二歳児らしくしなよ!
「そう……そうだったの……。なんだか納得がいったわ。そうなのね……。」
カスミ様は考え込んでしまわれた。スカーレットとオリヴィアは両手を合わせて祈るようにカスミ様を見つめている。その熱視線に気付いて、カスミ様は微笑まれた。
「分かったわ。詳しい話は後で聞くことにして、とりあえず、まずは陛下にお伺いを立ててみましょう。アーテル。貴女が昨日御技を使ったことは陛下にお伝えしています。これから貴女に会いたいそうだから、貴女たちもそれに同席なさい。聖女の御技は国のものでもあるのですからね。使い手が増えること自体は喜ばしいことなのよ。スカーレットとオリヴィアはメリディエス公とオッキデンス公にも許可をもらわなくてはね。もちろん、ヴィオラもよ。陛下にお許しを貰わねばなりません。」
「ありがとうぞんじます!」
「ありがとうぞんじます!」
「ありがとうぞんじます!」
三人で声が揃ってしまって、思わず顔を見合わせて笑う。ふふふ、ファンタジーを体感出来るぞぉ!まずは保護者から許可をもぎ取らなくっちゃ!!
作者、尿管結石になりました。お酒飲み過ぎのせい?
聖女さまに治していただきたいです。
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