141 タンタルの旅⑧
おうちに帰ります。
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
悲しみの岬ではマウリツィオさんが待っていた。ロムルス殿下はさすがにお帰りになったらしい。
その代わり、タンタルの首長がいらしていた。抜け目ない。マウリツィオさんは青い顔をしている。
「アウルムの聖女の皆様。この度は浄化にご協力頂きまして感謝いたします。」
「ご無沙汰しております、マリウス陛下。恙無く浄化を終えることが出来ましたことをご報告いたします。」
頭の下げ合いはどうにかならないものか。端的に言えばめんどくさい。
「お小さいヴァイオレット殿下やアーテル様にはさぞや過酷な旅であったことでしょう。お疲れではありませんか?」
「お気遣いありがとうぞ」
「それなりにつかれておりますのではやくとこにつきとうございます。」
アーテルの言葉を遮って私は要望を口にした。本心でもあるけれど、我々はここで捕まってはならないのである。でないとダスティンに怒られる。私だけな!
「でしたら、是非、首都の迎賓館にお越しください。一度ゆっくり疲れをお取りになった方がよろしいでしょう。」
一国の首長が随分と下手だな。それだけアウルムにはタンタルへの影響力があるということだ。まあ、態度だけで言ってることは滞在を延ばせということだ。瘴気はなくなったんだから認められない。
「わたくしはじぶんのいえでゆっくりとあんしんしてねむりたいのです。もうしわけございませんが、おまねきはおことわりさせていただきます。しょくじをとったらしゅっぱついたします。げいひんかんにとまらなければてんいじんをつかわせていただけないというのならほうおうどりでかえるまでです。おかあさま、よろしいですね?」
「ええ、そうね。わたくしも息子を国に残しております。お申し出はありがたいけれど、帰らせていただきますわ。」
「……左様で御座いますか。転移陣はご使用頂いて結構ですよ。聖女様方にそのような無礼を出来るはずが御座いません。いつお戻りになってもいいように食事の用意は出来ております。どうぞこちらへ。」
大きな天幕の中で食事をとって、タンタル首長マリウス陛下と軽く会話をした。大人の政治の話に当たり前のように参加する私を見て、よかれと思って孫をやりましたが力不足でしたな、と笑っていた。
ロムルス殿下の話は今後の役に立つ。それは間違いない。まあ、ほとんどがマウリツィオさんの補足で成り立ってたけどさ。
そんなことない、とても勉強になった、と返しておいた。無難な返事だろう。
鳳凰鳥で先に転移陣のあるホールトへ行き、私たちとマウリツィオさんで転移。マウリツィオさん、ギルバートと鳳凰鳥に乗って来たんだけど、青ざめてたわ。気持ちは分からなくもない。私も高いところ怖かったもん。慣れとは恐ろしいものである。
さて、もうすっかり夜ですが、帰って来ました、王宮に!おお、我が母国アウルム!我が故郷セプテントリオーネス!なーんてね。
迎えてくれたダスティンのイライラ具合が半端ない。ジェフリーはパルと一緒にメリディエスの船に乗って帰ってくるから、ちゃんとした報告は数日後になるだろう。
アーサーはもう寝ちゃったって。私たちがいない間はアルテがたくさん遊んでくれたらしい。子守り猫のありがたみに土下座したい気分。私もアルテ様と呼ぶべきだろうか。
「お帰り、ヴィオ。」
「ただいま、おとうさま。」
ぎゅう、と抱きしめ合う。
「二人とも、大変な旅だったな。」
「ええ。あんな大規模な浄化をしたのは初めてだわ。今までは二、三日で終わるのが普通だったのに。」
「そうだなぁ。だが、大規模な瘴気はこれからも数年は起きるかもしれない。三人とも覚悟しておいてくれ。」
瘴気の連鎖ね。そうなるよね。今回のがしょっちゅうあるのは困るなぁ。かなりしんどかったよ。
「陛下。魔力測定器をお借りしても?」
「まだ執務室にあるが……なんでだ?」
「ヴィオラ様の魔力を測りたいと思います。かなり成長されているようなので。」
「分かった。今からやる?もう今日は休んで明日にする?」
「すぐやりたいです。きになってねむれませんわ。」
私だけ8000台いってなかったらどうしようってね!
すぐにお父様の執務室に移動。鳳凰鳥、ホント使える。みんなごめん。当分王宮でゆっくり休んでね。
うひ〜!緊張するぅ!まだ倉庫にしまってなかったのかよって思ったら、レナードに心を読まれたのか、騎士団で普通の測定器じゃ足りなくなった人が出て来たから当分出しっぱなしにしとくんだって。まさか……ステファニーじゃないよね……?
「よくお分かりですな。だが、あの子だけではありませんよ。」
心の声漏れてた!やっぱり疲れてるな、私。
「いきます。」
わぁ〜、こわ〜!いち、に、さん、し、ご!
およ?誰も何にも言わない。そっと目を開く。
おお!8000越してんじゃん!やった!
あれ!?9000……行ってる……?
「9100……越された……。」
お父様の感想は置いといて。御技使ってんだからしょーがないじゃん。御技の魔力の方が身体に魔力をツメツメしやすいんだよ。
「すごいわ……。」
「英雄クラスが二人ですな。」
「アーテルもやってみなよ!しそさまごえしてるかもよ!!」
ふう。ハイ、出ましたアーテルの、ふう。
ま、でも結局やるんだけどね、この人は。
はーい、いち、に、さん、し、ご!
おお!上限ギリギリ!!
「9800!すっごーい!すぐにいちまんごえしちゃうんじゃない!?」
「越したからってなんだっていうのよ。」
「れきしになをのこすよ!」
サムズアップしたらベシッと叩き落とされた。すんませんでした。
「あの二人も増えたんじゃない?増幅器で御技を使ったんだし。」
「あ、やっぱりそうおもう?」
「増幅器にそんな効果があるのか?」
「あれ?ほうこくいってません?まりょくぞうふくきはぞうふくきじゃなくて、まりょくぶんかいきです。あのきんぞくは、ながしこまれたまりょくぶんしのけつごうをきりはなして、まりょくげんしにするのがほんらいのせいしつです。まりょくがこまかいほどしごとのこうりつはあがるので、それがまりょくをぞうふくしているとかんちがいしていたのでしょう。」
「私のところには報告が来ていない。ダスティン。」
「急ぎの話ではなかったので、後回しにしておりました。申し訳御座いません。」
「ジェフリーがもどりしだい、かいぎのばをもうけてくださいませ。どのようなかたをかいぎにおよびになるのか、そちらでごはんだんください。」
「そんな重要な発見があったのか?」
「みなみたいりくにもせいせきのこうしょうがあるとタンタルのものよりききました。フェリクスおじさまはそのかいはつにのりきです。いいですか、フェリクスおじさまですよ。オースティンおじさまではございません。」
「なんと!」
「フェリクス兄上か。頑固だからな。やると決めたら譲らんだろう。」
「また、そのこうしょうははるかむかしにこうざんとしてひらかれていたそうです。おそらく、ティターンのものがあちらのせいせきをもちこんでいるとかんがえられます。ティターンのおうぞくはあちらのていこくのこうていだったそうですね?みなみたいりくをだっしたときにもちだして、それによってくにのしょうきをしりぞけているのかと。」
「聖金の鉱床を持ち、聖石も保有している。なるほどな、なかなか潰れないわけだ。」
「あれはせいきんというのですか?」
「一般的にはそう呼ばれている。」
真鍮にしか見えなかったけど、違う金属なのかな?合金ではないのかと訊ねると、合金ではないとのこと。未知の金属かぁ。魔石もそうだもんな。ファンタジー要素を深く考えては負けだ。泥沼にハマる。
すぐに変色するので手入れが大変らしい。変色しても効果は変わらないけど、国宝だからさ。
むう。ますます教材に使いたいと言い出せない。
「聖金をお求めですか?」
「がっこうのきょうざいにしたいのよ。あれをいしきしてつかうだけできしたちのまりょくがとてもふえたから。」
「許可は出せませんな。」
「どうしてもダメ?」
「いけません。磨耗します。」
磨り減るというマヌケな理由だが真実だ。効果は変わらずとも手入れで減ってしまうのだろう。手入れするのやめたら?
「もうみんな休め。今後のことは明日から考えればいいだろう。」
そりゃそうだ。私は大変疲れていたのであった。おやすみなさいませ。
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