135 タンタルの旅②
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
というわけで、二機の哨戒機ならぬ二羽の哨戒鳥と猫一匹で偵察の旅。朝低空飛行で浄化もしつつだけどね!魔力足りるのか!?
「海上の空気は正常ですね。」
正常というか、清浄というか。ギルバートの言う通り、瘴気に侵されているのは海水のみ。空気中に浮遊はしていない。まあ、水はね。万能だから。ありがとう、水。
それより普通に海面スレスレを走ってるパルがすごいんですけど。走るどころか滞空までマスターしてますが。なんでみんな驚かないの?
「波を止めて一気に出来たらいいのにね。このままでは広がる一方でしょう?」
それな。モーセばりに海を割って汚染が広がるのを止めたい。
「何か考えついた?」
「うみがパカンとわれないかな。おせんされてないところとわけたい。」
「魔力の壁でも作りましょうか?」
「そんなことできるのですか、おかあさま!?」
「防御壁と同じですよ。海の流れに抵抗しなければならないので厚めに作らねばなりませんが。」
防御壁って案外使い道があるな。まあ、魔力球も防御壁と同じだからなぁ。イメージ次第で物質を留める力がある。
「ぼうぎょへきはしょうきのえいきょうをうけないの?」
「受けますが透過はせずに吸着します。余りに長時間だと使い手まで浸食が進みますが、そう短い時間では御座いません。」
防御壁は魔力分子が結合した状態で固体化させるんだけど、人工純魔石みたいなものじゃない?それに吸着する?もしかして、瘴気って純魔石に留められるんじゃない?
いや、今はいいや。とりあえず、壁を作ろう。
現在地は悲しみの岬からおよそ10km地点の海上。岬は霞んで肉眼では見えない。
「みさきがみえないわね。」
「見えますよ?」
「わたくしにはみえないけど。」
「身体強化ですよ。視力を上げられます。」
こんな低いとこから10km先が見えるってマサイ族かよって思ったら身体強化だった。そういえば、ギニアのタレント外交官の人、銀座のネオンで視力下がったって言ってたなぁ。
「また違うこと考えてるでしょ。」
「うぐぅっ!ちゃんとかんがえてるよ!ギルバート、いちどうみにかべをつくってみてくれる?」
「かしこまりました。」
ギルバートが防御壁を海に向かって作った。長さ2kmに深さ1kmくらいかな?
「これが限界です。」
私とアーテルは平面なら秒速100m程度で浄化出来るけど、どこまで続いてるかも分からない瘴気にこれではいつまでかかるか想像もつかない。
パルが視界の端で動いたのに気がついた、じいっと岬の方を見つめている。
「パル、どうしたの?まものでもいた?」
「にゃん!」
パルは後ろ足で立ち上がる。立って殴り合いする野良猫の喧嘩を思い出したわ。
そんな私の思考などに気付かぬパルは、手の爪により一層魔力を注ぐと、ネイルカバーの魔石が光った。
「にゃーっ!」
勢いよく手を振り下ろす。また猫パンチ?今度は雷撃じゃなくて風刃だ。お父様仕込みのウインドカッターを海にお見舞いした。
うわ!高波が!津波が起きるよ!悲しみの岬辺りはリアス式海岸だからヤバイ!
私たちが慌てて浄化をかけたのを見て、アーテルとお母様も浄化をかけた。三人の魔力で押し出すようにして、バケツをひっくり返したみたいにドバーッと流し込む。
今日は凪いでるからそこまでならなかったけど、あれはヤバイ。海がパックリと遠くまで三つに割れてビックリした。ちゃんと瘴気のある辺りを分けて割ったところもすごい。
アレ、悲しみの岬まで届いたんじゃないの?パルの魔力ってどうなってんの?無尽蔵なの?
「ギルバート!みさきにたいきしてるひとたちはぶじかしら!?」
「あ、ええ、岬はかなり高いので大丈夫そうです。……周りの海にせり出してるところは少し抉れてますが。」
地形まで変形させたか。戦争で使えるな。
じゃなくて!
「ひゃん。」
あん?なんだって?アルテみたいな高い声。
「褒めてほしいみたいね。」
「わー!パル!すごいわ!いいこね!なでなでしてあげるからこちらへいらっしゃい!」
わざとらしい声でパルを呼び寄せるとスリスリと私の足に頭を擦り付ける。
「でもね、パル。ウインドカッターはこうげきようよ!おなじようにぼうぎょへきをだせる?ギルバートがさっきやってたほうほうよ。」
「みゃん!」
返事はいい。理解したかはわからん。今度は岬に背を向けて立ち上がり、肉球から魔力を……パルの肉球黒いな。知ってたけど。ヒゲも爪も黒いから、夏目漱石が大事にした幸運の黒猫だな。
現実逃避もしたくなる。やりやがったよ。水平線まで続く防御壁。水平線があるってことはこの世界平面説は消えたな。なーんてね。
ハイ、さっさと浄化浄化!
パルは疲れたのか、背中が広々としてるいちごちゃんの方に乗り込んで、アーテルの後ろで丸くなって寝だした。
「魔力を使いすぎて疲れたのかしら。」
「あれだけの魔力を放出すれば眠くなるのも仕方ないわ。これからどうしましょうか。」
「……いちど、みなみたいりくまでいきとうぞんじます。」
「ヴィオラ様、危険です。もう何百年も人が踏み入れたことは御座いません。」
「なんびゃくねんということはしょだいさまがおられたころはまだみなみたいりくにひとがすんでいたということ?」
「そうよ。初代様は一度世界中の瘴気を消したのだから。」
世界中の瘴気を消したのにまた瘴気が発生したのはなぜ?瘴気の発生には理由や条件や法則がある?考え出すと、余計に南大陸へ行きたいという思いが止められない。
この人数で、食料もまともに持ってないのに、南大陸へ行くなんて無茶なのは分かってる。ただ、見てみたい。セレンで見た、あの荒野。草木も生えぬ、不毛の地。忘れられない。
「海面に近いところだけでもいいから、とにかく今日は行けるところまで行ってみましょう。パルの技を繰り返して進んでいくしかないわ。」
お母様の言葉にアーテルとギルバートは頷いたけれど、私は素直に承諾できなかった。
まだ考えてしまう。ずっと、ずっと、考えても終わらなくて、身体から迸る御技を眺めていたら、いつの間にか一日が終わってしまった。
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