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134 タンタルの旅①

新しい旅が始まります。


お楽しみいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

「おはよう、ヴィオラ。」


「おはよ、アーテル。ふぁぁぁ。」


「淑女らしからぬご挨拶ね。」


「だって、きのうはけっきょくしつむしつでシャワーあびてギリギリまでしごとしてかみんしつでねて、あさもちょうしょくたべながらしごとして、あくびがでないはずがない。」


 同行者のジェフリーは一度家へ帰らせて荷造りしてきてもらい、その間アリスターとトマスと一緒に先にやっときたい案件を片付けて、タンタルの資料を読み込み、あちらから送られてきた報告書も読み、ジェフリーが戻ってきたら後回しにしていた分に手をつけて、九時過ぎまで頑張ったけどさすがに眠くなったので私は仮眠室で寝たけど、みんなはまだ仕事してた。

 六時半に起こされて、朝の支度をして七時から朝食を食べながら補佐官と会議。みんなも官僚用の仮眠室で寝たのかと思ったら、この部屋で寝たって。会議室に寝袋の抜け殻が落ちていた……。


 そんで現在八時。転移棟に集合。国一つ越えなきゃいけないので、とりあえずメリディエス領都ベガに転移して、国境の街へ転移。馬車で国境を越え、ビスマスに入国。ビスマス国内を転移転移転移して、また馬車で国境を越え、タンタルに入国。そして転移転移転移転移すれば、瘴気の発生現場に到着する。


 タンタルは南に海があって、その辺は亜熱帯気候らしい。昔は海を挟んだ大陸も人が住んでいたそうだけど、今はもう瘴気に侵されて誰も住んでいない。

 瘴気は海で海流に流されて薄まるし、重くて沈んでいくから、海はそんなに怖くないんだって。たまに深海生物が魔物化して出てくるみたいだけど。


 現場はタンタル最南端の岬。最初の報告が曖昧でさ、とにかく海が瘴気に侵されてるっていうのよ。魔獣が出たのかって聞いたら、もう自壊してるって。

 聖石の浄化で間に合わないのかって質問には、海面を伝って瘴気が広がってて無理だって言われたらしい。


 そんなこと今までの記録にもないからアウルムでも半信半疑だったらしいんだけど、学者が似たような記述が初代聖女の伝説にあるって言い出して。

 今までは海面を覆うくらいたくさんの海の魔物が出たのかと考えられていたけど、本当は文字通り、海が瘴気で覆われたんじゃないかって。タンタルの報告が本当ならそうかもしれないって。


 南大陸とはアウルム王国のある北大陸からは目視出来ない。そんな広範囲、香澄様ナシでイケる?

 本人は全く行く気がなく、事情を話して古代から伝わる世界地図を見せたら、セレンで見せたからもう出来るでしょ、って。見ただけで出来るか!!


「遠征なんて久しぶりだわ。」


「ぜんかいはいつだったのですか?」


「五年前かしら。最近、大規模な瘴気の発生がなかったのよ。カスミ様とダイアナお姉さまとご一緒したの。」


「ダイアナさまとはオリエンスこうのことですか?」


「ええ、わたくしやイヴ、ポーラの憧れのお姉さまなの。いいえ、下級生は皆、お姉さまに憧れていたわ。優秀で、とてもお強くて、わたくしたちのような年下の者にもお優しい方なの。」


「そうなのですか。」


「殿方には負けたくないと仰って、学院の卒業試験は全ての科の試験を受けて、実技も含めて満点で合格なされたわ。異例のことなのよ。」


「まあ!すごいかたなのですね!」


「ふふ。お姉さまも開校以来の天才と言われていたけれど、貴女はそれ以上じゃない。教授陣が満点どころの騒ぎではないと陛下のところへ押しかけてきて大変だったそうよ。貴女に会わせろと騒いだのですって。」


 げ、そうだったの?止めてくれてよかったわ。それどころじゃないから。相手してる暇なんてないから。


「ぜんかもくごうかくをいただいたわけではないですもの。まだまだですわ。」


「あらあら、天才は謙遜もお上手でいらっしゃること。」


 他の人から言われたら嫌味な言葉だけど、お母様だから不快じゃない。私は別に天才じゃない。ただ、よく物を覚えてるだけだ。興味ないことはすぐに忘れるけどね!


「ヴィオラ、よくあんな試験に合格したわね。」


「アーテルもいくつか合格したのでしょう?二歳でそれだけ出来れば充分よ。すごいことよ?」


「ありがとう存じます、シンシア様。これからも精進いたします。」


 午前中丸々移動に使ってもまだ着かない。転移陣使っても着かない。どんだけ遠いの。

 最後のホールトから馬車に揺られること二時間。私たちだけなら鳳凰鳥で移動出来るけど、護衛だのなんだのがいるのでそういうわけにもいかない。一国の王妃がいるのだから仕方ない。


 ようやく到着したタンタルの現場は祖国の海(マーレパトリア)と呼ばれる海の見える岬だった。自分達を南人(メリディオナーリ)と呼ぶタンタル人は南大陸からの移住者で出来た国だ。

 人類の発祥は南大陸だというのが定説で、多くの民族が長い時間をかけて瘴気から逃げるように南大陸から北大陸へ移住してきた。タンタル人は最後に逃げてきた民族だと言われている。

 褐色の肌にブルネットの髪、青い瞳を持つ者が多いタンタル人はより人類の祖先に近いのではないか考えられている。


 悲しみの岬と名付けられたこの岬は、海を渡ってきたタンタル人が最初に見た北大陸の景色だったそうだ。


 うーん。海は広いな大きいな!


「本当に瘴気が海面を伝って来てるのね。」


「海の底に沈んでいってる感じではなさそうです。」


「かいりゅうはうみのうえとしたでながれがちがったりするから、そのせいかも。」


 海流の表層循環と深層循環ってやつね。表層循環は基本的に風成海流だから、風の向きがいつもと違ったとか?


「いつもとちがうかぜがふいたり、てんきがおかしかったりしたことはありますか?」


「例年より早く台風がやって来ました。その進路がいつもと反対だったそうです。そちらの被害も尋常ではなく、現在復興作業中です。」


 タンタルの大使、マウリツィオさんが答えてくれた。今回の同行者のひとり。タンタル本国の人間をチームに入れない代わりに、マウリツィオさんの同行を許可。

 この悲しみの岬、マンテッロ・ディ・トリステッツァってそのまま地名になってるんだけど、こちらの出身だそうで色々都合が良かろうと。

 護衛は第一師団の半分を連れてきた。ステファニーのいる連隊も入ってるんだけど、レナードにダメって言われたらしい。いない間は修行だって。わたくしも参りますぅぅぅぅッ!って騒いでたけど、アレ、鳳凰鳥に乗りたいだけだと思う。


 しかし、今年は異常気象のよく起こる年なのか?本来の台風の風向きで南大陸に押し止められているものがやってきた?

 日本でも太平洋上で進路を変えて東から西へ逆走したこともあったし。


「で、どうする?」


「ふうせいかいりゅうでながされてるだけならすいしん400m、ひょうそうじゅんかんじたいはすいしん1000mだったかな。それをここから、みなみたいりくまで?」


「南大陸って、どれくらい距離があるのよ。」


「そんなのしらないよ!」


「私たちの先祖は船で三ヶ月かかったと。」


「どんなふねだった?」


「漁船を大きくしたような船で、五十人乗りの手漕ぎ船でした。」


 古代の船って感じだな。大型船はなかったのか。そんな船で三ヶ月なら意外と離れてないのかも。邪馬台国の時代に似たような船で福岡から韓国まで一ヶ月半だったはずだし。


「かぜのまほうはつかわなかったの?」


「とにかく荷を少なくして人を乗せることを優先したので、必要最低限しか持ち出せなかったのだそうです。小島もなく、海原を渡る旅は壮絶であったと言い伝えられております。」


 なるほどねー。石は重いもんね。食料とかの方が優先順位高いわ。


 タンタルは北大陸最南端。亜熱帯でスコールも多いから、暮らしにくいと人々は離れて行ったので空いていたらしい。


 国土はそこそこ広くても、ほとんどが亜熱帯〜熱帯気候っぽい。この世界全体がどうなってるのかサッパリわからんのだもん!異世界だし、天体じゃなかったりしてね!ハハハ!ありうる。


「ほうおうどりならいちにちでおうふくできるきょりだろうから、とりあえずそらからじょうかしていきましょう。あとはうみにちょくせつはいってかけられればよいのだけど。」


「水練をされてないお二人には難しいかと……。」


 ギルバートの言うことは最もだ。まあ、こちらにも考えがありますから。


「そのへんはあとでせつめいするわ。とりあえず、わたくしとおかあさま、アーテルとギルバートでほうおうどりにのりましょう。……で、パルはほんとうにそらをはしれるの?」


「にゃん!」


「そうよ!そのために特注の風の魔石ネイルカバーをつけたのですから。」


 自信満々に言うお母様は可愛いけれどもね。キチンと脚をそろえて胸を張っているパルもとても可愛い。

 確かにパルの爪にエメラルドのような石が加工されたネイルカバーがついている。友だちの家の猫も引っかき防止につけてたなぁ。あれはシリコンだし、飲み込んでも大丈夫なヤツなんだけどさ。


「おとうさま、とんでもないことかんがえるわね。」


「陛下もセオドア様譲りの発想力がおありですから。」


 万が一、魔物が出た場合の戦力らしいけど、戦えるの?風の魔石を使ったウインドカッターを出す練習をしたらしいけど。

 最近、相談事は先に私の方に来るようになったから、お父様の仕事がかなり減ったらしい。なんだそれ。

 いや、企画立案私の案件も多い。不満は言うまい。クソッタレェ!

お読みいただきありがとうございました!

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