129 束の間の休息
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
机に書類が山積みです!
補佐官たちは私が昼食の間、先にこちらに戻って食事をしながら続々と届けられるバインダーや企画書の下読みをしていたらしい。今日は土曜日で休みなはずなのに、ようやるよ。ま、官僚なんて休みがあってないようなものだから仕方ない。
身体測定を終えた迦楼羅も部屋に来てるよ。窓から入ってきたけどね。今は果物を貪るように食べてる。
「工部から全国の河川工事の計画書が届いております。」
「司法卿より新法立案についての意見書が届いております。」
「財部を通して王立研究所より新貨幣についての質問状が届いております。」
他にも……と、合わせて七件の相談が来ていた。司法卿とかね。会ったことないけどね。名前すら知らん。
仕方ない、やるか。アウルムの江藤新平に、俺はなる!いや、梟首になるのはイヤだ!だが、日本の司法において偉大な人物だったことに変わりはない!
「しほうきょうのからすませましょう。だれかしょきをやってくれる?」
「わたくしがいたします。皆様、意見交換を。」
「ありがとう、ドロシー。ないようは?」
「はい、国民年金と国民皆保険制度、新労働法に関わる新規部署の設立についてです。」
「ああ、ほけんぶのはなしね。なら、みんぶからのかいとうしょもこちらのはなしかしら?」
「左様でございます。」
民部、つまり戸籍だの所有財産だのの管理をしているところに問い合わせたところ、五歳以下の戸籍は取ってないと言われたのよ。土地の区分も大まかだし、この辺は今後整備していくけどさ。
保健部は厚生労働省だね。
財部は新たな金集めの手段として消費税に傾いてるんだけど、司法府は人頭税推しでさ。まあ、簡単と言えば簡単だけど。控除をどこまでするかとか、そんな話も交えながら補佐官と意見交換。
一応、優先的に法律に関する本を読むようにしてるけど、まだ全部把握してるわけじゃないから、私より詳しいであろう補佐官の意見は大事だ。
現状の制度では収益に対する税しかかかってない。アウルムは大国だからそれなりに税は集まるけどさ。
地方税と国税を別に徴収する形に直すのはいいとして、国税をどう集めるかでモメている。司法卿が案外強いらしくてね。チャールズに対抗出来る本命馬って感じ。
「それで、みんなはどちらのほうがいいとおもう?」
「殿下はどうお考えなのですか?」
「うーん。しょうひぜいはかへいけいざいへのてんかんがひっすだとおもうの。どうにゅうへのはんぱつもおおきいとおもう。わたくしも、いずれはしょうひぜいをどうにゅうしたい。だけど、それがいつになるか……。すぐにできるのはじんとうぜいね。おかねであるひつようもないんだし。すぐにでもおこないたいじぎょうのためのよさんかくほにはちょうどいいのよ。なやむわぁ。」
「福祉事業のための予算確保でしょうか。」
「そうよ。あとはこくどほぜんのためね。このくにはしぜんさいがいにたいするたいさくがまるでなってないわ。」
「は、はあ……。」
補佐官の気圧され気味な様子には困っちゃうけど、話し合いはそれなりに出来た。あとで清書して回答書を作成してもらう。
全ての話し合いが終わり、まだ引き継ぎがあるらしいので、三人はそれぞれ元いた部署に向かった。
私はやっと自由時間!といっても、もう夕方。
迦楼羅がお散歩したいというような仕草をするので、神殿の泉に行くことにした。お父様の執務室の応接テーブルに鎮座している迦陵頻伽を回収し、サリーにアーサーとアーテルも誘っていちごちゃんとりんごちゃんも連れて来てもらった。パルとアルテもいるよ。
「はー、ひさしぶりののんびりじかんだわぁ。」
「ちょっと忙し過ぎじゃない?何とかならないの?」
「だってさー、そうだんしつとかいってぶしょつくられちゃったし、しつもんじょうはやたらとくるし、じぶんじゃどうにもならないよ。」
「倒れないでよね。香澄も心配してるわよ。Xデイのために必要なこととはいえ、今からそんなにやらなきゃいけないのかって。」
「Xデイねー。ひさびさにきいたわ、そのたんご。」
「スカーレットも言ったでしょ?私たち、あんたにおんぶにだっこは嫌なのよ。」
「わかってるよ。ただ、わたしがいちばん、ひつようなことをやりやすいたちばにいるだけ。すべてひとりでやるつもりなんてないよ。」
「ヴィオー、アーテルー、なにしてるのー?」
「おはなしよ。アーサー、いちごちゃんにのったのですって?」
「うん!ぶあーーーって!たかーーい!したよ!」
「よかったわね。」
「でも、アーサーひとりはダメだって。」
「それはそうよ。わたくしもひとりではのれないわ。」
「そうなの?」
「わたくしもよ。」
「アーサーだけじゃない?」
「アーサーだけじゃないわ。」
「よかったぁ!」
アーサーなりに感じることがあるのかな?私たち、同い年なのにアーサー抜きで何かすること多いからな。
「パルにはひとりでのれるのでしょう?アーサーはすごいわ。」
「うん!パルだいすき!」
自分の名前を呼ばれたのに気付いてパルはアーサーにスリスリと頭を擦り付けた。
「パルもアーサーのことだいすきだって。」
「パル〜!だいすきだよ〜!」
「平和ね。」
「ん?なんかいやみ?」
「ちがうわよ。ただ、平和だなって思っただけ。」
「それではここでいっきょく。」
「だからどうしてそうなるの。」
「アーテルのおうた!」
「アーサーきいたことあった?」
「おばあさまといっしょにうたった!おばあさまのおくにのうた!」
ほーん。アーサーには随分とサービスがいいじゃないの。ジト目で見てたらアーテルに睨み返された。なぜ!!
「小さな子に頼まれたら断れないでしょ。」
アーテルだって二歳だよ!理不尽!
「アーテル、おうたして?」
「いいわよ。何を歌う?」
「さっきのあかいとりさんのうた。」
「あかいとりさんのうた?」
「赤い鳥小鳥、って童謡よ。」
「きたはらはくしゅうか。」
「本当によく知ってらっしゃること。」
「こんどはいやみ?」
「今度こそ嫌味。」
「やったぁ!アーテルのいやみ、いただきました!」
はあ、と当てつけのようにため息をついたあと、アーサーにせがまれるままアーテルは歌った。帰る頃には空はすっかり夕焼け。
茜さす西の空はまるで鳳凰鳥の飾り羽根のようだった。
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