114 セレンの旅⑧
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
「あんまりいおうのにおいしないね。」
「ぬるついてるから、アルカリっぽいわね。」
「あー、たしかに。びはだのゆにありがちなピーリングこうかのやつね。」
かなり広い湯船だ。寝湯が主流なのか浅いので私たちでも溺れない。浮力を利用して手を床の石畳について温泉の中をスイスイスイー。たまにはこんなのもいいよね。
源泉かけ流しの貸切風呂なんて贅沢だわぁ。
「ここの湯は飲めるのかしら。」
「あとでアルセーアのひとにきいてみようか。ピリッポスへいかにもいいとおもうし。」
「何だか随分とセレンに肩入れしてるわね。」
「そう?」
「いつの間にか王太子とも名前で呼び合ってるし。マズイんじゃない?独身の王族同士が婚約者でもないのにあだ名で呼び合うの。勘違いされるわよ。」
「うーん、でも、わたしたちくにをでられないからいっかなっておもったんだけど。としもかなりはなれてるからげんじつてきじゃないでしょ?」
「相変わらず抜け目ないわね。それでも自分たちの都合の良いように解釈して事を運ぶ大人だっているんだから気をつけなさいよ。」
「はあい。あーあ。アレクよりピリッポスへいかのほうがこのみなんだけどなぁー。」
「意外。」
「そう?」
「だってアーサー、あ、まあ、もっと若い人の方がいいのかと思って。」
ああ、アーサー推しだったって言ったから少年好きだと思われてたのか。いや、好きですよ?鑑賞したり応援したりするのにはね?十代半ばの若い男の子が頑張ってる。それだけで尊いじゃん?
「おはなしとかだとそうだけど、リアルはイケオジのほうがすきだよ。」
「イケオジ……。」
「ステキなイケオジがちょっとよわってるのがすき。」
「あ、そう。」
「じぶんからきいてきたくせに!アーテルのこのみもおしえて!」
「ない。」
「そんなわけがない。」
「じゃあ、好きになった人が理想のタイプ。」
「ていのいいごまかし!なっとくできません!ぐたいてきなせつめいをようきゅうします!」
「あのね……。そうね。真面目な人がいいわ。」
「まじめかぁ。もっとはてんこうなかんじがこのみかとおもってた。」
「人のことなんだと思ってるのよ。」
「ロックなひと。」
「……実は演歌だったりして。」
「ええっ!おんなのじょうねんうたいあげちゃうの!?」
アーテルが冗談言うの珍しいからのっとこ。
「演歌も好きよ。」
「えー、じゃあ、うたってよ!いずのやつ!」
「だから、どうして……まあ、いいわ。たまには。」
およよ?アーテルさん、デレ続行中?というか、伊豆のやつでよく通じたな。
しっかし、よく歌詞覚えてるな〜。歌い切ったよ。そういや、トコちゃんの名曲カバーアルバムに入ってたなコレ。元から好きな歌なんだな。
お風呂から出たら夕食だ。ご当地メニューが出るらしい。
わっほい、鮭だ!でも、今季節じゃなくない?
珍しい鮭が手に入りましたので、是非お召し上がりくださいだって。てことは時鮭!?ひゃっはー!レアものじゃーん!脂ノリノリじゃーん!
「お前たち、風呂でまた歌っていたな。」
「あら、いやらしい。ききみみたてていたの?」
「違う!丸聞こえだったぞ!しかもなんだ、最初の歌は!子どもが歌っていい内容ではなかったぞ!」
あー、アレね。ギルバートとブライアンにも微妙な顔された。歌った張本人は素知らぬ顔をしている。解せぬ。いや、私も途中から自分で歌ってたけどさ。
「あら、いみがおわかりになったの?」
「わからいでか!」
「アレクのことはデリカシーのないおこちゃまだとおもっていたけれど、そういうことだけはしっかりちしきがあるのね。いやだわ、おとこって。」
たかが歌で文句を言われる筋合いはない!あんな名曲に対して失礼じゃないか!それにハッキリと具体的な表現はないもん!勝手に想像したそっちが悪い!ということにしておく!!
アレク、顔を真っ赤。口をパクパクさせて言葉を失っている。ちょっとやり過ぎたかな。後ろのアンからの視線が痛いよ。
アレクの後ろにいるヘクトルに至ってはこちらも顔を真っ赤にして口とお腹を押さえてる。爆笑をこらえてるんだろう。
はー、美味しかった!素材を味わって頂くために塩焼きです、と言われた時はブライアンが眉を顰めてなんか言おうとしてたけど、ぜーんぜん!塩焼き大歓迎!炊き立てご飯も出たし、サラダとスープじゃなくて漬物と味噌汁なら尚良かったけど。
気分も上々、このまま会議。早く寝たい。
「ミメリズモーニからはまだ連絡はない。こちらの浄化は終えたので、明朝リーリオンに戻る。出発時刻は8時。最初の浄化隊の出発予定時刻と同じだ。二人の行動は特に変更はない。トナカイの親子も連れて行くことになった。学者共がうるさいんでな。今後の業務に支障がない程度に聖女の魔力を食べさせてやってくれ。」
どこの国でもマッドサイエンティストがいるんだな。
「かいぼうなんてことはやめてね。」
「それはさせない。白いトナカイは幸運の象徴なのだろう?」
「そうよ。だいじにしてあげてね。」
「任せておけ。」
翌日。リーリオンに向かう前にトナカイの様子を見に来た。アレクも着いてきたけど、暇なのか?
「子ども、何だか昨日より大きくないか?」
「そう?じゃっかんおおきいようなきもするけど。」
「こんな赤ん坊でもツノがあるんだな。」
ホントだ。ちっちゃいけど、ツノが見え始めてる。ん?
「ツノ、きんいろじゃない?」
「白い毛が生えてはいるが、地は金色のようだな。」
「すごいわ、あなた。めがみのしえきするしかのようね。」
「何だそれは。聞いたことがないぞ。」
「いかいのしんわよ。とてもあしのはやいめじかで、きんいろのツノとせいどうのひずめをもっているの。」
「お前は色んなことを知っているな。聖女カスミ様に教えて頂いたのか?」
「そんなところよ。ねえ、そのおまえってやめてくれない?さいしょはあなただったのに、いつのまにかおまえになってるし、なまえでよんでいいっていったのに。」
不満を伝えるとアレクは真っ赤になってフリーズした。また口をパクパクさせてる。池の鯉か!
「あ、あ、わ、悪かった。その……ヴィ、ヴィー。」
視線を逸らして恥ずかしげに名前を呼ぶ。こっちが照れるわ。
アレクも16歳。背が高いし、見た目は大人っぽく見えるけど(老け顔ともいう)、少年から大人に変わる頃だからね。
思春期男子。いい。
「その気持ち悪い笑みをやめろ!」
あれ、にやついてた?失敗、失敗。アレクの後ろのヘクトルもニヤニヤしてるけどね。プププーみたいな。口を押さえて小刻みに震えてるよ。
私が親子に聖女の魔力を与えていると、ため息をつくようにアレクがこぼした。
「御技とはかように自然に使うものなのだな。」
「そんなことないわよ。けっこうたいへんだったんだから。ほんのうをりせいてきにりかいするというのはとてもむずかしいわ。」
「本能?」
「みわざのげんりは、どうしょくぶつのげんしてきなほんのうだとおもってるの。ははおやがこどもにあたえるような、じあいとおなじね。けもののように、だれかにおそわらなくても、いでんしにきざみこまれたきおくがあるから、こどものせわをする。にんげんはほんのうをとじこめてりせいをかくとくしたから、りかいがおいつかないのだわ。」
「いでんし?が何だか分からん。」
「せんぞだいだいうけつがれるせいぶつとしてのきおくとことよ。」
「それも異界の知識か?」
「ええ。」
「……アウルムの聖女の質がこの百年余りで落ちたと聞いていたが、おま……ヴィ、ヴィーがいれば安泰だな。」
「ひとのなまえをよぶのにいちいちどもらないでくれる?」
「お前なぁ!」
「あー!またおまえっていった!」
「あはははははははははは!」
「ヘクトル!」
とうとうヘクトルは堪えきれなくなって、大声で笑い出した。
アレクのことはいけすかないおこちゃまだと思ってたけど、なかなかからかいがいがある。いい友だちになれそうだ。
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