11 誘う悪役、誘われる悪役
今日は夜にも投稿する予定です。
寝落ちしなければ……
よろしくお願いします。
「では、なかなおりのあくしゅをいたしましょう。」
「あくしゅ?」
「そうよ、ふたりとも、てをだして。」
二人の手を私が誘導して、握手をさせる。
「はい、なかなおり!」
「なかなおり!」
「なか、なおり?」
エドワードは三男だから、兄弟喧嘩もあるだろう、仲直りを分かっていた。アーサーは私と喧嘩なんてしないから、分からないのかも。
木馬を譲らなかったのだって、そういう経験がないからだ。私はすぐにアーサーにおもちゃを譲るし、アーサーからおもちゃを取り上げたりはしない。そもそも、そんなにおもちゃで遊ばないけどね。たまに会いに来るお父様にも、プレゼントは絵本か動物のぬいぐるみにしてって言ってある。
「ふふ、かわいらしい。懐かしいわ、わたくしの子も男の子が多いから、おもちゃの取り合いなんてたくさんあったもの。」
「エドワードさまはさきほどバーナードさまにおにんぎょうをおゆずりくださったのです。おやさしいかたですわ。」
オリヴィアが口を開いた。その手はバーナードとつながれている。バーナードは反対の手で騎士の人形をつかんだままだ。騒いだので二人で見に来たのね。
「まあ、そうなの!偉かったわね、エドワード。カエルラ侯爵夫人も、エドワードを褒めてあげてね。いっぱい我慢してくれたのでしょうから。」
カスミ様のお言葉にカエルラ侯爵夫人はハッとして、エドワードを抱きしめた。
「エド、偉いわ。バーナード様に優しくして差し上げたのね。貴方はとってもいい子だわ!」
エドワードが照れてる。腹黒になるとは思えない、可愛いお顔。
エドワードはカエルラ侯爵夫人に何かを言って離れると、アーテルの方へと歩いていった。
「ありがと!」
アーテルがちょっと驚いてる。カスミ様がそっとアーテルの腰に触れた。返事を促してるんだろう。
「どういたしまして。」
素気ない態度だけど、あれは照れてるんだろうな。意外と子どもっぽいところ、あるじゃない!
テトテトとジョエルが歩いて来た。アーテルの目の前で止まる。
「あなたはせいじょさま?」
スカーレットが驚愕の表情で、慌てて走って来た。いやいや、御令嬢が走ったらあかんぜよ。ガシッとジョエルの腕をつかんだけど、ジョエルは無反応。
「わたくしは聖女ではございません。この方が聖女ですよ。」
アーテルがカスミ様を見上げる。カスミ様、苦笑い。ジョエルはポカンとして、カスミ様を見つめた。
「聖女がこんなおばあさんでがっかりしたかしら?」
「申し訳ございません!ジョエルったら!」
アリオト侯爵夫人が慌ててジョエルのそばに来た。ジョエルはじっとカスミ様を見たままだ。
「せいじょのみわざ、きれい。」
「そうね、とても綺麗よね。」
「ぼくも、してみたい。」
「そう思うわよね。」
「ジョエル、いつも言ってるでしょ。聖女の御技は聖女様とその末裔しか使えないのよ。ましてや男の子は出来ないの。」
「でも……」
「ならば、ジョエルさまはけんきゅうなさればよいのです!」
「けんきゅう?って、なあに?」
ジョエルは首を傾げた。スカーレットは見つめられて、胸を押さえて、ウグゥッと御令嬢らしからぬ声を出した。おいおい、大丈夫か、スカーレットさんよ。目が血走ってるよ。
「研究とは、調べて、考えて、答えを探すことですわ。こうしたら良いのではないかと思ったことをたくさんやってみるのです。」
「しらべてかんがえる。」
「そうですわ、ジョエルさま!まずはほんをよんでしることからはじめましょう!ちしきがなければ、かんがえることもできません!わたくしもいっしょにおべんきょういたしますから、いっしょにかんがえましょう!ジョエルさまがみわざをつかえるようになるほうほうを!」
「わかんない。」
「わたくしがおしえますわ!さきほどのように、ほんをよんでさしあげます!」
「わかった。」
ジョエルがゆっくり頷くと、スカーレットの表情はパァァァッと明るくなった。周りに花飛んでるな。まあ、ジョエルが御技に興味を持つのも研究に走るのも既定路線だから、これでいっか。
あと、アーテル。そんな目でスカーレットを見ないであげて!
メリディエス公がウィリディス侯爵夫人の肩に手を置き、振り向いた夫人に微笑みかけた。これは決定かな。婚約が。相性云々よりも三公の娘が気に入れば決定かぁ。貴族ってつくづく縦社会だなぁ。ストーリーからは外れるけど、スカーレットはどうみてもジョエル推しだし、いいと思う。
ストーリー通りに進まない方がいいかもしれないしさ。異世界転生あるあるの強制力とかね。あるかもしれないから。聖女に興味があるジョエルが、新たな聖女に恋しないとは限らないし。スカーレットは後悔ないようにしたらいいよ。
オリヴィアもその様子に気付いて微笑みを深めた。ジョエル推しではなさそうだし、推しが誰だか分からないけど特に問題なさそう。
そういえば私、今日、全然攻略対象と交流してないわ。私の婚約、決まるのかなぁ。やっぱりエドワード?今のエドワードなら素直だし、このまま育てばまだいいんだけど。腹黒にならないといいなぁ。
いや。やっぱないな。ないないない絶対ない!子ども過ぎてホントない!
「さて、そろそろみんな疲れたでしょう。仲良くなれそうで良かったわ。また集まりましょうね。」
お母様が声をかけた。今日のお茶会は終わりのようだ。お母様にご挨拶されて、セプテントリオの方々から退出していく。
三公は残るみたい。王都での館は貴族街ではなくて、王宮内にそれぞれ離宮を賜っているから、ゆっくりしていくのかもしれない。大人は夜も一緒かもね。
「カスミ様は昨日いらっしゃらなかったので、陛下は是非お会いしたいと申しております。晩餐にはお越しいただけますか?」
カスミ様はアーテルを見た。晩餐会には子どもは参加出来ない。アーテルが心配なのかな?
「おかあさま!わたくし、もっとみなさまとおはなししとうございます!よるをいっしょにすごしたいの!いけませんか?」
話したいこともあるし、夜は私の自室にお泊まりしてもらってもいい。唐突な提案だけど、私は余り我儘を言わないので少しは聞いてもらえるかも。
「まあ、ヴィオラ。今日がよっぽど楽しかったのね。カスミ様、いかがですか?それならアーテルもひとりにはなりません。」
アーテルはカスミ様に向かって頷いた。カスミ様は、ふう、と息を吐いて、お母様と私の申し出を了承してくれた。
「わたくしの娘もご一緒させていただいてよろしいのですか?」
「もちろん、オリヴィアもスカーレットもいらしてくださいな。もっとなかよくなりたいの。」
二人は顔を見合わせた。親たちも顔を見合わせている。アーサーも夜は自室で寝るし、女子会が出来る。お話し合いには都合がいいのよ!
「ありがとうぞんじます。」
「よろこんでおうかがいさせていただきます。」
一度、それぞれの部屋に戻って休憩し、また夜に集まることになった。夕食は子どもだけで摂ることにした。お茶会の二次会はパジャマパーティーね!
体力が保つように、一回昼寝でもするかな!
スカーレットさんはこれから荒ぶります。
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