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105 旅立ちの前の一仕事

お楽しみいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

 小部屋を出ると、大急ぎで転移を促された。


 ベガへ着くと、イヴ伯母様が待っていらした。スカーレットはすぐさま走って伯母様に抱きついた。肩が揺れている。泣いてるんだ。


 イヴ伯母様と、フェリクス伯父様が二言三言、スカーレットに声をかけると、幾度も頷いて涙を拭っている。


「ヴァイオレット、パルと雛たちを預かるよ。王都へ転移させなければ。パル、迦陵頻伽、迦楼羅、こちらへおいで。」


 うん、びんちゃん、フェリクス伯父様大好きだね。名前を呼ばれて猛ダッシュ。抱き上げられると嬉しそうだ。積極的に自分から肩に乗って、頬にぴったり寄り添って座る。

 フェリクス伯父様の頭には絶対乗らないんだよね。違いはなんなの。大人の色気なの。


 迦楼羅は嫌な雰囲気を察知して、ぴいぴい鳴いてるけど、パルに咥えられて回収されて行った。


「このこたちでてんいさせるのですか?」


「私が着いていくよ。ジョージに直接報告をしたいこともあるし。この後すぐに王都へ向かう予定だ。」


「それならばあんしんですわ。このこたちのこと、よろしくおねがいします。」


「ヴィオラ、アーテル!セレンのじょうか、がんばってね!また、あきに!オリヴィアは、ちかいうちに、またあいましょ。」


「ええ、がんばるわ。」


「ありがとう。」


「おとうさま、おいていったほうがいい?」


「そうしてくれると助かるかな。」


「兄上!!」


 どうせすぐ雨季が来て大きな工事は出来ないからと、オースティン伯父様は乾季、つまり夏になったらまたメリディエスに来ることになった。オリヴィアも家に帰ったらオースティン伯父様と修行して、手伝いに来たいらしい。


 その申し出に、イヴ伯母様やフェリクス伯父様は戸惑っていたけれど、スカーレットも自分もやりたいと言い出して、無理をしない約束で一緒に治水工事に参加することになった。

 何をしてるか分からない遠く離れた王都より、自分の手元に居てくれた方が親としても安心だろう。


「スカーレット、またね。」


「またね。」


 すぐに眩い光に世界が支配され、スカーレットの姿が見えなくなった。


 オッキデンス領都フォーマルハウトに着くと、目の前にオッキデンス公ポーラ伯母様が立っていた。

 オリヴィアもポーラ伯母様に抱きつく。オースティン伯父様は優しい表情でそれを見ていた。


 国境の街アルデニブへの転移陣へ荷を移動する間、ポーラ伯母様はずっとオースティン伯父様に怒っていたけれど、オリヴィアはそれを見て嬉しそうに笑っていた。

 ああ、ちゃんと、家族なんだな。オリヴィアの根は、もうこの世界に根を張り出している。そう思えた。


 オッキデンスの一家にも別れを告げ、国境の街アルデニブへ。すぐに馬車に乗って、ホテルへ移動する。久しぶりにベッドで寝られる。テントでも一応、私たちは簡易ベッドを使ってはいたけれど。


 車窓から見えるアルデニブはとても栄えた街で、ヨーロッパの古い街並みをそのまま利用したような都市を思い出させる。王都の中心街に降りたことがないけど、こんな感じなのかな。


「お待ちしておりました。」


「祝福の旅、お疲れ様でございました。」


「あ、むらさきの。」


「懐かしい呼び名ですね。何故ご存知に?」


「なんぶで、みどりのモーガンにあったのよ。」


「なるほど、左様で。久々にその名で呼ばれたので驚きました。」


「ふふ、でむかえありがとう。おそくなってごめんなさい。」


「間もなく夕食のお時間で御座います。お疲れでしたら、それぞれ部屋でお召し上がりになりますか?」


「いえ、みんなととるわ。はなしあいができるのはこんやだけですもの。あすにはあちらのたいしともごうりゅうするのでしょ?」


「はい、国境の関所で落ちあう予定で御座います。」


 食事をしながらセレンでの注意事項などを確認だ。


「殿下、陛下と宰相閣下から交換日記?を預かっております。おやすみ前にご確認頂き、返事を書いて頂くようにと。機密書類なので手渡しするようにとのことですが……。交換日記が機密なのですか?」


 ショーンは首をひねった。まあ、そう思いますよね。はあ、ここに来ても執務かぁ。


「すくなくともダスティンのほうはきみつじこうがたくさんかかれてるわね。」


「陛下との日記は?」


「ふつうのこうかんにっきよ。」


「女学生がするような?」


「そう。」


 はあ、とショーンはまだよく分かってない様子だけど、私も分からないよ。


 充てがわれた部屋に戻ったら、すぐにバインダーを開く。ダスティンのは疲れるからお父様から。ぱっかーん。


 ラブレターですか?私とびんちゃんがいなくて寂しい、愛してる、早く会いたい、夢に見る、いつも私たちのことを考えてしまって仕事が手につかない、そんな内容だった。


 たった数日しか離れてないのにこれかよ!


 びんちゃん、思いっきり浮気してますけど。絶対にお父様じゃ勝てなそうなフェリクス伯父様と。ショック受けてないかな。もう転移したかしら。お父様、びんちゃんのお迎えに来てそう。びんちゃん、絶対にフェリクス伯父様の肩に乗ったままだよ。


 祝福をつつがなく終わらせたこと、被災地を間近に見て思ったこと、王族としての自覚を改めて強くしたこと、あとは私もお父様に会えなくて寂しいとリップサービスを付け加える。カリカリカリカリカリカリ。


 ま、こんなもんか。お父様の書いたところと比べると分量少ないけど。


 はー、次はダスティンかぁ。めんどくさっ。チャールズがないだけいいか。


 あー、幼年学校ね、ハイハイ。

 次年度の申し込みや問い合わせがすごいから、至急物件探してる?ハワードの言った通りになったなぁ。まだ今年度が始まってもいないのに。


 ま、る、な、げ、と。カリカリカリ。最初の物件探しさえ大変だったのに、見つかるかね?


 ん?聖女学校のことも書いてある。ああー、末端の末裔のことね。異界の医療について?ハイハイ。医師免許は国家資格だからなぁ。専門性が高すぎて分からんよ。全て人の手でやるんだから今思えばすごいよね。医学部だけは絶対にゴメンだったわ。


 聖女が揃ったあとは国民皆保険導入して、自己負担の割合をだな、決めねばならぬ。子どもは無料。生活困難者も無料。あとは大人と高齢者?高齢者まで完全無料にしちゃうとちょっとしたことでもバンバン病院に来るよね?そいつはちょっといただけない。


 あとは維持費が分からん。ほぼ人件費じゃん。こっちの元々の医療も全くナシにはしたくない。街によくある診療所の内科医的な役割をして欲しい。

 薬しか出さないっていうと、葛根湯医者って落語思い出すわ。何にでも葛根湯処方するヤブ医者の話。

 でも、葛根湯って結構何にでも効くからね。おかしなことでもないんだけど。


 この世界の医師ははっきりした資格がないから、国家資格にして、ちゃんと医師というか薬剤師?としての能力がきちんとあるかを見た方がいいと思う。頼れる専門家の人を探してもらおう。


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ。うん、よし。


 あ、専属侍女の人選が整いました?おおー、決まったのか。デイジーは入れてくれるって。実際の運用は七月以降。はんはん。

 え、ドロシー?お母様の復帰した侍女たちが慣れたら私付きになるの?家格が足りない者がいるから、バランス取るために?本人もお母様も快諾済み?マジで?いや、ありがたい話だけど、本当にいいのかな?


 あ、元王太后付き侍女を侍女頭に。高齢だけど、デイジーや新たにつく侍女の教育係にするって。

 え、こわ。私が理想としてた侍女とのほのぼのな関係がなくなりそう。


 お母様の筆頭侍女、侍女頭って役職なの?はマーガレット。王族の女性の侍女にはそういう人は必ず置かねばならないのか。仕方ない。責任者は必要だよね。


 はー、気が重い!


お読みいただきありがとうございました!

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