102 南部災害復興軍祝福隊⑤
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
ちゃっちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃーちゃっちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃー、ちゃっちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃー、ちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ、ハイ!
料理番組は民放より元国営派です。
伯父様たちの怪物っぷりにも慣れてきた頃、陽が傾いたのでベースキャンプへ帰還。
本日も料理です。
いやね、芋のね、食べ方をだね、教授してやろうと思ってだね。え?偉そう?いいんだよ、偉いんだから!王女だもん、私!
そんな態度だと断罪まっしぐら?スミマセン、気を付けます。
キャンプに残ってる騎士たちにね、レシピ渡しておいて、王都から持ってきたじゃがいもでニョッキ作ってもらったの。王都でも試食済みで、味はまあまあ。じゃがいもがちょっとみずっぽいのかも。その辺は仕方ないか。食料として品種改良してないもん。
レシピはアーテル作。最初に作ったのを味がないと言って、ハードタイプのパルメザンチーズみたいなチーズを削って生地に混ぜてもらったら、格段に美味しくなった。
味は保存食の定番、トマトソースと、ここの農家さんが小麦の片手間で作ってるチーズで作ったソース。被災地の奥様方も興味津々で、お裾分けする約束をして手伝ってもらってる。
「王都ではこんなものが食べられてるのですか?豚の飼料を食べるなんて思いもしませんでしたよ。」
「これは異界の料理よ。」
「そうそう、おばあさまのくにのりょうりではないけれど、しっているひとはおおいのよ。」
「姫様方は色んなことをお知りなんですねえ。」
イザル地区の地区長(村長さんみたいな人)の奥さん、マーゴさん。
「ソースは麺と同じでいいんですね。」
「そうなの。めんよりつくるのもカンタンでしょ?」
「このチーズ美味いな。」
「あっ、おとうさま!つまみぐいはダメよ!!」
オースティン伯父様はさっきからずっと何か食べてる。体力仕事をしたからお腹が空いてるみたい。
頭の上で寛いでいた迦陵頻伽が伯父様の生え際をつつく。
「ぴい!」
「いて!びん!何するんだ!」
私たちが笑うと、手伝いの奥さんたちも大笑いした。本当は不敬かもしれないけど、ここでは無礼講。
イザルの人々は逞しい。度重なる水害にもめげずに農業を続けていくのは大変なことだ。国民が不安なく暮らしていけるようにするのは為政者の仕事。
私の仕事も役に立ってるのかな?
「最初お見かけした時、姫様はあまり陛下に似てらっしゃらないと思いましたが、陛下によく似ていらっしゃいますね。」
「え、あまりうれしくないんだけど……マーゴはおとうさまのことごぞんじなの?」
「ええ、ええ。まだ陛下が学生の頃に、こちらに来てくださったことがあるんですよ。三週間ほど滞在なさってね。私らもねえ、よその公爵家の方の顔なんて知らないし、王家の色と言われてもピンと来なくてねぇ。全く気付かなかったんですよ。即位された後に巡幸にいらした時に初めて知ったくらいで。」
「まあ、そうだったの。おとうさまはおやすみのたびにあちこちいってらしたそうだから。」
「伺いました。ウチのおおばばさまがねえ、陛下のことを大層可愛がっておりましたので、久しぶりにお会いした陛下が、ここには一週間の滞在の予定がついつい長居してしまったとおっしゃってくださって、おばばは喜んでおりましたよ。おばばが失礼なことを申し上げても、怒りもせず、笑ってくだすって。首が飛んでもおかしくないですのに。」
「まあ、おばばさまはなんとおっしゃったの?」
「ちゃんと王様をやれているのかと申し上げたのですよ。ね?不敬でございましょ?」
「あら、そのはなしならきいたことがあるわ。おばばさまはおげんきでいらっしゃる?」
「はい。ですが、ここ一年は床に臥せっておりまして。そろそろ神々の庭へのお招きがあるのではないかと……。」
「そうなの……。おばばさまにおあいすることはできるかしら?」
「ええ、ええ、頭はしっかりしているので、大丈夫ですよ。ですが、姫様はお忙しくていらっしゃるでしょう?」
「そうなのだけど……りょうりをつくりおわったらあいにいってもいいかきいてみるわ。アン、フェリクスおじさまにかくにんしてきて。」
ここの責任者はフェリクス伯父様。一応、お断りせねば。
アンは仕方ありませんねという顔で、フェリクス伯父様のテントに向かった。
「よろしいそうです。ただ、ギルバート師団長とブライアン様を同行させるようにとのことです。」
「わかったわ。ふたりともごめんなさい。いっしょにきてくれる?」
「構いませんよ。」
「御心のままに。」
おばばさまは起き上がって食事くらいなら出来ると聞いたので、私もそちらで一緒に食べることにした。
「こんばんは。」
「おばばさま、陛下の娘さんがいらしてくれたわよ。ヴァイオレット姫様よ。」
「ジョージぼんのか。」
「ぼん?」
「坊やという意味さ。」
「おとうさまのこと、そんなふうによんでらしたんですね。わたくしはジョージのむすめのヴァイオレットですわ。おとうさまにはヴィオとよばれております。」
「ヴィオちゃんか。」
「おばば!また!」
「よいのよ、マーゴ。おばばさま、おとうさまがむかしおせわになったとききました。それで、どうしてもあいたくてやってきたの。とこにふせっているそうだけど、どこがわるいの?」
「歳だからね、あちこち悪くなってるさ。」
「はいのやまいではないのよね?」
「咳なんかは出とらんよ。」
「ちょっとだけ、まりょくをながしてもよいかしら?」
「何をするんだい?」
「わるいところをしらべてみようかとおもって。」
「聖女様ごっこかね?女の子の憧れだからねぇ。」
「ヴィオラ様は立派な聖女であらせられます。御技の使い手です。」
「そうよ、おばばさま。姫様はこの土地に祝福をかけに来てくださったのよ。」
「へえ、ぼんの娘っこは大したもんだ。こぉんな小さいのに聖女様なんて。」
「おてにふれてもよいかしら?」
「どうぞ、どうぞ。」
そういって、おばばさまは私に手を差し出した。
しわがれた、働き者の手。ただの老衰なら私に出来ることはない。香澄様も、寿命だけは御技を持ってしてもどうにもならないと言っていた。でも、痛みを取り除くことくらいは出来るかもしれない。
「では、しつれいして。」
おばばさまの手に触れて、魔力を流す。やっぱり老衰みたい。関節の辺りが痛むようだから、聖女の魔力に切り替えて、おばばさまの全身に私の魔力を巡らせながら、痛む部分へ重点的に治癒と祝福をかける。軟骨は再生出来ないけど、しばらくの間なら痛みは和らぐと思う。
「こりゃあ、たまげた。背中も膝も痛くなくなったよ。」
「よかった。いずれまたもどってしまうかもしれないけれど、すこしでもらくにすごせればとおもって。」
「ありがとうねえ、ヴィオちゃん。あんたはとっても優しい子だね。ぼんそっくりだ。」
そう言って、おばばさまは私の頭を撫でた。おばあちゃんの手。前世の祖母の手とは違うけれど、懐かしさが込み上げる。
「ぴいよ!」
「ぴい!ぴい!」
「びんちゃん、カルラ。」
台所で温め直した食事をギルバートが運んで来た。
「鳥?」
「ほうおうどりよ。あかいこがおとうさまのひなで、きんいろのこがわたくしのひななの。」
「かわいいねぇ。生きてる間に鳳凰鳥を見られるとは思わなんだ。大事にしておやり。」
「はい、おばばさま。ねえ、おしょくじをいっしょにできればとおもってるのだけど、よろしいかしら?」
「もちろんさ。今日は食卓に着けそうだ。ここんとこベッドの上から動いてないから、うれしいね。」
普通に過ごせるって大事なことだよね。喜んでもらえて良かった。
それからは食事をしながらおばばさまの昔話を聞いた。
お父様のこと、昔の水害のこと(完全に盆地が水没したこともあったらしい)、戦時下のこと、作物を育てる意義と喜び。
私も御技の訓練のことを話した。魔力訓練から始まり、御技の訓練でみかんの木を育てたこと、果樹園の温室で祝福をやり過ぎてしまったこと、そして、水害対策を提案したこと。
おばばさまは、ヴィオちゃんの考えたものが完成するまでは生きてたいねえ、と言った。おばばさまの家族も、水害の被害に遭って亡くなられた方がいるそうだ。
全ての人が安心して暮らせる国を作る。それが王女に転生した私の使命だと思った。
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