学園の食堂で婚約破棄されました~真実の愛よりもポークステーキが食べたいわ!
初短編です。
楽しんで頂けると幸いです。
「セレーナ・エスカリーナ。
貴女との婚約を解消したい」
いきなり学園の食堂で、大勢の前で婚約解消を突き付けられた私セリーナは、声のする方を振り返り思わず手に持った[今日のおすすめランチ]を落としそうになる。
制服姿の学園生達の視線が、婚約解消を告げた輩と私の間を行ったり来たりする。
婚約者のアーノルド・ゴメイル侯爵令息が、その見目麗しい顔で何故か申し訳無さそうな顔で私を見詰めている。
その隣にはピンクブロンドの派手な顔つきの女が、ドヤ顔をしていた。
この女はチェシル。
チェシル・アーバイン伯爵令嬢。
15歳。
2歳違いの頭がアッパラパーな私の一番苦手な女だ。
何処にいても一目で分かるピンクのフワフワな髪。
金色の大きな瞳でぷっくりとした唇の可愛らしい顔立ち。
誰彼構わず上目遣いで媚を売る美少女。
対する私は17歳ね。
侯爵令嬢になるわ。そこはアーノルドと同じね。
銀髪のストレートヘアーで青い瞳のチョイと地味な女。顔立ちも少しキツくてただ見ているだけで睨んでいると勘違いされる始末。
新入生の女の子を微笑ましく眺めていたら、ガン付けられたと泣かれたこともある。
まあ。似ても似つかぬ相反する見た目だと自覚している。アーノルドはあんなフワフワなピンク女が好みだったのね。
それにしても……こんな大勢の前で婚約解消を告げるなんて正気かしら?
しかも婚約者の婚約解消を告げる声が何だか弱々しい
「理由を聞いても宜しいかしら?」
理由なんて、アーノルドの腕にピンク女が絡まっている時点でお察しだが、一応聞いてあげた
「ボクたちは……」
そこでアーノルドが何やらゴニョゴニョ言っているが聞き取れない。それよりも……
「あの……ランチのトレイが重くて腕がプルプルです。置いても良いかしら?」
腕がプルプルのところでアチコチで失笑が漏れたが、気にしない。と……言いたいけど恥ずかしい。
だって仕方ないよね。[今日のオススメランチ]の特大ポークステーキに、サービスのスープ大盛にして貰ったから重いのよ。ポークステーキは大好物!高級ビーフステーキよりも好きなのよ!
──もう!待ちきれない!
ここでもう1つ提案してみよう
「お腹が空いて集中できません。
せめて食事が終わってから、もう一度婚約解消してくれませんか?」
ブッ!!!!
何処かで誰かが盛大に口に含んだ物をぶちまけた!
「汚なぇ!何すんだ!気持ちは分かっけどよ!」
ぶちまけられた誰かが叫んでいる。
失笑どころで無くアチコチで笑いが起こり、収拾が付かない。
ここでアーノルド。もじもじしながら
「……了解した。出直す」
素直に身を引こうとするが、案の定ピンク女が叫ぶ
「セリーナ様!酷いですわ!いくら愛する婚約者を寝取られたといっても、ちゃんとお話は聞くべきですわ!」
──寝取ったんかい!
思わず大声でツッコミを入れそうになるが、はしたいのでここは我慢。
つまりこの二人は浮気だけでは飽きたらず、禁断の愛の領域に足を踏み入れたのね。
まあ今更……どうでも良いけど。
それよりももう腕が限界なのよ!
言葉だけじゃなくて、ホントに腕がプルプル震えてる
「アネサマはずっと楽しみにしていらしたの!」
ここに割って入ったのは自称[取り巻きA]のアンナ・バーリン子爵令嬢。私は友達のつもりだが、取り巻きの地位は譲るつもりは無いらしい。
ここで自称[取り巻きB]のサラ・ポンタン男爵令嬢が一歩前に踏み出して
「そうですとも!アネサマは今日のビックポークステーキの為に、この3日間も食事を節制して備えていらしたのです!
何を隠そうこの私の[今日のおすすめランチ]も……」
高々とポークステーキが盛られたトレイを皆に見えるように掲げる
「アネサマがポークステーキをもっと楽しんで貰える為に、私も頼んだのです!」
──いや、、、そこは隠そうよ
「私のもです!」
取り巻きAが負けじと乱入する
「わたし達がこの食べきれない特大サイズのポークステーキを半分づつ食べて、残りをアネサマに渡したらあら不思議?!アネサマは2倍ポークステーキを楽しめる計算になるのです!」
そりゃそうなるけど、ここでソレ言っちゃう?
恥ずかしいから黙っていてほしかったのに!
でも……ありがたく便乗して……
「ということで、宜しいかしら?
皆様の食事を邪魔するなんて、外道にも劣る諸行よ。
改めて出直していらして……アーノルド様」
ここは本気で睨んであげる
「「「おーーーーー!!!」」」
何故かどよめきが起きる。
「格好いい!」とか「御姉様ステキ!」とか、女子共が騒いでいる。
ここでアーノルド、完全にやる気をなくして
「すまなったセリーナ。改めて出直すよ」
「ちょっ!アーノルド様!ちゃんとキチンと男らしく婚約解消をしてください!」
「いや。みんなの迷惑だから……出直そう」
痴話喧嘩は他所でやってください。
でもピンク女は
「でもでもだってぇ~」
なんてうざったらしい。
もうここは諦めて……
「はいはい。分かりました。
寝取られ女は大人しく身を引きますよ。
婚約解消を受け入れます。
アーノルド様。詳細は日を改めて話し合いましょう」
「済まないセレーナ」
アーノルドは泣きそうな顔になっている。普通婚約解消を告げられた私が悲しむものだと思うけど、涙1粒出そうにない
「どうぞそれまでソコのピンクおん……コホン……チェシル様とイチャイチャでも子作りでも、何でも好きになさって下さいな。では御機嫌よう」
やっと解放される!
私はホッと胸を撫で下ろす。
正直アーノルド坊やには未練はない。
10歳からの婚約者で、それから月1回のお茶会デートというか顔合わせ義務でも、私の目線に怯えてマトモに目も合わせられないヘタレだもの。
このところ目を合わせる度にオドオドしていたのは、このピンク女と浮気していたから、後ろめたかったのね。
貴族の義務だから婚約者でいたけど、愛なんてない。月1茶会以外でデートに誘われることも無かったしね。
学園の舞踏会では同い年だしエスコートはしてくれたわ。私の趣味ではないフリルやリボン満載のコテコテのドレスなんかも贈ってくれたっけ。
今に思えば、あのピンク女にピッタリだわ
「そこ!」
取り巻きAのアンナがギッと睨んだ先には、空いたスペースがあった。そこに座ろうと目星つけていたのに、下級生の男子2人が先に席に着こうとしていた
「アネサマの席なの。譲って下さらない」
「は……はい……スミマセン」
いや。それはアカンでしょう。
ここは学園の食堂。貴族の位は関係ない平等な筈の早い者勝ちなの。だから……
「良いのよ。そのまま腰掛けて食事をなさって……。
私達は別の場所を探しますから」
「いいえ!譲ります!譲らせてください!」
ピュッと立ち上がり、ヒューっと凄まじい勢いで席から離れた
──よく溢さないわね
トレイのスープをあの速度で維持するなんて!素直に尊敬しちゃう。
そして私たち3人は漸く席に座ることが出来た。
腕のプルプルが限界だったから、助かった。もし席が見つからなかったら、トレイを落として折角のポークステーキを床にぶちまけていたかも?
「アネサマ。折角の大好物が冷めてしまいましたね。
はい!お土産です」
半分以上に切り分けたポークステーキを、私の皿にポンと載せる取り巻きアンナ
「ホントですよ!アネサマの食事を婚約解消なんかで邪魔しようなんて、なんて非常識なのかしら!
顔洗って出直して来いっていうのよ!
はいアネサマ」
取り巻きサラも半分以上の豚の焼き肉を、私の皿に載せてくれた。
三段重ねのポークステーキは目に優しい。
というか……。
──私の食事の方が婚約解消よりも大切なの?
私は上品にナイフとフォークを持って、心の中でニンマリすると……
「ちょっと!何まったり食おうとしているのよ!」
振り向けばピンク女が後ろにいた
──まだいたんかい!
「何用かしら?ピン……チェシル様?」
私は食事を邪魔されて、殺意を込めて睨み付けてやった
「そうそう!その顔!その顔が見たかったの!
愛する貴女の婚約者がわたしに盗られて、ノホホンと気の無い振りして実は内心嵐が吹き荒れていたようね!
これで満足だわ」
「私の心にどんな嵐が吹き荒れているのかしら?」
私はその言葉を聞いて、ピンク女に聞き返した
「わたしに対する羨望や嫉妬!愛する人を奪われた絶望!!そんな所かしら?」
話に成らない。
でもここでの問答は無駄。早くポークステーキが食べたい
「貴女がそう思うなら、それで構わないわ。
そういうことで、もう良いわね」
私は視線をピンク女から切ると、私はポークステーキを切って口に運……
「セレーナ!君は本当は……ボクを愛していたのか!」
んあ?!
アーノルド坊やが後ろから私の肩を掴んで、無理に引っ張る。反動でポークステーキがフォークから落ちる
──あんたもさ!また居たの?
「君はボクに気がないと思っていた。ボクと居る時はいつも仏頂面でつまならそうにしていたから……てっきり……」
その通りよ。義務のお茶会では会話も続かない、顔の造形だけ良いつまらない男……
「君が本心を日頃から打ち明けてくれたら、ボクだってこんなに不安な思いをせずに君だけを愛せたのに……今からやり直そう!」
──無理に決まっているでしょう!
アーノルド坊やに罵詈雑言を浴びせてやろうと口を開くと
「どういうことよ!」
ピンク女が間髪入れずアーノルドの襟元を掴み、ブンブンと激しく振っている
「わたしの事を『愛してる』って言っていたじゃない!」
「言ったさ。でも本当はセレーナが好きだったんだ!
美人だし顔も好みだし、ドレスはもっと落ち着いた感じにして欲しかったけど……」
ああ。あの趣味の悪いフリフリフリルのドレスのことね
──いや!アンタが私に贈ったのでしょう?
「初めの頃の舞踏会で、セレーナがリボンとフリフリのケバケバしいドレスを羨ましそうに見ていたから贈っていたけど、本当はレースや刺繍に彩られた清楚なドレスを着て欲しかった」
私もそんなドレスを着たかった……。
でもまさか……フリフリのケバいドレスを着た御令嬢を見て
(良くあんなドレス着れるわね。恥ずかしく無いのかしら?)と感心していたのを、丸っきり正反対に取られいたなんて……ちっともときめかないわ
ピンク女がアーノルドにギュッと抱きつき
「アーノルド!わたしを抱いて言っていたじゃない!
『君の温もりが恋しい』って!そしてその女を
『あんな人形みたいな冷たい女。抱いたら陶磁器みたいに身体も冷たいに違いない』って!」
ちょっと酷くない?
「チェシル!ソレを今言うこと無いじゃないか!」
「わたしに乗り換えたんだから、最後まで貫きなさいよ!」
そうよ!
ピンク女も物理的に貫いたらしいから、責任取って、さっさと仲良く食堂を出て行け!
「やっとセレーナはボクとの真実の愛に目覚めたんだ!これからボクはセレーナと真実の愛を貫いて行く!」
「ふっざけんじゃ無いわよ!わたしの初めてを奪った時『君とボクは究極の愛で繋がった』なんて、甘い声で囁いてくれたじゃない!」
──うっわ!キモ!
アーノルド……キッモ!
それに真実の愛に勝手に目覚めたようだけど、私を巻き込まないで!
ここは全否定かまして……
トントン
肩を軽く叩かれた
「アネサマ。あんなの放って置いて、お食事しましょう」
「そうですともアネサマ!あのバカップルなんて構うだけ損ですわ!あれ程待ち望んだポークステーキですもの。楽しみましょう」
私は取り巻A&Bに促され我に返る。
そうだ!婚約解消よりも、真実の愛よりも、食事が優先だ!
私はテーブルに向き直り、床に落とした一切は諦めて、ポークステーキにナイフを入れ口に運……
「この騒ぎは何だ!セレーナ嬢!大丈夫か?」
食堂に颯爽と現れたのは第2王子のフレデリック!
バカップルの言い争いに釣られて、大物が引っ掛かったみたい。
私が口をあんぐり空けながら、名前を呼ばれたので金髪碧眼の見るからにキラキラ王子を見詰める。
そのキラキラ王子は真っ直ぐこちらへ、取り巻きを連れてやってて来る!
(どうしよう?このポークステーキ。口に入れていいかな?)
迷っているうちに目の前に来ちまった。
仕方ないので口を閉じて、ポークステーキを皿に戻す
「セリーナ嬢。何があった?
君の婚約者がチェシル嬢と何やら揉めているようだが?」
わざわざ腰を落として、目線を合わせてくれる。
婚約者のアーノルドと第2王子のフレデリック殿下。
どちらも金髪壁面の良い顔立ちの私とタメの17歳の男子だけど、顔の造形も品格も賢さも殿下の方に軍配があがるわね。
でも見とれたりしない。
ポークステーキに見とれているもの。
ここはさっさと済ませて、食事をしたい
「先ほどアーノルド様から婚約解消を言い渡されました。どうやらそちらのチェシル伯爵令嬢と[究極の愛]で結ばれているようなので、私は提案を受け入れました」
「セレーナ嬢とアーノルド侯爵令息は婚約解消したのか?」
「はい。正式な手続きはまだですが、私とアーノルド様の婚約関係はもうありません」
「そんなぁあ!セレーナぁあ!!」
突然キモい叫び声を上げて、アーノルドが割り込んできた
「ボク達はようやく[真実の愛]に目覚めたではないか!君はソレを否定するのか?」
「黙れアーノルド。発言を許したつもりは無い。
セレーナ。君はアーノルドと[真実の愛]に目覚めたのか?」
「いえ。ちっとも。欠片も。僅かも。一瞬も。これっぽっちも。刹那も。目覚めてませんが?……これが真実です」
「そんな……セレーナぁああああああああ!!!」
アーノルドがキモく絶叫する
「黙れアーノルド。
ではセレーナ嬢。君はアーノルドと婚約解消したのは間違いないのだね。
そして、君も自分の意思で婚約解消に同意したのだね?」
「はい。婚約解消を受け入れました。
それは紛れもなく私の意思です」
「嫌だ!ボクは認めない!
認めないったら!認めない!
認めるもんか!」
アーノルド御乱心!
「うるさいアーノルド!邪魔だ!
こいつを……いや……こいつらを連れて行け」
「何でわたしもよ!嫌!触らないで!」
殿下の取り巻きに押さえられてアーノルドと、究極の愛に結ばれたチェシルが連れられて食堂から出される。
2人とも見苦しく喚いていたけど、消えてくれて清々したわ
「殿下。ありがとうございます。助かりました」
これでようやく念願のポークステーキにありつける!
ん?
殿下。
私を見詰めておりますが?
私は誘惑に耐えかねて目を逸らし、ポークステーキを見て、また視線を戻す。
この間。コンマ一秒。
殿下ニヤリと笑い
「セレーナ嬢はポークステーキが大好物だよね」
「はい」
恥ずかしながら、その通りでございます!
「今すぐ食べたそうだね」
「はい」
今すぐ食べたいですわ!
「僕と結婚しよう」
「はい……………………はいっぃい?!」
今……なんと?
「良かった。受け入れてくれて!」
「いえ!そのポークステーキがっっっ!」
私は慌てて否定しようとするが
「セレーナはポークステーキがとても好きなのだね」
「はい」
「これから僕も[今日のおすすめランチ]を頼むつもりだが、食べきれそうもなくてね。
熱々のポークステーキを半分君に進呈しようと思うのだが、受け入れてくれるかな?」
「はい!」
くれるのなら、遠慮なく貰っちゃうわ!
「では。ボクからの提案も受け入れてくれるのだね」
「はい!受け入れます!全身全霊で受け入れます!」
「それは良かった。僕のプロポーズを受け入れてくれて!それも全身全霊で!」
へ?
「ポークステーキ?」
「今のは結婚の話」
へ?
「ポークステーキよね?」
「結婚の話」
…………………………
「へ?」
「セレーナ。僕と君は幼馴染みだよね。
僕はずっと君が好きだった。
でも君には生まれた時から婚約者がいて、僕の出る幕は無かった。
でも僕はずっと諦め切れなかった。
だからせめて君が結婚するまでは誰とも婚約しないで、チャンスを待っていたんだ。
待ち続けた甲斐があった。
セレーナ。改めて言おう」
フレデリックは片膝を付いた
「僕と結婚してくれないか?」
「ポークステーキ」
「食べたいのか?」
「食べたいです。結婚の返事は食後にゆっくりと考えてから致します」
「駄目だ。今聞きたい」
「ポークステーキ……」
好物を目の前にして、腹が減りすぎて思考がポークステーキに染まってしまった
「もし結婚を君の意思で受け入れてくれるのなら、解放して君はすぐにでもポークステーキにありつけるよ」
ぐぬぬぬぬぬぬ
殿下を嫌いではないよ。
むしろ好きだと思う。
ポークステーキの方が上だけど。
王族と結婚すると、社交が面倒なのよね。
私は結婚後もゆっくりとレストラン巡りなんかして、ポークステーキ食べ歩きをしたい。
ポークステーキの名店は庶民も通える店が多いから、庶民に変装して御忍びで通うのも楽しみなのよ。
殿下と結婚なんてしちゃったら、その時間が削られるかもしれない。
ぐぬぬぬぬぬぬ
「もし僕と婚約したら、君との初めてのデートはステーキの名店「カブタール」にしようと思う。
カーゴ地方の希少な[幻の黒豚]を提供している店だけど……どうかな?」
幻の黒豚?
幻のポークステーキ?
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ
「目の前の鉄板でジュージュー焼く、ライブ感が売の店だけどどうかな」
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……ぬ
「もし結婚したら、豚肉料理が盛んな隣国へ新婚旅行へ行って、名店を梯子してポークステーキの食べ比べをするつもりだが……」
「行きます!行かせてください!
ポークステーキ!!」
落ちました
「じゃ決まりだね。
婚約次第。名店[カブタール]を予約するから、婚約の話を進めても良いかな?」
「はい!進めてください!
幻のポークステーキ!!」
私の目の前を黒豚が行進している
「良かった。では君の同意ということで、直ぐに婚約の話を進めよう。でもその前に……君との約束があったね」
「約束?なんのことでしょう」
殿下は机を挟んで真向かいの席に座り、微笑んでいる。
そこへ殿下の従者が熱々のポークステーキを持ってきた。そしてソレを丸々、私の前に置いた
「殿下?これは?」
「半分の約束だけど、君には出来立てホヤホヤの美味しいポークステーキを食べさせてあげたくてね。
全て君の物だ!
迷惑だったかな?」
迷惑だなんて!そんな!
「嬉しいです殿下!愛してます!」
ポークステーキを!
「ありがとう。嬉しいよ。
『愛してます!』の後ろにポークステーキと幻聴が聞こえたけど、今はそれで構わない。
これから時間はたっぷりあるから、いずれポークステーキよりも愛される男になるさ」
そしてウィンクして
「セレーナ嬢。もう誰も邪魔しないし、誰にも邪魔させない。
君の大好物のポークステーキ。
僕と君とのキューピットをどうぞ召し上がれ!」
キューピットのブタちゃんを有り難く召し上がります!
私はここぞとばかりにポークステーキを口に放り込んでいく!
周囲の何やら生暖かい視線を感じるし、正面から慈愛に満ちた視線も身に受けながら私は特大ポークステーキを三枚分全て平らげた!
食べ終わった瞬間に、周りから盛大な拍手が起こった!
私は満足気に微笑み、手を振り返す!
「おめでとう!」
「婚約おめでとう!」
「お幸せに!」
「羨ましい!」
あっちこっちから祝いの歓声があがった!
そして……
☆★☆
10日後に王の承認を経て、私セレーナとフレデリック殿下の婚約は無事承認された。
アーノルド坊やはゴネて婚約解消の無効を訴えたが、食堂という衆人環視の中で婚約解消を訴えたのはそもそもアーノルドであり、ピンク女のチェシルとも『究極の愛で繋がった』事も暴露されたので、アーノルド有責で婚約解消となった。
因みに跡取りだったアーノルドはこの度の醜聞で信用を失くし弟にその地位を譲り、捨て扶持のように男爵位と僅かな領地を貰いピンク……チェシルと婚約と成った。
私からアーノルドを奪い侯爵夫人の地位を狙っていたチェシルはアテが外れ「こんな筈じゃなかったわ!婚約なんてお断りよ!」なんてゴネたが、王命であったので抵抗むなしくアーノルドの婚約者に収まった。
私はというと、婚約から王子妃の簡単な教育を日々受けている。
殿下は約束通り、個人的な婚約祝い初デートで名店[カブタール]で幻の黒豚のポークステーキを御馳走してくれた。
それからまた月日が流れ、私たちは学園を卒業して直ぐに結婚式を挙げた。
新婚旅行はモチロン豚料理のメッカたる隣国![ポークステーキ食べ歩き]を実戦した。食べ歩きと言っても梯子するという意味で、各名店には馬車で移動するけどね……。
ポークステーキの食べ比べツアーを繰り返すうち、私のポークステーキ愛も確固たるものとなり、ついでに夫フレデリックに対する愛も芽生えていった。
真実の愛だか、究極の愛だか知らないが、一人で食べるよりもフレデリックと一緒に食べる方が何倍も美味しいし、何より楽しい!
「次は僕達の子供も連れてこよう」
フレデリックの誘いに、私は顔を赤らめながら頷いた。
完
うん。コテコテのざまぁ系を書きたくて筆を進めた筈なのに、何故にこんな[ポークステーキ大好き!]な話しに成ったのだろう?
作者はポークステーキは好きだけど大好物ではないのに……謎だ。
※カーゴ地方は日本の鹿児島モデル。
鹿児島県は黒豚に黒酢でも有名。
黒豚と黒酢で作った黒酢豚?美味しいかも?
ポークステーキじゃないけど……。
☆★☆
宣伝です!
[屋根裏部屋の聖女様~毒を盛られ続けて3年間。今日も私は生きています]
毎日投稿しています!
読んで頂けると嬉しいです!