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ある夏の夜

作者: 長星浪漫

 とある県の図書館。その作業用スペースで地元の男子中学生三人が夏休みの宿題と格闘していた。かれこれ一時間ほど宿題をしているがあまりはかどっていないようだった。ダレた空気が漂い始めた頃、三人の内の一人が気晴らしにと怖い話を始めた。


「最近聞いた話なんだけどさ…K駅ってあるじゃん?」


 K駅とは図書館の近くにあるいかにも地方の駅といった感じの小さな駅だ。


「深夜二時にそこのホームに行くと全身真っ白の女の人が立ってるんだって!」

「……え?それだけか?」


 話の真偽はともかくどこにでもあるような話だ。そもそもその駅はこの三人もよく利用している。さすがに今話した時間には行ったことはないが、駅ができてまだ五年ほどしか経過しておらず、駅が建設される前はただの平地で「お墓があった」などのいわくも全くない。駅で自殺や人身事故どころか動物が轢かれたなんて話しすらなかった。

 他の二人は「ただの噂だろ」と半笑いで全く信じていなかった。その反応に少しムッとした話し主の男子はある提案をした。


「じゃあ今夜確かめてみようぜ」


 この話に二人ものった。夏休みも半分が過ぎており暇をもて余していた中学生にとって夜の駅に侵入するという行為は未開の地を探検するかの如きわくわくする提案だった。


「よし、じゃあ晩飯を食べたら集合な!」




 その日の夜、時間は深夜一時。三人は家を抜け出して近くの公園に再び集まっていた。


「じゃあ行こうか」


 三人が出発し目的地に着いた頃には深夜二時が迫っていた。この時間には駅員さんもいなくなり入り口は閉鎖される。しかしホームにはフェンスを越えれば入れる。三人はなるべく人目につきそうにない場所からホームに侵入した。そしてあと三分ほどで深夜二時になる。三人はそれぞれ別の方向を注視し、時間を待った。

 そして深夜二時になり三人は辺りをよりしっかり見渡した。…しかし二時を五分過ぎても何も出なかった。


「なんだ、やっぱりただの噂じゃん」

「期待はしてなかったけどね」

「まぁ、出るわけない…」


 何も出なかったことを残念がりながら密かにほっと胸を撫で下ろし話す三人。安心しきって話していると三人の内の一人、この話を図書館でした男子が急に目を見開いて一点を見つめ固まった。


「なんだよお前、そんなに出なかったのが悔しいのか?」

「変な演技で驚かそうったってそうはいかねぇぞ」


 二人が笑いながらからかうがその男子は全く反応しない。それどころか、まばたきをするのも忘れ目が少し赤くなっている。


「おい、さすがにやりすぎ…」


 少し引きながらも視線の先を見てみると残り二人も動きが固まった。

 三人の目線の先、ホームの端っこに一人の女性が立っていた。白い肌に白いワンピース風の服、長い髪の毛まで真っ白だった。まさに昼に聞いた話の女性そのものだった。その女性は駅の街灯に照らされながらじっと下を向いていた。遠目だが明らかにこの世のものではなかった。


「お、おいあれ…」

「しっ!なんかやばくねぇか?」


 話としては白い女が現れるところまでしか知らないが、直感が「逃げろ」と言っていた。さっさと逃げようとしたが、この話をした例の男子は動こうとしなかった。


「おい!なにやってんだよ!」


 その男子は白い女を見て恐怖というより困惑した表情をしていた。何度か呼び掛けやっと我にかえったのでその場からさっさと離れようと走り始めた時、一人が手に持っていた懐中電灯を落としてしまった。


「しまった!」


 ホーム中に落下音が響き渡った。反射的に三人は白い女性を見た。すると白い女と()()()()()


「逃げろ!!」


 三人は無我夢中で走り、フェンスから外に出ようとした。白い女とはかなり距離があいていた。あの白い女が走ってきたとしても30秒くらいはかかるだろう。

 二人がフェンスの外に降り、最後の一人がフェンスの上に登った時左手を強くホーム側に引っ張られた。


「なっ!?」


 咄嗟に右手でフェンスを掴み体を固定しながら後ろを振り返ると目の前に女の顔があった。


「ひっ…!!」


 見た瞬間全身に鳥肌がたった。女性の顔は暗い中でもはっきりわかるくらい白く蝋人形のようだった。こちらを見つめる顔に表情はなく、見つめる目も黒目がなく真っ白だった。


「わああああああああ!!?」


 その女が体温を全く感じない氷のような手で物凄い力で引っ張ってくる。恐怖でフェンスを掴んだ右手が離れそうになった時、先に降りていた二人が体を掴んで思い切り引っ張ってくれた。おかげで何とか白い女の手から逃れ三人は振り返らず全速力でその場を後にした。




 30分以上走り、始めに集合した公園に辿り着いた。あの白い女が追いかけてこないことを確認した三人は公園のベンチに腰を下ろした。時計を見ると深夜三時を過ぎたところだった。乱れた呼吸を落ち着かせる間の沈黙も怖かった。やがて一人が逃げ切れた安心から興奮した様子で話し始める。


「マジだったマジだったマジだった!!」

「何だよあれは!?全部真っ白で目まで白目だったぞ!!」

「怖かったよな~」


 先ほどまでの恐怖は薄れ興奮と達成感で話す二人、だがこの話をした男子は先ほどから一言も喋らずに下を向いて黙っている。他の二人がその男子の背中を叩く。


「どうしたんだよ!そんなに怖かったのか?」

「いや、怖かったけどさ。もう追ってきてないみたいだし安心しろよ」

「………なんだ」

「え?何か言ったか?」


 話し主の男子が何か喋ったが声が小さすぎて聞き取れなかった。だがすぐに同じ言葉を繰り返す。


「あの話、嘘なんだ」

「はい?」


 話し主の男子が何を言っているのかわからなかった。二人が顔を見合せ?マークを浮かべていると話し主の男子が困惑しながらさらに同じ言葉を繰り返す。


「お昼に図書館で話した話は全部作り話なんだ!」

「ど、どういうことだ?」


 話し主の男子が言うには、連日暇な日が続き何か普段と違うことがしたいと考え、あの場で咄嗟に怖い話を作って聞かせ肝試しをする流れを作りたかったそうだ。お化けが出るかどうかはどうでもよくてこの三人で思い出に残るようなことをしたかっただけらしい。


「つまりあの話は全くのでたらめだったってことか?」

「…うん」

「え、いやちょっと待てよ!」


 話し主の男子の言う通りならかなりおかしい。


「じゃあ()()はなんなんだよ!?」


 先ほど腕を掴まれた男子が掴まれた腕を見せる。掴まれた部分が赤黒いアザになっていた。それを見た話し主の男子の顔がさっと青くなる。


「それかわからないから混乱してるんだよ!!」


 頭を抱えてブルブルと震えだす。

 確かにあの駅に関する怖い噂は他に聞いたことはない、話し主の男子の様子から嘘をついているようにも見えない。だが、三人は確かにあの時白い女の幽霊を目撃し、腕までも掴まれた。あの出来事が夢でないのはよくわかっている。

 そこまで確認した三人は改めて浮かんだ疑問を口にする。


『じゃあ()()は一体なんだったんだ?』


 三人の脳裏に先ほどの白い女の顔が浮かぶ。言い知れぬ恐怖が三人を襲い、三人は無言で各々の家へ走って帰った。

 次の日改めて集まった三人はあの駅について調べた。駅についての歴史や駅ができる前の事、周辺の噂についても徹底的に調べた。しかし白い女に関する事どころかそういった話が何一つ出てこなかった。それが逆に三人の恐怖を煽った。

 だが、あの日以降特に何も起こらず、腕を掴まれた男子のアザも一週間くらいで完全に消えてしまった。はじめは怖がっていた三人も再びあの駅に確かめに行く勇気が出ず、次第にあの日の夜の事を忘れていった。


 あの日見た白い女はなんだったのか?なぜ作り話のはずの幽霊が実際に現れたのか?もしあの時白い女に引きずり込まれていてらどうなってしまったのか?…今となっては知る術はない。



個人的に「オチがないのがオチ」みたいな怖い話が結構好きなので、それに近づけるように考えました。

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