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Rise in Labyricia  作者: 爽風
第1章 ダンジョン始動
6/10

嵐の前の静けさ



 アルトがダンジョンに向かったその翌日。ハイマーン王国西のレグルという街の冒険者ギルドでは、職員達が慌ただしく動いていた。

 レグル西のレプト山脈の麓に、新しくできたダンジョンに向かった新人冒険者が、いつまで経っても帰って来なかったからだ。

 名前はアルトという。俺の一番弟子だ。そして、俺が結果的に()()()()()()()であろう人間だ。

 俺が1人で行くのを許可していなかったら、こんなことにはならなかった。それに責任を感じた俺は、ギルドの手を煩わせないよう、任務(クエスト)から帰ってきてからずっと1人で、アルトの捜索を続けていた。

 しかし手掛かりは何も掴めなかった。まだダンジョンにいるのだろうか。そろそろダンジョンに潜ることも検討するべきだろうと思い、その前に少しでもダンジョンの情報を集めようとギルドを訪れたところだった。



「おい、まだ見つからないのか!?」


「は、はい!まだ関所を通ったという連絡も入っておりません!」


「クソッ、まだ新人だし、そこまで深くは潜っていないはず。距離的にも、もう帰ってきていてもおかしくないはずだろ……………チッ、これ以上待っていても埒が明かん、大至急捜索隊を編成するんだ!もしかすると、何かの理由で動けなくなっているのかもしれん!」


「了解しました!」



 どうやら、タイムリミットらしい。ついぞ俺一人でアルトを見つけるのは叶わなかった。俺も捜索隊に加わってアルトを探した方が良さそうだ。



「ギルマス!捜索隊を出すのか!?俺も行かせてくれ!」


「ユスフか。お前が来てくれるのならありがたい。よろしく頼む。それにしてもお前がそこまで焦っているのを見るのはいつぶりだ?」


「これは俺の怠慢が引き起こしたんだ。生まれたばっかのダンジョンで、そうそう危険なことがあるはずがねぇ。これも社会経験だと思って許可を出したんだが、任務を後回しにして俺もついて行くべきだったんだ」


「いや、お前のせいではない。我らギルドの管理不足だ……んん?待て。お前、アルトとやらがダンジョンに向かったのを知っていたのか!?」


「すまん。黙っていて悪かった。ギルドの手を煩わせるつもりはなかったんだが」


「最近全くギルドに顔を出さんと思っていたが、そういうことだったのか……まあいい。お前がそこまで入れ込むとは。どんなやつなんだ?」


「………長らく冒険者をやってたおかげか、一目見ただけで、新入りの素質をある程度見抜けるようになったんだ。アルトは他の誰よりも素質があった。いや、()()()()()んだ。初めて嫉妬したよ。俺は初めて弟子を取った。アルトはきっと、英雄になれる器だ。だからこそ、あいつが育つまでは、俺が絶対に守ってやらなくちゃならなかったんだ。それなのに、俺は……っ」


「後悔は後にしろ。まだ死んだものとは決まっておらん。それにしてもお前にそこまで言わせるほど有望な者なら、失えば我がギルドだけの問題ではない。国の損失にもなるかもしれん。必ず見つけ出すぞ」


「ああ……そうだな」




……


…………


………………




 しばらくすると、ギルド前の広場は、招集を受けて続々と集まってきた冒険者達で溢れかえっていた。



「おい、今日何の用で集められたんだ?」


「俺は知らねぇな。緊急だとかで突然呼び立てられて飛んで来たが」


「俺もだな。何にも聞かされちゃあねぇ。まあこれから説明があるだろ」


「それもそうだな」


「おいお前ら」


「お?どうした?」


「実はな……俺、知ってんだ。呼ばれた理由」


「何だって!?」


「おい、それは本当か?」


「ガセじゃねぇだろうな?」


「ああ、ガセでもねぇし本当だ。聞いちまったんだよ。ギルマスとユスフさんが喋ってるのを。ユスフさん、最近弟子取ってたよな?なんでも、そいつが失踪したらしいぜ」


「はぁ!?嘘だろ!?」


「マジかよ、ユスフさんがそんなヘマするとは思えんが……」


「そういえば、あの坊主例のダンジョンに行ったって噂を聞いたが、まさかそれか?」


「そう、そのまさかだ。ユスフさんが任務を受けてる時に、そいつがそこに行きたがったらしい。ユスフさんも手が空いていなかったし、発生したばかりだからいいだろうって思って許可したんだと」


「あー、それが災いしたのか」


「ていうか発生したてのダンジョンって、Lv:7でもそうそう死ぬやついないだろ?」


「しかもあのユスフさんの弟子だしなぁ……」


「いやでもソロだし有り得なくもないが…………もしかして、それ、特殊(ユニーク)ダンジョン……いや、まさか、()()か?」


「まさか。()()にしては早すぎるだろ。……まあどちらにしろ、ユニークはもう勇者によって全部潰されたし、アレも遥か過去に()()()はずだろ?どうするんだ?勇者はもういねぇんだぜ?」


「なんなら俺達で潰してくるか?生まれたてってえこたあ今がチャンスなんじゃね?」


「ぎゃははははは!そりゃ面白ぇ、俺達も英雄になれるかもな!」


「違ぇねぇ!」


「──静まれぇ!!!!



 突如として響き渡った怒号に、広場は水を打ったように静まり返った。



「……冒険者諸君。まず、今日は忙しい中集まってくれたこと、感謝する。事は急を要する。手短に言おう。もう既に知っている者もいるかもしれんが、1人の新人冒険者がつい最近発見されたダンジョンに向かい、そのまま消息を経っている。諸君らには、ダンジョン周辺でその新人を探して欲しい。参加は自由だが、有力な情報を持ってきてくれた者にはもちろん報酬を出す。まだダンジョンにいる可能性もあるが、ダンジョンには手を出すな。何があるか分からないので、ギルドの方で調査する。以上だ。それでは、解散!頼んだぞ!」


「「「「「おう!!!」」」」」



 ギルドマスターが解散の号令をかけた途端、その場に集まっていた冒険者達は、即座に散らばって行った。

 ほとんどが森の捜索を開始した中、1人だけ他の者達とは違う動きをしている者がいた。



(すまねぇな。ギルマス…………待ってろよアルト。すぐに仇を取ってやるからな)



 ユスフは、アルトは死んでいるだろうという根拠の無い確信を抱いていた。

 だから、ユスフは一切の迷いなく、ギルマスの言い付けも無視して一直線にダンジョンに向かっていた。アルトの仇であろうダンジョンを潰す為に。


 ダンジョンにまた、嵐が訪れようとしている。






 その頃、レプト山脈の麓のダンジョンでは……



「………ん、もう朝か」


「ベルグレッド様、おはようございます。今日も良い天気ですね」


()()()()天気に良いも悪いもないだろ」


「あはは、リアリストですね……こういうのは雰囲気なんですよ」


「そういうものか。それにしても、今日も冒険者は来ていないみたいだな」


「みたいですね」



 アルトが来てから1週間が経った。

 あれから冒険者が来ることはなく、とても平和だった。そのため、アルトを殺して手に入れたDPも使って、ダンジョンを改良していた。



「とはいえ、もう弄るところなんてないぞ」


「全エリアに冒険者が入ってきたわけではないですからね、まだ分からないとこだらけです」


「そういえば、あいつの死体はどうするんだ?」



 アルトの死体は保管している。

 使い道は今のところないが、冒険者の死体は色々な用途があるとアスナに言われたので、とりあえず放置している。



「ああ、そうですね……こういうのはどうですか?その機会があるかは分かりませんが。────────」


「……いいな、それ。採用しよう。別に置き場所がないわけじゃないし、暫く置いておこう……にしてもアスナもなかなかワルじゃないか」


「あらやだ、そんなの常識ですよぉうふふふふふ」



 そんな他愛のない話以外、俺はずっと惰眠を貪っていた。本当にすることがないのだ。



「………っあー、暇だ。もう1回寝るか」


「最近ずっと寝てますよね……別にいいですけど。それでは、お休みなさいませ」



 しかし俺は、今が所謂嵐の前の静けさであることに気づいていなかった。俺達は知らず知らずの内に虎の尾を踏んでしまったのだ。少し離れた街では、冒険者達がここの危険性に感づきだし、裏で動き始めている。

 そんなことは露知らず、2人は束の間の平穏を堪能していたのだった。

変異型ダンジョン(アレorソレ)

 昔存在したとされている、他のダンジョンとは明らかに異質だったそれは、当時非常に畏れられた存在であったはずなのに()()()1つしか文献が残っていないため、近年その存在が疑問視され始めている。

 このダンジョンの最大の特徴は、───《情報規制》───である。元々は何の変哲もないダンジョンだったとされているが、ある日突然変異を起こし、───《情報規制》───した。

 ダンジョンの仕組みを否定し、()()()()()を覆したそのダンジョンは、世界に混乱を恐慌を振り撒いた後、ある日忽然と姿を消した。

 その(タイプ)はたった1つしか存在していなかったとされているため、そのダンジョンの名前を型の名前としてつけられた──Bugbear(バグベア)と。



──名前を口にすることすら憚られるかのダンジョンについて研究していたものは、皆奇怪な死を遂げてしまった。研究資料も全て消え、失われてしまった。研究調査で()()に踏み込んだ際に、呪われたのではないかと言われているが、真実はそうではない。本当は、───何故かここだけ読めない───だったのだ。恐らく私ももうすぐ死ぬだろう。だが、タダでは死なん。必ず彼奴(きゃつ)等に一矢報いて───文章はここで途切れ、最後に掠れた字でこう書かれていた───【Bugbear】──

        ──【著者不明、無題】より抜粋

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