それをフラグって言うんだよ
注)残酷描写あり。
◇
「はぁ、はぁ……はっ、はあっ、くっ」
僕は今、必死に走っています。
どうしてこんなことになったのだろう。どうして僕は、逃げているのだろう───。
……
…………
………………
階段を降りて2階層に着いた僕は、意気揚々と探索を始めました。
その後、ゴブリンとスケルトンの集団に出くわしました……いや、集団と言うよりは、小隊の方が正しいかも知れません。
ここのダンジョンマスターは、かなりの知恵者のようです。
ゴブリンが前衛を務め、スケルトンが弓矢を装備して後方支援をする………まさか、魔物に戦術を教えるなんて。
高難度のダンジョンでは、魔物が戦術を駆使してくることがあるというのは知られていますが、まだ生まれたばかりで、見つかったばかりのダンジョンがそんなことをしてくるなんて。
ゴブリンはすばしっこく、またそこそこに頭もいいです。戦術を身につけていれば、その驚異度は雑魚と一概には馬鹿にできないくらいに跳ね上がります。
誰かがダメージを受けると、そいつは素早く後ろに下がり、残りの2体がカバーする。
しかも、弓で援護射撃してくるスケルトンもいます。1体は隙を見て上手く倒せましたが、残りの1体は仕留められませんでした。
「ギギッ!」
「ぐっ」
ゴブリンが棍棒を振り下ろしてきました。僕も剣で受け止めますが、野良のゴブリンとは違って、力もかなり強いです。でも、その程度じゃ僕は負けません!
「うおおお!!」
「グギィ!?」
剣を弾かれ、ゴブリンが怯みました。
「今だ!【スラッシュ】!」
「グギャア!!」
「ギギッ!?……ギィ!」
「うっ!?……はぁ、はぁ、これ以上は……もう、無理です、ね………」
僕はダンジョンを舐めていました。野良のゴブリンと大差ないだろうとタカをくくっていましたが、このザマです。『スラッシュ』まで使わされてしまいました。
たった2体倒しただけで疲労困憊になり、戦闘の続行が困難になった僕は、撤退を余儀なくされました。そうして今に至る訳ですが───
………………
…………
……
1階層から2階層へ降りるだけで、こんなに強くなるなんて!それとも、まさか、試されて───
そこで僕は思考を中断しました。
正面から別の小隊が迫って来ているのを見つけたからです。
「そんな!戦闘音を聞きつけられましたか!?」
「ギギィ!」
「っ!?」
後ろからもさっきの魔物達が追いかけてきています。
……そうだ。迷っている場合じゃない。後ろにも敵はいるんだ。
「後ろを突破するしか、なさそうですね……!【スラッシュ】!!」
「グゲェッ!?」
「もう1体───」
前からやってくる小隊とかち合う前に後ろを突破するべく、真後ろにいたゴブリンを倒し、もう1体も倒そうとしたその時────
「ぐっ!」
突然右肩に痛みが走りました。
まさかもう追いつかれたのかと思い肩を見ると、矢が深々と突き刺さっていました。
どうやら、もうスケルトンが射程圏内まで近づいてきていたようです。
「まずい、早く、敵を──」
遅すぎました。
痛みに気を取られ、僕は目の前に魔物がいると言うのに、致命的な隙を晒していました。そんなところを見逃してくれるほど、敵は甘くありません。
「…………あっ」
気づけば僕は、左肩から袈裟掛けに深く斬られていました。
「う、うわあああああ!!!」
◆
『う、うわあああああ!!!』
「ようやく片付いたか」
「みたいですね。やはり駆け出しにしては、なかなか強かったですね」
「え、本当はもっと弱いのか?」
「そうですよ。皆一応レベル7はあるんですけど、動きにも未熟さが全面に出ていたりしますし、そもそもスキルなんて持っていません。それ故の驕りでしょうか。あんなレベルでソロはかなり珍しいですね」
「へぇ。そう考えると、かなり好戦績と言えるんじゃないか?」
こちらの損害はゴブリン2体とスケルトン13体だ。
「ええ、初戦でこれだけの損害で彼のような冒険者を仕留められたのは、素晴らしい結果だと言えますよ」
「戦術を仕込んだのが功を奏したな」
「私には、魔物に戦術を仕込むなんて発想はありませんでしたよ……やはり、ベルグレッド様は素晴らしい発想力をお持ちですね」
「でも、実際に戦術を仕込んだのはアスナだ。俺には知識は無かったからね」
『あああ!!ひっ、ひぃいい!!い、痛い!たっ、助けて!誰かぁ!!』
「……うるさいな」
「ミュート機能もありますよ」
耳障りだったので、ミュートをかける。
「それにしても、あいつはそこまで戦闘慣れしていなさそうだったな」
「はい、確かに動きは良かったですが、戦闘経験の方はなさそうでしたね。それは本当に運が良かったです」
「そうだな。あいつが調子に乗って2階層に降りてきてくれたのも良かった」
「あそこで引き返されてたら、仕留められませんでしたからね」
「まあ、そんなやつでもゴブリンを2体も倒せたんだ。次はもっと強いやつが来るかもしれないな」
「その可能性はありますね。そのためにも改善点を洗い出して、より良いダンジョンを造っていきましょう!」
「ああ、そうだな。初戦が終わったからって、油断は禁物。これからも気を引き締めていかないとな」
「……あ、とうとう敵が死んだようです」
「これで本当に終わりだな。死体は回収しておこう。どうすればいいんだ?」
「それはダンジョンの編集と同じ要領でできますよ。こうやってですね──」
………………
…………
……
◇◇
「ああぁ…………い、痛い………」
僕は、どうしてこんなところに1人で来てしまったのだろうか。
あの時、先輩に忠告されていた通りに引き返していれば……そもそも、ダンジョンなんかに1人で来なければ……たかがLv:7の僕なんかが、ソロで未開のダンジョンに来るなんて、冷静に考えたらどうかしてる。
ミシッ
「うッグっ、あああああああ!!」
「ギャギャギャギャギャギャ!!」
僕が後悔に打ちひしがれている所を、無抵抗と判断した様子のゴブリン達は、どうやら僕をいたぶる方向にシフトしたようです。
傷口を踏みつけて、遊んでいます。骨が、ミシミシと嫌な音を立てていました。
「あああ!!ひっ、ひぃいい!!い、痛い!たっ、助けて!誰かぁ!!」
「ギギィ」
ボキッ!
「ぎゃああああ!!!」
痛がる僕を見て興奮してきたのか、ゴブリン達の暴虐は、苛烈を極めてきています。
何とかこの痛みから逃げようとしますが、僕にはもう、逃げる気力も、体力も、既に残されていませんでした。
ゴブリンに弄ばれながら、思い出すのは両親や村の皆、そしてユスフ先輩のことでした。
皆、優しかったなぁ。ごめんなさい、言いつけを守らなくて。ごめんなさい、生きて帰るって言ったのに。ごめんなさい、ごめんなさい…………。
「嫌だぁ………。死に、たく、ない……」
体が冷えていくのが、自分でも分かる。
次第に感覚が無くなっていき、何も感じられなくなる。
「死にたく…ない……よ…………ぉ…………………」
─────タスケテ。
僕の意識は、そこで途絶えた。
いやー、秒殺でしたねー。ちょっとあっさりしすぎたかな?
やっぱり戦闘描写って難しい……
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前々話の後書きと前話の後書きの補足
スライムいいかもと思ったところを、「スライムは雑魚」という主張をアシスタントに押し付けられて曲げられるわけです。
まあ、アシスタントも担当を死なせないために必死なだけなので、本当に悪いのは史上最悪の『スライムの失敗例』を作り出した例のダンジョンマスターなんですよねぇ。