表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rise in Labyricia  作者: 爽風
第1章 ダンジョン始動
2/10

アスナ先生のダンジョン講座



 時は遡って1年ほど前、レプト山脈のとある洞窟の中。




「ん……」



 目が覚めた。寝ぼけているのか、まだ焦点がはっきりと定まっていない。



「ここは………どこだ?俺は…」



 おかしい。今までのことが、一切思い出せない。自らのことさえも。


 次第に焦点が定まってくる。どうやら、ここは洞窟の中のようだ。



「なんで、俺はここに………?」



 ふと辺りを見回すと、部屋の奥に水晶玉があった。翡翠色に輝いていて、幻想的で、とても綺麗だ。

 吸い寄せられるように、俺はその水晶玉に近づいていった。

 そして、水晶玉に触れようと手を伸ばして──



「止まりなさい」



 ──突然声がした。

 驚いて声のする方へ振り向くと、



「いつの間にここに辿り着いたのですか?冒険者(ゴミ)共。全く、油断も隙もありませんね。こんな短時間でここまで辿り着くなんて、不覚です。人間のくせに、その嗅覚は野犬(ハウンド・ドッグ)並ですね」



 そこには、1人の少女が立っていた。

 歳は17,8辺りだろうか。肩まで伸びた艶やかな濃い茶髪に、金色の瞳。平常時ならば、恐らく誰もが見惚れてしまうであろうその可憐な顔は、今は怒りと憎悪とで染まっていた。



「それに触れることは断じて許しません。死にたくなければ、今すぐそこを離れてここを出て行きなさい。さもなくば………殺します」


「ま、待て!誤解だ!俺は気づいたらここにいただけで、どういう状況なのか、俺にもさっぱりなんだ!」


「黙りなさい。意味の分からない言い訳など要りません。動かないということは、殺される覚悟ができたということでいいですね?」


「そ、そんな…待ってくれ……!くそっ、もう、だめなのか…………」



 気がつくとわけの分からない所にいて、何も分からないまま死ぬのか。そんなの、嫌だ。

 必死に誤解を正そうとするが、少女は全く聞く耳を持ってくれない。

 攻撃魔法の魔法陣を展開し、魔力が臨界まで高まり、そして、今まさに、それが放たれようと──



「──って、あれ?貴方、いや、貴方様は………もしかして、私の主様(マスター)、ベルグレッド様ではございませんか?」


「………え?」



 その少女は、突然俺の事を『主様(マスター)』、『ベルグレッド様』と呼んだ。

 『マスター』はちょっとよく分からないが、『ベルグレッド』は俺の名前だろうか………?



「男性にしては少し長めの黒髪に深紅の瞳……そして落ち着いて見るとビシビシ感じるあの方の波動……あっ」


「……あの方の波動?」


「もっ、もももも申し訳ございません!!!とんだご無礼を働いてしまいました!………でもおかしいですね。こんな所でお目覚めになるなんて。こんなこと養成所(スクール)では習いませんでしたよ?迷宮神様の手違いでしょうか?いや、でも迷宮神様がそんなミスを────」


「えっ、え……えぇ……………?」



 状況が全く呑み込めない中、彼女はいつの間にか魔法陣を消し、意味不明の言葉を残して思考の海に沈んでしまった。


 なにが起こったのかさっぱり分からないが、とにかく助かったようだ。どうやら彼女は何かを知っているようだし、状況を把握するためにも話を聞いてみよう。



「あの、ちょっと──」


「──あっ!そういえばユリカの(マスター)は同じような生まれ方をしてたっけ?」


「……えっと?」



 だめだ、完全に自分の世界に没頭している。



「いや、話を聞いて──」


「──それに、よく考えてみれば、稀にそんな事があるってどこかで聞いたことがある気が──」


「──いやあの──」


「──あっ、あの本だ!確か非常に稀な出来事だけど、あるって書いてました!」



 プチッ



「いや話を聞けよ!!?」


「ひゃああっ!?」



 つい苛立った俺は、怒声をあげてしまった。



「すみませんすみませんすみません!!!そんなに怒らないでください!早とちりで殺そうとしてしまって、悪かったと思ってます!本当です!反省してますからぁ!!うううっ、ふえぇぇ…………」



 いきなり怒声をあげた俺に驚いたのか、少女は泣き出してしまった。


 ……まずい。少し強すぎたか?



「あー、えーと、いきなり大声を上げて悪かった。考え込んでるところ悪いんだけど、話を聞いて欲しい」


「ひっく、ぐすっ………ふぇっ?」


「ついさっき目が覚めたばかりなんだけど、何故か記憶がないようで、いまいち状況が理解できていないんだ。君は誰で、ここはどこなんだ?」


「えっ、あ、ああっ!すみません!不測の事態で混乱しちゃってて……えへへ………こほん。私は迷宮主(ダンジョンマスター)連盟(・ユニオン)から来ました、アスナと申します。ここは、ベルグレッド様の迷宮(ダンジョン)でございます。私は迷宮主秘書(アシスタント)として、マスターの補助を連盟に任されてここに来ました」



 さっきの子供のような様子はどこへ行った?大人顔負けの振る舞いなんだが。っていうか──



「ダンジョン?しかも俺の?」


「はい、ベルグレッド様のダンジョンでございます。ベルグレッド様は、迷宮主(ダンジョンマスター)ですから」


「ダンジョンマスター?」


「はい、ダンジョンマスターとは、簡単に言うとダンジョンを管理する人のことです。迷宮神ラビリスタ様によって創られしもの、それがダンジョンとダンジョンマスターです。私が所属する迷宮主連盟も、迷宮神様がダンジョンの管理を円滑にするために、創られた組織です」


「なるほど………一つ聞いていいか?」


「もちろんです。私が分かる範囲でなら、なんでもお答えします」


「どうして俺たちは生み出されたんだ?」


「簡単なことです。かつてのこの世界は、ただ大地が在るだけの、ダンジョンも生命も、何も無い世界でした。やがて自然ができ、生命が誕生し、世界は緩やかに成長していたのです。しかし、『人間』の出現が全てを変えたのです。奴らは繁殖能力が高く、その増殖スピードは迷宮神様の想定を超えていました。そして高度な文明を持ってしまったことで、それまで構築されていた生態系が、再生できなくなるまでに崩壊してしまったのです。人間が圧倒的優位に立ち、全ての生物は人間に狩られるだけの存在と成ってしまいました。奴らは害悪。ですが、生態系を変えてしまうほどに増え、発達した人間共を滅ぼすことは非常に困難です。だからせめて、これ以上増えすぎないよう間引くために、私たちが存在するのです」


「だが、それなら神が直接手を下せばいい。わざわざ俺たちを生み出す意味がないんじゃないか?」


「むぅ、随分と面倒くさいことを気にする方ですね……確かに神の力をもってすれば、一柱(ヒトリ)でも容易に世界を滅ぼせるでしょう。しかし、神々は現世への干渉をかなり制限されているのです。一柱の都合で世界を滅ぼされては、とても敵いませんからね。だからこそ神々は、私たちのような眷属を使って、現世に干渉しているのです」


「なるほど。まあ、理由は分かったよ」


「それは良かったです。他に疑問点などはございませんか?」


「いや、今のところは特にないかな」


「それでは、これからはダンジョン運営のいろはと、この世界の一般常識についてお話ししますね!」



 俺には知らないことが多すぎる。少しでも知識をつけられるなら願ったり叶ったりだろう。



……


…………


………………



「これで以上です、お疲れ様でした!マスターは素晴らしい集中力と記憶力をお持ちですね!話す方が疲れる程の長い話だったのに、お話しした内容も、ほとんど覚えてしまわれて………」


「まあ、少しでもこの世界について知りたいからな」


「赤子が好奇心旺盛で、物覚えが良いのと似たような感じですかね?」



 ……アスナだっけか。かなり説明が長ったらしかったが、裏を返せばそれは事細かに説明してくれたということだ。同じことの繰り返しがあったという訳でもなく、無駄のない、非常に分かりやすいものだった。


 要約すると、ここは迷宮神ラビリスタの管轄する世界、迷宮神界(ラビリシア)

 なんでも、神界には数多の神がいて、その中でも上位の神には、一柱一柱に世界が与えられているらしい。ラビリスタもその一柱だそうだ。

 管轄する神によって、世界の常識は変動するらしく、ラビリシアの場合は、迷宮の存在自体がそうらしい。と言っても、他所の世界には全くないというわけでもなく、ありふれていないだけ、という意味らしいが。


 俺のダンジョンは、ハイマーン王国の街、レグルの西側にある、レプト山脈の麓に位置しているらしい。

 アスナ曰く、他の多くのダンジョンより人間の街に近いらしく、見つかるのは時間の問題だと言っていた。


 ダンジョンマスターはこの水晶玉、迷宮核(コア)を使ってダンジョンを思い通りに造り替えることができる。

 ダンジョンマスターは、ダンジョンの最奥にあるコアを破壊されると死んでしまうらしい。だから、コアを守るために、ダンジョンをより強く、堅固に造り上げ、迫ってくる冒険者を撃退する必要があるのだそうだ。

 だからあのとき、俺を冒険者と勘違いしていたアスナはあんなに必死だったのか。人体で言う心臓にあたるわけだから、過敏になるのも仕方ないだろうな。

 こちらは勘違いで危うく殺されかけたのだから、たまったものではないが。


 そして、肝心のダンジョンを造るために必要なのが、DP(ダンジョンポイント)だ。

 これがなければ、ダンジョンマスターはただの魔族同然だそうだ。魔物を生み出すのにも、ダンジョンを改造するのにも、ダンジョンを動かすには全てDPが必要らしい。

 DPは、地脈から吸い上げる魔力を変換して手に入れることができるそうだが、その量は差程多いわけではなく、それだけでは絶対に足りないらしい。

 ならばどうするのかというと……


 侵入者、つまり冒険者を()()のだ。


 冒険者とは、ダンジョンの破壊を主目的としてダンジョンに侵入して(入って)くる人間の総称だ。

 冒険者がダンジョン内で死ねば、DPが手に入る。強さに比例して手に入る量は上がっていくし、冒険者の遺品もDPに変えられるそうだ。


 しかし、それには当然ながらリスクがある。得るものがあれば、失うものもあるのだ。

 自分の魔物が倒されてしまうため、補充のためのDPが必要になる。多少は還ってくるらしいが、やはり倒されないのが一番だろう。

 さらに、人間には情報を共有するための組織があるらしく、仮に冒険者を殺しまくったとして、もしその組織に危険なダンジョンだと判断されれば、強い冒険者を派遣してくるらしい。そうなれば、リスクとリターンがつり合わないどころか、突破されてコアを破壊されるかもしれないのだと。

 そういった危険を回避するためにも、慎重にダンジョンを造っていかなければならないそうだ。

 ただ、絶対に殺さなければいけないわけではないらしい。冒険者がダンジョン内にいるだけでも、身体から漏れ出る魔力を回収することで得られるそうだ。しかし、倒したときの量と比べると、やはり微々たるものらしい。



「……神、か」


「………?なにか言いましたか?」


「いや、何でもない。どんなダンジョンにしようかなって」


「大丈夫です!!!私がついてますからね!大舟に乗ったつもりでいるといいですよ!」


「ああ、納得のいく物にしたいから、色々質問攻めにすると思うが、よろしくな」


「うぇぇ………先程みたいなのはゴメンです」


「ははは、頼りにしてるよ、迷宮主秘書(アシスタント)殿」


「っ。〜〜っ。はい!これからよろしくお願いいたします!ベルグレッド様!」




 こうして、俺のダンジョン運営は、始まったのだった。

 ベルグレッドがダンジョンの最奥部で生まれたのは普通にラビリスタ……というかラビリスタが組んだシステムのミスです。



迷宮神ラビリスタ

 神界ランキング第九位。魔神派閥。『魔』神だけど『邪』神ではない。固有権能(アビリティ)は【──《情報規制》──】。




DPの獲得効率

 地脈<<<侵入者から漏れ出る魔力<<<<<自身の魔物が死んだときに散らばる魔力<<<<<<<<<<侵入者が死んだときに散らばる魔力

               ※イメージです。

 侵入者は、別に冒険者だけに限定していません。ダンジョンの外から来た生命体なら、極端に言うと蚊でもOKです。実際に蚊が入ってきても、魔力があまりに少なすぎて1DPにもなりませんが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ