できるかできないかじゃなくてやる
前回の更新から1年経っとる………(驚愕)
皆さん本当にお待たせ致しました。1年越しの更新です。改稿作業の後なので、以前から色々変わっている部分もあると思います。なので、振り返りついでに一度読み直して頂けると幸いです。
これからは今までの遅れを取り戻すべく、頑張って更新していこうと思います。
これからも拙作をよろしくお願いします。
◆
「……ここまで強いとは、予想外だな」
「本当に勝てるんですか?」
「分からない」
あれだけの傷を負って、よくあれだけの魔物達を全滅させられたものだ。あの様子を見るにさっきの大技は連発できなさそうなのは救いだが、それでも強すぎる。
正直あれで負けるとは思っていなかった。
「仕方ない。不本意だけど………第4階層を使う。もうそこにしか魔物はいないからね。まだ目標の強さまで達していないし、できることなら使わずに仕留めたかったけど」
「それって大丈夫なんですか?」
「十分じゃないとは言ったけど、弱いとは言ってない。3階層までの魔物達とは違うさ」
「本当ですかね………」
「かなり消耗させたと思うし、流石の奴でも手こずってくれると思うんだが……それに、あいつもいるからね」
「それはそうですけど………」
「それに、もう大丈夫か大丈夫じゃないかの問題じゃない。もうやるしかないんだ。すぐにあいつに連絡しろ。まだちょっと早いが出陣だと」
「了解です!」
◇
「──というわけでして、貴方の出番が回ってきてしまいました。敵の力量を見誤っていました……いえ、これは言い訳ですね。完全に私達の力不足です。すみません。貴方には迷惑をかけます」
「……ふむ、そうか。第3階層が突破されてしまったか。我の出番というわけだ」
「ベルグレッド様は準備が足りないと不安がっておりましたが……実際どうなのです?大丈夫なのですか?」
「問題ない。確かに我らの目標とするレベルまで達していないのは認めよう。だが、大丈夫か大丈夫じゃないかの問題ではない。やるのだ。未だ未熟な身ではあれども、必ずやダンジョンの危機を救ってみせる。そして、今の段階であっても、第4階層はこんなにも堅牢なのだということをベルグレッド様にお見せして安心なさっていただくのだ」
「……そうですね。頼みますよ、アルガ」
「承知した。必ずや、ベルグレッド様を不安から解き放って見せよう………無論、貴女も」
「…!ふふっ、ばれていましたか。私もまだまだですね…………ありがとうございます。期待していますね」
「うむ」
そう言い残し、アスナ殿は転移でベルグレッド様の元へと戻られた。
「アルガ、サマ。ゴシュツジン、デス、カ」
そう声をかけてきたのは副官のゴブリンだ。他のゴブリンとは違い、ベルグレッド様に特別に言葉を操れるだけの知能を授けて頂いたのだ。ちとたどたどしいせいで聞き取りにくいのは難点だが、次第に改善されていくであろうよ。
「うむ。ちと早くはあるが、いよいよ我らが第4階層の初陣である。初陣にしては少し敵が強大であるようだが、問題ない。むしろ腕が鳴るというものよ。者共ォ!我らは勝つッ!勝って、ベルグレッド様に我らの強さを見せつけるのだ!!!」
「「「「グォォォォォオオオオオオオ!!!」」」」
「行くぞ!!」
◇◇
ここが………第4階層。
3階層の瘴気濃度もなかなかのものだったが、ここはさらに濃くなっている。正直おかしい。つい最近発生したダンジョンにしては異常すぎる。
がら空きの階層、十字路に誘い込んでからの3方向からの同時襲撃。それに魔物化したアルトを使ってくるのも。
こんなのは初めてだ。今まで潜ったどのダンジョンよりも、手段が狡猾かつ悪質だ。
信じ難いことが次々と起こっている。今までの常識を覆された。次何が起こってもおかしくない。油断はできない。次ミスれば、冗談抜きで死ぬ予感がして、身震いした。冷や汗が出てくる。こんなの、初期のダンジョンで感じるものじゃねぇ。
だがそうした恐怖を感じている中に、俺は少なからず歓喜が混じっていることに気づいてしまった。その理由にも、俺は心当たりがあった。
……そういえばそうか。そうだった。俺は退屈していたのだ。俺は生き延びすぎたのだ。
………………
…………
……
少し前までは死闘と呼べるような闘いに溢れていた。だが、レグル周辺の地域で最大のダンジョンを攻略したそのとき、俺は俺のレベルに見合うダンジョンが無くなってしまったことに気がついた。レグルで活動するには、俺は強くなりすぎたのだ。
皆が俺を褒め讃えるなか、俺は内心冷めていた。これからどうしようかと。ずっとその事ばかり考えていた。
レグルを飛び出して、より強いダンジョンを求めて旅に出てもよかった。しかし、それを躊躇するほどにレグルは居心地がよかった。温かい住人。気さくな同僚達。頼りにしてくれるギルドの職員達。これらを捨ててま街を飛び出すことは、俺にはできなかった。有事の時は、俺がレグルの最後の砦なんだ。俺は夢を諦めざるを得なかった。
だが、どれほど居心地がよくても、退屈は消えない。ヒリつくような、あの頃の戦いは戻らない。耐えかねた俺は、以前ギルマスに頼まれていた、後進の育成を引き受けた。俺を対等に戦えるやつを育てようとしたのだ。そして、そいつを俺の代わりにしようと考えたのだ。
しかし、その目論見は上手くいかなかった。レグルの人は優しすぎたのだ。俺のように貪欲に強さを、強者を、魂が震えるような戦いを求める人間はいなかったのだ。
俺は落胆した。絶望した。そんな時だった。アルトが現れたのは。
ハイマーン王国の端に位置し、国境を越えればすぐにレプト山脈があるレグルには、あまり余所者が来ない。だからこの街に来たとき、アルトは少し浮いていた。関所での衛兵との問答を聞いていると、レプト山脈にある村から飛び出して来たらしい。その目は未知への期待と、新生活への希望に満ちて輝いていた。
俺はそこに昔の俺を重ね合わせた。俺は生まれも育ちもレグルではあるものの、他者とは少し違っていた。アルトと同じように、浮いていたのだ。
俺はアルトが気になり、後を追いかけた。
しばらく着いて行くと、アルトはギルドに向かっていることに気がついた。俺は歓喜した。こいつは俺が育てるんだと、アルトの気も知らずに勝手に決めた。
受付でのやり取りを聞いていると、驚くべきことが発覚した。アルトはスキルを一つも持っていないらしい。一番簡単なスラッシュでさえもできないそうだ。
俺は声をかける口実にちょうど良いと、職員との話が終わるやいなやアルトに声をかけた。
最初、アルトは不審気に俺を見てきた。そりゃそうだ。いきなり声をかけてきたと思えば、鍛えてやるだなんて。俺でも怪しむ。が、その時の俺は、そんな簡単なことにも気づかないほどに視野が狭まっていた。
怪しんでいるようではあったが、アルトは俺の提案を受け入れた。早く強くなって、ダンジョンに行きたいのだそうだ。
修行が始まると、アルトはどんどん腕を上げていった。センスも抜群だったが、なによりアルトは努力家だった。スラッシュもたった一日で、あっさりとものにしやがった。俺は1週間もかかったってのによ。
スラッシュ自体は全く難しい技じゃない。ほとんどのやつが最初に覚えるスキルなだけに、極めて簡単な技だ。だが、一番最初にスキルに触れるわけで、どのようにして発動させるかが分からない。つまりスラッシュの練習とは、いわばスキルの発動手順を身体に覚え込ませることでもある。それを、アルトは並外れたスピードで身につけたのだ。少し、いや、かなり嫉妬したし、恐怖もしたが、それでこそ鍛えがいがあるもんだとも思った。
アルトがスラッシュを覚えてからは、街の外に出て、実際に魔物と戦わせた。これもアルトはあっさりとこなした。魔物を見ても、これっぽっちもビビりやしない。後で聞けば、村で普通に戦っていたらしい。ただのガキが村の男衆に混じって戦っているなんて、信じられなかった。だが、その手際の良さを見ると、信じざるを得なかった。
そんな感じだから、いつの間にか俺の中から「嫉妬」の二文字は消えていた。馬鹿らしくなってしまったのだ。それと同時に、俺の強者への渇望も薄れていた。俺の熱意は、アルトを英雄に育て上げることのみに注がれていたのだから。
……
…………
………………
ずっと心の奥底で微かに燃え続けていたかつての渇望が、強者との邂逅により唐突に満たされたのだ。それが、こんな状況であるにもかかわらず、俺に歓喜の感情が起こった理由だろう。アルトを殺され、怒り、哭いているはずなのに、久方ぶりの死との対面が俺に生を実感させ、昂らせる。
多数の足音が聞こえてきた。音のする方向を見ると、ゴブリンの軍団が近づいて来ているのが見えた。
「………来たか」
そいつらは俺から少し距離を取ったところで立ち止まり、一際強い妖気を纏っているゴブリンが声をかけてきた。
「……ふむ。貴様が我が主の領域に土足で踏み入り、我らの同胞達を蹂躙してくれた者か」
「……ハッ。ようやくボスのお出ましかい」
「いかにも。我がこの第4階層の守護を任されておる」
「ってぇことは、お前が最後ってことだ」
「左様。貴様の言う仇討ちは我を倒さねば成就せぬ……できるはずもないと思うがな」
……とんでもねぇ威圧感。振る舞いからして、強者の覇気が滲み出てやがる。
「…………言ってくれるぜ。いくら手負いとはいえ、初期のダンジョンのボスに負けるほど弱っちゃいねぇ」
これは普通の話だ。事実、俺はかなり気圧されていた。だが、まだ戦ってもいない間からそんな調子じゃ、負けを認めたようなもんだ。俺は虚勢を張った。
「だろうな。我もそこまで貴様を甘く見てはおらぬ。願わくば、退いて貰いたいものだが。そもそも我らも殺したくて貴様の弟子とやらを殺したわけではない。そちらが勝手に攻め込んできたのであろうが。そちらから仕掛けておいて、仲間を殺されたから仇討ちなど、笑わせる。正当防衛というものではないのか?」
「知るかよ。ダンジョンは存在自体が悪だ。昔からそう決まってんだよ」
「……固定観念に縛られた者と言うのは、憐れなものだな…………退かぬと言うのならば仕方ない。貴様には死んでもらう」
「ハッ、いいねぇ。できるものならやってみな。俺の積年の悩みを晴らしてくれた礼だ。一思いにぶっ潰してやる。せいぜい俺を楽しませてくれよ?」
魔物、特に初期のダンジョンの魔物が言葉を操るなんて普通はありえない事なんですけど、覚悟を決めた後だったのでユスフさんは驚かなかったです。
最終決戦前のステータス
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ユスフ
LV:31
状態:怒り・恐怖・興奮
HP:207/356
MP:121/203
STM:137(152)
ATK:150(200)
DEF:108(133)
MGI:67(92)
AGI:88(103)
TEC:79(94)
LUC:95
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アルガ
種族:小鬼騎士・細剣使い
LV:23
状態:普通
HP:256/256
MP:128/128
STM:101(106)
ATK:116(136)
DEF:71(86)
MGI:43
AGI:93
TEC:83(91)
LUC:75
スキル
・【情報規制】
装備
武器:鉄のレイピア(ATK+20)
頭:羽帽子・赤
体:鉄の鎧(DEF+15)
手:革の篭手(TEC+8)
足:革の長靴(STM+5)
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