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8話 化け物と廃墟

 

 2階の様子を見れば、この廃墟が普通とは違う事に察しがつく。

 だが、まさかここまで異質な光景が広がっているとは……


「いやいや、流石にこれはまずいだろ……」


 3階には、巨大な檻が設置されていた。


「ヴアィォォ……」

「ヴアィィィ……」


 檻の中には、背筋を丸めゾンビのように徘徊する、生気のない人間が何人も入れられている。

 若者から中年まで歳は様々だ。

 肌の色は赤や黒や緑など数種類で、全員が身体の数箇所を欠損している。

 どうやら何かの実験を行なっているようだ。

 散々人間を食い散らかして来た俺だが、まるで映画を観ているような悍ましい光景に絶句する。


「ここを管理している奴はロクな人間じゃないな……」


 余りに悲惨な様子に、思わず言葉が漏れる。

 お前はどうなんだと突っ込まれそうだが、俺は人間を辞めた身だ。

 人を痛めつける趣味もない。

 少なくとも、そこは胸を張って言えるだろう、多分。

 しかし、こんな事を考えるようになるとは、いよいよ俺もスライムが板に付いてきたという事か。


 そんな事を思いながら、檻の周りを一周する。

 どうやら檻の外に人の気配は無いようだ。

 ふと立ち止まり、檻の中を見つめる。

 すると、中の人間と目が合った。


「ヴアィォォ……ヴォ、ヴォ、ヴィ、ヴェ……」


 気まずいと思いつつも、何かを訴え掛ける目を背ける事は出来なかった。


「うーん、この様子じゃ自分が何なのか分からないだろうな……」

「ヴアィォォ……ヴォ、ヴォ、ヴィ、ヴェ……」


 暫くその表情を眺めていると、眼の奥に何かを感じる。


「はぁ。辛そうだな……」

ヴアィォォつらいよぉ……」


 ハッとした。

 この人間から、言葉にならない言葉をはっきりと聴き取った。


「こいつら、まだ自我があるのか……」

ヴアィォォつらいよぉ……ヴォヴォヴィヴェ……」


 俺は苦虫を噛み潰したような表情で人間達を見つめる。

 皮肉にも今の俺はコイツらを楽にさせてやる事が出来る。


「殺して……良いんだな?……」

ヴァ……ヴィ……ヴァ……ヴォ……」


「クソッ!」


 人間が人間を穢し、化け物の俺がそれを浄化するとは思いもしなかった。


(これじゃあ、どっちが化け物かわからねえよ……)


 憤怒で気が狂いそうになるも、落ち着いて檻の中へスライム化した体を流し込む。

 そして、人間達にスライムを纏わせた。

 スライムを通して感覚が伝わってくる。

 檻には二十人の人間が居たようだ。

 俺は静かに瞑目し、小さく呟く。


「達者でな」


 そしてスライムへ全力で最大の食欲を注ぎ込む。


「食べたいっ!!!!!!」


 心なしか人間達は最期に笑ったような気がした。


「シュッ!!」


 その後、人間達は一瞬で消化され、檻の中には俺の体だけが残る。


(あー胸糞悪りぃ! 楽しんでる奴を食うから美味いんじゃねーか! こんな奴ら……こんな奴ら食ったって……美味く……ねぇよ……)


 目から何かが流れる気がするが、それよりも強い怒りの感情に押し流される。


(人を痛めつけて、生半可に生かして……誰だよ此処の管理者は……誰だよコイツらを穢した奴は……潰してやる! こんな所、俺が絶対に潰してやる!!)


「俺だ! ……この廃墟を俺にしてやる!!」


 止め処なく溢れる怒りに思わず声が漏れる。

 感情は怒りに飲まれていたが、判断は至って冷静だった。

 静かにスライムを回収し廃墟を後にすると、人気のない道へ駆け込む。

 辺りに誰も居ない事を確認すると、左手から車を複製し。


「ジュグジュグジュグジュグジュグジュグ……ドン!」


 車に乗り込むと命令を発する。


「動け!!」

「ブオォン!!」


 車を操作し目的地へ向け走らせる。


「進め! 曲がれ! 止まれ! 進め! 曲がれ……」


 30分程経ち、ようやく目当ての場所へ到着する。

 目的地、それは繁華街の中心部からやや逸れた裏路地。

 道幅に余裕ある場所の、“汚水”と彫られたマンホールの上に車を停車した。

 さらに車の底面に穴を開け、左手をスライム化しマンホールの蓋へ纏わせ捕食を開始する。


「シュワシュワ……」


 数分で消化が終わり、頭の中にマンホールの蓋が浮かぶ。


「トプトプトプトプ……」


 そして左手から体内のありったけのスライムをマンホールの中に流し込む。

 マンホールへ注いだスライムへ視点を移すと、やはり内部は汚い。

 地下ではネズミやゴキブリが蠢いている。

 だが、俺にとっては食べ物でしかない。


「ジュジュジュジュジュジュ……」


 それらの生物を捕食しながら、流れる汚水にスライムを浸ける。

 そして、ひと思いに汚水を啜る。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……」


 汚水は渦を巻きながら体内へ流れ、消化されていく。

 予想はしていたが、人間達が出す様々な物を含んだそれは、筆舌しがたい旨味を含んでいた。


(これは……アリだな……)


 そんな事を思いながら、淡々と美味い下水を堪能する。

 やがて下水が枯渇し、下水道の床が露わになる。

 時計を見ると、いつの間にか23時を回っていた。

 さすがに食欲はもう無い。

 下水道に這わせたスライムを逆流させ、マンホールの穴から回収する。

 そして、マンホールの蓋を複製し、穴へ被せた。


 何食わぬ顔で車を走らせ、廃墟から少し離れた人気の無い太い道に車を停める。

 後部座席のシートをスライム化し回収すると、空いたスペースにベッドを複製し、車中で眠る事にした。

 だが、転生してから一度も風呂に入っていない事に気付く。

 元々風呂が好きというわけでは無いが、さすがに4日も風呂無しは気持ち的に不快だ。

 明日の朝は風呂に入ろう。

 廃墟を俺にするのはその後だ。

 そう思いながら意識を手放した。


 ※ ※ ※


 ――4日目


 翌朝、目が覚めると左手にスマホを複製し、銭湯の検索を始める。

 どうやら車で暫く走った所にスーパー銭湯があるらしい。

 早速、車を操作し目的地へ向かう。


 暫くするとスーパー銭湯に到着する。

 高級路線の洒落た内装だ。

 金なんて無いのに、こんな所に来て大丈夫かって思うだろ?

 ここは……アレだ。

 捕食した人間達から頂戴することにした。

 頭の中に浮かぶ一万円札を掴み、3枚ほど左手に複製する。


(もしかして、俺って無限に金を生み出せるんじゃないか?)


 そんな事を思いながら作製した一万円札をまじまじと眺める。

 触ってみると、凹凸もしっかり再現されている。

 透かしをみると、綺麗に入っている。

 製造番号をみると、3枚全て同じ番号だった。


(……ダメじゃん)


 残念ながら俺の金は有限だった……

 しかし、頭の中に浮かぶ一万円札は一枚ではない。

 複数漂う一万円札から3種類を掴み、再び左手に複製する。

 今度は製造番号も異なり、おそらくバレる事は無いだろう。

 自信満々に受付カウンターに居る姉ちゃんの前に立つ。


「ご利用は初めてですか?」

「……はい」


「ではこちらにご記入ください。身分証のご提示もお願いします」

「……わかりました」


 淡々と受付用紙を記入し、身分証を提示する。

 受付処理は無事終了し、カルトンに1万円札を置いた。

 何食わぬ顔で入館しようとするが……


「加藤様!……」


 呼び止められてしまった。


(偽札がバレたか!?)


 全身が硬直しながら、ゆっくりと上を向く……

拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたらブックマークや、評価を頂けると嬉しいです。


次回の更新は21日の予定です。

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