6話 大麻の精製
ふと昨日の裏路地へ行くと、何やら騒がしい。
「おいおい、これっぽっちかよ! シケてんなぁ!」
「ゆゆゆ許してくださぁい……」
おっさんがカツアゲされていた。
所謂おやじ狩りってやつか?
若い兄ちゃんが、おっさんをフルボッコにしている。
おっさんは血を流し、満身創痍だ。
なかなか痛々しい状況だが、そんな事はどうでもいい。
(腹が減った気がする)
この二人の何れかは俺の夕飯にしよう。
おっさんは血を流し美味そうだが、おっさんを捕食している最中に兄ちゃんが面倒な事をする可能性がある。
消去法により、本日のディナーは兄ちゃんに確定した。
「有り金が300円な訳ねぇだろ! 何処に隠してんだ! あぁ?」
何やら悲しい数字が聞こえたが、気にせず静かに兄ちゃんの足元へスライムを這わせる。
そして、ゆっくりと足から包んで行き、腰、胴体へと範囲を広げていく。
肩まで包み込んだところで、ようやく兄ちゃんが気付く。
「うわっ! 何だこれ! 気持ちわりぃ……」
だが、時既にお寿司。
今日のディナーは兄ちゃんの踊り食いだ。
頭まで包み込むと、じんわりと足から捕食を始める。
「ぎゃぁぁぁぁ! いでぇ!!」
仕方ないね、兄ちゃんも散々おっさんを痛めつけてたでしょ。
暴力は人の為ならずって諺があるじゃないか。
それだよソレ。
数分程かけて太もも辺りまで捕食し、兄ちゃんは汗や涙を流しながら白目を向いている。
もうそろそろ良いかな。
流石にこれ以上、苦痛を味わわせるのは気が引ける。
兄ちゃんの意識はもう無いけど。
そんなわけで、ひと思いに消化してあげる事にした。
(アイルビーバック!)
この言葉がぴったりな程に、兄ちゃんは俺の体に飲み込まれ、消化された。
(おっさんは……可愛そうだから見逃してやろうか)
そう思い、俺は立ち去ろうとした。
だが……
「ひぃぃ! 化け物!」
「誰が化け物だ!!」
俺だな、俺しか居ない。
思わず突っ込んでしまったが、おっさんは俺の姿を見ている。
このまま帰したら、おっさんは警察へ駆け込み、話が面倒な事になりそうだ。
仕方ない、デザート追加だな。
おっさんは逃げようと立ち上がるが、スライムで足を絡める。
「うげっ!……あわわわわ!」
コケたおっさんは逃げようと再び立ち上がろうとするが、腰が抜けたようで立ち上がれない。
その隙に、おっさんの体全体をスライムで包み込む。
そして、首から下へ意識を集中し、ゆっくりと消化を始める。
「ガガガガガガ!!」
おっさんは痙攣したように叫ぶ。
見ていて面白いが、散々痛い目に遭ったのだから最期くらいは楽にしてやろう。
首へ意識を向け、一気に首だけを消化する。
「ガガガガガ……ガッ!」
痙攣はピタリと停止し、頭がボトリと地面に落ちた。
足から伸びるスライムを使い、頭を手繰り寄せ腹の中へ収める。
そして暫しデザートの胴体を楽しむ。
「シュウウウウ……」
堪んねぇ。
昨日の女とは食感が違うが、おっさんの食感もこれはこれで良い。
ハンバーグにするか、ステーキにするか。
ビールにするか、日本酒にするか。
その程度の違いでしかない。
消化が終わり、腕時計を見ると時刻は24時に迫っていた。
「おっと、もうこんな時間か!」
“おやつ”を舐めながら足早に部屋へ帰ると、今日もまた泥のように眠るのだった。
※ ※ ※
――3日目
俺は朝起きると、昨日の様に体に違和感を覚える。
全身をスライム化させ、体積を広げていくと、なんと部屋全体がスライムで満たされていた。
塵も積もれば海となる。
なんてな、ことわざ通りだな。
「ミシミシミシ……」
感心していると、部屋から不穏な音が響き、慌てて人型になる。
スライム化した時の体重は不明だが、これ以上続けると床が抜ける。
それだけは明確に理解した。
さて、昨日出来なかった事が一つある。
大麻の精製だ。
精製には大麻を乾燥させる必要があるそうで、この部屋にはガスコンロがある。
早速精製を始めようと、頭の中で大麻を掴み、左手から大麻を生やす。
だが、一つ疑問が湧いた。
「この大麻、俺の体の一部だよな……」
試しに生やした大麻に意識を集中させると、大麻はスライムの姿へ戻った。
やはり見た目は大麻だが、この草は俺の体だ……
複製した“なんちゃって大麻”を精製など出来るのか?
怪訝に思いながら再び大麻を左手に生やし、ガスコンロに火をつけ大麻を炙る。
「ジュッ……」
「熱っ!!」
すると、大麻は一瞬で燃えカスとなり、左手に軽い火傷を負った。
慌てて左手をスライム化させ、再び腕に戻す。
やはり火傷は綺麗に完治していた。
燃えカスに意識を集中するが、反応は無い。
どうやら本当に燃えカスとなったようだ。
この事から……
・複製した物をスライムに戻さなければ、耐久力は複製した物に依存する。
という事なのだろう。
人型の俺が痛みを感じるのもそのせいか。
納得し、ガスコンロの火を止める。
精製はまた今度にしよう。
問題を先送りにし、疑問に思った事を試す事にした。
以前はベッドを捕食する事が出来なかったが、スライムの体積が増えた今はどうだろうか?
早速左手からスライムを放出し、ベッドを包み込む。
そして、捕食を開始する。
「シュウウウウ……」
ベッドが跡形も無く消化された。
やはりスライムの体積に比例して消化出来る物が決まるようだ。
これまでの実験で、スライムで複製させた物の方が、何かと使い勝手が良い事が解っている。
そこで、一つ思いついた。
「部屋の中身、全部スライムにするか……」
ここまでお読みくださりありがとうございます。
皆様の応援のおかげで、自身初の総合ランキングへランクインすることが出来ました。
現在はランキングも落ち着き、今後はここまでお読みくださっている読者様へ、さらに楽しんでもらえるように精進して参ります。
ここで読者様へ2つ、お約束させていただきます。
・エタりません。
完結まで書き切ります。
・能力描写にこだわります。
捕食、消化、複製などに爽快感を追求します。
拙い文章や語彙力ではありますが、どうか今後ともお付き合い頂ければ幸いです。
拙作がお気に召しましたらブックマークや、評価を頂けると嬉しいです。
次回の更新は19日の予定です。