5話 スマホを捕食
2階には、辺り一面に鬱蒼と草が生い茂っていた。
だが、廃墟には似つかわしくない程に丁寧に管理されている。
温度や湿度を管理する機械が稼働し、ビニールハウスの様なものの中に、その草が生えている。
その異様な光景に、俺は見覚えがあった。
「これは……大麻?」
テレビのニュースなどで度々流れる押収された大麻の映像。
眼前に広がるのは、まさにその映像通りのものだった。
大麻の味が気になったので、試しに捕食してみる。
イチゴ狩りの様に大麻を手の中へ掴み、スライム化させて溶かす。
(うーん、無味無臭……なんともない、普通の草だな……)
だが、大麻の味の感想は質素なものだった。
もしかすると、スライム化して食べても意味が無いのかもしれない。
そう思い、今度は口に入れ咀嚼してみる。
(不味い……)
やはり普通の草だった。
人間の舌の方がより強く不味さを感じた。
怪訝に思い、大麻の扱い方を調べてみようとポケットからスマホを取り出す。
どうやらスマホは服装に入るようだ。
スマホのボタンを押し、ホーム画面へ移ろうとするが……
「充電してください」
バッテリーが無かった。
ここ数日、充電せずに寝てしまうことが続いていた。
(チッ、使えないスマホだ)
自分の事を棚に上げ、心の中でスマホへ八つ当たりする。
だが、時計を捕食した時の事を思い出した。
俺の作製した時計は、意識を集中する事で秒針が動いた。
ならば、スマホも同様に動かせるのではないか?
どうせ持っていても使えない。
ならばとスマホを捕食する。
(シュウウウウ……)
スマホは跡形もなく消化され、やがて頭の中に何かが追加された。
頭の中を探ってみると、今まで捕食したものが浮かんでいる。
『時計、包丁、おっさん、酔っ払い、女と子供、テレビ、冷蔵庫、ラジカセ、タバコ、ライター、ロープ、注射器、怪しい薬品、大麻、そしてスマホ』
捕食した人間まで浮かんでいた。
人間まで複製出来るのかもしれない。
そんな事を考えながら、スマホを頭の中で掴む。
「ジュグジュグジュグ……」
すると、左手からスマホが生えた。
恐る恐る電源ボタンを押すと、画面に果物のロゴが表示され、やがてホーム画面へ移行した。
電波も問題なく入っている。
「俺の体すげぇ……」
思わず呟いてしまった。
電波や電源の仕組みが気になるところだが、今は大麻だ。
検索エンジンで大麻の扱い方を調べると、どうやら精製するらしい。
ここでは精製出来そうにない為、1株丸ごと捕食した。
全て捕食しても良かったが、管理している奴にバレたら面倒な事になる。
まずは様子見で1株にとどめる事にする。
もう一つ気になったものがある。
1階に落ちていた薬品だ。
捕食した時は何とも無かったが、人型では影響があるのか気になった。
さらに、スライム化した時に作製した薬品を、人型時に服用した場合の影響についても気になる。
そんなわけで、左手のスマホをスライム化させ、今度は怪しい薬品のビンを作製した。
そして口の中に数滴垂らし味わうが……
「うげぇ……何だこれ! ……アヒャァ」
酔ったような気分になり、気がつくと全身がスライム化していた。
人型に戻ると、特に体調の異変は感じられない。
ふと腕を見ると、包丁で試し切りした腕の傷が消えていた。
これはもしかすると……
・スライム化し人型に戻ると、怪我や状態異常が回復するようだ。
思わぬ発見に驚愕する。
やっぱり俺の体すげぇ。
腕時計を見ると、時刻は18時を過ぎていた。
辺りは徐々に暗くなり始めている。
今日のところは廃墟探索を切り上げ、街に戻る事にした。
※ ※ ※
俺にとってゴミは体積を増やす為の素材だ。
戻る途中で気付いたが、街にはゴミが大量に落ちている。
このゴミを有効活用出来ないか?
暫し考えた末に妙案を思いついた。
(そうだ、歩きながら捕食しよう!)
足の裏をスライム化させ、踏みつけたゴミを流れ作業で捕食していく。
俺の通った跡にはゴミ一つなく、とても環境に優しい。
(ぼくは悪いスライムじゃないよ!)
そんなセリフを思い出しながら街を歩く。
人は殺すけどな。
※ ※ ※
宛もなく4時間ほど歩き、街は大分綺麗になった気がする。
時刻は23時を過ぎ、腹の中のおやつを消化し終える。
人間達は夕飯を終えた頃だろう。
俺もそろそろ夕飯にしたい。
ふと昨日の裏路地へ行くと、何やら騒がしい。
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