4話 おやつにしよう
俺は捕食の為に街を歩いていた。
時計を見ると、午前11時だ。
今日の目標は人の捕食もあるが、とにかく体積を増やしたいと考えた。
まずは腹ごしらえに、軽く一人ぐらい食っておきたい。
ふと周りを見回すと、泣いている女の子を見つけた。
「マァーマァー!! どこぉーマァーマァー!!」
さすがにこの子を捕食するのは可哀想な気がする。
取り敢えず声をかけることにした。
「お嬢ちゃん、ママとはぐれたの?」
「……うえええええん! へんなおじちゃんが怖いいいい!!」
(チッ、クソガキが)
まあ待て、この程度でキレたら大人気ない。
子供の感情なんて極端だ。
母親なんてじきに来るだろう。
そんな事を考えながら、俺はこの場を離れようとした。
のだが……
「ちょっとあなた! どういうつもり? まさか連れ去ろうとしたんじゃないでしょうね?」
母親と思しき女が俺に怒鳴り掛かってきた。
めんどくせぇ。
「いやーそんなことないですよー、この子が泣いてたから声を掛けただけですよー」
「嘘よ! あなた誘拐しようとしたでしょう! さぁ、警察行くわよ!」
女は勝手な解釈を進め、俺の腕を引っ張り歩き始めた。
以前の俺なら焦り震えていただろうが、今の俺にとってこの女の事は食い物以外の何物でもない。
如何にして他の奴に気付かれずに捕食するか、それだけが悩みの種だった。
俺達三人は高架下を通過しようとしていた。
あたりを見回すが、人の気配は全くない。
耳をすますと電車が接近していた。
チャンスはここしかない。
そう思った俺は、遂に行動に出る。
女は俺の左腕を引っ張っていた。
まずは離れないように左腕をスライム化させ、女の体に纏わせる。
「なっ、なによこれ! 気持ち悪いっ!」
女が騒ぎ始めるが、電車の騒音に掻き消される。
そして、すかさず触手状にしたスライムで女の口を塞ぐ。
さらに女の左手を繋いでいるガキにも、地面からスライムを這わせ背後から包み込んだ。
「うわぁ、べとべとするー」
ガキは不快そうにしているが、気にしない。
今日の俺は一味違う。
なんてったって、スライムの量が昨日より増えたからな。
当然やれる事も増える。
ガキを包み込んだ直後、女も包み終え、親子でスライムとなった俺に包まれている。
このまま普通に捕食しても良いのだが、ガキを痛めつけるのは気が引けた。
だから今回は実験も兼ねて、消化の速度を速められるのか調べてみようと思う。
ガキを包むスライムへ意識を集中させ、体内へ濁流を流し込むようにイメージしてみた。
すると……
「ジュッ……」
ガキは一瞬にして消化されてしまった。
味わう暇もなく一瞬で。
ちょっと勿体ないような気がした。
その様子をスライム越しに見ていた女が目に涙を浮かべる。
まぁ元は、こいつが俺を引っ張り出したのが原因だ。
だが、子供を殺された親の気持ちというのが気になったので、女の口に纏うスライムを除去した。
すると、女が口を開き始める。
「あんた!! あの子をどうしたのよ!! なんなのよこの気持ち悪いの!! 何とか言ったらどうなのよ?? え?? こんな事して」
うるせえ。
頭に来た俺はつい、女の首に意識を集中させ、首だけを一瞬で溶かした。
すると、女の首がブラ〜ンと落ち、スライムに引っ張られている。
ここでふと思いついた。
(消化の速度を速められるなら、逆に遅くも出来るんじゃないか?)
女の体をスライムで包み込み、飴を舐めるようにゆっくりとしたイメージを膨らませる。
「シュウウウウウウウウ……」
すると、ゆっくりと服や肌が溶かされていく。
以前なら、女の体に興味があったが、この体になってからは、そういう欲は無くなってしまったようだ。
だが、なぜか真実の事は忘れられない……
この女には特に興味もなく、嵩張るという理由で消化を速めた。
そして、頭部だけが残っている。
(舐めてみようかな……)
そう思い、人型に戻りながら女の頭を腹の中へ仕舞った。
すると、見事にぴったりと腹に収まる。
再び飴を想像しながら、腹の中へ意識を集中させると、ゆっくりと女の頭が溶けていくのが感じられた。
口の中でイクラを転がすように、体内にじんわりと旨味が染み渡る。
(今度から頭はおやつにしよう)
そんな事を思いながら、腹の中だけをスライム化した状態で人型に戻り、街へ向けて歩き出す。
今日の目的は捕食の他に、スライムの増産もある。
バレなく且つ実用性のある手頃なものを探し、辺りを見回す。
すると、俺が飛び降り自殺した廃墟が目に入る。
(ここなら思う存分食えそうだな……)
壊れたバリケードから中へ入ると、一階はひどい荒れようだった。
前回来た時は真っ直ぐ屋上へ行ったのだが、よくよく見ると建物内には様々なものが捨てられている。
テレビや冷蔵庫、ラジカセ、タバコ、ライター、ロープ、注射器、怪しい薬品などが転がっていた。
人間にとってはゴミだろうが、俺にとっては宝の山だ。
体全体をスライム化させ、それらを全て消化する。
人型に戻り2階へと進むと、そこには衝撃の光景が広がっていた……
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