表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

31話 さけの魚が有るところ

純とネムの日常を描いたスピンオフを公開しました。

よろしくお願い致します。

https://ncode.syosetu.com/n8485fy/

 

 部屋に戻ると、ネムが何やらモジモジとしている。


「ネム、何処か具合が悪いのか?」


 だが、ネムは首を横に振った。

 そして俯くと、ゆっくり口を開く。








 作成ツール:ガン見してぅるメーカー

挿絵(By みてみん)


「ねぇ純、純はアタシの事をどう思ってるの?」

「なんだよ、いきなり……」


「ラドウは毎晩アタシと寝てたの。純はそういう事、したいとは思わない?」

「いや、お前に対してはそんなの、考えたことも無かったな……」


 唐突にぶつけられたネムの質問に困惑し、暫し考え込む。


「そう……変なこと聞いて、ごめんね」

「いや、別に……」


 ネムは寂しそうに俯くと、脱衣所へと入っていった。

 照明のスイッチがパチンと押されると、カーテン越しにネムのシルエットが浮かび上がる。

 俺は漸くネムが誘っているのだと察した。


「なぁネム、お前……俺と寝たいのか?」


 すると、ネムは俯いた背筋が伸び、静かに頷く。


「……わかった、待ってる」


 そしてネムは無言で風呂場へと入っていった。


 俺は一度ネムのベッドをスライム化させ回収すると、俺のベッドの隣へ再び複製する。

 そしてベッドへ横になると、ネムが戻るのを待った。


 暫くすると、ネムはバスタオルを纏いベッドに横たわる。


「純、お待たせ……いい?」

「……ああ」


 ネムは自ら肌を露出させると、豊満な胸部には一直線に手術跡が刻まれていた。


「傷、見られちゃった……」

「嫌なら、無理しなくて良いんだぞ……」


「嫌だよ。でも、純になら、いいかな……」

「そうか……ありがとう」


 俺はそっと目を閉じると全てをネムに委ねた。

 するとネムは、まるで猫のように甘え、擦り寄り、ありとあらゆる技を繰り出してくる。

 だが、俺の感情が昂ぶることは無かった。


 一時間程が経過すると、ネムは諦めて眠りに就いてしまう。

 猫のように丸くなり眠るネムを眺めながら、悪い事をしてしまったと思いつつも、やはりネムを女として見ることは出来なかった……


 ※ ※ ※


 暫くして俺も寝ようと瞼を閉じ、意識を薄めていく。

 だが、その直後に体に違和感を覚える。

 踏まれているような感覚だ。

 意識を集中し違和感の元を探ると、原因は廃墟の一階に潜ませた水滴状のスライムだった。


(こんな真夜中に侵入者だと?)


 一階の天井の一部をスライム化させ、視点変更を行う。

 すると、高校生くらいの若い男女が懐中電灯を片手に廃墟内を歩き回っている。


「ねぇソウ、ここ気味悪いよ……もう帰らない?」

「何言ってんだよ! お前に最高の景色を見せてやるって言ったろ? 大丈夫! オレは5箇所もこんな所を見てきたんだ! 何が出ても、ツクバはオレが絶対に守ってやる!」


「ソウ……」

「ツクバ……」


 二人は見つめ合うと、そっと抱き合い唇を重ねた。


(チッ、俺の体内でなんて事してやがる!)


 二人の様子に俺は沸々と苛立ち、俺の中の悪魔が、こいつらを丁重に持て成せと囁いた。


何が出ても・・・・・か。良いだろう、遊んでやるか……)


 今宵は、もう少し楽しむことにしよう。

 客人を持て成す・・・・為にアトラクションの構想を始める。

 そうしている間にも、二人は建物の奥へと歩を進めていく。


「壁や柱が随分焼け焦げてるな……」

「火事でもあったのかな?」


「それにしては綺麗だぞ……」

「まさか、誰かが住んでるとか?」


「ま、まさか……そんなわけないだろ。ははっ……」

「だ、だよね……」


 二人は汗を流しながら覚束ない足取りでゆっくりと進み続ける。


(ほうほう、誰かが住んでてほしいのか。良いだろう、期待に応えてやろう)


 そんな二人を嘲笑うように、俺は天井からゴキブリを10匹複製し、二人の頭上へと降らせた。


「……ん? なんだ?」

「カサカサカサカサッ……」


「何か落ちてきたわ……」

「カサカサカサカサッ……」


 二人は互いの顔に懐中電灯の光を照らした。

 すると、頭部から顔へと複数のゴキブリが蠢いている。

 懐中電灯に照らされたゴキブリを視認した二人は、徐々に顔が引き攣り、血の気が引いていく。


「「……っ。ぎぇああああ! ゴキブリぃぃぃぃ!!」」


 二人は首を振りながら走り出し、二階へと進んでいく。

 そしてゴキブリを振り払うと、息を切らし階段の踊り場で立ち止まった。


(はっはっは。ゴキブリなんて可愛いものだろう? しかし、だらしない男だな。この程度で音を上げるとは……)


 俺はベッドの上から笑みを浮かべながら、暫く二人を泳がせることにした。


「なっ、なんでいきなりあんな沢山のゴキブリが落ちて来るんだよ……」

「知らないわよ! もう帰りましょうよ……」


「だっ、大丈夫だって! もっとお前に良い所……じゃなかった、良い景色を見せてやるよ!」

「……本当に大丈夫なの?」


 ツクバは怪訝な顔でソウをジト目で見つめる。

 するとソウは口元を震わせ、拳を握りながら大股で歩き始めた。


「だっ、大丈夫大丈夫! オレに付いてこーい!! ははっ、はははは……」

「本当に大丈夫かしら……」


 二人は二階へ到達すると、周囲を懐中電灯で照らす。


「なんだこれ……草?」

「雑草……じゃなさそうね」


 そして光に照らされた大麻を眺め、首を傾げた。


「雑草じゃなきゃ、誰かが育ててるってのか?」

「そんなのわかんないわよ! でも、どう見ても雑草には見えないわ……」


「まさか、本当に誰かが住んでるってのか?」

「やっぱり変よ! こんなに綺麗に生え揃ってる雑草なんてあるわけないじゃない! もう帰りましょうよ……」


 ソウは驚愕の表情で呟き、ツクバの顔には焦りが見え始めた。


「いっ、いや、大丈夫だ……誰かが居る気配なんて無いし、まだ凄いものを見せられてないだろ!」

「うん……でも、なんか嫌な予感がするよ?」


 ツクバの心配を余所に、ソウは強引に突き進む。

 興奮したソウに周りを見る余裕は無かった。


(この男はバカなのか? 彼女の言う通りにさっさと帰れば良いものを……)


 俺は半ば呆れ気味に、今度は一階にシンの体を複製を試みる。

 ゴポゴポと粘性のある音を立てながら、地面からスライムが湧き上がり、やがてシンの体格を形成すると体表が銀色に変化していく。

 そしてシンの体の複製が完了すると、眼球をスライム化させ操作する。

 ちなみに自我は持たせていない。

 わざとらしくキン、キン、キンと金属感のある足音を立てながら、二階へ向けゆっくりと階段を上っていく。


「ねぇ、なんか変な音が聞こえない?」

「音?……たっ、確かに聞こえるな……」


「やっぱり誰か住んでるのよ! ねぇどうすんのよ? 階段上がってきてるわよ!」

「くっ……と、取り敢えず上の階へ進もう! ここには隠れられる場所が無いからな!」


 ツクバが俺の足音に気付いた。

 ツクバの問い掛けにソウの顔から血の気が引いていく。

 そしてソウは辺りを見回すと、階段を指差した。


「えーっ! しょ、しょうがないわね……」

「大丈夫だ! オレが絶対何とかしてやる!」


 浅慮が目立つソウの行動が、より一層俺の悪戯心を擽る。


(この男は自信だけはあるんだな。だが、根拠のない自信は身を滅ぼすということを教えてやろう……)


 二人は静かに階段を駆け上がった。

 だが、そんな二人を尻目に俺はシンの体からゴーレム の声帯で叫び声を上げる。


「ヴォォォォ!!」

「「ひぃっ!」」


 二人は震え上がると、ひっそりと階段を見下ろし声の主の様子を眺めた。

 俺はギギギと金属音を響かせながらシンの頭を上げ、見下ろしている二人へゆっくりと視線を向けていく。

 やがて二人と目が合うと、二人は足が竦みだした。


「あっ……あれ、人じゃないわ! 化け物よ! ねぇ! あたし達どうなっちゃうの?」

「とっ、とにかく隠れるんだ! あいつにバレたら何をされるかわからないぞ!」


 二人は四つ足で階段を上り三階に到達すると、恐る恐る辺りを懐中電灯照らす。


「何だよこれ……檻?」

「……みたいね。でも誰も居ないわ」


「一階の奴はここから逃げ出したのかな?」

「わからない。でも、壊された様子は無いわよ。何の為の檻かしら……」


 二人は怪訝な表情で周囲を慎重に調べている。

 その隙に俺は一度シンをスライム化させ建物と融合させると、ソウの背後に再びシンの体を複製した。

 そしてシンの肩をトントンと人差し指で軽く叩く。


「なんだよツクバ、何か見つかったのか?」


 ソウはゆっくりと振り返ると、シンと目が合った。


「……っ!! で、出たぁぁぁぁ!!!!」


 ソウの叫び声にツクバがビクリと肩を震わせながらソウへと懐中電灯を向けた。


「なっ、何? どうしたのよ……っ!!」


 俺はニヤニヤしながらベッドで寝返りを打つと、シンの体で雄叫びを上げる。


「ヴオォォォォ!!」

「「嫌ぁぁぁぁ!!」」


 二人は竦み上がり涙を流しながら走り出すと、階段を駆け上がっていく。

 やがて二人は肩で息をしながら4階に辿り着き目を合わせた。


「はぁ、はぁ、はぁ……あいつ、いつの間にあんな所に居たんだ!?」

「知らないわよ!……で、何で降りなかったのよ!?」


「あっ、いや、つい……」

「えっ、考え無しに上がってきちゃったの?」


 ツクバの悲痛な叫びにソウは眉をひそめながら肩を落とした。


「ご、ごめん……」

「呆れたー! ソウが任せろって言うから付いてきたのに……」


「し、しょうがないだろ……まさかあんな化け物が居るなんて思わなかったんだからさ……」

「これからどうすんのよ? アイツにバレたらあたし達……」


 二人は言い争いを始めるが、ソウがふと懐中電灯で辺りを照らすと、ぽっかりと口を開く。


「お、おい、見ろよこれ……」

「何よ、話を逸らして……えっ?」


「これは……墓か?」

「それにしては随分大きいわよ……何でこんな所にお墓なんてあるのよ……」


 二人はシンの作った墓石を見上げ、目を丸くした。


「……おい、これならアイツを何とか出来るかもしれないぞ?」


 ソウは暮石を囲むプランターへ指を差すと、ツクバは怪訝な表情で口を開く。


「これを……アイツに投げるってこと?」

「いや。アイツが階段を上って来た所で上からプランターを落とすんだ。そうすればアイツの頭上に直撃だ! その隙に逃げられるかもしれない!」


 ツクバは強く頷くと、二人はプランターを階段まで運び始めた。


(なるほど、それをシンに落として気絶させるつもりか。良いだろう、その罠に乗ってやる……)


 俺はゆっくりと4階へ続く階段を登り始める。

 一段、また一段と歩を進めるたびに金属音が木霊する。


「ソウ! アイツ階段上り始めちゃったよ!」

「よし! じゃあコイツを落とすぞ!」


 二人でプランターを持ち上げると、階段から落下させた。

 そしてゴシャッという鈍い音と共にプランターはシンの頭部に直撃する。

 本当はシンのダメージは皆無だが、俺は負傷したように演技する。


「ヴオォォォォ!!……ドサッ」


 そして仰向けに倒れた。


「「やったぁ!」」


「よし、この隙に逃げるぞ!」

「うん! こんな所さっさと出ましょう!」


 二人は階段を駆け下り出口を目指して一目散に走る。

 だが、そうは俺が許さない。

 俺はシン体をスライム化させると、ロープ状に伸ばし二人の足を包み込んだ。

 粘性を高めた俺の体は二人の足の自由を奪う。


「うわっ、何だこれ! ベタベタしたものが足にっ!!」

「何よこれ、立てないじゃない……」


 暴れる二人を余所に、俺は人型の体を複製させる為に床からスライムを沸きあがらせる。


「なっ、何だ!?」

「何でこんな所に水が湧くのよ!?」


 二人は湧き上がるスライムを凝視している。

 やがて人の体の複製が終わると、腕を組むように二人の前へ顕現した。


「よう、お前ら。ここから逃げ出せるなんて思ってねぇよな?」

「なっ! 何だお前は! オレたちをどうするつもりだ!!」


「俺か? 俺はこの建物だ。お前ら、よくも俺の体で好き勝手暴れてくれたな……」

「暴れた? オレ達は何にもしてないぞ!!」


「ほう? プランターをぶつけておいて、何もしてないとは言わせねぇぞ」

「なっ、何でそれを知ってるのよ……」


 顔面蒼白となる二人の前に、俺はシンの体を床から沸きあがらせる。


「こ、コイツはさっきの……」

「言っただろ。ここは俺の体だってな。お前らはこいつを殺そうとした。ならば……覚悟は出来てるんだろうな?」


 二人の足を包むスライムを腰から肩へと徐々に登らせていく。


「ひっ! お、オレ達をどうする気だ!!」

「お前らも、俺の一部にてやろう……」


「そ、それってまさか、あたし達を……」


 スライムが二人の全身を包み込むと、一気に食欲を注ぎ込む。




「入場料を貰おうか。死ね!」




「やだ! 待て! 嫌だぁぁぁぁ!!」

「あたしまだ死にたくないぃぃぃぃ!!」


「食うっ!」

「「シュゥゥゥゥ……」」


 暴れる二人を一瞬にして消化した。

 俺は久しぶりの“食事”に満足し、荒らされた廃墟内を元の状態へ直すと意識をベッドの本体へと戻した。


(ふぅ……遠隔でも人を食えるんだな。なかなか楽しい夜だった……)


 そう思いながら大きくおくびを吐くと、満足気に舌舐めずりをし、隣のネムを眺めながら静かに眠りに就いた。




 ――累計食殺数:15050人 残り: 19984950人

拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


純とネムの日常を描いたスピンオフを公開しました。

よろしくお願い致します。

https://ncode.syosetu.com/n8485fy/


なお本編の更新は、申し訳ございませんが2月中とさせていただきます。

詳しい日程が決まり次第、こちらの後書きにてお知らせします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こやつ、ネムとなんということを! それでも女として見てない……まだ彼女のことを引きずっているのか、やはり人間としてのなにかが欠損してしまったか? 更新お疲れ様です!
[一言] マジか純……( ˘ω˘ ) 女性に恥をかかせてはアカンで( ˘ω˘ ) そしてリア充は案の定な展開でしたねw ホラー映画で調子コいてるリア充は真っ先に死ぬの法則。
[良い点] ありとあらゆる技を繰り出されたら、普通なら……と思っちゃいますが、動かないんですね。 そこまで、まみちゃんへの想いが強いのか、あるいはスライムならではの特殊体質なのか……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ