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29話 自殺

 

「「3月14日」」


 二人は声を揃えた。

 俺達は衝撃の事実に戦慄する。


「まさか……ネム、お前がコージの心臓を奪ったのか!?」

「ご……ごめんなさい!! アタシ……本当は移植なんて受けたく無かった! 生きたいなんて思わなかった! 本当に……本当にごめんなさい!!」


 シンはネムの胸倉を掴み、声を震わせ拳を握る。


「ふざ……けんなよ!! コージがどんな思いで心臓を待ったと思ってんだ!? 心臓を奪った上に、生きたくなかった!? クソがっ!! じゃあ一体、コージは何の為に死んだんだ……」

「くっ……アタシを殺して!! アンタ達になら、アタシは何をされても良い。刺されても、殺されても、文句は言わないわ!」


 ネムは涙を流しながらシンへ訴え掛けた。

 するとシンはネムの顔面を殴る。

 カーンと甲高い音を上げながら、ネムが勢いよく飛ばされた。

 そしてベッドの淵へと激突するが、体には傷一つ付いていない。


「あはは……アタシ、何なんだろうね。死にたいのに死ねない、殺されたいのに殺されない、何なのこの体……アタシに生きている価値なんて無いのに……」

「……クソッ!! クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!!!!」


 シンはネムを殴り続けるが、ネムは静かに涙を流しながらそれを受け続ける。

 だが、ネムにダメージは殆ど無い。

 シンが殴る度に金属音が部屋に鳴り響き、まるで鐘の音のようだ。

 カン、カン、カン、カンと規則正しく鳴る音は、まるで追悼の鐘のように思えた。


 数十分が経過し、遂にシンの手が止まる。

 すると、ネムは静かに起き上がった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……クソッ!」

「やっぱり……アタシはあの時死ぬべきだった。純、短い間だったけど楽しかった。ありがとう」


 そしてネムは自らの首を両手で包むと、その怪力でへし折った。

 バキリと鈍い音が鳴り、ネムが床に倒れる。

 俺は咄嗟にネムへと駆け寄った。


「ネム! おいネム!! クソッ、息が無い! シン……お前はこれで満足か?」

「……」


「もっと別のやり方があったんじゃないのか?……」

「オレは……オレはただ、コージに……」


「ネムはな、無理に移植を受けさせられたんだとさ。拒み続ける中、医者に無理矢理眠らされてな……」

「なん……だと!?」


「ネムは本当に死ぬべきだったと思うか?」

「……クソッ!! それじゃあ、まるで……こいつも被害者じゃないかっ!!」


「……シン、最後にひとつだけ教えてくれ。ネムをどうしたい?」

「……謝らせたかった。コージに、コージの墓に!」


 シンは涙を流しながら床に手をついた。

 俺は静かにシンの肩を叩くと、ネムの腹に手を当て、スライムを放出しネムの体を包み込む。


「何をする気だ!?」

「まぁ見てろ……」


 そしてネムの体の表面にGG161を複製した。

 すると、ギリギリと音を立てながら変形していた首が修復されていく。


「嘘だろ? なんでこんな事が……」

「GG161……お前も知ってるんじゃないか?」


「!!……あの回復薬を……どうして?」

「作ったんだよ。お前の体と同じくな……」


「お前……一体何者なんだ!?」

「俺か? 俺は……スライムだよ。人を殺す為に生まれたスライムだ……」


「なん……だと……」


 シンは俺の体を凝視すると、思い詰めたように一点を見つめている。

 そんな遣り取りをしているうちに、ネムの首は元の状態へと戻った。


 暫くするとネムはゆっくりと目を開ける。


「あれ……アタシ……まだ……生きてるの?」


 シンは驚愕の表情で目に涙を浮かべた。


「おいシン、お前の口から言うんだ!」

「あ、ああ……」


 シンは涙を拭うとネムの元へと歩み寄る。


「ネム……お前を殺すのはやめた。だが、オレはお前を許さない! コージに……謝れ!!」


 するとネムは大粒の涙を流し始める。


「アタシ……まだ生きてて良いの?」

「ああ……死ぬ事はオレが許さない。生き続けろ! 生きてコージに謝り続けろ! それがお前の背負う罪だ!」


 そして、ネムは大きく頷き涙を拭った。


 暫くして二人の感情が落ち着くと、シンをスライム化させようと試みる。


「シン、これからお前を俺の体に戻す。そして次にお前が目覚めた時は、廃墟の中に居るだろう。覚悟は、良いか?……」

「……ああ。頼む」


 シンは俺の前に立つと、静かに目を瞑った。


「戻れ!」

「ドロッ……」


 そしてシンをスライム化させると、左手から回収する。


「ネム、行くぞ!」


 ネムは大きく頷くと、俺達は部屋を出た。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は30日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気読みをしました。発想が凄過ぎで圧倒されました。 [一言]  更新を楽しみにしています。
[一言] 今更ですけど、本作のキャラクターって被害者ばっかりですね!? 同時に加害者でもありますけど……。 まあ、極端な話、誰しもが誰かの被害者であり、且つ加害者でもあるのかもしれませんね。 大事なの…
[良い点] ネムちゃん……悲しい子…… シンくんは、少年なんだなぁー、と思いました。 謝らせたいのに殴っちゃうとか、まだ人との接し方が上手でない時期にゴーレムにされた感が出てて、こちらも悲しい。 …
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